アスリートとしての枠を越えてトレイルランニングの魅力を伝えたい ディラン・ボウマン Dylan Bowman(Goldwinアスリート)インタビュー

世界トップクラスのトレイルランナーが日本発のブランドとのパートナーシップに感じている可能性とは?

2018年のウルトラトレイル・マウントフジ()のチャンピオン、 Dylan Bowman。翌年にUTMBを制することになるパウ・カペル Pau Capellを相手に演じたラスト数キロのダウンヒルでの鮮やかな逆転劇は、大会の歴史に残る名勝負でした。その後も2018年のTDSで2位、2021年のHardrock 100で2位と活躍を続けています。

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そのディラン・ボウマンが今年9月に日本発のブランドであるGoldwinと新たにアスリートサポート契約を結び、そのコラボレーションのために今月来日して各地を訪れました。

かつてUTMFで来日した際のインタビューに始まり、国内外で顔を合わせるたびにディランと近況を伝えあっている筆者が、今回も話を聞くことができました。

近年はアスリートとしてだけでなく、トレイルランニング界のトップ選手としての視点から話題を深く掘っていくポッドキャストでもディランは人気を集めています。ポッドキャスターとしての成功の原動力となっているのは「人生を豊かにするトレイルランニングというスポーツを次の世代に伝えていきたい」という信念。そのディランが今、取り組んでいるのが、トレイルランニングに特化したメディアとして自ら立ち上げた「Freetrail」(フリートレイル)をビジネスとして成功させることだといいます。

アスリートとしてだけでなく、起業家としても日々チャレンジしているというディランとのインタビューは、日本で似た挑戦を続けている筆者にも刺激的なものでした。

【編者より・この記事はインタビューを編集して再構成しています。オリジナルのインタビューの音声をポッドキャスト「Run the World, by DogsorCaravan」で公開しています。】

日本を再び訪れたディラン、ITJに挑戦

インタビューは冬の伊豆で開催される人気のトレイルランニング大会であるIZU TRAIL Journeyの翌日。UTMFに参加した時からこのレースの評判を聞いていて、今回は走るのを楽しみにしていたといいます。

「今回日本を訪れたのはGoldwinのチームと開発中の新しいトレイルランニングのためのプロダクトについて一緒に仕事をするのが目的なんだ。旅の初めにレースでトレイルを走るのは自分へのごほうびだと思って楽しみにしていたんだけどね。」

Photo: © Goldwin

最近は多忙な日々が続いていて、来日前から実は体調がすぐれなかったディラン。

「スタートしてすぐ、今日は調子が悪いな、でも気持ちを切り替えていこうと思った。でも20kmくらい走ったところで、これ以上無理をしてはよくない、落ち着いて来シーズンに備えようという気持ちになったんだ。40km(仁科峠)でリタイアしたんだけど、コースはとても美しかったし、日本のトレイルランニングのコミュニティと交流できたのも嬉しかった。」

リタイアした後は修善寺に一泊し、温泉に二度浸かってしっかり身体を温めたそうです(その後、体調も回復して無事に日本での予定をこなすことができたとのこと)。今回の伊豆での経験について感想を聞いてみました。

「日本に来ると落ち着いた気持ちになれて、大好きな国だよ。でも今までは東京とUTMFが行われる河口湖にしか行ったことがなくて、伊豆に来たのは初めてなんだ。世界各地のビッグレースを経験した僕の目からみて、ITJはコースが魅力的だし運営の質も高いから国際的なトップクラスの大会になる可能性を持っていると思う。プロレベルの有力選手から一般ランナーまで引きつける魅力があるね。」

アスリートとしてだけでなく、トレイルランニングの魅力を伝える起業家として日々学び続ける

今年第一子が誕生して子育てに忙しく、加えてかつて住んでいたサンフランシスコに最近引っ越したばかり。多忙だというディランですが、忙しいのはそれだけではありません。ディランが今、その情熱を傾けているのは自らが立ち上げたトレイルランニング・ファンのためのウェブメディア「Freetrail」をビジネスとして成長させること。

「僕はトレイルランニングについて豊富な知識と情熱を持ち合わせている。それをたくさんの人とシェアするために何かをしたい。トレイルランニングを世界で最も盛んなアウトドアスポーツにしたい。ロードのサイクリングやトライアスロン、スキー、スノーボードといったスポーツを、トレイルランニングは競技人口で上回るポテンシャルがある。トレイルランニングほど手軽に取り組めるアウトドアスポーツは他にはないからね。」

「自分の将来のキャリアの方向性とトレイルランニングの魅力についての直感。二つが重なったのがトレイルランニングのメディアを作る、というアイディアなんだ。」

ディランが最初に始めたのは自らのポッドキャスト番組。ほぼ毎週公開されるエピソードは、トレイルランニングのエリート選手や大会の主催者、スポーツブランドのキーパーソンなど、多彩なゲストのインタビューや、注目のレースのレビューで人気となり、今では約20万人のリスナーを集めています。

