4人のチームワークで100kmを完走、青木光洋のオックスファム・トレイルウォーカー・ホンコン Oxfam Trail Walker Hong Kong 参加レポート

【編者より:11月18日に香港で開催されたOxfam Trail Walker Hong Kongは4人が1つのチームとなって100kmのコースを踏破するイベントです。1986年に始まった歴史あるイベントはチャリティのためのファンドレイジング・イベントであると同時に、香港の場合はトップクラスのアスリートが競い合うレースとしても毎年注目されています。今年のOxfam Trail Walker Hong Kongに参加したHOKA OneOne Japanチームのメンバー、青木光洋 Mitsuhiro Aokiさんに大会に参加したレポートを寄稿していただきました。HOKA OneOne Japanチームは14時間48分でフィニッシュし、11位となっています。】

前日・初めての香港に気分が高まる

2016年11月17日から20日までの3泊4日で、オックスファムトレイルウォーカー香港にチームHOKA One One Japanのメンバーとして参加してきました。

Sponsored link


17日。4時起床。昨夜は荷造りに追われてグッタリ。妻と忘れ物がないかをチェックしながら出発準備を整えます。車に荷物を積み込んだ後、夢の世界に入ったままの娘をチャイルドシートに乗せて、山梨から成田空港に向けて出発。高速道路は順調で8時に成田に到着し、フードコートでしばしお別れの日本食を味わって仲間を待ちます。ほどなく高橋和之(アミルさん)、林元洋(リンリン)、カメラマンの小関信平(しんぺーちゃん)と合流、LCCで香港に向かいました。

約5時間の空の旅を終えて初アジア・香港に降り立つと、、暑い!とんでもなく蒸し暑い!先発組からの事前の情報はあったけれど、気温30℃、湿度80%と真夏に逆戻り。やっと氷点下に慣れたのに。後から聞いた話では、香港には冬がないそうです。ああ、日本人でよかった。右も左もわからないメンバーを、語学堪能なリンリンが引率します。しかも我が家の大型トラベルバッグを押しながら。

空港からはタクシーで移動。ハリーポッターのロンドンバスさながらのドライビングテクニックを見せつけた運転手が、HKD 22(約400円)、40分で宿のあるモンコックに運んでくれました。モンコックの町は、上野+新宿×中国といった感じで、何ともいえない熱気に包まれていて気分は高揚してきます。ホテルについて荷物を整理していると、チームマネージャーの川田さん夫妻とチームメイトの新名健太郎(新名さん)が登場。川田さん、新名さんと打ち合わせを兼ねて食事に。ホテルに戻ると娘のお風呂後のスキンケアをした後、レースの準備に取りかかります。ザックはPaago WORKSRush 7、ウェアは今回のための新しいユニフォーム、シューズはHOKA Challenger ATR2。さらに各種ジェル、VESPAハイパー等。早々に準備を整えて、MAGMAリカバリーVESPAを飲み干してベッドイン!さあ明日はレースだ!

th_Oxfam-HongKong-2016-Prerace-group

スタート前のHoka One One Japanチーム。左から新名健太郎、高橋和之、青木光洋、林元洋。

レース前半は暑さに苦しみ、トラブル続出

18日。5時起床。6時に宿を出発なので手際よく準備するよう心がけます。準備をしながら、川田さんの奥さんが作ってくれたオニギリを娘と一緒にパクリ。娘の注意を引きつけて妻の準備を陰ながらサポート。メンバーに手伝ってもらってなんとか予定通りに6時にレンタカー&タクシーの2台に分乗、現地サポートのエーコを加えて出発します。約1時間でスタート地点に到着。時間に余裕があるので、ニューハレを貼ったりトイレを済ませて、大人数でざわつく受付を若干のハプニングもありつつ突破!しんぺーちゃんにカッコ良く写真を撮ってもらい、談笑をしてスタートを待ちます。チームとしては、12~13時間、トップ10入りを目標に。いやトップ3、あわよくば優勝?そんなことを考えながら、午前8時30分にスーパークラス70チーム、24時間以内クラス110チームの計180チームがPak Tam Chungをスタート。

th_Oxfam-HongKong-2016-startline

スタートラインに立ったチームのメンバー。

スタートから約10キロはロードラン。早くなりすぎないようにキロ5分30秒を目安に、雑談したり他チームと会話をしながら進みます。ロードセクションの先頭を行くのはネパールチーム(編者注 AWOO Team Nepalで今回優勝。メンバーはBhim Bahadur Gurung、Bed Bahadur Sunuwar、Purna Tamang、Tirtha Bahadur Tamang)。彼らはとんでもないスピードで、すでに姿はなし。あれは、追いつかんな~。見える範囲に、女性を含むTeam Salomon(編者注 今回3位でフィニッシュ。メンバーはJacky Leung、Jeremy Ritcey、Claire Price、Tom Robertshaw)、もう1チームあって、我々HOKA One One Japanチームは4位でトレイルに突入!おっと、ここであることに気づきます。どのチームもほぼ空身。「エイドが充実してるとはいえ、舐めすぎだろー!日本じゃ叱られますよ!」とガツンといってやろうとしたら、ビブをつけてないランナーが選手を囲んで、これでもかとお・も・て・な・し。さらに、ペーサーや伴走もやりたい放題。そう、ルールなし、なんでもありだったのです。(編者注 Oxfam Trailwaker Hong Kongの競技規則はこちらに掲載されています。)

