[DC] 取材後記・世界のサミットとしての#UTMB The North Face® Ultra-Trail du Mont-Blanc®

今年も様々なドラマを残したUTMB®/The North Face® Ultra-Trail du Mont-Blanc®。今回は当サイトで現地から様々な情報をお届けしました。以下は当サイト・岩佐による取材後記です。UTMBというレースの魅力と自身のレースなどについてまとめました。

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UTMBは今や日本のランナーにとって最も身近な海外トレイルランニングレース

UTMBが欧州だけではなく世界中から有力なトレイルランナーを集める世界選手権という様相を呈するようになってから久しい。また、世界のアルピニズムの発祥の地であるモンブランをめぐるコースは掛け値なしに美しい。しかし、UTMBが有名なイベントになればなるほど、その美しい景観やそこを駆け抜けるランナーの写真や動画を目にする機会が増える。レースは毎年ドラマッチックな展開をみせ、新しいヒーローが登場し、そのストーリーはインターネットを通じて駆け巡る。

当方にとってはUTMBの行われるシャモニーへの訪問は4回目となるが、正直にいえばそうしたストーリーにやや食傷気味だったところもある。自分も含めてUTMBに参加して、それを完走する日本のランナーも増え、そのための情報もあふれるようになった。今や日本のトレイルランナーにとって、UTMBは最も有名な海外のトレイルランニングレースであり、最も容易に(無論参加資格を得ることや抽選で当選すること、シャモニーへの旅行などは決して軽い負担ではないが)参加できる海外レースだといえる。私自身も、どこか繰り返されるストーリーを追いかけるだけのような気持ちを心の片隅に抱えて、取材活動と自身のレースのために今年もシャモニーへやってきた。

UTMBは世界のトレイルランニングの年に一度のフェスティバルであり、グローバル・サミット

しかし、今回UTMBのスタート前から表彰式までを、取材活動を通じて追いかけてみて、このレースを走ることが大変な冒険であり、完走することは大変な名誉であり、ランナーにとって様々な意味を持つことであることを実感することができた。序盤の長い長いコル・デュ・ボンノムへの登り、美しいフェレ谷の景色。体力尽き果て、全身に怠さを感じる中での120kmのシャンペからの長い長い3回の山登り。そして熱狂的に完走者を迎えるシャモニーの街。レース中に起こる出来事のバラエティや気持ちの上がり下がりの大きさや回数という点において、このUTMBほど大きなレースはないに違いない。

今回は記録の上では1685人のランナーが完走し、その中には95人の日本からのランナーが含まれている。その95人のうち、30時間以内に3人、30時間台で23人のランナーがフィニッシュした。国内のレースでは安定した力をみせるランナーの皆さんですらこれだけの時間がかかることから考えても、このレースの厳しさとやりがいの大きさが実感できる。

そして、今回の取材活動を通じては、UTMBが年に一度のグローバル・サミットとしても世界のトレイルランニング・コミュニティのなかで大きな存在であることを実感した。レース期間中のシャモニーでは少し通りを歩けば日本のランナー仲間に会うことになるが、会うのは顔なじみの日本人だけではない。ヨーロッパやアメリカ、アジアから、それぞれの地域で活躍する有力選手がシャモニーの街に集まり、顔を合わせて再会を喜び、互いに健闘を誓い合う。夜になれば一緒に食事に繰り出す。当方も、UTMFやWS100で会った世界のランナーと再会することができた。

取材活動に関していえば、当サイトのようなまだ小規模なインターネットだけのメディアについても、UTMB事務局は存在を認めてプレスパスを発行してくれた。恐る恐るプレスルームに足を運べば、これまでメールでやり取りをしていた海外のトレイルランニング・メディアの有名人たちが声をかけてくれて様々な情報交換に応じてくれる(正直なところ、DogsorCaravan.comは日本国内よりもシャモニーでの方が有名だったかも)。さらには様々なブランドやレースオーガナイザーの関係者も入り交じって、世界中のトレイルランニングのキーパーソンと情報がシャモニーに集まってくる。UTMBはその意味でも世界で唯一のイベントだといえる。

UTMB-Ian_Bryon

UTMBを取材するIan Corless(Talk Ultra、中央)、Bryon Powell(iRunFar、右)とともに。それぞれ欧州と北米を中心に世界中のトレイルランニングの情報を取材して世界から注目されている。

当サイト・岩佐は50kmでリタイア

今回のUTMBでは、取材活動の傍ら、自分自身が160kmのレースに出場した。当然、2011年に続いて完走するつもりでいたのだが、今回は50kmのChapieux(シャピュー)でリタイア。スタートからどこか身体の動きの重さを感じていたが、途中のレズーシュ、サンジェルベ、コンタミンのエイドの前後の盛大な応援に笑顔で応えることでなんとか前向きな動きを作りだそうともがいた。しかし、続くボンノム峠への長い登りの途中で胃の不快感で補給がうまく回らなくなり、大幅にスローダウン。なんとかシャピューにたどり着いたのは午前2時20分ごろ。決して完走できないペースではないが、この間、4-5時間にわたって続いた不調は収まるようには思えず、この後さらに大きくペースを落とすことになるだろうと思えた。今日はここでレースを終えることにした。

前後の数日のことを振り返ってみれば、シャモニーに到着以来、上記のような取材活動に熱中するあまり、自分のレースのための準備はおろそかになっていた。スタートの熱狂の中を走りながらもどこか人ごとのような気がしていたのはその製かもしれない。また、シャピューのエイドで先へ進むかどうかを考えた際に、このレースの終盤のライブ速報を自分の手で手がけるには今からなら間に合う、という計算も頭をよぎった。

もう少し長い目でみれば6月末のアメリカでのWestern Statesを走って以来、自分で走ってみても、あるいはランニング仲間の皆さんと走ってみても、どこかに大きな疲れが残っていて、レース前のように気持ちよくペースを上げることができない状態が続いていた。

今回の取材活動を通じて、上記のようにUTMBの素晴らしさを実感することができた。取材活動を通じての達成感はレースを完走することの達成感に勝るとも劣らないものがあった。とはいうものの、次々にフィニッシュするランナーの姿をみていると、自分がフィニッシュできなかったことが悔しくもなってくる。いつかもう一度UTMBを力を出し切ってフィニッシュしたい。しかし、UTMBが魅力あるイベントであり続け、そしてこのDogsorCaravan.comが育つかぎり、当方が今回のように取材とレースの両方を掛け持ちで両方で結果を出すことは難しい。ランナーとしてUTMBに参加することはおそらくもうないのかもしれない。そんな思いを胸に、レース前の静けさを取り戻しつつあるシャモニーの街なみを眺めている。

謝辞

今回の取材に当たっても、大会関係者の皆様や日本から参加の皆様に大変お世話になりました。鏑木毅さんからは有力選手や大会関係者についてご紹介をいただきました。また、進啓明さんはTDSのレース中に大きなケガを負いながらも、当サイトのUTMBライブ速報を担当していただきました。皆様に心より感謝いたします。

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