2021年 UTMB®︎ プレビュー #UTMB

この一年半は世界中で多くの大会が中止や延期を余儀なくされました。まだ新型コロナウィルス感染症(COVID-19)以前と全く同じではありませんが、UTMB®︎は「世界のトレイルランニングの最高峰」というキャッチフレーズにふさわしいレースとして開催されます。

COVID-19対策を行なった上で大会はほぼこれまで通りの規模、内容で開催

8月23日月曜日に始まるUTMB®︎ Mont-Blancのクライマックスはやはり距離170km、累積獲得高度10,000mD+のUTMB®︎です。昨年はCOVID-19のために大会は中止となりましたが、今年2021年大会を開催することは早い時期から言明されていました(当サイトのカトリーヌ・ポレッティさんとの2020年10月のインタビュー2021年5月のインタビュー)。結果としてはフランスで大規模イベントがパス・サニテール(衛生パス)の提示を条件に認められるようになったことなどから、コースや参加人数、プライベートサポートなどについてはほぼこれまでと同じ形式で開催されることとなりました。

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とはいえ、例年とは異なる点もいくつかあるようです。まず選手はもちろんボランティアやメディア関係者などが大会会場やエイドに入る場合にはパス・サニテールの提示が必要です。

また、UTMB®︎のスタートはこれまで通りPlace du Triangle de l’Amitiéで変わりませんが、パフォーマンスインデックスにより走力別に三つのグループに分かれてのウェーブスタートとなります。最初にスタートする約150人のエリート選手のウェーブは例年よりも1時間早く、8月27日金曜日の午後5時にスタートします。続いて午後5時30分に二番目のウェーブ、午後6時に三番目のウェーブがスタート。この間、第二ウェーブ、第三ウェーブの選手は約500mほど離れたChamp du Savoy(広い芝生の広場でMini UTMB®︎などのイベントが開催される)でスタートを待つことになります。ここには大型スクリーンも設置されます。なお、レース中の関門締め切り時間は第三ウェーブのスタートする午後6時を起点に設定されていて、各ウェーブについて共通です。スタート直後から約800mの間は選手にマスク着用が求められます。

また、一般の観客の皆さんが応援するエリアは混み合う時間帯はスタート・フィニッシュから少し離れた郵便局前のエリアやパッカール通りとなります。

エイドステーションでは、選手はマスクを着用し手洗いが求められます。補給は選手のセルフサービスではなく、ボランティアスタッフによって行われます。密を避けるためにいくつかのエイドの休憩エリアは拡大されています。

2021年のUTMB®︎のコース概要図

とはいうものの、各国の海外渡航についての規制の事情からか日本を含めたアジア各国からのエントリーは非常に少なくなっています。

UTMB®︎の観戦、応援は今年も公式ライブ配信の日本語チャンネルで

今回のUTMB®︎ Mont-Blancでは8月26日木曜日から29日日曜日の間、OCC、CCC®︎、UTMB®︎のレースの模様がライブストリーミング配信されます。ライブ配信は日本語チャンネルも設けられ、今回も当サイトの岩佐がシャモニーでMCを務めます。スタートからレースの経過速報はもちろん、コース上での各選手の様子、印象的なシーンのプレイバックを日本語でご紹介します。今回も途中でゲストをお迎えするかもしれません。

この記事では8月27日金曜日午後5時(日本時間同日深夜12時)にスタートする大会のメインイベント・170kmのUTMB®︎の有力選手を紹介します。

今回のUTMB®︎ Mont-BlancのレポートはColumbia Montrailのご協力でお送りします。

恒例のDogsorCaravanのUTMB®︎レポートはColumbia Montrailのご協力でお送りします。ウェブサイトの記事のほか、Twitter、Instagramへの投稿、YouTubeへのVlog投稿といった形で今回のUTMB®︎ Mont-Blancの様子をお届けする予定です。

さらに、大会期間中にColumbia MontrailのInstagramアカウントからスペシャルなコンテンツをお届けする企画もあります。

さらにさらに、当サイトをご覧のUTMB®︎ Mont-Blancファンの皆さんに、岩佐からお土産プレゼントという企画も予定しています。詳しくは追って発表しますので、こちらもどうぞお楽しみに!

