NNormalの使命はパフォーマンスと耐久性に優れた製品を通じて自然を尊重しながら楽しめるようにすること。来日したシト・ルイス・サラスCEOに聞く

「NNormal」(ノーマル)はトレイルランニングのスーパースター、キリアン・ジョルネ Kilian Jornet と スペインのフットウェアメーカーである Camper(カンペール)が立ち上げたアウトドアスポーツブランドです。最初の製品となったトレイルランニングシューズ「Kjerag」(ジェーラグ)は、キリアンが同じ一足で2022年のゼガマ、ハードロック、UTMBで優勝、シエール・ジナルでは4位という結果を出し、そのパフォーマンスを証明しました。

日本でも昨年秋からNNormalの取り扱いが始まり、注目を集めています。今年4月にはNNormalのCEOである、シト・ルイス・サラス Sito Luis Salas さんがスペインから来日し、日本のトレイルランニング市場を視察しました。シトさんはスペイン・カタルーニャ出身でカンペールの上級幹部としてファッションやフットウェア業界で20年以上の経験を持つと同時に、ランニングの愛好家でもあります。今回の来日では自ら神戸トレイルとKAI70kの二つのトレイルランニングレースに相次いで参加したシト・ルイス・サラスさんに、NNormalとトレイルランニングの今後の可能性についてお話を聞きました。

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(写真・Mt. FUJI 100の会場内のブースでお話を聞いた NNormal のCEO、シト・ルイス・サラスさん)

持続可能性と競技での高いパフォーマンスを両立するのがNNormalのポリシー

DogsorCaravan (以下DC):ファッション分野で国際的に知られるフットウェアブランドであるカンペールと、山岳スポーツにおける世界的なトップアスリートであるキリアン・ジョルネが手を組んで始めた NNormal はアウトドア業界でも非常にユニークな存在です。NNormalというブランドが拠り所としている考え方を聞かせてください。

ご存知の通り、NNormalはキリアン・ジョルネと、地中海のマヨルカ島で生まれた家族経営のシューズメーカーであるカンペールが設立したブランドで、目指す方向性もキリアンと話し合う中で決まりました。

まず第一の方向性は持続可能性(サステナビリティ)を重視することで、立ち上げの最初の段階から議論しています。その結果、私たちは長期間にわたって使い続けられるシューズを作ることが持続可能性につながる、と考えます。ワンシーズンに三足のシューズを使う代わりに一足で済ませられるような耐久性の高いシューズを作ろう、というわけです。

二つ目の方向性は競技において高いパフォーマンスを可能にすることです。世界的な山岳ランナーであるキリアンの実力を引き出す、パフォーマンス志向の高いシューズを作る。現在は「Kjerag」(ジェーラグ)と、クッション性を高めて長距離を走るのにも適した「Tomir」(トミール)の二つの製品ラインがあります。これらの製品のようにパフォーマンスと耐久性の二つの方向性を高いレベルで融合することは、他のブランドではあまり実現していません。

「Kjerag」(ジェーラグ、右)と「Tomir」(トミール、左)

「Kjerag」(ジェーラグ、右)と「Tomir」(トミール、左)

さらにカンペールに由来する感性に基づくデザインが三つ目の方向性です。他のアウトドアやランニングのブランドとは異なるデザインを目指しています。

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キリアンが自ら製品のビジョンを提案し、テストする

DC: NNormalの立ち上げにあたっては、キリアン・ジョルネが大きな役割を果たしていると強調されていました。具体的にキリアンはNNormalにおいてどのような役割を担っているのですか?

キリアンはNNormalのビジネスの中で二つの分野に深くコミットしています。一つは製品開発です。キリアン自身が開発する製品についての具体的なビジョン、アイディアを持っています。それを私たちのプロダクト・ディレクターや製品開発担当者に持ち込んで、日々協力することで製品を形にしていきます。もちろん、製品のテストもキリアンが行っています。最終的に製品として市場に投入するまで、彼が持っているビジョンに沿っていることを確認しているのです。

もう一つ、マーケティングにおいても彼は重要な役割を果たしています。持続可能性のようなコンセプトをキャンペーンでどのように伝えるか、アンバサダーのチームをどのように選ぶか、といった決定にキリアンは深く関与しています。彼自身もブランドアンバサダーの一人なのですが、その役割はもっと広く、多くの時間を費やしています。

彼はNNormalの創業者の一人でもありますから、取締役会のメンバーとして会議に参加し、経営に関する大きな決定にも加わっています。

NNormalのファウンダーとしてキリアン・ジョルネは幅広い役割を担っている。 Photo © NNormal

NNormalのファウンダーとしてキリアン・ジョルネは幅広い役割を担っている。 Photo © NNormal

耐久性の高いシューズを広めることでCO2削減に加えて、事業の成長につなげたい

DC: 持続可能性への取り組みをうたうブランドは少なくありませんが、売上の拡大や事業としての成長を求められる新規事業としては、難しい判断を迫られることもあるのではないでしょうか。

非常に重要な質問だと思います。多少時間はかかるでしょうが、耐久性の高いシューズによってCO2排出量の削減を実現することで、私たちの事業は良い内容になる。そして大きな会社に成長する可能性があります。

私たちはこのように考えています。パフォーマンスが高く耐久性のある製品を販売することは、フットウェア業界のカーボンフットプリントを削減するための最善の方法だ、と。

例えばNNormalをローンチした2022年にキリアンは「Kjerag」(ジェーラグ)を履いていますが、ゼガマやハードロック、シエール・ジナル、UTMBといったレース本番用とそれ以外のトレーニング用の合わせて2足しか消費しませんでした。彼によれば、それまでレースとトレーニングで合わせて一年に10足のシューズを履き潰していたそうです。耐久性が高いジェーラグによってシューズの消費量は5分の1に減ったのですから、シューズに関連するCO2排出量もそれだけ減らしたことになります。

