今年のUTMB®︎に参加する方にトレイルランニングとUTMB®︎への想いを聞くインタビュー連載記事・「私とUTMB®︎」の第四回は株式会社ゴキゲンファミリー代表取締役の長榮潔 Kiyoshi Nagaeさんを迎えてお話を聞きました。
「焼き鳥家ゴキゲン鳥」をはじめ渋谷、恵比寿など都内に焼き鳥、焼肉の計5店を構える経営者である長榮さんは昨年、170kmのUTMB®︎を完走。続く今年もUTMB®︎にエントリーしています。7年前に走り始めた時は1kmのジョギングが精一杯だったといいますが、その後は「世界一過酷なレースを完走したい」とウルトラマラソン、トライアスロン、そしてトレイルランニングへと情熱を傾けていきます。一方、過酷なレースへの挑戦を通じて学んだ困難を乗り越える辛抱強さでビジネスを拡大。海外展開をねらうほか、飲食業界ではまだ珍しい残業ゼロの勤務環境を実現しています。
コロンビアのご協賛でお送りした「私とUTMB®︎」は今回が最終回です。
昨年のUTMB®︎で念願の100マイルをついに完走
DogsorCaravan(以下DC):昨年のUTMB®︎で初めて100マイルを完走されました。完走までの道のりは厳しかったですか?
長榮潔さん:2016年にトレイルランニングを始めて、2017年にはCCC®︎(UTMB®︎の姉妹レースで101km)を完走しました。でも100マイルはトレニックワールド100マイルin彩の国に挑戦したものの完走できずにいたので、UTMB®︎で絶対完走しようと思っていました。気合いが入り過ぎたのか、本番では靴ひもでシューズを締めすぎたみたいでクールマイユールを過ぎたあたりから足が痛みだして走れなくなってしまいました。それでシューズを脱いで裸足で走ったりしながらも、38時間53分で完走することができました。
トレイルランニングを始めたのはUTMB®︎を走りたい、と思ったのがきっかけです。世界で一番過酷なレースに挑戦してみたい、と考えてサハラ砂漠マラソン(Marathon des Sables)に出ました。テントに寝起きしながら砂漠の中を必要な装備を背負って7日間走るのは確かに過酷でしたが、思っていたよりあっさり完走できてしまいました。他の選手の人たちとそんな話をしていたら「長榮さん、それならトレイルですよ」、「やっぱりUTMB®︎、一番キツいけど素晴らしいレースですよ」と口を揃えていうんです。
DC:サハラを走ってからUTMB®︎を完走までわずか2年前ほどですよね。
長榮さん: UTMB®︎のことは何も知りませんでしたが、サハラ砂漠のど真ん中で次はUTMB®︎だ、と決心しましたね。帰国すると、まずはエントリーに必要なポイントを貯めようとトレイルランニングの大会に片っ端からエントリー。翌年にはCCC®︎、その勢いで昨年のUTMB®︎完走を果たした、というわけなんです。
100マイルを走る厳しさを思えば、ビジネスでは何でも乗り越えられる
DC:長榮さんの毎日は経営者として多忙だと思いますが、以前からスポーツをなさっていたんですか?
長榮さん:いえ、スポーツの経験は何もありません。少々荒れた学生時代でしたし、飲食業を始めてからもがむしゃらに仕事に打ち込む毎日で会社を大きくすることだけが生きがいでした。息抜きに飲みに出かければ翌朝は二日酔い、というような生活です。
走るようになったのは7年前。31歳で3店目をオープンして毎日大忙しだった頃です。飲食業の経営者にはトライアスロンをやっている人が多くて僕も経営者仲間から誘われましたが、「そんな暇があったら仕事をする」と断っていました。でも自分と同じ年ぐらいの焼き鳥屋さんの社長に「俺だって忙しいけど時間を作ってやってるよ」といわれた時は、なんだか悔しくなりました。
それでジョギングを始めましたが1kmも続けて走れません。悔しくて少しずつだけど必ず毎日走り始めました。1ヶ月経つと3km、翌月は5km走れるように。楽しくなってきて、ハーフマラソン、フルマラソン、そしてトライアスロンのレースにも出るようになりました。気付けば始めてから2年でアイアンマンを完走していました。
DC:トライアスロンを経験されたなら、トレイルランニングは苦もなく取り組めたのではないですか?
