World Trail Majorsが2026年カレンダーを発表、そのキーワードは「安定」と「再編」

12月も半ばを過ぎ、多くのトレイルランナーが来シーズンの計画に頭を悩ませている時期でしょう。あるいは、人気レースの抽選結果に一喜一憂し、どの山を走るかで胸を高鳴らせている最中かもしれません。この時期は、過去のシーズンの疲れを癒やすオフシーズンであると同時に、次の冒険への夢を膨らませる重要な準備期間でもあります。

そんな中、世界の主要な独立系トレイルランニングレースで構成される「World Trail Majors」が、2026年のシリーズカレンダーを早くも発表しました。

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多くのスポーツリーグやレースシリーズが、市場シェアの獲得を目指して拡大路線を突き進む現代において、World Trail Majorsが掲げた2026年のテーマは「安定(Stability)」でした。しかし、その内容に目を向けると単なる現状維持ではなく、メンバーの入れ替えを伴う「再編と凝縮」の年となりそうです。

一部のレースと別れて既存の10レースに集中することを選んだのが今回の発表でした。

「拡大」ではなく「深化」を選ぶための再編

ビジネスやスポーツ興行の世界において、「成長」はしばしば「数の拡大」と同義とみなされます。スカイランナーワールドシリーズがコロナ禍前に比べて欧州以外で開催されるレースを増やし、UTMBワールドシリーズは4年目のシーズンが閉じようとする今も新しいレースの登場をアナウンスし続けています。しかし、World Trail Majorsは2026年に向けて、その常識に静かなアンチテーゼを投げかけました。

今回の発表で注目すべきは、スイスのSwiss Canyon TrailとフランスのGrand Raid des Pyreneesの離脱、そして新規レースを追加しないという決断です。

2025年に新たに加わったベトナムとオーストラリアのレースを含めた現在の「10レース」にリソースを集中させることで、シリーズとしての結束を固める意図が見えます。これは、無闇にフランチャイズを広げるのではなく、既存の素晴らしいレース体験を磨き上げ、各大会の独自性と地域コミュニティとの絆を深めることに注力するという宣言でもあります。

プレスリリースでは「World Trail Majorsは、量的な拡大よりも質的な充実を選びました。2025年の拡大を経て、2026年は安定と定着の年となります。」と明言しています。

2026年 World Trail Majors カレンダー

再編を経て発表された2026年のシリーズのラインナップは次の通り。アジア、北米、ヨーロッパ、アフリカ、そしてオセアニアをつなぐ、個性豊かな10のイベントから構成されています。日本のMt.FUJI 100はもちろん、2025年から加わったベトナムとオーストラリアのレースが、シリーズの多様性をより豊かにしています。

Hong Kong 100 Ultramarathon (HKG)

  • 開催日:2026年1月15日〜17日
  • シリーズの開幕を告げるのは、香港の摩天楼と荒々しい自然のコントラスト。都市のすぐ裏側に広がる急峻なトレイルと階段地獄は、シーズンの始まりに相応しいタフな洗礼となります。

Black Canyon Ultras (USA)

  • 開催日:2026年2月14日〜15日
  • アリゾナ州の砂漠地帯を駆け抜ける、高速かつタフなアメリカン・トレイル。歴史的な駅馬車道をたどるコースは比較的走れるセクションが多く、スピードランナーたちの激しい競り合いが見どころです。

The North Face Transgrancanaria (ESP)

  • 開催日:2026年3月4日〜8日
  • 大西洋の孤島で繰り広げられる、欧州シーズンの幕開けを象徴する祭典。火山島特有の荒涼とした風景から緑豊かな森まで、変化に富んだ地形がランナーを飽きさせません。

Mt.FUJI 100 (JPN)

  • 開催日:2026年4月24日〜26日
  • 日本の象徴、富士山の麓を巡る旅。深夜の山中で見上げる富士のシルエットや、沿道の温かい応援など、世界中のランナーが「一度は走りたい」と憧れる、日本が誇る100マイルレースです。

MIUT – Madeira Island Ultra-Trail (POR)

  • 開催日:2026年4月25日〜26日
  • 大西洋の真珠、マデイラ島の急峻な階段と絶景がランナーを試します。「永遠の春」と呼ばれる美しい気候とは裏腹に、累積標高の多さとテクニカルなコース設定は世界屈指の難易度を誇ります。

South Downs Way 100 (GBR)

  • 開催日:2026年6月13日〜14日
  • イギリスの丘陵地帯を走る、歴史あるナショナル・トレイル。累積標高は比較的抑えられていますが、絶え間なく続くアップダウンと走らされるコース展開が、後半の脚を容赦なく削ります。

Quebec Mega Trail (CAN)

  • 開催日:2026年7月2日〜5日
  • カナダの広大な原生林とセントローレンス川の美しさが融合する、北米の雄。マッシフ・ド・シャルルボワの急登や、技術を要するトレイルは、野性味あふれる本当のアウトドア体験を提供します。

Vietnam Mountain Marathon (VNM)

  • 開催日:2026年9月18日〜20日
  • ベトナム北部、サパの山岳地帯を舞台にした、東南アジア屈指の山岳レース。棚田の絶景や少数民族の村々を巡るコースは、文化的にもユニークな体験を提供し、シリーズに新たな彩りを加えています。

Grampians Peaks Trail (AUS)

  • 開催日:2026年11月5日〜8日
  • オーストラリア・ビクトリア州のグランピアンズ国立公園を縦断する壮大な100マイル。太古の奇岩群やユーカリの森を抜けるこのレースは、南半球の荒野を体感できる冒険です。

RMB Ultra-Trail Cape Town (RSA)

  • 開催日:2026年11月20日〜22
  • テーブルマウンテンを舞台に、街と自然が一体となった南アフリカのフィナーレ。世界遺産の絶景の中、テクニカルな岩場と猛暑が選手を苦しめますが、その達成感は格別です。
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まとめ:あなたの2026年の目的地は?

「安定」を選んだWorld Trail Majorsですが、それは決して「停滞」ではありません。ヨーロッパの2大会との別れは寂しいものですが、ベトナムとオーストラリアという新たなフロンティアが定着したことで、シリーズはよりグローバルで多様性に富んだものへと進化しました。同時に、志と価値観を共有する10大会がどのような相乗効果を挙げることができるのか。その真価が問われるのは、むしろこれからと言えるでしょう。

World Trail Majorsは、単なるレースの集合体ではなく、世界中のローカルな情熱がつながった「多様性の連帯」です。もしあなたが、画一的な大規模シリーズとは異なる、その土地の匂いが色濃く残る冒険を求めているなら、このカレンダーの中に次の目的地がきっと見つかることでしょう。

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