2025年 Hong Kong 100 プレビュー、グランカナリア・ワールドトレイルメジャーズ開幕戦

日本からも多くのランナーが参加する国際的なトレイルランニングイベントです。

アジアのトレイルランニングの中心地、香港で1月16日木曜日から18日土曜日にかけて「Anta Guanjun Hong Kong 100」(以下、Hong Kong 100)が開催されます。香港の中でも山と海が織りなす美しい景観が保たれている西貢 Sai Kung が各レースのスタートとなり、世界60か国から2800人のランナーが集まります。アジアで最も国際的で、有力選手が集結するコンペティティブなトレイルランニング・イベントの一つです。とりわけ、近年は中国のトップ選手が国際的なレースにデビューしてその才能を知られる機会としても注目されています。

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第15回大会となる今回の Hong Kong 100 は昨年に続いて「グランカナリア・ワールドトレイルメジャーズ Gran Canaria World Trail Majors」のシーズン開幕戦となります。DogsorCaravanでは今年の Hong Kong 100 を現地からレポートします。

この記事では Hong Kong 100 の各レースと、出場予定の有力選手を紹介します。

(All Photo by Anta Guanjun Hong Kong 100)

3つのレースとそれらを連日走破するチャレンジ

昨年と同じく、今年の Hong Kong 100 は距離の異なる3つのレースと一つのチャレンジが4日間にわたって行われます。

The Third(33km, 1,460mD+)
1月16日木曜日の午前8時に、北潭涌 Pak Tam Chung パク・タム・チュン をスタートし、西貢半島のユネスコ世界ジオパークや絶景のビーチを経て、コース終盤に最高地点(標高407m)で360度のパノラマビューが楽しめる大枕蓋 Tai Cham Koi タイ・チャム・コイ を通過してパクタムチュンでフィニッシュする周回コースを走ります。制限時間は10時間。

The Half(56km, 2,010mD+)

1月17日金曜日午前8時スタート。コース前半は「The Third」と同じく美しいビーチエリアに続いて、牛耳石山 Ngau Yee Shek Shan ニョウイーシーシャンへの大きな登りを経て、再び海下 Hoi Ha ホイハー の海沿いのトレイルを走ります。北潭涌 パクタムチュン をスタート・フィニッシュとするループコースとなります。ワールドトレイルメジャーズ World Trail Majors に新たに設けられる「ショートシリーズ」の開幕戦です。

Hong Kong 100(103km, 5,300m)

1月18日土曜日午前8時に北潭涌 パクタムチュン をスタートするこの大会のメインイベントです。他の二つのレースと同じく世界ジオパークをコースはたどり、中盤からは香港のロングトレイル、マクレホーズ・トレイルをたどって、香港の高層ビルが立ち並ぶ街並みを見下ろしながら西へと進みます。最後は香港の最高峰となる大帽山 Tai Mo Shan タイモーシャン(957m)を登って、ロータリークラブパークのフィニッシュゲートを目指します。制限時間30時間で完走率は例年70~80%程度というチャレンジングなこのレースはワールドトレイルメジャーズ World Trail Majors の12のシリーズ戦の開幕戦です。

The Grand Sam(3ステージ合計192km)

木曜日から土曜日まで毎朝スタートする「The Third」、「The Half」、「Hong Kong 100」の三つを続けて走破するステージレース形式のチャレンジです。2020年にHong Kong 100に続いてThe Halfが大会に加わった時に両方を完走し、2023年にThe Thirdが加わると三つを完走した香港のランナー、サム・タン Sam Tam さんにちなんで、この名が付けられています。今回は190名のランナーが3レースの完走を目指します。

103kmの Hong Kong 100 には中国のトップ選手が集結

トレイルランニング人気の高い香港でもHong Kong 100は世界中からランナーが集まるひときわ国際的なイベントです。近年は中国本土の有力なトレイルランナーが国際的な大会へのデビュー戦として選ぶことも増えています。アジアのトレイルランニングの今後を展望する上でも、今回のHong Kong 100の有力選手リストは重要な情報です。

