インタビュー・土井陵さんがイタリアの「巨人の旅」で感じたこと – トル・デ・ジアン Tor des Geants を振り返る

イタリア北部、アオスタ州の壮大な山々を舞台に開催されるTORXのメインイベントは330kmのシングルステージの山岳レース「TOR 330 Tor des Geants(トル・デ・ジアン)」です。アオスタ州のロングトレイルから構成されるコースは累積獲得高度が約24,000mD+におよびます。選手は樹林帯、荒々しい岩の上、静かな山の中の池といった自然の美しい場所と、その途中に設けられた6つのライフベースと40以上のエイドをつないで、150時間の制限時間以内で完走を目指します。その冒険は、大会の名前が意味する「巨人の旅」という言葉にふさわしく、2010年の第一回以来、山の旅を愛するランナーたちの憧れの存在であり続けています。

9月8-17日の日程で開催された今年のトル・デ・ジアンには、土井陵 Takashi DOI (THE NORTH FACE)選手が参加。88時間20分44秒でクールマイユールに男子17位でフィニッシュしました。昨年は日本海岸から太平洋岸まで、北・中央・南の日本アルプスを縦断する415kmを走破するトランスジャパンアルプスレースを大会新記録で完走した土井さんに、ヨーロッパの山を駆け抜ける「巨人の旅」について振り返っていただきました。

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(All photos © Kaz Nagayasu)

圧倒的なスケールと、日本のトレイルにはないヨーロッパのトレイルの厳しさ

DogsorCaravan 岩佐: トル・デ・ジアンを完走したばかりの土井陵さんにお話しを伺います。このレースに挑戦したきっかけを教えてください。

土井陵さん: 実は、自分の中での挑戦として、まだ経験していない未知の領域を探求したかったんです。「巨人の旅」というこの大会の名前にひかれましたね。その名の通り、巨人になれるかどうかの試練でした。

DC: トル・デ・ジアンについて、何が印象に残りましたか?

土井さん: 全体にスケールが大きく、すべてが圧倒的でした。印象に残ったことを特に一つ挙げるのは難しいですが、コース上ではすれ違う人みんなが応援の声をかけてくださるし、ライフベースのある町では熱狂的な声援を受けました。この大会に参加する選手たちへのリスペクトというんでしょうか。頑張ること、自分の限界にチャレンジすることへのリスペクトを感じましたね。昨年のトランスジャパンアルプスレースでも同じような雰囲気を感じましたが、トル・デ・ジアンではスケールの大きさや熱気に圧倒されます。

DC: トレイルについてどのように感じましたか?日本のトレイルとの違いはありますか?

土井さん: トル・デ・ジアンのトレイルは足への衝撃が大きくて、特に下りでは足を削られるような気持ちがしましたね。途中からは足の痛みとの闘いで、スタミナを奪われるというか、集中力が途切れてしまうんですよね。

日本なら標高2500mくらいまで樹林帯や柔らかい土に覆われている場所が多いですが、こちらは岩ばかりで固くて時にはガレたところがあります。今回は日本のアルプスで何度も練習しましたが、日本のトレイルの方がよく整備されていて歩きやすいですね。こちらは途中ですごい急なスイッチバックになっていたりして、独特だなと思いました。それに、30kmも下りが続くような場所は日本にはないですよね。

疲労がどんどん積み重なっても、100マイルであればギリギリ押し切れるかもしれないけれど、200マイルも続くというのは全く別次元の感覚でした。

予想外の気持ちの波と向き合う

DC: 88時間といえば3日を超える長い時間です。土井さんは安定して着実にコースを進むというイメージがあるんですが、今回はいかがでしたか。

土井さん: 走っていると調子が良い時も良くない時もあるんですが、自分の気持ちの浮き沈みを小さくしたい。でも今回は、どうしようもなくて気持ちの波は大きかったと思います。

DC: レースの初日から予想外の疲れを感じて仮眠を取ったと聞きました。

土井さん: コース上には6つの大きいライフベースがあって、それを区切りに7つのステージに分けられます。今回は最初のライフベース(約50km)を出てしばらくしてから、「これはちょっと難しいと思う」とサポートの橋爪一郎さんに話したのを覚えています。なんだか全然身体が動かない。仕方がないのでそこで30分くらい仮眠をとりました。こんなに早く仮眠するとは思ってもいませんでした。

睡眠についてはフィニッシュまでに合わせて2時間半くらいとりました。これは大体想定の範囲内です。30分くらい仮眠すれば、また走れるようになります。特にそれが日が昇ってくるタイミングであれば、目が覚醒して眠くなくなります。

でも上手くいかないこともあって、2度目の仮眠はちょうど日付をまたぐ頃でした。起きてまた走り始めたのですが、明け方になるとまたひどく眠くなってしまって。エマージェンシーシートに包まってもう一度仮眠しました。

3回目はライフベースで仮眠しましたが、30分で起きるつもりが一度起こされたのに二度寝してしまって、さらに30分して起こされてやっと起きました。

どうすればこのトル・デ・ジアンを上手く走れるだろうと考え続けた

DC: 足は痛いし、眠いしと辛いレースだったと思います。88時間の間、どんなことを考えながら進んだのでしょうか。景色を楽しむ余裕はありましたか?

土井さん: あまり楽しむ余裕はなかったですね。上手くいかなくて歯痒い思いでした。このトル・デ・ジアンはどうやったら上手く走れるんだろうか、とずっと考えながら走っていました。

結論としては、この大会は今まで自分が経験したレースとは全く別物だと考えるべきだと思いました。コンディションの調整からトレーニングまで、全部変えないといけないと思いましたね。

DC: やはり、今回のトル・デ・ジアンの結果については満足していない、また挑戦したい、ということですか?

土井さん: 今の時点ではまた走るかどうかは考えられないですが、このままではなんかスッキリしないと思っています。上位でフィニッシュした選手に比べて自分の走力が足りないとは感じていません。一方でUTMBで実績のある選手でもトル・デ・ジアンでは苦戦することもあります。なんとかできるんじゃないかな、とは思いますね。

次は真の「巨人」として駆け抜けたい

DC: これからトル・デ・ジアンのような超長距離のトレイルランニングに集中しようという考えはありますか?

土井さん: 自分にとってメインとなるのは100マイルだと考えています。100マイルを軸にして、短いレースも長いレースも両方挑戦していきたいですね。今回の経験は他のレースにも生きてくると感じています。トル・デ・ジアンについては、もしやるなら今回の経験や感覚が失われないうちにまた挑戦したいと思いますね。次こそは、真の「巨人」として駆け抜けたい。

DC: 最後に、DogsorCaravanの読者に向けてのメッセージをお願いします。

土井さん: トレイルランニングは自分自身との対話の場です。どんなレースも、自分の中の未知の部分を発見する旅だと思います。皆さんも自分の「巨人の旅」を見つけて、挑戦してみてください。

トル・デ・ジアンを完走した土井陵さんのインタビューを通じて、どこまでも自分の探究を続け、可能性を信じることが大切だというメッセージを受け取りました。今後も土井陵さんの挑戦と言葉をDogsorCaravanでは伝えていきます。

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