異国の地で予想外の一撃をくらい、暑さと湿度にもやられてすでに黄色信号が点灯。アミルさんは、まだまだ余裕みたいだけど、新名さん、リンリン、私は滝のように汗を垂れ流し、悪態をつきながらトレイルを突き進みます。コースは、小刻みなアップダウンを繰り返した後、急降下して砂浜へ。ビーチラン~トレイル~ビーチラン~ロードと目まぐるしくサーフェイスを変えながらCP1(Sai Wan、15.9km)を通過し、港の小さな集落の中を抜け、海沿いのトレイルをまた小刻みなアップダウンを連続させて距離はあっと言う間に25キロ。CP2(Pak Tam Au、24.8km)手前で川田さんと合流して前の状況を聞くとかなりへばってる様子とのこと。「後半に勝負!」と自分を落ち着かせながらCP2に到着。飲食、補給食の補充、給水を淡々と行いながらサポートと談笑して、約5分でコースに復帰。サポートのメンバーからは、この時の発汗量と顔色をみて今日はダメかもしれないと思った、とレース後に聞きました。とりわけ私は酷かったようです。

th_Oxfam-HongKong-2016-Mitsuhiro-Aoki

エイドでサポートを受ける青木光洋。

次にサポートチームと会えるのは60km地点のCP6(Smugglers Ridge)。長丁場の始まりでしたが、このセクションで問題が連発。最初の激登りでまず新名さんが熱中症を発症。他チームのサポートから氷をもらって一時回復します。続いて私が緩やかな下りで転倒、両ふくらはぎが攣ってペースがガクンと落ちます。ここから「チームに迷惑はかけられない、次のエイドでリタイアだな。なんとか次のエイドまで」と考えますが、自分の弱気な気持ちがメンバーにバレないように走り続けていると、新名さんから衝撃の一言が!?「体調がもどらない、ゆっくり歩いて次でリタイアするから、先に行ってくれ」と。(マジっすか!?新名さんがリタイアしたら、俺が最後まで行かなきゃ。しかしながら他の2人は元気。地獄が待ってるな。)と考えた私。

これも読む
スポーツアクティビティはコロナ前の水準へ、トレイルスポーツの人気は引き続き上昇。Stravaが2022年の「Year In Sport」を発表

ここで一旦立ち止まって作戦会議です。チームで決まった方針は、(1)メンバーが一人減っても3人で走れば完走を認められるので、まずは3人でゴールを目指すこと、(2)体調を崩した新名さんをCP4(Gilwell Campsite、49km)まで連れていくこと、でした。この時がチームの意識が最も高まった瞬間でした。仲間は見捨てない、置き去りにしない、最後まで諦めない。言葉では語り尽くせないほどの強靭な絆がそこにあったはずです。

メンバーの3人が再び走り出し、無理のないペースでCP4を目指す背後で、なんとか回復を図る私。携帯電話でサポートと連絡を取り合い、状況を伝達しつつCP4に到着。チェックを受けた後、リンリンが役員にリタイアの件を伝えて、新名さんの手首のバンドを切りリタイア証明書とセットで渡してくれます。残るメンバーはこれを持って走り、以降のチェックポイントで大会スタッフに示すことで、チームのうち1人がリタイアして現在のメンバーが3人であることを証明する必要がありました。

仲間で励ましあい、家族に支えられてフィニッシュへ

CP4で天を仰いでいる新名さんに別れを告げて、3人は先ほどまでの遅れを取り戻すべくハイペースで前を追いかけます。ここまでに抜かれたチームを半分以上抜き返し、アミルさんとリンリンはまだ上位進出を諦めていない様子。私は二人に必死に追いすがります。ここからはほぼフラットな気持ちのいいトレイルがかなりの距離で続きました。でも私には辛かった。ただただ辛かった。しかしそれを超えるインパクトがあったのは、他チームのメンバーが体にくくりつけたロープで他のメンバーにかなり強引に引っ張られながら走っている光景を見たときでした。意識が朦朧としている仲間の選手に激を入れて走る様は、涙なしでは見られませんでした。ここまでやるか、オックスファム!

