もはや「帝王」の風格さえ感じさせるフランソワ・デンヌ/François D’Haene(Salomon、フランス)と、100マイルレースを走るのは2回目ながらスマートなレース展開をみせたヌリア・ピカス/Núria Picas(Buff、スペイン)が勝利を飾りました。
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レースの展開
4月25日金曜日午後3時に河口湖八木崎公園をスタートしたウルトラトレイル・マウント・フジ/Ultra Trail Mt. Fujiは、金曜日から日曜日まで概ね天候に恵まれ、気温もコース全体を通してランニングには適したコンディションとなりました。
男子
男子のレースを制したフランソワ・デンヌ/François D’Haene(Salomon、フランス)は序盤からレースをリード。後にはトーマス・ロルブランシェ/Thomas Lorblanchet(ASICS、フランス)、エマニュエル・ゴール/Emanuel Gault(ASICS、フランス)、イケル・カレラ/Iker Karrera(Salomon、スペイン)、ライアン・サンデス/Ryan Sandes(Salomon、南アフリカ)、Dave Mackey/デイブ・マッキー(HOKA OneOne、アメリカ)といったランナーが続きます。フランソワの2番手に対するリードはA5太郎坊/65.6kまではわずか数分で、フランソワが引っ張る展開でした。
しかし、A7こどもの国/80.5kではリードは14分、A8西富士/104.4kでは30分、A9麓/123.3kでは54分とどんどん拡大。結局後半はフランソワが昨年のGrand Raid Reunion – Diagonale des Fousでみせたのと同様に、その圧倒的な実力による一人旅となりました。フランソワの優勝タイムは19:09:13。2位を70分も引き離しての圧勝でした。
2位となったのはライアン・サンデス/Ryan Sandes。序盤ではトップ10の後半でしたが後半に入って加速。A8西富士/104.4kから先の天子山地で先行するエマニュエル・ゴール/Emanuel Gaultを捉えて2位に浮上しました。3月初めのTransgrancanariaでの鮮やかな逆転劇でもみせたスマートなレース展開を今回もみせました。一方、中盤に2位でレースをリードしたエマニュエル・ゴール/Emanuel Gaultはとぼとぼと歩きながらA9麓/123.3kにたどり着き、そこでリタイアすることとなりました。
3位にはアメリカのマイク・フート/Mike Foote(The North Face)。マイクはA4すばしり/55.7kあたりでは10位台の後半まで順位を落とし、サポートの話しによればリタイアするかもしれない、とのことでした。しかしその後粘り強い走りで持ち直します。A8西富士/104.4kで5位になった後で先行するエマニュエル・ゴール/Emanuel Gault、Dave Mackey/デイブ・マッキーを捉えてA9麓/123.3kで4位。さらにその先でアントワーヌ・ギュイヨン/Antoine Guillon(WAA、フランス)を捉えて3位に浮上してフィニッシュ。これまでUTMBなどでみせてきたのと同じように、厳しいレースで仲間のランナーが苦しむ状況で光る才能をみせました。
4位にはアントワーヌ・ギュイヨン/Antoine Guillon。トップ10圏内で走りながら、最終盤の天子山地で先行するランナーが苦しむのを尻目に3位に浮上するという、いつもの彼らしい手堅いレース展開でした。5位のリオネル・トリベル/Lionel Trivel(HOKA OneOne、フランス)も同様でA8西富士/104.4kではまだトップ10圏外だったにもかかわらず、天子山地で実力を発揮。A9麓/123.3kでは6位に浮上して表彰台を勝ち取りました。6位のブレンダン・デイビス/Brendan Davies(Inov-8、オーストラリア)はレース全体を通してトップ10を走る安定ぶりでした。
7位には野本哲晃/Tetsuaki Nomoto、8位には小林慶太/Keita Kobayashiが入りました。他のトップ10の選手と同様に序盤は20位前後を走りながら後半の天子山地で力を発揮するという、このレースでの正攻法を自分のものにできた二人は名実ともに世界の有力アスリートと肩を並べる形になりました。
9位はPiotr Hercog(Salomon、ポーランド)、10位はニック・クラーク/Nick Clark(Altra、アメリカ)でした。
女子
女子のレースではナタリー・マクレア/Nathalie Mauclair(LaFuma、フランス)が序盤を積極的にリード。しかし、その息づかいは荒く、オーバーペース気味です。結局A7こどもの国/80.5kでは慎重なペースを維持していたヌリア・ピカス/Núria Picasにトップを明け渡しました。昨年2位になったUTMBに続いて2回目の100マイルレースとなる今回のUTMFで優勝を勝ち取りました。2位には終始マクレアとピカスに続いていたフェルナンダ・マシェール/Fernanda Maciel(The North Face, ブラジル/スペイン)。
上位を予想されたマクレアやフランチェスカ・カネパ/Francesca Canepa(イタリア)が中盤でリタイアする中で3位に浮上したのがUTMBでトップ10を2度経験しているマリア・サマリヤン/Maria Semerjianでした。4位には2012年大会優勝者のネレア・マルチネス/Nerea Martinez(スペイン、Salomon)が最後まで諦めない走りで表彰台まで走りきりました。5位は昨年のSTYで優勝したマヌエラ・ヴィラセカ/Manuela Vilaseca(The North Face、ブラジル)でした。
