Salomonが目指す新しいシューズ作り。カスタムメイドのフィット感を追求したトレイルランニングシューズ「S/LAB ME:sh」とは?アヌシー・デザインセンターを訪ねました。【PR】

トレイルランニング・ファンにとってSalomonは常に注目のブランドです。キリアンをはじめとするサポートアスリートの活躍とフィードバックの上に開発されるシューズやウェア、バックパックなどのアイテムは、トレイルランニング・ギアのトレンドを生み出してきました。

Salomonの製品の開発拠点となっているのがフランス・アヌシー Annecyにあるアヌシー・デザインセンター Annecy Design Center(ADC)。今年のUTMB®︎が終わった後、シャモニーからクルマで約1時間半のところにあるADCを訪問することができました。今回はSalomonのものづくりを支えるラボと、究極のフィット感を得るためのトレイルランニング・シューズのカスタムオーダーである「S/LAB ME:sh」について話を聞きました。

Annecy Design Center(ADC)はSalomonやMAVICの開発拠点として約一千人のスタッフが勤務しているという。

Annecy Design Center(ADC)はSalomonやMAVICの開発拠点として約一千人のスタッフが勤務しているという。

シューズ、ブーツ、スキー、と最先端のプロトタイプが生み出されるラボ

アヌシーへはUTMB®︎の行われるシャモニーからクルマで1時間半。東西を山に囲まれ、ヨーロッパで一番の透明度を誇るアヌシー湖の北端に位置するのがアヌシーで、湖につながる運河とそれに面した中世以来の街並みが美しい街です。その街の旧市街からおよそ5キロ、ハイウェイからのアクセスのいいビジネス地区にADCがあります。Salomonのアウトドア、ランニングだけでなく、スキーやスノーボード、自転車のMAVICなど同じグループのブランドの開発・デザインに関する機能が集まっています。

運河沿いにカフェやレストランが並んだアヌシーの街の夕方。

運河沿いにカフェやレストランが並んだアヌシーの街の夕方。

エントランスのすぐ左手にはSalomonのブランドの歩みを紹介する展示がありました。創業者のフランソワ・サロモンさんとその息子ジョルジュさんがノコギリの刃を作る工房を1947年に作ったのがここアヌシー。やがてその工房ではスキー板の鉄製のエッジやビンディングを作り始め、ここから究極のパフォーマンスを追求するアウトドア・メーカー、Salomonの歴史が始まりました。

サロモンの歴史を振り返る展示。スキーの世界でいくつもの革命的なプロダクトを生み出してきた。

サロモンの歴史を振り返る展示。スキーの世界でいくつもの革命的なプロダクトを生み出してきた。

さらに奥に進むといよいよ製品開発の現場となるラボとなります。まずはプロトタイプを製作するための工房へ。プロトタイプを作るといってもかなりの広さで素人目には普通の製品の工場に見える程の大規模な施設でした。実際、この工房でどのようなプロトタイプを製作するかのシフト表を見せていただきましたが、シューズやブーツ、バックパック、ウェアなど様々なアイテムが作られていることがわかります。

シューズやブーツのプロトタイプを作るセクションにて。

シューズやブーツのプロトタイプを作るセクションにて。

こちらはシューズを作る際に使うプレス機。本格的な機械が並んでいる。

こちらはシューズを作る際に使うプレス機。本格的な機械が並んでいる。

実際に作業されているスタッフの方のデスクをみると、型紙があったり、手作業で接着剤を塗ったりミシンをかけたりという職人技でプロトタイプが生み出されています。またこの工房ではプロトタイプを作るだけでなく、製品として外部の工場で生産する場合の手順や規格について決める役割も担っているそうです。

様々な足型(ラスト)が用意されていた。

様々な足型(ラスト)が用意されていた。

こちらではトレイルランニングなどのバックパックを作っていた。

こちらではトレイルランニングなどのバックパックを作っていた。

工房を出ると次はスキーのプロトタイプ作りの施設に。こちらは天井が高くて機械も全体に大きめで、大きな音を立てているものも。より工場という雰囲気がしてきます。こちらでは木でスキー板の形状を削り出して、それをもとに樹脂で型を取って、プレスして、という一連の作業が手作業で行われているのを見せていただきました。大きな機械を使う工程でもその微妙な調整はプロトタイプごとに手作業で行うとのこと。このあたりはスキー作りを祖業とするSalomonのこだわりを感じました。

スキーのプロトタイプ。プロのトップスキーヤーのための特別なスキーもここADCで作られているという。

スキーのプロトタイプ。プロのトップスキーヤーのための特別なスキーもここADCで作られているという。

スキーを作るための機械や木型が並んでいる。

スキーを作るための機械や木型が並んでいる。

このほか、製品の耐久性や防水性をテストするラボも見学。こちらはウェアやシューズの素材の一片を試料にしてその原材料や性質を評価するという最先端の機械があるかと思えば、ウェアの生地が摩擦の繰り返しにどれくらい耐えられるかをシミュレーションするための機械といった見た目にもわかりやすいものも。ラボの一角には家庭にもあるような洗濯機と乾燥機が何台も並んだランドリーがありましたが、こちらは製品の洗濯と乾燥を繰り返すテストのためのものでした。ここではSalomonをはじめとする自社の製品をテストするのはもちろん、他社の製品についても比較のため評価しているそうです。

カスタムオーダーのフィット感と新しいものづくりへの挑戦。「S/LAB ME:sh」に秘められたメッセージとは?