長榮さん:トレイルランニングのキツさは僕にとっては衝撃的でした。トライアスロンとは比べ物にならない、と思いました。アイアンマンやサハラ砂漠マラソンはケガさえしなければ必ず完走はできるだろう、と思えますが、トレイルランニングのレースは一つ間違えたら完走できない、というスリルを感じます。たとえ距離は短くても最後まで一生懸命やらないと完走はできない、という厳しさが僕にはピンと来たんです。
DC:トレイルランニングで100マイルを完走した経験はビジネスにも活きていますか?
長榮さん:人間には不可能なことなんてそうそうない、と思うようになりましたね。昨年のUTMB®︎の後、今年のアンドラ・ウルトラトレイルでも100マイルを完走した時も途中で何度ももう止めようと思いました。でもあきらめずに一歩一歩前に進むことで完走できました。こうした経験をすると、仕事で多少失敗があっても動じなくなります。100マイルレースのことを思えば、ビジネスでトラブルがあったって乗り越えられる。あきらめる、という選択肢を考えなくなりました。
DC:長榮さんが次々に過酷なレースに挑戦されているのを社員の皆さんはどんなふうに受け止めていますか?
長榮さん:社長は変態だと思ってるでしょうね(笑)。でも、仕事以外に打ち込めることを持つのが大事だ、というメッセージは社員に伝わっていると思います。会社の仲間とも一緒に走ったりフルマラソンに出たりしているんですよ。外食業界の企業が参加する外食駅伝という大会があるんですが、僕の会社は上場企業と肩を並べて3位になったこともあるんです。アイアンマンに出た社員もいるんですよ。でもこのくらいが限界みたいで、サハラや100マイルに一緒に出ようという社員はまだいません(笑)。
もちろん自分の趣味に社員を付き合わせているわけじゃありませんよ!一方では社員の勤務時間をどうやって短くするか知恵を絞っています。飲食業は勤務時間が長いといわれますが、3年前から残業時間ゼロをキープしています。社内ではそんなの無理だという社員もいましたがやってみればできるんです。100マイルを目指して限界に挑戦した経験がこんなときにも活きてきます。
仕事、家族、そして走ることが三つの柱
DC:するとトレイルランニングは長榮さんにとって生活の大事な一部ですね。
長榮さん:僕の生活の三つの柱は仕事、家族、そして走ること、です。この三つのバランスが取れているとハッピーだと感じられます。
家族については、4人の子どもたちにとって頼れる強い父親でありたい。先週、6歳の息子と富士山に登ってきました。僕が富士登山競走の練習のために富士山に登っているんだと話したら、息子が「僕もてっぺんまで行きたい」というんです。じゃあ一緒に行くかと計画を立てていて、ついに先週行くことができました。幼稚園児が浅間神社から佐藤小屋、そして山頂まで自分の足で登って下りてきたんです。もちろん無理をさせるつもりはなく調子が悪ければすぐに背負って下りるつもりでしたが、息子は最後まで弱音を吐きませんでした。がんばればできるんだ、と経験させることができてうれしかった。
その話に刺激を受けたのか、今度は妻が100kmのウルトラマラソンに出るといい始めました。妻はフルマラソンを歩いて完走したことがある程度なので100kmは大きな挑戦だと思いますが、完走できるまで応援するつもりです。
「世界一過酷なレース」への挑戦を続けていきたい
DC:来週はいよいよUTMB®︎ですが、長榮さんが今回のUTMB®︎、そしてさらにその先に見すえていらっしゃる目標を聞かせてください。
長榮さん:今回のUTMB®︎は35時間以内の完走が目標です。それから、最近また世界一過酷なレースってなんだろうと考えているんです。彩の国100マイルは三年連続でリタイアしているので、僕にとってはかなり過酷なレースですね。来年こそは必ず完走するつもりです。
仕事では、初めての海外進出として来年ロサンゼルスにお店を出すことを計画しています。しばらくは日本にいないことも多くなるし、仕事にもっと時間を割くことになるでしょうからレースに出ることは少なくなるかもしれません。
といいながらも、カリフォルニアにはどんなレースがあるかなと調べたりもしているんです。ウェスタンステイツは憧れのレースだし、バッドウォーターも過酷なレースですよね。仕事は大事ですが、世界で一番過酷なレースに挑戦したいという夢も頭から離れそうにないですね。
長榮潔さんが出場するUTMB®︎は8月30日金曜日午後6時(日本時間31日土曜日午前1時)にスタートします。
(協力:コロンビアスポーツウェアジャパン)