リザルト
大会公式の結果速報はこちら。
男子
- フランソワ・デンヌ/François D’Haene(Salomon、フランス) — 19:09:13 (当サイトのレース前インタビュー)
- ライアン・サンデス/Ryan Sandes(Salomon、南アフリカ) — 20:18:59
- マイク・フート/Mike Foote(The North Face、アメリカ) — 20:54:16
- アントワーヌ・ギュイヨン/Antoine Guillon(WAA、フランス) — 21:29:12
- リオネル・トリベル/Lionel Trivel (Hoka OneOne、フランス) — 21:32:50
- ブレンダン・デイビス/Brendan Davies(Inov-8、オーストラリア) — 21:53:57
- 野本哲晃/Tetsuaki Nomoto(日本) — 22:19:52 (ブログ・野人ランナーのブログ)
- 小林慶太/Keita Kobayashi(日本) — 22:23:10
- Piotr Hercog(Salomon、アメリカ) — 22:44:25
- ニック・クラーク/Nick Clark(Altra、アメリカ) — 23:10:43
女子
- ヌリア・ピカス/Núria Picas(Buff、スペイン) — 23:27:34
- フェルナンダ・マシェール/Fernanda Maciel(The North Face、ブラジル/スペイン) — 23:46:24(当サイトのレース前インタビュー)
- マリア・サマリヤン/Maria Semerjian (フランス) — 27:16:13
- ネレア・マルチネス/Nerea Martinez (Salomon、スペイン) — 28:05:10
- マヌエラ・ヴィラセカ/Manuela Vilaseca(The North Face、ブラジル)— 28:21:46
レース速報、写真集など
- iRunFarのレースレポート(2014 Ultra-Trail Mount Fuji Results)
- Brendan Davies・Brendan Davies: In The Long Run: UTMF 2014 Race Report
- Gary Robbins・Gary Robbins, Endurance Athlete: The Fine Line Between Race Successes and Failures
- Fernanda Maciel・Ultra Trail Mont Fuji | Blog | Fernanda Maciel – Ultra Runner
観戦記・日本を舞台に展開された世界最高峰のトレイルランニングレースであり、厳しくトップ選手を試したタフなコース
レース前にも当サイトで紹介していたとおり、世界を代表するランナーが顔を揃えた今年のウルトラトレイル・マウント・フジ/Ultra Trail Mt. Fuji。UTMFのコースの特徴は一回毎の登り下りは大きくないものの、斜度が大きく、何度も何度も繰り返すこと、さらにそうしたトレイルの間を相応長い(全体の約3割)ロードや走りやすい林道がつないでいることといわれます。このため、レースの展開は走りやすいパートでのスピードが重要になる反面、スピードの伴う走りをした後に登り下りを繰り返すトレイルにも脚を残しておくことが重要となります。
このような日本に特徴的なコースにもうまく適応してレースを展開することができたかどうかが、はっきりと分かれたのが今年のUTMFでした。ライアン・サンデス、マイク・フート、アントワーヌ・ギュイヨン、リオネル・トリベル、ブレンダン・デイビス、女子のフェルナンダ・マシェールはこうしたレース展開に成功しました。
こうしたなかで優勝したフランソワ・デンヌについては全く別格の走りぶりでした。終始余裕をみせながら高速レースの前半をリード。さらにこどもの国までの走りやすい林道が中心の区間、さらに天子山地で後続を圧倒的に引き離す展開。非の打ちようのない見事な展開は当サイトが昨年のGrand Raid Reunionでみたのと全く同じでした。当サイトとしてはフランソワにはウルトラトレイル界の「帝王」の名を贈ります。
女子で優勝したヌリア・ピカスは今回が2度目の100マイルレース。昨年のUTMBで2位となった実力とレース展開の巧さは決してまぐれではないことを証明しました。今年はUTWTのレースに積極的に参加するという彼女にとって今年は多くの結果を残すことになりそうです。
日本のランナーのなかでは、野本哲晃、小林慶太がそれぞれ7位、8位に入る快挙となりました。九州在住の野本はロードのマラソンを中心に活躍するスピードランナーでOSJおんたけウルトラトレイルで2009年、2011年に優勝、昨年のUTMFで11位。小林はまだ日本のトレイルレースでは目立った結果を残していませんでしたが、昨年のUTMBでは30時間を切る29時間43分でフィニッシュするなど、周囲から注目を集めていた存在です。今回のように世界のトップクラスのランナーが集まる中で輝かしい結果を残した、日本をベースとするランナーの二人はこれから注目を集めることになりそうです。
謝辞
この記事はiRunFar.comの速報およびリザルト記事を参考に作成した他、今回の取材には井原知一さん、山登祐太さんにご協力いただきました。ありがとうございました。