前回優勝のドウォルター 、今年ウェイスタンステイツ優勝のパスカル、そして丹羽薫に注目の女子のレース

今年6月のWestern Statesの女子のレースは世界各地から有力選手が集まり、大会の歴史に残るハイレベルなレースとなりました。そこで優勝したのはベス・パスカル Beth PASCALL(イギリス)でした。コロナ禍になってからも昨年には母国でBob Graham RoundのFKTを更新。UTMB®︎では2018年に4位、2019年に5位となった経験があります。この勢いでアメリカとヨーロッパの大きなタイトルを同じ年に手にする可能性は高そうです。

一方、前回2019年のUTMB®︎チャンピオンのコートニー・ドウォルター Courtney DAUWALTER(アメリカ)には二連覇の期待がかかります。直近では先月のHardrock 100で胃の不具合でリタイアしていますが、大きなトラブルでなかったなら一年越しでタイトルを守ることになるでしょう。

そのHardrock 100で今年二度目の優勝を勝ち取ったサブリナ・スタンレー Sabrina STANLEYが今年のUTMB®︎にエントリーしています。UTMB®︎は今回が初挑戦ですが、2019年にはレユニオンのDiagonale des Fousで優勝しています。Hardrock 100からの勢いに乗れば、優勝争いに加わる展開も十分にありそう。【追記・サブリナ・スタンレーは今回のUTMBを見送ります。20210820】

UTMB®︎ウォッチャーであれば、2018年と2019年にTDS®︎で優勝したオードレー・タンギー Audrey TANGUY(フランス)の名前はおなじみでしょう。今年はヨーロッパとアメリカのレースに積極的に出ていて、6月のWestern Statesでは6位に。今回初挑戦のUTMB®︎は今年最大の目標に違いありません。

マイテ・マイオラ Maite MAIORA ELIZONDO(スペイン)は2019年のUTMB®︎で3位。これまでのスカイランニングの中距離のクイーンという存在から、ウルトラトレイルでその力を発揮するようになりました。今年は7月のスカイランニング世界選手権(スペイン)の68kmのスカイウルトラでチャンピオンとなっています。

そして日本のウルトラトレイルの第一人者、丹羽薫 Kaori NIWA(日本)も今年のUTMB®︎にエントリーしています。2017年のこの大会で8位となって日本人女性ランナーとして初めて表彰台に立ちましたが、翌年には4位となって注目を集めました。昨年2020年には滋賀一周トレイルのFKTに挑戦するなど、コロナ禍の中でも挑戦を続けようとメッセージを発信し続けています。先月7月にVal d’Aran by UTMB®︎の100マイルのレースで2位となった後、そのままヨーロッパに滞在してUTMB®︎に向けたトレーニングを続けています。今回は表彰台でどこまで頂点に迫れるか、注目が集まります。

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なお、2019年UTMB®︎で11位、2020年HK100で優勝のシャン・フージャオ Fuzhao XIANG(中国)、2019年CCC®︎で20位のシュー・メイリン Meiling XU(中国)はエントリーしていますが、中国からの海外渡航に厳しい制約があることから今回の出場は見送るとみられます。

このほか、注目の女子アスリートは次の通りです。

  • ラグナ・デバッツ Ragna DEBATS(オランダ、スペイン在住):2019年CCC®︎優勝、2021年Western Statesで3位。
  • カミーユ・ブリュイアス Camille BRUYAS(フランス):2019年CCC®︎で3位、2021年Lavaredo Ultra Trailで優勝。
  • ケイティ・シード Katie SCHIDE(アメリカ):2018年CCC®︎で2位、2019年UTMB®︎で6位、2021年Swissalpine Davos K43で優勝。
  • アサラ・ガルシア Azara GARCÍA DE LOS SALMONES(スペイン):2019年OCCで2位、2021年Transgrancanaria優勝、Ultra Sierra Nevada 97km優勝。
  • ブリタニー・ペーターソン Brittany PETERSON(アメリカ):Western Statesで2019年2位、2021年4位。2019年CCC®︎で19位。
  • ヒラリー・アレン Hillary ALLEN(アメリカ):2019年TDS®︎で2位、2020年 Echappee Belle 86kmで優勝。
  • ミンミ・コトカ Mimmi KOTKA(スウェーデン、フランス在住):2016年CCC®︎優勝、2017年TDS®︎優勝、2019年UTMB®︎で20位。2021年Lavaredo Ultra Trail 120kmで3位。
  • マグダレナ・ブーレ Magdalena BOULET(アメリカ):2015年CCC®︎で2位、2016年UTMB®︎で5位、2017年UTMB®︎で19位。2019年Leadville 100で優勝。

ウォルムズレイ、デンヌ、テベナールの3人のレースになるか

男子のレースではジム・ウォルムズレイ Jim WALMSLEY(アメリカ)に注目が集まります。今年、Western Statesで三連覇を果たしたウォルムズレイですが、UTMB®︎では2017年に5位、2018年はDNFでした。走れるアメリカのトレイルに強くても欧州の山岳コースでは敵わない、とみる向きもありますが、その実力を持ってすれば、UTMB®︎でも勝機はあるはず。最初からレースを積極的にリードするジムが、今年は一夜明けてGran Col Feretから元気な姿で駆け降りてくるか、注目したいと思います。

