6月23日(土)の午前5時にスタートした100マイルのトレイルランニングレース、Western States Endurance Run(WS100)。当方は午後6時48分に62.0マイル(99.8キロ)地点のForesthillに到着し、いよいよレースは佳境に。
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Foresthillからの38マイル(約60キロ)はコースの上り下りがそれまでより小さくなり、走りやすいパート。ここからどれだけ走れるかがレースの結果をわけることになる。
この38マイルは、橋の架かっていないアメリカン川を渡る地点であるRucky Chucky(78.0マイル<125.5キロ>地点)で前半後半に分けて考えることができる。
前半部はCal St(カル・ストリート)と呼ばれる16マイルで、途中にCal1(Dardanelles)、Cal2(Peachstone)、Cal3(Ford’s Bar)の3つのエイドステーションがある。標高993mのForesthillから227mのRucky Chuckyまで下るのだが、Cal1からCal2の間はややアップダウンが大きい。
Foresthillを出るがやはり脚が重い。今思えばただ下るだけなのだからなぜスピードが落ちるのか、と思うが、一歩一歩の下りのステップで鈍い痛みを感じて足が重くなる。次第に後ろからペーサーと一緒にやってくるランナーに抜かれるようになる。Foresthillの手前でランナーを待っていたRoxanaもペーサーとなって男性のランナーをリードして通り過ぎていく。次々に聞く”Keep it up!”の声。渓谷の斜面には夕闇が近づく。
3.7マイル(6キロ)でCal1(Dardanelles)に到着。胃がむかつく感じは変わらず、力が入らない感じ。それでも果物やジェルを飲み込む。
次のCal2(Peachstone)までは5マイル(8キロ)。いよいよ調子は冴えず、小さな登りが出てきたこともあって、大半を歩くようになってしまった。気分の悪さからの身体の逃避なのか、歩きながらなんだか眠くなってくる。
途中でいよいよ暗くなってきたのでヘッドランプ(Petzl MYO RXP)を点灯するが、30分もしないうちに電池残量が少ないことを知らせるサイン。あわてたが、幸いスペアの電池を持ってきていたので、真っ暗になる前に立ち止まって交換。同じことが昨年のUTMBでもあったのを思い出した。当方の扱いがよくないのだと思うが、新しい電池を入れていたのに、数日のうちに漏電していたのか、電池が消費されてしまったのだろう。なんという失態。この電池で最後までいけるだろうか。
わずか5マイルなのに、果てしなく遠く感じる。Cal2(Peachstone)に到着したのはすっかり暗くなった9:18pm。24時間完走ペースの8:45pmから大きく遅れてしまった(33分差)。これからどうなるのだろうか。エイドで補給するが前半のような元気は出てこない。
2.3マイル(3.7キロ)先のCal3(Ford’s Bar)を通過すると、コースは比較的フラットとなる。左側の谷底にアメリカン川が流れる音が聞こえる。ゆっくりでもできるだけ走る。次のエイド、Rucky Chuckyの川を渡るポイントまで5マイル。
やがて遠くに明かりが見え、にぎやかな声が近づいてくる。78.0マイル(125.5キロ)地点のRucky Chuckyに到着したのは11:23pm。24時間完走ペースの10:40pmから差が広がる(43分差)。エイドで補給。この先は少し登りが続くので、このエイドで食べ物を少し持って歩きながら登るのがいいのだが、そこまで考えは回らず。
Foresthillから先のエイドでは、エイドを出るたびに「ペーサーはいるのか?」と聞かれる。このRucky Chuckyでもエイドのスタッフの女性から「ペーサーはいないの?ペーサーをつければいいじゃない。今からでも探せるよ。」とペーサーを強く勧められる。「今から急に探せないよ。周りにたくさんランナーはいるから勝手にペーサーだと思ってついていくよ」と答える。
エイドのすぐ先でいよいろアメリカン川の渡渉ポイント。Unbreakableが撮影された2010年は川の水が多くてスタッフの方が漕ぐボートでここを渡っていた。今年もトップ選手はボートで渡っていたようだが、当方が渡る時間帯は鉄のワイヤーを手でつかみながら自分の足でここを渡る。
ウェストバッグを外して首にかける。ハンドヘルドのボトルはストラップを広げて手首まで通す。そしていよいよ川を渡り始める。ビデオや写真ではまだ明るく、ひどく暑いレースの中でこの川渡りは気持ちがよさそうだったが、今回は例年にない低い気温でしかも夜中だ。
雪解け水が流れる川は冷たい。ワイヤーの下には光るチューブのようなものが川底に沈めてあるので、足元はなんとなく確認できる。2-3メートルおきに、ウェットスーツのタイツをはいたスタッフの方たちがワイヤを支えてくれている。感謝の気持ちを伝えながら進む。最も深いところでは腰まで水につかった。下の写真は腰までつかったあとの渡渉の後半。
渡った距離は30mほどで大した距離ではなかったが、腰から下はびしょぬれだ。ふと目をやると、渡った先に預けていたドロップバッグに着替えや新しいソックスやシューズを入れていたらしく、着替えているランナーがたくさんいる。なんと。当方はこの川渡りは身体を冷やして濡れたまま先を急ぐのだと思い込んでいたが、当方くらいのタイムなら着替えたほうがよかったのかもしれない。考えても仕方ないので、着替えの時間が稼げたと思ってびしょ濡れのまま進む。
セクション5・River-Finish – Rucky Chucky to Finish
Foresthillからの走れるパートはこのRucky Chuckyの渡渉地点から後半の22マイルに入る。小さなアップダウンはあるがいよいよ走れるパートとなる。
次のエイド、79.8マイル(128.4キロ)地点のGreen Gateまではわずか2マイル弱(3キロ)だが標高差で200mほどの林道の登り。小走りだったり歩いたり。途中で他のランナーのペーサーをしている人とこのパートを走るのが大事だ、という話を聞く。わかっているのだがなかなか力が出ない。
Green Gateに到着したのは00:06am。24時間完走ペースの11:20pmから46分差。ここはペーサーが交代できるポイント。ここで再びサブリナさんに会う。「ペーサーを連れてきましたよ。よかったら一緒に走りませんか。」隣に立っていたのは小柄なインド系で精悍な顔つきの男性、年のころは当方より若い30代半ばくらいだろうか。どうやって手に入れたのか、ペーサー用のナンバーカードまで既につけている。いくらなんでもレースが始まってから、一人で走っているランナーがいるからとペーサーを頼まれて、会ったこともないランナーのためにその夜の深夜0時にスタンバイしたりするだろうか。本当に驚いた。
ここまでお膳立てされて断る理由はない。「ありがとうございます、お願いします。」とサブリナさんに答える。ペーサーをしてくれるという彼には「もうあまり走れそうにないけれど、それでもいいかな」。
ご両親が東京に住んでいて、東京に来たこともあるという親日家のシャマルさんをペーサーに携えて、深夜に残り20マイルに向けたスタートを切った。途中の補給がようやく追いついてきたのか、胃のおかしな感じもようやく落ち着いてきた。