【追記・女子のレース展開についてフランチェスカ・カネパ/Francesca Canepaの状況を追加しました。2014.1.20】 1月18日(土)にHong Kongで開催された100kmのトレイルランニングレース、Vibram® Hong Kong 100。4回目の開催となるこのレースは、今年が初シーズンとなる世界の長距離トレイルランニングレースのシリーズ戦、Ultra-Trail World Tourの開幕戦として世界の注目を集めました。 結果は男子で後半の攻防を制したネパールのTirtha Bahadur Tamangが10:02で優勝。女子はイタリアのフランチェスカ・カネパ/Francesca Canepaが終始リードを守って12:59で優勝しました。日本からの参加で注目された奥宮俊祐は7位に入賞。山屋光司はケガのためリタイアとなりました。
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レースの展開
前半・比較的走りやすいパートで猛スピードの上位陣
HK100は小さいアップダウンを繰り返しながらも比較的フラットな前半と大きな登りのアップダウンを繰り返す後半に大きく分かれます。
前半はかなりのハイスピード。序盤のサポートポイント(11km地点)には0:51くらいのタイムで20人程のトップ集団が到着。CP2/28km地点でも2:26から30秒足らずに15人の集団が通過。集団から抜け出したのはアメリカのベテラン・デイブ・マッキー / Dave Mackeyでした。CP3/36km地点を2位集団に1分ほど離します。 大きなアップダウンが始まるCP4/45km地点にもデイブ・マッキー / Dave Mackeyがトップで到着。奥宮俊祐を含む上位集団との差は2分弱。山屋光司は20位台の中程で進みます。
後半・序盤のハイスピードやコースの習熟のせいか、上位陣に大きな変化
後半に入って400m程の山を登って下りたCP5/52kではデイブ・マッキー/Dave Mackeyがリードを4分半に広げます。後続集団は奥宮俊祐やネパールのTirtha Bahadur Tamang、Ram Bhandari、Bed Bahadur Sunuwar、オーストラリアのScott Hawker、Vlad Ixel、ニュージーランドのVajin Armstrongなど7人程のグループにしぼられ始めます。
このころ山屋光司はCP5/52kあたりから不調を訴え始めます。CP5は出発したものの、その後のCP6/65kmでリタイアします。
トップを争うレースが展開し始めたのはCP8/83km手前あたりから。デイブ・マッキー/Dave Mackyがリードを失って後続集団に吸収されます。前に出たのはオーストラリアのニューカマー・Vlad IxelとネパールのTirtha Bahadur Tamang。前に出た2人はCP9/90kmではTirthaが2分のリードを奪って到着します。ここで奥宮俊祐は5位。 結局、Tirthaがフィニッシュまでリードを広げて10:02で優勝。2位には先行していたVlad Ixelを交わしてネパールのBed Bahadur Sunuwarが4分半後にフィニッシュ。ネパール人によるワンツーフィニッシュとなりました。奥宮俊祐は終盤まで手堅い走りをみせたものの、この最終盤では猛烈な追い上げをみせたScott HawkerとRam Bhandariに先を譲る形となり、結果7位でのフィニッシュとなりました。
女子・フランチェスカ・カネパ/Francesca Canepaがリードを維持したほかは注目選手は意外にも振るわず
女子では前評判通り、Tor des Geantsで二連覇などの力を誇るフランチェスカ・カネパ/Francesca Canepaが終始リードを維持しました。故障からの回復を見極めながら直前にレース参加を決めたリジー・ホーカー/Lizzy HawkerはCP3/36kmでリタイア。前回のこの大会をコースレコードを更新して優勝したクレア・プライス/Claire Priceもフランチェスカを追う2位ですすんでいたもののCP5/52kmでリタイア。 【追記:優勝はしたものの女子大会記録からは1時間近く遅れたフランチェスカ・カネパ/Francesca Canepa。CP8/83kmを過ぎた後にヘッドランプの明かりが消えてしまうトラブルでコースを見失ったとのこと。その後、後続のランナーの明かりを頼りに先へと進んだとのことでした。大会記録更新を視野に入れていた彼女としては残念な表情を浮かべていました。(Chiaki Fjelddahlさんに情報を提供していただきました。ありがとうございます)】
結局2位争いを制したのは地元・Hong KongのChow Pui Yan。スペインのネレア・マルチネス/Nerea Martinezは5位、一昨年優勝のノラ・セン/Nora Sennは9位、昨年3位のOlya KorzhはCP5/52kでリタイアとなりました。
リザルト(速報サイトより)
(男子)
