[DC] アメリカの人気トレイルランニングレースがエントリー資格を修正−ウェスタン・ステイツ、ハードロック−

Hardrock-Western-Leadville

過熱する人気の中でそれぞれの方向へ舵を切るアメリカの人気トレイルランニングレース。先週、アメリカを代表する二つの100マイルのウルトラ/トレイルランニングレースが再来年となる2015年のレースのエントリー資格を一部変更することを発表し、話題となっています。伝統と独自のカルチャーをもつアメリカのトレイルランニングがスポーツとして成長する過程でそれぞれの選択をしたことが注目されます。

本記事ではその変更の内容と意味合いについて紹介します。

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エントリー資格の変更を発表したのはカリフォルニア州で開催されるWestern States Endurance Run(以下ウェスタン・ステイツ)とコロラド州で開催されるHardrock Hundred Miles Endurance Run(以下ハードロック)。いずれも2015年夏(ウェスタン・ステイツは6月、ハードロックは7月)のレースにエントリーするには来年2014年のシーズンにそれぞれのレースが定めている他のレースに参加する必要があります(詳しいエントリーの仕組みの説明についてはウェスタン・ステイツハードロックのウェブサイトをご参照ください)。なお、来年2014年のレースへのエントリー資格については両レースとも変更はありません。

ウェスタンステイツは50マイルレースをエントリー資格から外すことに。米国内からのエントリー数は減るか。

ウェスタン・ステイツは10月24日にエントリー資格の変更を発表。エントリー資格を得ることのできるレースから50マイルレースを外す一方、100kmのレースで資格を得るためのタイムを15時間以内完走から16時間以内完走に変更(100マイルレースについては各レースの制限時間以内完走で変更なし)。エントリー資格を得ることのできるレースは2014年向けの147(うち100マイル相当が46、100km相当が23、50マイル相当が78)から2015年向けは64(うち100マイル相当が43、100k相当が21)に減りました。100マイルおよび100km相当のレースの内訳を見ても16レースが外れ、11レースが加わりました。2015年向けから加わったレースには日本のウルトラトレイル・マウントフジ(UTMF)も含まれています。

大会ウェブサイトによれば、ウェスタン・ステイツの始まりとなる1974年に初めてGordy Ainsleighが100マイルを完走したとき彼は一度も100マイルを走ったことがなかったことに触れて、このレースを誰でも参加可能なレースにするために参加資格を厳しくすることには慎重であったものの、エントリー数の増加で当選率が年々低下している(招待枠などを除いた270人の参加枠への応募者は2000年の583人から2010年には1693人、2013年には2295人まで増加)ことを受けて参加資格を厳しくしたとのこと。

これまで資格対象レースの半数を占めていた50マイルレースの完走でエントリーしていた人は相当数にのぼると思われます。これらの人が来年以降は100マイルまたは100kmのレースを完走してエントリーしてくることも考えられますが、資格対象レースの数自体が減ったことで、2015年以降はエントリー数は多少減る(抽選による当選率が上がる)ことになるでしょう。

また、対象から外れた50マイルレースの多くはアメリカ国内のレースなので、相対的にみてアメリカ国内からのエントリーがより大きく減少すると思われます。日本のランナーにとっては、来年2014年4月に行われるウルトラトレイル・マウント・フジ(UTMF)が対象に加わったことからウェスタン・ステイツへのエントリーはしやすくなったといえるでしょう。日本からのエントリー数が増えることで日本からのウェスタン・ステイツに参加する人(従来毎年1-2人)も増えることが期待できます。

世界で最初の100マイルレースという伝統を持つウェスタン・ステイツの今回のエントリー資格の変更は、世界的にみて小さいレースの規模(例年370人ほどがスタート)を維持しつつも加熱するエントリー数の増加に対処したものとして注目されます。特に、相対的にアメリカ国内からのエントリーを厳しくすることで海外からの参加の可能性が高まることには、よき伝統やカルチャーを生かしつつも国際化していこうという意図が感じられます。昨年から新たにレースディレクターに就任したCraig Thonleyさんの新しい挑戦とみることもできます。

ハードロックは対象レースをより山岳色の強いレースに絞り込みことに。今年のLeadville 100へは厳しいコメント。

10月25日にはハードロックもエントリー資格の変更を発表。経験者向きの「ポスト・グラデュエート」レースと自らを位置づけるハードロックのエントリーは、ハードロックが作成したリストにあるレース(アメリカ国内だけでなく世界の山岳地帯での100マイル以上のレース)のいずれかをエントリー前年までの2年間のうちに完走していることなどがエントリー資格。このリストから、一部のレースが2015年向けエントリーから消え始めて2017年向けエントリーまでに完全に消えることが発表されました。