「僕はこのスポーツの魅力と自分の情熱を人に伝えたいし、そのための才能を持っていると思う。それで三年前に始めたのがポッドキャストで、これが成長して次第に「Freetrail」のメディア・ビジネスの形になった。ビジネスパートナーとしてプロデューサーのライアン・スローワーが加わってくれたんだ。ライアンのおかげで音声のポッドキャスト番組に加えて、写真や動画といったビジュアルのコンテンツも制作するようになり、今ではFreetrailのウェブサイトに記事も掲載している。メディア以外にもトレイルランニングの大会を開催したり、コーチングの仕事も続けているよ。」

自らメディアを立ち上げることは容易なことではありません。しかしディランはそのプロセスを楽しんでいるといいます。

「Freetrailを通じてトレイルランニングが持つ力を人々に伝えたい。これはとても大変なプロジェクトだよ。僕はまるでウルトラマラソンを走っているような感覚を何週間も何ヶ月間も経験している。でも、この仕事はとても楽しい。Freetrailは僕にとって天命だと思っているんだ。」

「暇を見つけてはスタートアップ・ビジネスやメディア・ビジネスの本、ポッドキャスト、ニュースレターを読みあさっている。ためになるし、読んでいて楽しい。こういう学びはトレイルランニングそのものに取り組むのと同じくらい楽しいよ。トレイルランニングを始めたばかりの時と同じように、もっと上手くなりたい、力をつけたいと思うんだ。」

今のメディアビジネスという形をとるまでに、サービスの名前を変更したり、モバイルアプリからウェブサイトに媒体を移したりと大胆な変更も経験してきました。

「ビジネスで間違えたと思ったらすぐに方向性を変更するし、そのプロセスも包み隠さずリスナーや読者に知らせる。率直にコミュニケーションした方が、僕たちの意図を理解して、さらに共感してもらえると思うからね。」

Goldwinとのパートナーシップでトレイルランニングの魅力を世界に広げたい

ディランが2016年に初めて日本に来たのはThe North FaceのアスリートとしてUTMFに参加するため。今年は新たに日本発のブランドであるGoldwinとアスリート契約を結んでいます。そのきっかけについて聞いてみました。

「アスリートとしての自分のあり方を考えた時に、何か新しいこと、今までとは違うことをやりたいと思った。スポーツブランドとパートナー関係を結ぶなら、ブランドに対してもっと大きなインパクトをもたらすことができるようになりたい。今までだと、パートナーのブランドのためにできることは、アスリートとしてトレーニングする、レースに出る、ソーシャルメディアに投稿する、といったこと。でもパートナーのビジネスともっと深い関係を築きたい。ブランドの戦略や製品開発にもっと関わりたい、と思うようになったんだ。」

ディランは昨年末にSpeedlandというまだ小さなスタートアップのシューズメーカーと提携し、シューズの開発に加わります。この経験に手応えを感じて、アパレルの分野でもこの経験を活かせないかと考えます。その時、思い出したのは日本で出会ったゴールドウインのチームでした。

「7年前に初めて日本を訪れて以来、日本に行くたびに(The North Faceのライセンシーである)ゴールドウインの人たちに接してきた。ゴールドウインの製品づくり、スポーツとの関わり方について知るようになり、信頼感を持つようになったんだ。」

そこでゴールドウインに連絡をとったことで話が進むことになります。

「僕は今後のキャリアの中で何か新しいことに取り組みたい。一方(ゴールドウインのオリジナルブランドである)Goldwinはアメリカ市場でもっと存在感を示したい、と聞いて自分ならきっと役に立てる、と思った。それで、Goldwinのトレイルランニング向けの製品づくりに一緒に取り組んでいるんだ。最初のプロトタイプは昨日のITJで試したけれど、品質、機能ともに素晴らしかったし、今後の大きな可能性を感じた。開発を続けて来年には発売できたら、と期待しているよ。」

「プロアスリートとして長く活動しているけれど、今は新しいことに取り組むことで自分の成長を実感している。知的な意味でとてもワクワクするし、やりがいを感じるんだ。」

Photo: © Goldwin

来年4月のUTMFには選手として再び参加

インタビューの最後では、日本のトレイルランニング・ファンには嬉しい話も聞くことができました。ディランがUTMFに戻ってくるビジョンがあるというのです。

「次に日本に来るのはウルトラトレイル・マウントフジに参加する来年4月になる。きっと来年のUTMFには世界から選手が集まってくる。僕のアスリートとしてのキャリアの中で、UTMFは素晴らしい経験と結果が得られたレースの一つなんだ。また参加できるのを楽しみにしています。」

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