昼食をはさんで、午後はランナー一人一人にカスタマイズされたシューズを作る、というプロジェクト「S/LAB ME:sh」についてお話を聞きました。

昼食は社員食堂でいただきました。白身魚のソテーが美味。

「S/LAB ME:sh」はSalomonが昨年発表したシューズ・カスタマイズのプロジェクトです。スタッフがランナーと対面して直接足の大きさや形を計り、フィット感の好み、どんなテライン(路面)を走るのかを聞き取り、それをもとにそのランナーにカスタマイズされた一足を作り出します。これまではキリアンのようなSalomonのトップ選手しか経験できなかったことを、誰でも経験できるという革新的なプロジェクトです。さらに、そのカスタマイズされたシューズは他のシューズのようにアジアの工場ではなく、実際にオーダーを受け付けたショップから遠くないところに設ける工房で、Salomonが開発したロボットとソフトウェアを使って作るという点も非常にユニークです。実際に昨年の秋から、ここAnnecy Design Center(ADC)に設けられた「S/LAB ME:shユニット」でオーダーの受け付けを始めているほか、現在はフランスの8ヶ所、ベルギーの1ヶ所のシューズショップでオーダーが可能となっています。

キリアンは2016年のZegama Marathonで「S/LAB Me:SH」の試作品第一号を履いて優勝。そのシューズが誇らしげに展示してあります。

キリアンは2016年のZegama Marathonで「S/LAB Me:SH」の試作品第一号を履いて優勝。そのシューズが誇らしげに展示してあります。

最高のフィット感のために、足型だけでなくランニングフォームや使いたいシーンに応じてカスタマイズ可能

まずは「S/LAB ME:shユニット」に向かいますが、そのエントランスからして重厚な雰囲気。明るく開放的なADCのオフィスとはちょっと雰囲気が違います。エントランスからは実際にアスリートが使ったS/LABの製品が展示されているのを見ながら中へ。「S/LAB ME:sh」のウェブサイトで予約してここを訪れる人は最初からテンションが高まりそうです。

シックな黒を基調にした「S/LAB ME:shユニット」の部屋ではプロジェクト・ディレクターのジャン・イブ・クープ Jean-Yves Couputさんが出迎えてくれました。部屋のガラス窓からは隣接した「S/LAB ME:sh」専用の工房の様子が見られます。

この日はUTMB®︎を終えたばかりの丹羽薫さんが「S/LAB ME:sh」のカスタマイズのためにADCに。どんなシーンでシューズを使うか、質問に答えながらスペックを決めていく。

この日はUTMB®︎を終えたばかりの丹羽薫さんが「S/LAB ME:sh」のカスタマイズのためにADCに。どんなシーンでシューズを使うか、質問に答えながらスペックを決めていく。

最初にクープさんが説明してくれたのは「S/LAB ME:sh」の目指す究極のフィット感とは何かということ。「フィット感」を4つに分類し、まずは足の形状によるアナトミカル・フィットと、フォアフット着地かかかと着地かといったランニングフォームと足の動きによるバイオメカニカル・フィット。さらに走る距離とか、トレイルの性質による用途別フィットと、つま先が広い方が好きか狭い方が好きかといった好みによるフィット、の合わせて4つ。「スタッフが実際にシューズを履くランナーと対面して、これらを一つ一つ確認して最高のフィット感が得られるようにカスタマイズします」(クープさん)。

プロジェクト・ディレクターのジャン・イブ・クープ Jean-Yves Couputさん。

プロジェクト・ディレクターのジャン・イブ・クープ Jean-Yves Couputさん。

トレッドミルはランニングフォームを確認したり、試し履き用に揃えられている様々なサイズ、足型のシューズを試すために使われている。

トレッドミルはランニングフォームを確認したり、試し履き用に揃えられている様々なサイズ、足型のシューズを試すために使われている。

アウトソールのパターンをチェック。

アウトソールのパターンをチェック。

足のサイズは足幅や甲の周囲の長さなどを細かく計測(この足は丹羽さんの足ではありません)

足のサイズは足幅や甲の周囲の長さなどを細かく計測(この足は丹羽さんの足ではありません)。

こうして計測したデータや聞き取った情報をもとにシューズのドロップ(前足部とかかとの高低差で6mmか10mmを選択)、アウトソールの形状(ラグの高さやラバーの硬さ)、ミッドソールのクッションの固さや足幅の広さ、履き口の形(通常のローカットのほか、小石などが入りにくいソックス状の履き口もある)、そして色の組み合わせといったことを決めていきます。さらにはランナーの希望に応じて、シューズには名前などの文字をプリントすることも可能です。