しかし、私たちの会社がどれだけ頑張っても小さなままだったら社会への影響は限られます。持続可能な方法で成長を続け、業界や市場に大きな影響を与えることを目指しています。

DC: 今年2月にNNormalから「ジェーラグは完全に摩耗するまで最大1,350kmを走れる耐久性がある」という研究結果が発表されました。消費者からすれば買い替えを控える理由にもなるこういうデータを発信するのは、他のブランドでは聞いたことがありません。

私の知る限り、ランニングシューズの耐久性を具体的に数字で明らかにしたのはNNormalが初めてだと思います。シューズのメーカーにとっては、販売して市場に出回る製品についてそれだけ走っても性能が損なわれないことを保証するようなものですから、簡単なことではありません。

それでもこうした取り組みを通じて、他のブランドにも自社のシューズのCO2消費量を消費者に公開するよう促すことができたらよいと考えています。

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アップデートモデルは大きな改善点があった場合だけ発売する

DC: 今のところ、NNormalのランニングシューズは「Kjerag」(ジェーラグ)と「Tomir」(トミール)の二つで、昨年冬にはミッドソールを交換できるという「Kboix(ケボッシュ)」を開発中であることも発表されました。今後、もっと多様なモデルがNNormalから登場するのでしょうか。

私たちは現在の「Kjerag」と「Tomir」の二つのラインナップでほとんどのレースシーンに対応し、ランナーのニーズをカバーしていると考えています。そしてアップデートモデルは毎年発売するのではなく、重要な改善ができる時だけ発表します。今年春に「Tomir 2.0」を発売しましたが、これはオリジナルモデルへのユーザーのコミュニティからのフィードバックを受けて大幅な改善が加えられた製品です。具体的にはミッドソールの反発性を高めたほか、つま先のトゥガードにもステッチをかけることで耐久性が向上しました。このように大きな改善点があって新製品として発売する理由がある時だけ、アップデートします。

ランナーのフィードバックを受けて改善された「Tomir 2.0」は今年春に発売された。

ランナーのフィードバックを受けて改善された「Tomir 2.0」は今年春に発売された。

「Kboix」はミッドソールを交換可能なシューズという大きなイノベーションに挑戦しています。まずは限定版として発売を予定していますが、シューズの新しい構造やミッドソールを交換することについてランナーがどう感じるかを確認する必要があると考えています。

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トレイルランニングは将来性に満ちている

DC: シトさんはフットウェア業界でキャリアを積み、カンペールの経営幹部を務めるまで成功されていますが、一方でランニングにも熱心に取り組んでいらっしゃると聞きました。キリアンとともにNNormalを率いることになった経緯を聞かせてください。

はい、私は15歳から今までずっとランニングを趣味にしています。最初は陸上競技の選手として走り、その後は市民ランナーとしてロードを走っていました。仲間に誘われて、16年ほど前からはトレイルも走るようになりました。そしてカンペールがキリアンと一緒にブランドを立ち上げることになったことで、彼と出会いました。

NNormalは私にとっては仕事と趣味が一緒になったようなもので、今や情熱を注ぐ対象です。開発中のプロトタイプを自分でテストするのが大好きだし、気づいたことや新しいアイディアが製品に反映されるとうれしいですね。いつもトレイルランニングのことを考えるようになってしまって、自分でも大丈夫かなと思うほどです。

今春発売された Tomir 2.0 を手に取る NNormal のCEO、シト・ルイス・サラスさん。

今春発売された Tomir 2.0 を手に取る NNormal のCEO、シト・ルイス・サラスさん。

DC: シトさんの目からみて、トレイルランニングというスポーツに将来性を感じますか?

もちろん将来性があると思います。私は二つのトレンドを感じています。まず、世界中でアウトドア志向が高まっていて、特にパンデミック以降は、人々はもっと自然の中で過ごしたいという願望を持っていること。

もう一つはトレイルランニングの分野に投資が相次いでいるということ。トレイルランニングはまだニッチなスポーツですが、ヨーロッパでは過去10年で非常に急速に成長しています。アメリカも、そして日本もおそらく同じです。これに気づいた大手スポーツブランドやベンチャー企業がこの3-5年のうちに相次いて投資しています。おそらくあと5年ほどはトレイルランニング業界は急成長を続けるでしょう。

DC: トレイルランニングというスポーツの存在感を高めるために、トレイルランニングコミュニティは何をすべきだと思いますか。

自然環境の中で楽しめて、素晴らしい場所を見つけることができるトレイルランニングは、とても健康的なスポーツです。私の場合はヨーロッパの各地のトレイルでそう実感しました。私は昨年も日本に来て富士山の周辺を走りましたが、同じく素晴らしい経験でした。自然の中で走ることの楽しさをもっと広く知ってもらうのが良いと思います。

レースもまたランナーが友情を育むきっかけになり、コミュニティが生まれます。多くの場合は健康的で前向きなコミュニティですが、レースがあまりにも大きな規模になったり選手のプロ志向が強くなりすぎるとそのような魅力が損なわれるのでは、と危惧もしています。トップクラスのプロ選手も完走が目標の市民ランナーも一緒にレースを楽しむのはトレイルランニングならではのことです。これからも健全なコミュニティが育つよう、願っています。

(協力・NNormal)

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