先日当サイトでご紹介したUTMBの資格レースについての記事でも登場した国際トレイルランニング協会/International Trail Running Association(ITRA)。日本のトレイルランニングレースの中にも、UTMBの資格レースとなることをきっかけにITRAのメンバーシップを得ることにしたというレースもあるようです。
このように、日本でも存在感を増しているITRAとは何をしている団体なのでしょうか。ITRAがプレスリリースにより発表した2014年の活動の成果をご紹介します。
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2012年のシャモニーでの準備会議からスタートしたITRAですが、現在メンバーとして参加している団体は310で60カ国に及びます。今年4月から始まったITRAによるレースの評価認定制度を通じて評価したレースは750件。うち480件が認証を経てポイントを認められたとのこと。
トレイルランニングレースのコースと難易度の認証制度
当サイトの先日の記事でもご紹介した通り、ITRAは世界各地のトレイルランニングレースから申請を受けて、そのコースについて距離や累積獲得高度をもとにポイントを認定。UTMBはそのポイントをエントリー資格の判定に使っています。ITRAはトレイルランニングのレースを共通の基準で評価してその結果を公表することで、それぞれのレースに参加しようとするランナーがそのレースの難易度を判断する手がかりとなる、としています。
評価はコースを実際に通行して得られたGPSのデータを分析することで行われ、距離だけでなく登りや下りの量を加味し、データの正確さも評価した上で1ポイントから4ポイントのいずれかが認定されます。このほかにもレースが開催された日の天候や、数日間に分けて開催されるステージレースか否か、必要な装備などをレース中を通して携行する必要があるかどうか、周回コースかどうか、といった要素も判断に反映されます。
認証制度の詳細はITRAのウェブサイトに公表されています。
安全確保のためのガイドライン
自然の中で行われるトレイルランニングのイベントではランナーの安全をどのように確保するかは主催者にとって常に気になることです。
2014年を通して、ITRAでは欧州各地の大会主催者や関係者、アメリカの医学界や国際陸連とも協力して、トレイルランニンングにおける安全確保のための基準となる考え方を検討し、その成果として安全確保のためのガイドラインを2015年1月に公表する予定です。ガイドラインは大会開催のために必要な関係者との調整、危機回避のために必要なこと、コースマークをする際のアドバイス、大会側が安全確保のために用意すべき体制、エイドステーションについてのアドバイス、制限時間を設定する際の考え方など多岐に渡る予定です。
レースデータを基にした各ランナーのパフォーマンスの評価
ITRAでは既に世界各地ののべ5000のトレイルランニング大会についてそのリザルトのデータを収集し、のべ100万人(頭数では44万人)のレース結果をデータベースに格納しています。このデータベースに基づいて、ITRAはそれぞれのランナーのリザルトについて成績を評価するポイント(成績指数)を算出しています(理論的に最高のタイムでフィニッシュした場合を1000点とし、その最高タイムからの差に応じて減点する、というのが基本的な考え方)。2014年のランキングでは世界中のランナーについて過去36ヶ月間で最良の成績だった5レースの成績指数合計値でランキングを算出。
ITRAの2014年ランキングによれば、総合成績の男子チャンピオンはキリアン/Kilian Jornet、女子チャンピオンはローリー・ボジオ/Rory Bosio。その他距離別カテゴリーでもランキングを集計した結果によると男子では超長距離の部がフランソワ・デンヌ/François D’Haene、その他各部門はいずれもキリアン。女子では超長距離(XL)がローリー・ボジオ、長距離(L)がアンナ・フロスト/Anna Frost、中距離(M)がスティービー・クレマー/Stevie Kremer、42km以下がキム・ドブゾン/Kim Dobsonとなっています。
国際的なトレイルランニング大会への協力
ITRAは上記のような役割をベースにして国際的なトレイルランニング大会の開催や運営を支援しています。今年2014年に初めて開催されたUltra-Trail® World Tour(UTWT)ではITRAが算出したランナーの成績指数を基に各大会への参加をサポートするエリート枠のランナーを選ぶほか、UTWTの年間ランキングも各レースでのランナーの成績指数を基に決定されました。
来年2015年は国際ウルトラランナーズ連盟/International Association of Ultrarunners(IAU)のトレイルランニング世界選手権(World Trail Running Championship)としてフランス・アヌシーで5月30日に開催されるTecnica-MaXi-Race(86km/5300mD+)が指定されました。IAUのトレイルランニング選手権は前回2013年に開催されましたが、発表が開催直前にずれ込んだり、周回コースでの開催となるなど、多くの課題がありました。ITRAはIAUに協力し、既存のトレイルランニング大会から世界選手権への指定を募集したり、世界各国から有力選手を集めるなど、国際的な大会運営のノウハウを提供しています。
若干の感想
以上、ITRAのプレスリリースからその活動内容をご紹介しました。トレイルランニングは自由に楽しむスポーツ、という観点からはレースのポイント制度、成績指数を使ったランキングは競技、競争の側面を強調するばかりで窮屈と感じるかもしれません。一方、豊富な大会開催の経験や英知を集めた安全確保のためのガイドラインには、関係者の期待が集まりそうです。
これまではヨーロッパ、特にフランスを中心に回っていてどんな活動をしているか分かりにくかったITRAですが、今後はより広く注目を集めることになりそうです。