リストから消えることとなったのはLeadville Trail 100(コロラド州)、Superior Sawtooth(ミネソタ州)、Tahoe Rim Trail(ネバダ州)、Western States(カリフォルニア州)、HURT 100(ハワイ州)、Massanutten(バージニア州)の6つ。特にLeadvilleについては次のような注記がなされるとともに、他の5つとは異なり2015年向けエントリーでリストから完全に消えることとされています。

A note about the 2013 Leadville 100: The Leadville 100 includes many of the features that are important for a HR qualifier: high altitude, long climbs, potential for mountain weather, and more. However, the 2013 Leadville 100 ignored other traits of importance to the HR: environmental responsibility, support of the hosting community, and having a positive impact on the health of our sport. Because of timing, the 2013 LT100 will still be accepted as a qualifier for the 2014 HR. LT100 finishes will not be accepted as qualifiers for the 2015 HRH and beyond.

「Leadville 100はハードロックの資格対象レースとして多くの重要な特徴(コースの標高が高いこと、長い登りを含むこと、山岳特有の気象条件が予想されること、など)を備えたレースです。しかし、2013年に開催されたLeadville 100ではハードロックが重要だと考える多くの点を無視した運営がなされました。具体的には自然環境に対して責任ある対応をすること、開催される地域社会の支持を受けて開催すること、ウルトラランニングというスポーツが存続していくために好ましい影響をもたらすこと、といった点です。エントリー期間が迫っていたことを考慮して、2013年のLeadville 100は2014年のハードロックの資格対象レースとして認めることとします。しかし、2015年以降のハードロックの資格対象レースにLeadville 100は含まないこととします。」

Leadville以外の5つのレースについてはリストから外れた理由について個別に説明はありませんが、いずれも定評あるハードな100マイルレースではあるものの、ハードロックに比べれば標高が低い、登りの距離が短い、山岳特有の激しく急変する気象条件にない、などの事情から外れたものと思われます。ちなみにウルトラトレイル・マウント・フジ(UTMF)は既にリストに含まれています。

これも読む
DC Weekly 2023年4月29日 Marathon de Sable、Penyagolosa、MIUT

独自のカルチャーとスポーツとしての急成長に対応しようとするアメリカのトレイルランニング・コミュニティ

ハードロックはコロラドのサンフアン山脈の雄大な山岳エリアを周回するスケールの大きさで注目されるレースながら、出場枠わずか140人。昨年からはその出場枠が出場回数に応じて3つに分割されて抽選されるようになり、さらに3つの枠のうち、まだ出場したことがない人の枠(35人)では過去に当選またはウェイティングリストに載ったものの出場しなかった(DNS)人を優遇する仕組みとなりました。このため、出場資格を満たして初めてハードロックにエントリーする人にとって抽選で出場枠を得ることは非常に難しいレースとなっています。今回の資格対象レースの絞り込みは応募者数が限られることで抽選での当選率は上がるでしょうが、このレースの注目度に対してあまりに出場枠が小さいためにその効果は目立たないものとなるでしょう。

むしろ、今回の資格対象レースの絞り込みは、ハードロックというイベントのアイデンティティである高標高の山岳、厳しい気候変化、タフな登り下りをより前面に打ち出していくことにあると思われます(Leadvilleへの姿勢もそうしたアイデンティティの現れと理解できます)。昨年抽選枠を3分割したことでこの地域やイベントに長く親しんでいる人を優遇して初参加の人が急に増えすぎないようにしたことの延長線上にあるといえるでしょう。

伝統と独自のカルチャーを持ちながら急速に成長しつつあるアメリカのトレイルランニング。同じくこのスポーツが成長しつつあるヨーロッパや日本などのアジア・オセアニア諸国では距離、参加人数、山域の魅力などからみてスケールの大きなイベントが新しく登場しています。一方、このスポーツで伝統を持つアメリカでは、人気が高まっても自然保護やレースのスタイル(充実したエイドステーション、ペーサーや個人サポートクルーの仕組みなど)から大規模なイベントを開催しにくいというジレンマがあります。カリフォルニアで始まった世界最古の100マイルレースというアイディンティティを守りつつも世界に対してアメリカを代表するレースとしての役割も果たそうとするウェスタン・ステイツ。世界に門戸は開きつつも通常のトレイルランニングレースとはひと味違う特別な山岳レースとして純化しようとするハードロック。そのあり方は日本でもトレイルランニングというスポーツが今後も成長を続けていった時には参考となることでしょう。

(参考)今回のウェスタン・ステイツ、ハードロックのエントリー資格変更に関するアメリカのランニング・コミュニティの反応の例

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