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103kmのHong Kong 100の女子のレースには昨年のチャンピオンであるチェン・リン Lin CHEN 陈霖 (CHN) 、2位のイ・イン Ying LI 李颖 (CHN) 、3位のウー・ユアンユアン Yuanyuan WU 武源媛 (CHN) が今年のレースに戻ってきます。チェン・リンは昨年のHK100での優勝ののちにUTMBで4位に。その後もTrans Jeju by UTMB 100k優勝、Chiang Mai by UTMB 100マイルで準優勝とブレイクした一年となりました。昨年のHK100でチェンに55分差で2位だったイ・インは昨年10月のUltra Trail Ninghai by UTMB 105kで7位。ウー・ユアンユアンはHK100では2023年のHK100で7位、Grand Samで総合2位で女子優勝。昨年は7月のVal d’Aran by UTMB 112kで4位でした。

2023年、2024年のCCCで4位となってその名を世界に知らしめたベトナムのハウ・ハー・ティ Hau HA THI (VNM) が今年のHK100に参戦します。最近では韓国でのアジアパシフィック選手権(APTRC)・ロングで銀メダルを獲得しています。2022年CCCの2位でこちらも世界に知られるスンマヤ・ブッダ Sunmaya Budha (NEP) は昨年はTransvulcania 73kでの3位、SwissPeaks 44kでの優勝と欧州で好成績を残したのちに、秋には Ninghai by UTMB 60k、Tsaigu Trail 105kと中国のビッグレースを相次いで制しています。

2023年のHK100で準優勝のイ・アンナ Anna LI 李安娜 (CHN) もこの大会での成功を機に活躍している選手です。昨年は4月のMt. Yun by UTMB 100k、7月のUltra-Trail Chongli 100マイルで優勝、秋にもUltra-Trail Ninghai by UTMB 105kで2位、Tsaigu Trail 105kで3位と好調です。Ninghai by UTMB 105kでイ・アンナに続いて3位だったチー・リンジエ Lingjie CHI 迟令杰 (CHN) は今回がHK100に初挑戦となります。

日本からは昨年のMt. FUJI 100で2位、信越五岳100マイル優勝の清宮由香里 Yukari SEIMIYA (JPN) が参戦します。昨年秋のAPTRC選手権に続く海外レースでどんな走りを見せるか、注目が集まります。

地元香港からは2023年のHK100チャンピオンで昨年のAPTRC選手権・ロング7位のチャン・マンイー Man Yee CHEUNG 張敏怡 (HKG)や、2020年HK100の準優勝で最近では11月のTransLantau by UTMB 50kで優勝のベロニカ・レン Veronika Leng (SVK) がエントリーしています。

さらに注目選手のリストは次のように続きます。

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Hong Kong 100の男子は2024年大会優勝のモン・グァンフー Guangfu MENG 蒙光富 (CHN) 、2020年に大会新記録となる10時間0分17秒で優勝、2023年にも2度目の優勝を果たしたユウ・ペイチャン Peiquan YOU 游培泉 (CHN) 、2019年優勝のシェン・ジアシェン Jiasheng SHEN 申加升 (CHN) 、2018年優勝のチー・ミン Min QI 祁敏 (CHN) 、2015年優勝のヤン・ロンフェイ Longfei Yan 闫龙飞 (CHN) と、優勝経験者が揃います。

モン・グァンフーは2024年にSwiss Canyon Trail 115kで4位。中国国内のレースではChongli 100kmやUltra-Trail Ninghai 105kをはじめ多くのレースで優勝。Tsaigu Trail 50kでは上田瑠偉とのレースに敗れたものの僅差で2位でした。ユウ・ペイチャンは昨年のHK100でも2位となっており、このレースとの相性は良さそうです。昨年秋はUltra-Trail Ninghai 105kで7位、Tsaigu Trail 105kで7位でした。シェン・ジアシェンは2023年のシーズンにウェスタンステイツで4位、CCCで準優勝という成績を残して世界にその名を轟かせました。昨シーズンもTransgrancanaria 127kで5位、ウェスタンステイツで8位となっています。チー・ミンは7年ぶりのHK100を走ります。昨年秋には韓国でのAPTRC選手権・ロングで初代チャンピオンとなったのが記憶に新しいところです。ヤン・ロンフェイはHK100優勝の翌年の2016年に2位でした。昨年は春のChengdu Trail 50kで4位になっています。

