山での経験や技術を求めつつも、普通の人にも手が届く挑戦の場でありたい。写真集「TJAR」出版記念イベント・レポート

4人の写真家が描いた日本アルプスと選手の姿を楽しみながら、日本を代表する山岳アドベンチャーレースの歩みを振り返る貴重な時間となりました。トランスジャパンアルプスレース Trans Japan Alps Race(TJAR)を追い続け、その実像を伝えている写真家である藤巻翔、小関信平、後藤武久、宮上晃一の各氏の作品からなる写真集「」が「山の日」の8月11日に発売されました。発売当日に東京のビクトリノックス・ジャパン本社ショ―ルームで行われた出版記念イベントの模様をレポートします。

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イベントに登場した4人の写真家(前列)と大会実行委員の皆さん(後列)。

奇跡的に手元に戻ったメモリーカードの中の写真がTJARを象徴する一枚に

あいさつする藤巻翔さん。

イベントは2008年の大会から、2年に一度開催される大会を毎回撮影しているという藤巻翔さんの挨拶で開幕。まずは今回の写真集に収録された写真の中から写真家4氏がそれぞれ特に思い出深い一枚を紹介しました。

小関信平さんは朝日を浴びながら力強く剱岳を登る望月将悟選手の写真をチョイス。この写真は2012年大会の様子を追ったテレビのドキュメンタリー番組のDVDのパッケージや書籍の表紙になり、TJARという大会が広く知られるきっかけとなった一枚。しかし、この一枚を取って剱岳から下山した小関さんは撮影後に取り出して保管したはずのカメラのメモリーカードを山の中で落としてしまったことに気づきます。その後、落としたはずのメモリーカードは通りかかった登山者の手で警察に届けられて小関さんの手元に戻りました。「もう日の目を見ることはなかったに違いない写真が高く評価されて多くの人に観ていただいたのは幸運でした」と振り返ります。

宮上晃一さんが挙げたのは、2014年の槍ヶ岳山荘で撮った西田由香里選手の一枚。コース前半のハイライトといえる槍ヶ岳でいい写真を、と意気込んでいたものの、台風の接近でレースが一時中断され、宮上さんも槍ヶ岳山荘で缶詰状態に。長い時間、選手を待ち続けて、やっと取れた山小屋での写真はそこに到るまでの自然の厳しさがにじみ出る一枚となったといいます。

4人の写真家が印象に残る1枚を前に語ります。

早朝の赤石岳で朝日に染まる岡田泰三選手が独りで歩き続ける写真が後藤武久さんの一枚。巨大な南アルプスの山の中で独り静かに自然と向き合う選手の姿が印象的ですが、実際には前後に選手や登山者がいて、岡田選手が独りで登っているところを撮れたのは偶然だったとのこと。「長い時間シャッターチャンスを待っていても思うように撮れないことが多いですが、この一枚は全てが完璧。選手にも喜んでもらえたのがうれしかったですね」と話しました。

藤巻翔さんは初めて撮影した2008年大会で、駒ヶ根市内のスーパーで買い物をしている選手の写真を紹介。「ここまで北アルプス、中央アルプスを走ってきた超人的な選手が普通にスーパーで買い物かごを下げてレジで支払いをしているところは、日常と非日常のアンバランスさが印象に残りました」という藤巻さんは、以来選手が補給のためにコース上のお店に立ち寄ったらシャッターチャンスと思うようになったとのこと。

TJARのファウンダー・岩瀬幹生さん、現大会実行委員長の飯島浩さんが登場

続いてはTJARに参加した経験を持ち、現在も実行委員として大会を支えるみなさんがTJARのこれまでの歩みを振り返ります。

岩瀬幹生さんにシリアルナンバー「00」の写真集が贈られました。

岩瀬幹生さんは大会のコンセプトを思いつき、自ら試し、仲間を集めてレースにしたその人です。岩瀬さんは登山家として国内外で活躍しながら、90年代には自ら設定した登山道のコースを山岳ランニングで走破する挑戦に取り組むようになり、その記録を登山雑誌に投稿して注目を集めはじめます。計画と準備に数年をかけたのち、1995年に10日間かけて日本海から日本アルプスを縦走して太平洋へ到る「試走」に成功。この時の経験を元に「サラリーマンが10日間の休みを取るのは難しいから」と7日+1日で走るコースに調整、「毎年開催だと事前の説明や準備の負担が大きいし、自分が夏に他の山に遊びに行けなくなるから」大会の開催は2年に一度とする、という大会の骨格を決めます。2002年に仲間とともに4人の選手が参加した最初の大会では岩瀬さんが唯一の完走者、そして第一回大会優勝者となります。