- Tirtha Bahadur Tamang(ネパール) 10:02:04
- Bed Bahadur Sunuwar(ネパール) 10:06:37
- Vlad Ixel(HOKA One One, オーストラリア) 10:11:53
- Vajin Armstrong(MacPac, ニュージーランド) 10:18:29
- Scott Hawker(HOKA One One, オーストラリア) 10:18:56
- Ram Bhandari(ネパール) 10:19:35
- 奥宮俊祐/Shunsuke Okunomiya(Montail/MountainHardwear, 日本) 10:28:45
- Dave Mackey(HOKA One One, アメリカ) 10:36:46
- Tsang Siu Keung(Champion System/The North Face, 香港) 10:40:08
- Jez Bragg(The North Face, イギリス) 10:58:39
- Cyril Cointre(HOKA One One, フランス) 11:01:52
- Freddy Thevenin(Salomon, フランス) 11:06:23
- Pascal Blanc(HOKA One One, フランス) 11:06:24
- Antoine Guillon(WAA, フランス) 11:17:41
- Christophe Le Saux(WAA, フランス) 11:25:56
- Jeremy Ritcey(Salomon, 香港/カナダ) 11:26:29
- Jaeduk Sim(韓国) 11:52:09
- Yao Jin Tao(中国) 12:00:03
- Wong Kam Cheong(香港) 12:07:35
- William James Lloyd Davies(香港) 12:19:32
(女子)
- Francesca Canepa(Vibram/Montura, イタリア) 12:59:19
- Chow Pui Yan(香港) 13:32:48
- Agnes Cheng(香港) 13:46:36
- Lo Ching Ling(香港) 13:55:34
- Nerea Martinez(Salomon, スペイン) 14:30:16
- Mathilde Heaton(香港/フランス) 14:43:21
- Rachel Jacqueline(香港/オーストラリア) 14:44:19
- Leung Wan Yes(香港) 14:53:58
- Nora Senn(香港/スイス) 15:06:39
- Chan Man Ha(香港) 15:23:51
レースレポートへのリンク
- 2014 Vibram Hong Kong 100k Results iRunFar.comによるレースレポート。
- running adventures and finding elevation: Vibram Hong Kong 100 2014 5位のScott Hawker(オーストラリア)のレースレポート。
- Hong Kong 100km – Vajin Armstrong Race ReportBackcountry Runner 4位のVajin Armstrong(ニュージーランド)のレースレポート。
- Maxing out in the spirit of adventure | South China Morning Post 香港の地元紙、South China Morning Postのレポート。3位だったVlad Ixelを中心とする選手の人物紹介。Vlad Ixelはオーストラリア・パースの26歳。テニスの選手として挫折したのち、暴飲暴食に喫煙の日々。1年半前にそんな生活をあらためてヴィーガンになり走り始める。直後に走ったフルマラソンは3:18。そこからウルトラランニングに目覚めて、昨年のアタカマ・クロッシングで2位。コタキナバルの100kmレース、TNF100 Singaporeで優勝。今年も多くのレースを予定しているが、トレイル関係で注目はTransVulcania、Ice Trail Tarantaise。
- 文字が白く反転してしまい、本文が見えません。なぜでしょうか?教えて下さい!|奥宮俊祐「トレランは楽しい!!」 7位の奥宮俊祐のレースレポート。文字が背景の地色にとけ込んでしまっていますが、テキストを選択状態にすると読めます。
- Vibram HK100 Race Report: Channeling my inner “Cheng” | Ultra Runner Girl
- Fabrice Perrin(UTWT)によるレース中に走りながら撮影したビデオ。
Vibram® Hong Kong 100 – January 2014 – Video Race Report from Fabrice Perrin on Vimeo.