2024年のHK100男子優勝のモン・グァンフー Guangfu MENG 蒙光富

2024年のHK100男子優勝のモン・グァンフー Guangfu MENG 蒙光富

中国勢の有力選手では、昨年のMt. FUJI 100 100マイルで優勝のデン・グオミン Guomin DENG 邓国敏、準優勝のチン・グイドゥ Guidu QIN 覃桂都にも注目です。デン・グオミンは昨年はウェスタンステイツで14位ののち、Ninghai by UTMB 105kで8位。HK100は2016年から毎年参加していて、2020年とコロナ禍後に再開された2023年に3位、昨年は5位と好成績を残しています。チン・グイドゥは昨年秋のNinghai by UTMB 105kで3位、Tsaigu Trail 105kで2位と有力選手が揃うレースで結果を残しており、勢いに乗っています。昨年のHK100で4位でした。

中国以外からは昨年のTransgrancanaria 127kのチャンピオン、ラウル・ブタチ Raul Butaci (ROU)や昨年のTransgrancanariaで3位ののち、Transvulcania 73kで5位、Swiss Canyon Trail K111で5位、11月のNinghai by UTMB 105kで5位のイオネル・マノレ Ionel Cristian MANOLE (ROU) が参戦。さらに2017年のHK100で準優勝の経験を持ち、2023年TransLantau by UTMB 100Kで2位、昨年のSnowdonia by UTMB 100Kで優勝のダニエル・ユング Daniel JUNG (ITA) も8年ぶりにHK100のスタートラインに立ちます。

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昨年秋のAPTRC選手権・ロングのチャンピオン、ジョン・レイ・オニファ John Ray “Stingray” ONIFA (PHI)は12月の TNF 100 Hong Kong 100kmでも快勝しており、勢いに乗りますHK100では昨年9位で今年はさらに上位を目指します。日本からはHK100には2016年の7位を含め4度出場している大瀬和文 Kazufumi OSEがエントリー。地元香港からはUTMBで2019年6位、2021年10位のウォン・ホーチュン Ho-Chung WONG 黃浩聰が注目を集めます。昨年はMt. FUJI 100で8位の他、TransLantau by UTMB 100kで準優勝でした。HK100でも2020年の4位をはじめ5度完走の記録を残しています。

この他にも中国からはHK100の有力選手として次の選手がエントリーしています。

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56kmのHalfでは日本の有力選手に期待

金曜日開催の「Half」はHong Kong 100のコースの前半と多くが重なります。

女子のレースには日本から吉住友里 Yuri YOSHIZUMI髙村貴子 Takako TAKAMURAがエントリーしています。吉住は昨年、KAI70kや奥信濃100-100k、富士登山競走、ハセツネCUPを制した他、APTRC選手権・ロングでは銅メダルを獲得。11月には香港のTransLantau by UTMB 50Kで準優勝しています。髙村は昨シーズンは4月のKobe Trailで9位、Marathon du Mont-Blancで18位などゴールデントレイルワールドシリーズに参戦し、秋にはAPTRC選手権・ショートで金メダルを獲得、Chiang Mai by UTMB 50kでは3位に入っています。日本のトップ選手による優勝争いに期待が高まります。

日本の両選手が活躍したAPTRC選手権でショートの銀メダリストとなったプライヤ・ライ Priya RAI (NEP) も今回のHalf 56kmに参戦します。ライはChiang Mai by UTMB 50kでは5位でした。加えて、中国からは昨年秋にNinghai by UTMB 59kで4位ののち、Tsaigu Trail 50kでヤオ・ミャオに続いて2位と善戦したチャン・ティン Ting ZHANG 张廷や、Ninghai by UTMB 59kで5位、Tsaigu Trail 50kで3位といずれもチャン・ティンに続いたチャン・ナー Na ZHANG 张娜、10月のTransJeju by UTMB 50Kで2位ののち Ninghai by UTMB 59kmで3位となったシュウ・ルイファン Ruifang ZHOU 周瑞芳の活躍が期待されます。

男子のレースでも中国勢と日本勢がレース展開をリードすることになりそうです。中国からは2023年のHK100の4位、ロ・サンファ Canhua LUO 罗灿华 が今回はHalfを走ります。昨年は7月のChongli Ultra Trail 100マイルで2位、12月のChiangMai by UTMB 100マイル優勝など100マイルレースで好成績を残しています。2023年OCCで4位となっているグアン・ヨウシェン Youshen GUAN 管油胜は昨年11月のTransLantau by UTMB 50kで3位を経て、今回のHalfに参戦します。さらに昨年10月のNinghai by UTMB 59k準優勝のヤン・ジェンジェン Jianjian YANG 杨健健、10月のTransJeju by UTMB 50k優勝のチャン・シェン Sheng ZHANG 张胜が優勝候補に名を連ねます。