「S/LAB ME:sh」の完成品のサンプル。赤で統一。

「S/LAB ME:sh」の完成品のサンプル。赤で統一。

こちらは黒に近いグレー。履き口がかかとまであるので小石やゴミが入りにくい。

こちらは黒に近いグレー。履き口がかかとまであるので小石やゴミが入りにくい。

同じ「S/LAB ME:sh」の完成品のサンプルだがこちらはブルーで。

同じ「S/LAB ME:sh」の完成品のサンプルだがこちらはブルーで。

シューズの内側の部分に自分で選んだ文字を入れることができる。

シューズの内側の部分に自分で選んだ文字を入れることができる。

プロセスをシンプルにすることでランナーとシューズ作りを密接につなげる

続いて、クープさんは「S/LAB ME:sh」が実際にどのように作られるのか説明してくれました。まずは足型に「Twinskin」という3D製法で作られたソックスのようなものを履かせます。その上にプラスチックでできた「スケルトン」を被せ、ソックスを折り返すようにしてスケルトンに被せる。この状態で熱を加えると「Twinskin」に使われている繊維が熱によって変性して全体を圧着することができます。そこにミッドソールやアウトソールといったパーツを組み合わせていきます。

ニット素材の「Twinskin」は見た目よりも感情でハサミの刃では傷もつかない。

ニット素材の「Twinskin」は見た目よりもずっと丈夫でハサミの刃では傷もつかない。

芯材となるスケルトンは二種類用意されている。

芯材となるスケルトンは二種類用意されている。

アウトソールやミッドソールなどもカスタマイズできる。

アウトソールやミッドソールなどもカスタマイズできる。

ランニングシューズ作りに詳しくないと実感しませんが、実はこの「S/LAB ME:sh」のシューズ作りのプロセスは「2008年にキリアンのためのカスタムシューズを作って以来、試行錯誤を重ねてシューズ作りのプロセスをシンプルにした結果」(クープさん)なのだといいます。通常のランニングシューズでは50個ほどのパーツを組み合わせるのが「S/LAB ME:sh」では12個。通常は180の工程が必要なところが僅か30の工程に。さらに熟練の技術が必要となる工程をシンプルにするために専用のロボットや機械まで開発することになりました。

「S/LAB ME:shユニット」から見える機械はSalomonのエンジニアが開発したもの。シューズ作りのプロセスをロボットがプログラム通りに進めていく。

「S/LAB ME:shユニット」から見える機械はSalomonのエンジニアが開発したもの。シューズ作りの工程をロボットが正確に進めていく。

「S/LAB ME:sh」の「ME:sh」が意味するのは、ランナー一人一人にカスタマイズすることによって「自分」(me)の体の一部であるかのようなフィット感を持ったシューズを提供することと、ランナーとシューズ作りの拠点、そしてサロモンを網の目(mesh)で密接に結びつけること。研究を重ねたシンプルなシューズ作りで後者を実現することで、現在のアジアの工場との間の運送にともなう二酸化炭素排出量を減らし、シューズ作りに伴う資材の廃棄も減らすこともできます。

現在はフランスのみでオーダー可能、将来は世界規模でも展開か

現在、Annecy Design Centerの「S/LAB ME:shユニット」のほか、フランス8ヶ所、ベルギー1ヶ所のシューズショップでオーダーを受け付けているのは、ランナー毎にカスタマイズする「Unique to Me」モデルで、価格は300ユーロ。このほか、オーダーを受け付けているショップと提携してそれぞれの地域のトレイルに適したシューズとしてあらかじめカスタマイズされた「Unique to Our Community」モデルや、キリアンのカスタマイズと同じスペックで作られた二種類の「Kilian Jornet」モデルもあり、これらの価格は200ユーロとなっています。

現在はほぼフランスのみでオーダーを受け付けている「S/LAB ME:sh」ですが、クープさんは「将来は世界各地で、例えば東京にこの工房を設けて東京のランニングショップで受け付けたオーダーは地元で作ってお客様にお届けする、というローカルな仕組みを作ることを目指しています」と話してくれました(注・現時点では「S/LAB ME:sh」の日本での展開は未定です)。

トレイルランニングの世界をリードするSalomonの挑戦は続く

2000年代にSalomonがトレイルランニングのギアに注力するようになるにつれて、このスポーツの人気は高まっていきました。そのSalomonの製品開発の拠点であるAnnecy Design Centerを初めて取材したのですが、ここではラボで高度なテクニックを駆使する職人から、エンジニア、デザイナー、マーケターと幅広い職種の人たちが同じ拠点で誇りを持ってハイパフォーマンスなものづくりを進めていく様子に触れることができました。

S/LAB ME:sh」はそのSalomonのものづくりのもっとも新しいプロジェクトで、これは全てのランナーにカスタムメイドのフィット感を提供するだけでなく、シューズ作りの現場をランナーに近づけるという点で、これまでにない新しい挑戦だといえます。これからもアルプスの近くにあるこの美しい街から、Salomonは世界のトレイルランナーをワクワクさせる何かを生み出していくことでしょう。

早朝のアヌシーの街。アヌシー湖の両岸に切り立つ山に走りに行ってみました。

早朝のアヌシーの街。アヌシー湖の両岸に切り立つ山に走りに行ってみました。

(協力・Salomon