ウォルムズレイがモンブランの前にスピードを落とすなら、優勝を手にするのはUTMB®︎でそれぞれ3回優勝している二人のどちらかでしょう。フランソワ・デンヌ François D’HAENE(フランス)は2012年の100kmに短縮されたUTMB®︎に始まり、2014年にも優勝、そして2017年にはキリアンとの歴史的なレースを制して優勝。その間もレユニオンのDiagonale des FousやUTMF、Hong Kong 100とウルトラトレイルのレースで勝利を重ねてきました。7月にはキリアンの記録を塗り替えて大会新記録で優勝。リカバリーについても計算に入っているなら、4回目のUTMB®︎優勝は堅いといえそう。

グザビエ・テベナール Xavier THEVENARD(フランス)は2013年、2015年、2018年のUTMB®︎で優勝しているのに加え、2010年CCC®︎、2014年TDS®︎、2016年OCCでも優勝しています。直近の2019年はパウ・カペル Pau Capellに次いで2位でUTMB®︎をフィニッシュしています。ただ、最近のFacebookの投稿によれば、昨年夏からライム病、秋には新型コロナに感染と健康面のトラブルと闘っているとのこと。6月のLavaredo Ultra Trailではリタイアしており、今回のUTMB®︎でも無理は禁物かもしれません。

TDS®︎で2018年に3位、2019年に2位のドミトリ・ミチャエフ Dmitry MITYAEV(ロシア)は今年はUTMB®︎にエントリーしています。今シーズンは90km du Mont-Blancで3位となっています。

ヨーロッパのトレイルとの相性がしっくりこないアメリカのアスリートが少なくない中で、ティム・トレフソン Tim TOLLEFSON(アメリカ)は相性が良いようです。2015年のCCC®︎で2位に始まり、UTMB®︎では2016年、2017年にいずれも3位となっています。今年はWestern Statesで5位となっており、スマートな走りが印象的でした。

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2016年にルドビック・ポムレ Ludovic POMMERET(フランス)がUTMB®︎を優勝した時はギャラリーに驚きと賞賛が広がりました。ベテランの世代となったポムレですが、その後も2017年にCCC®︎で2位、2019年にTDS®︎で3位と活躍を続けています。

2018年のUTMB®︎で3位になったジョルディ・ガミト Jordi Gamito(スペイン)は、その後レースでリタイアが続いていました。今シーズンは先月のVal d’Aran by UTMB®︎の100マイルを3位でフィニッシュしています。

香港のウォン・ホーチュン Ho-Chung Wongが2019年のUTMB®︎で6位になったのは、アジアのトレイルランニング界では大きなニュースになりました。最近では2020年のHong Kong 100で4位でした。

そのほか、注目の選手としては2019年TDS®︎ 優勝のパブロ・ビジャ Pablo VILLA GONZÁLEZ(スペイン)は今回がUTMB®︎に初挑戦。2019年UTMB®︎で9位のジェルマン・グランジャー Germain GRANGIER(フランス)、2019年Eiger Ultra-Trail優勝のジャンフィリップ・チュミ Jean-Philippe TSCHUMI(スイス)、今年6月のLavaredo Ultra Trailで優勝したハンス・ナンベルガー Hannes NAMBERGER(ドイツ)が挙げられます。

日本からは小川壮太 Sota OGAWAがエントリーしていますが、参加を見送ります。中国からはチョウ・ジアジュ Jiaju ZHAO、ユン・ヤンチャオ Yanqiao YUN、チー・ミン Min QI、デン・ゴーミン Guomin DENG、ロー・カンファ Canhua LUOと近年のUTMB®︎で活躍するトップ選手がエントリーしていますが、中国からの海外渡航に厳しい制約があることから今回の出場は見送るとみられます。

  • フランコ・コレ Franco COLLE(イタリア):2016年TDS®︎3位、2021年 90km du Mont-Blancで4位。
  • オーレリアン・デュナン・パラス Aurélien DUNAND-PALLAZ(フランス):2021年Transgrancanariaで優勝。
  • レミジオ・フアマン Remigio HUAMÁN QUISPE(ペルー):2019年Transgrancanariaで6位、Ultra Pirineuで2位。
  • カール・ソーマン Carl Johan SÖRMAN(スウェーデン、イタリア在住):2019年UTMFで6位、2021年Transgrancanariaで5位。
  • ジウリオ・オルナティ Giulio ORNATI(イタリア):2019年TDS®︎で11位、2021年 90km du Mont-Blancで7位。
  • グレゴワール・キュルメール Gregoire CURMER(フランス):2019年TDS®︎で5位、2019年Diagonale des Fousで優勝。

なお、今回のUTMBにはリャン・ジン Jing LIANG (中国)がエントリーしていました。リャン・ジンは今年5月の黄河石林100kmで悪天候のため21人がレース中に亡くなる事故で犠牲者の一人となりました。中国のトップ選手の一人で数多くのレースで活躍してきたリャン・ジンは2019年のUTMFで2位となって日本でも注目されました。また2019年にはUTMBにデビューして2度目の挑戦にも期待されていました。リャン・ジンのご家族、ご友人に改めてお悔やみ申し上げるとともに、ご冥福をお祈りいたします。

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