日本から参加の選手たちもこうした中国の選手たちとともにレースをリードする展開が見込まれます。昨年、ハセツネCUPで2度目の優勝を勝ち取った吉野大和 Yamato YOSHINOは香港で初めてのレースとなります。小笠原光研 Koken OGASAWARAは昨シーズン後半にスペインでのスカイランニング世界選手権・スカイウルトラで4位、ハセツネCUPで3位、APTRC選手権ショートで銀メダルののち、ITJ70kで優勝と好成績を連発しました。さらにスペインでのスカイランニング世界選手権・スカイウルトラで銅メダルのほかスカイランナー・ワールドシリーズで活躍する小田切将真 Shoma OTAGIRIもHalfを走ります。昨年10月のAPTRC選手権ロングで2位となった甲斐大貴 Hiroki KAIも今回のHalfでの走りが注目されます。甲斐は2023年の香港のLantau 50で行われたスカイランニングアジア選手権スカイウルトラの金メダリストとなった経験を持ちます。

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この他、男子のレースでは2024年 Tenerife Bluetrail by UTMB 23k優勝のエドアルド・ヘルナンデス Eduard HERNANDEZ (ESP)、2024年Zugspitz Ultratrail 106kで3位のマルセル・ヘーヒェ Marcel HOECHE (GER) 、2024年Tsaigu Trail 50Kで6位のシーイエ・ヤオドゥ Yuedu SHIYE 史叶约堵 (CHN) にも注目です。

ララムリのランナー、視覚障がいのランナーも今回のHong Kong 100に参加

メキシコ・ララムリ族のランナー、マリア・ロレーナ・ラミレス・エルナンデス Maria Lorena Ramírez Hernandez が今回のHong Kong 100に初めて参加することも今回の大会の話題の一つとなっています。伝統的な衣装と「ワラーチ huaraches」を履いて走る姿が印象的な彼女は、世界的各地のウルトラマラソンで優勝を重ねるアスリートです。今回は兄のホセ・マリオ José Mario Ramirez Hernández、同郷のミルナ・ベアトリス・デ・ラ・クルス・アルバレス Mirna Beatriz de la Cruz Alvarez もそれぞれ56kmのHalf、33kmのThirdのカテゴリーに参加します。

ララムリのランナー、マリア・ロレーナ・ラミレス・エルナンデス Maria Lorena Ramírez Hernandez

ララムリのランナー、マリア・ロレーナ・ラミレス・エルナンデス Maria Lorena Ramírez Hernandez

さらに視覚障がいを持つランナー、リョーラン・クラーク・ツイ Rhollan Clark Tsui が再び103kmのHong Kong 100に挑戦することも話題となっています。仲間の伴奏ランナーとともに、2020年に続いて2度目の完走に挑みます。

三日間で三つのレースの完走を目指す「Grand Sam」の注目選手

合計192kmを3日間で走る「The Grand Sam」の女性ではフランスのクレール・バンワース Claire Bannwarth や、昨年の覇者であるシェ・ウェンフェイ Wenfei XIE 謝文菲 (CHN)、そして昨年3位のジェン・ジュンユエ Junyue ZHENG 郑钧月 (CHN)、が挑戦します。

男性選手は一昨年の第一回優勝、そして昨年2位のリャン・ディースー Disi LIANG 梁迪斯 (CHN) やフランスの「カスケット・ヴェルト Casquette Verte」ことアレクサンドル・ブ-シェ Alexandre Boucheixや数百キロのスーパーウルトラレースの第一人者であるルカ・パピ Luca Papi (ITA) が顔をそろえます。

土曜日のHong Kong 100はライブ配信も

今回の大会の模様は大会公式SNSアカウントから随時情報が発信されます。また、1月18日土曜日の103kmのHong Kong 100についてはスタート直前の午前7時45分(日本時間午前8時45分)からコース上の映像とともにライブ配信が予定されています。

DogsorCaravanでは今年の Hong Kong 100 を現地で取材し、大会の模様や話題をレポートします。

 

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