観戦記・世界の有力選手が集まるレースの醍醐味、そして最後まで展開の予測できないウルトラランニングの魅力
今回の当サイトによるVibram® HK 100のレポートは、現地で取材することなく、大会公式のSNSアカウントによるライブ速報に現地で選手のサポートに当たられた方から提供していただいた写真などを組み合わせて行った。現場でみる臨場感を欠いた経験ではあったが、それでも今回のHK100の盛り上がりを感じることができた。
まず、なんといっても100kmという距離を走るレースでは予期しないことが結果を大きく左右すること、それが故にドラマが生まれることだ。今回についてはデイブ・マッキー/Dave Mackeyがこの距離でもつ実績をみれば勝つことは確実とすら思えた。実際デイブはリードしていたが、上記のように途中から大きく後退することになった。 モンブランのような大きな高い山に比べれば、香港のトレイルは人の手が入りすぎているのかもしれない。そうだとしてもこのHK100は取り組みがいのある大きなイベントであることには違いがない。トレイルランニングの魅力は本来自分が身をおく物理的な場所だけからくるわけではないことがよくわかる。 また、このレースが香港のローカルレースではなく、世界の有力選手を集める国際的なイベントとして開催されたことも印象的だった。今回優勝したTirtha Bahadur Tamangと2位のBed Bahadur Sunuwarは昨年秋のOxfam Trailwalker Hong Kongで活躍したネパール人チームのうち、二位に入ったチームのメンバーだ。Bedは2012年のこの大会で3位になっている。6位のRam BhandariはOxfamで優勝した方のチームのメンバーだった。彼らについてはそれ以上の情報は知られていないが、世界の有力ランナーを集めたこのレースで上位を占めたことは、その実力が世界トップクラス(具体的にはUTMBで20位以内には入れいるクラス)にまで達していることを示している。 オーストラリアのVlad Ixel、Scott Hawkerについてもあまり手元に情報がないが、Vladは禁煙して肉食を止めてランニングをはじめたのは一年半程前のことだという。そしてフランス人選手達は示し合わせたかのように11-15位を占めた。
当方にとってはレユニオンで活躍するPascal BlancとFreddy TheveninがHK100に出ているのがうれしい。これはUTWTが世界のトレイルランナーの結びつきを強めていることの現れだろう。また、今回上位に入ったネバールのエリートランナー達にはUTMBをはじめとする世界のトレイルランニングレースに出場する機会がより開かれることだろう。 日本からの参加した奥宮俊祐の7位は見事な結果だ。今回のように世界的なレベルのイベントでトップ10に入ったことは世界のレースで勝負できる実力が健在であることを示したといえる。レース展開としても、走りやすい序盤でのトップ集団の高速ペースについていき、最後までそこにとどまる粘り強さだった。ただ、無粋を承知でいえば、5位を走っていた最後の10キロで一旦は振り切ったはずのScott Hawker、Ram Bhandariの急迫にあい、先を譲る形になったのが惜しかった。この最後の一押しが結果をより輝かせるのは奥宮が一番承知しているはず。 リタイアした山屋光司について、年末年始にかなりのボリュームのトレーニングをこなしたと当方も聞いていた。このレースに賭けた意気込みを感じたが、今回はトレーニングによる疲労が残ったのかもしれない。大事に至る前の冷静な判断でのリタイアだとのことなので、今シーズンの続くイベントでの活躍を期待したい。
謝辞
今回のVibram® HK 100のレポートについては、Chiaki Fjelddahlさんをはじめとする香港在住の皆様、HK100で昨年14位という経験を持つ仁科昌憲さんにご協力いただきました。ありがとうございました。