ロードに出てCP5(Beacon Hill、56km)への登り返しの前に、他チームの日本人サポートの方に食料・水分を分けていただいて元気回復。CP5はさらっと通過し、そこから一気に下ってCP6(Smugglers Ridge、61km)に向かうと、出迎えてくれたのは野生のサルの群れ!威嚇してきたり、食料を奪おうとしたり。おいおい、どんなレースだよ!長い下りを終えて、CP6の手前3キロには川田さんが待っていて、チームの3人を励ましながら強烈なロードの登りを引っ張ります。なんとかCP6にたどり着きサポート隊と合流。

残り40km、気持ちさえ切れなければ完走できると自分に言い聞かせますが、すでに燃え尽きて真っ白になった私の口から出るのは「つらい、きつい」のみ。!対照的にアミルさんは饒舌、リンリンは笑顔が絶えません。そんなどん底の私を、娘が肩を叩いて励ましてくれます。うん、父ちゃん頑張る、とハイタッチをしようとすると、娘はすでに背を向けて笑いながら私の分のオニギリをがっついてる始末でした。出発準備を整え、みんなで円陣を組んで気合いを入れ直し、次のサポート地点のCP8(Tai Mo Shan、80km)を目指して走り出します。

CP6で家族の顔をみたおかげでかなり体調は回復。大きな山越えのセクションでもハイペースについていけるようになります。きれいな夜景を見る余裕さえ出てきます。しかし、ここでも問題発生!快調だったリンリンが内臓をやられてしまい、各種対処法でしのぐもののペースダウン。ここからはリンリンに無理をさせないよう、私が後ろからサポート。アミルさんは前を追いたくて仕方ないようでしたが、キャプテンとしてペース管理や体調を気遣ってくれます。さらには余裕を見せて、路上に転がる牛の糞を軽快に交わし、暗闇から現れる牛や野犬を蹴散らしてチームをけん引します。CP7(Lead Mine Pass、70km)では水だけ補給し、一番の登りを迎えます。ここで霧と強風に見舞われますが、日本人の我々にはちょうどよい気象状況。ここで振り返ると、後続のチームの10個近いヘッドランプがゆらゆらと距離を詰めてきていてちょっとビックリ!登りきった先のロードセクションで、抵抗のすべなく抜かれてしまいましたが、気にせず一定のペースを維持してCP8へ向かいます。

眩しい照明の中から、しんぺーちゃんが登場。撮影の仕事をしつつ、サポート隊の場所まで誘導してくれます。ここでは、川田さんの奥さんがうどんを準備して待っていて、到着と同時に食べ始めるというファーストフード顔負けのサービス!一気にテンションがあがります。他のサポート隊は、新名さんの回収に向かっていたので川田さんの奥さんがフル稼働で3人の準備を整えて「ラスト20キロ、絶対帰ってこい!」と最後の喝!見送る2人に手を振りながら、特有の小刻みなアップダウンは続くものの下り基調のロードを駆け下ります。一気にCP9(Tai Lam Chung Reservoir、90km)に到着。フィニッシュまであと12キロ。完走が見えてきて、3人でワイワイ話しながらチェックポイントを通過。最終セクションは、走れるサイクリングトレイルで、今までの鬱憤の溜まったアミルさんがキロ4分で突っ走りリンリンが転倒!私も再び汗だくに。ラスト5キロをすぎ、いよいよゴールは間近。

市街地を走りながらレースの思い出話なんかをしていたら、コースをロスト。夜の公園で若者たちに道を教えてもらってようやくコースに戻ると、大会のフラッグがはためいているのが見えてきました。本当に最後だなと感慨もひとしお。いつもゴールするときは「やっと終わる」と「ああ終わっちゃう」と相反する感情がごちゃ混ぜになります。勝つとか負けるとか、速いとか遅いとか、そんなことはどうでもよくなり、内なる自分との対話に集中していきます。気付くとあと700メートル。トップ10入りを逃した我々はウイニングランにはなりませんでしたが、ゴール地点は歓喜の渦!14時間48分でフィニッシュ。目標達成はできなかったけれど、メンバーやサポートチームから多くのご支援、ご声援をいただいてのゴールとなりました。ゴール後はハグや握手でお互いを称え合い、新名さんの無事を確認。細やかなサポートをしてくれたエーコも笑顔です。その後、重い身体を引きずってシャワーを浴びて会場に戻ると、すぐに完走の表彰式に。順位もわからないままでしたが、記録証・メダルが贈られました。

th_Oxfam-HongKong-2016-Award

フィニッシュ後に完走証とメダルを贈られたHOKA One One Japanチーム。

レース翌日は観光したりアウトドアショップを巡ったり、うまいものを食べ、屋台でたむろしたりやりたい放題に過ごすと、あっと言う間の4日間は過ぎていきました。

チームメンバーを始めサポート隊、関わって下さった皆様に改めて感謝します。もちろん、家族にも。今後も、様々なチャレンジを続けていきます!

青木光洋 / Mitsuhiro Aoki
プロフィール:青木光洋 / Mitsuhiro Aoki トレイルランニングにとどまらず、冬季登山、テレマークスキー、クライミング、沢登り等、山遊びに人生を賭ける35歳。トレイルランニングでの主な成績に、2009年武田の杜トレイルランニングレース優勝、2014年・2015年上州武尊山60k連覇、2012年~15年の神流マウンテンラン&ウォーク・スーパーペア50k連続優勝がある。HOKA One Oneサポートアスリート、山梨のトレイルランニングチーム・Boomerung Trailholic所属。
この記事が気に入ったらDogsorCaravanをBuy Me a Coffeeで直接サポートできます!

Buy Me a Coffee

Sponsored link