大会実行委員長であり、6回の出場経験を持つ飯島浩さん。

一方、これまでの参加者の中で最多の6回の出場経験を持ち、現在は大会実行委員長を務める飯島浩さんは、「第一回大会の開催中に、インターネットの掲示板でそんな挑戦をしている人たちがいることを知って衝撃を受けました」と当時を振り返ります。そして自らが完走を果たすと「足の裏がふやけてマメになってこれまで経験したことのない苦しさでしたが、これ以上はない充実感でした。しばらくするともう一度やってみよう、と考えていました」。とはいえ、実行委員長を務める今は選手として出るわけにはいかないといいます。「選手が少ない時は、全員が選手として走りながらみんなで大会を運営していたわけですが、今はそんなわけには行きません。大会中は大会本部を置き、選手にはGPS端末を持ってもらって常に所在地と安全を確認しています」。

TJARの今後については、「トレイルランニングをはじめて山に行くようになった人は、山での経験や行動スキルが十分でないのではと心配」(岩瀬さん)という一方、「特別な経験や運動能力に恵まれた人だけの特別なレースにはしたくないですね。普通のサラリーマンでも努力すれば手が届くような大会であり続けたいと思っています」(飯島さん)とのことでした。

TJARの選手たちが今年の目標を語る

最後のセッションでは最近のTJARで活躍する選手の皆さんが登壇。写真家チームからの質問に答えます。

「レース中で唯一、街に出てくる駒ヶ根でのお気に入りの補給食は?」という質問には岩崎勉さん、飯島浩さんが「すき家」との答え。深夜でも入れてメニューも豊富なのが魅力。前回2016年に初出場の男澤ヒロキさんは「長い行動中の補給がうまくいっていないところで、駒ヶ根でラーメンに牛丼とたっぷり補給したら、また胃の具合が悪くなってしまいました」と失敗談を披露。アドベンチャーレースや海外のトル・デ・ジアンでも活躍する小野雅弘さんは「自分はコンビニで済ませますね。冷たくて喉越しがよく、塩分と酸味が摂れる冷やし中華が好みです」と、好みはそれぞれでした。

大会の魅力や裏話で盛り上がる小野雅弘、男澤ヒロキ、岩崎勉、飯島浩の皆さん(左から順)。

「大会が開催されない今年2017年の夏の予定は?」という質問には、飯島さんと男澤さんが大会では通らないルートでそれぞれ北アルプス、南アルプスを縦走しようと計画中。岩崎さんは9月末に中国で開催される400kmのノンストップのレース、Ultra Gobi 400kに挑戦。小野さんは9月にトル・デ・ジアンに出場する他、アドベンチャーレースや、自転車、スキーにも取り組むつもりと話していました。

ちなみに二年に一度開催されるTJARの次回は来年2018年8月の予定で大会ウェブサイトにはエントリー資格や、書類審査から選考会、判定会議という選考プロセスが発表されています

写真集「TJAR」は現在発売中です

日本海から日本アルプスを縦走して太平洋に至る415kmを8日以内で走り抜く山岳レース、(TJAR)。その挑戦を追い続けている4人の写真家(藤巻翔、小関信平、後藤武久、宮上晃一)による珠玉の作品による写真集「TJAR」は限定415部が現在発売中です。

  • 価格:15,000円(税込/送料別途かかります)
  • 体裁:オールカラー160ページ/ボックス付き
  • 主な内容
    • 限定415部、1冊ずつにシリアルナンバー入り
    • 布貼りハードカバー・ボックス付き
    • 2002年第1回大会から2016年第8回大会までのレースデータを紹介
    • 「TJAR」大会概要、ショートヒストリー、トピックス、年譜等を掲載
    • 大会コースマップと大会プロフィール(高低表)付き
  • 購入販売ウェブサイトから
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