日本のトレイルランニング界、特にロングディスタンスのカテゴリーで豊富な経験と実績を持つ川崎雄哉 Yuya KAWASAKI選手に今年2025年の大会を前にお話を聞きました。
2023年のUTMFでは、優勝したチョウ・ジアジュ選手に迫る走りを見せて準優勝を果たし、多くのファンを魅了しました。今年の大会でもその活躍に大きな注目が集まっています。レースを直前に控えた川崎選手に、現在のコンディションやレースへの意気込み、そして今後の展望について伺いました。
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万全のコンディションで臨む、昨年の教訓と怪我からの完全復活
昨年2024年のMt. FUJI 100は、レース前のテーパリング期間中に体調を崩し、結果として本番ではDNFという結果になった経験があるという川崎選手。今年はそれを教訓に、しっかりと調整を行い、万全の状態でスタートラインに立つことを目指しています。トレーニングは順調に進んでおり、東京マラソンでも良い結果を残すなど、手応えを感じています。
2023年11月の香港でのレース(TransLantau by UTMB)で転倒して負った手首のケガは昨年10月にプレートを除去して完治したとのこと。昨年のMt. FUJI 100ではプレートが入ったまま、マラソンの練習を経て臨むことになりました。そのことによる影響は少なくなかったに違いありません。今年はそうした不安要素は解消されています。昨年秋のアジア太平洋選手権(APTRC)の際に痛めた脇腹もすでに完治しており、マラソンシーズンを経て、体はトレイル仕様へと移行できている、と笑顔で話してくれました。ケガの不安なく、昨年よりもよい状態でレースに臨めるという川崎さんは今回のFUJI100miの男子のレースを引っ張る存在となりそうです。
得意距離は「周りが言うなら」、100マイルへの特別な思い
川崎選手といえば、ハセツネCUPでの2度の優勝や、5度にわたる世界選手権や昨年のアジア太平洋選手権のロングディスタンス(50km〜80km程度)で日本代表としての活躍が印象的です。周囲からはその距離帯が「スイートスポット」ではないかと言われることも多いようですが、自身では特に得意・不得意を意識しているわけではないと語ります。
「その時々に出たいレースに出ている感じです」と自然体を強調する川崎選手ですが、100マイルレース、特にMt. FUJIには特別な思い入れがあるようです。「100マイルはやはり体の負担が大きいので、年に1本と決めています。そして、まずこの富士で勝ちたいという思いがあります」。ショートディスタンスから100マイルまで、様々な距離に挑戦したいという気持ちを持ちつつ、Mt. FUJIでの勝利を大きな目標としています。
戦略は「自然体」、2023年の激走再びなるか
今回のレース戦略について尋ねると、「特に作戦ということはない」と川崎さんは答えてくれました。「とにかく一番いい状態でスタートラインに立って、今のパフォーマンスを最大限発揮できるように準備するだけです」。タイムテーブルは作成するものの、それにこだわりすぎず、自身の感覚を大切にして走るスタイルだといいます。
2023年のレースでは、先行するチョウ・ジアジュ選手を最後まで諦めずに追い続け、後半に差を詰める走りを見せました。その時のことを振り返り、「(応援の方から)差を教えてもらったりもしましたが、その差が正確かは分からない。自分の中では最後まで走りきれるペースを保ちながら、気持ちだけは諦めないで走っていました。ひたすら追い続ける走りで、結果的にあの差で2位だった」と語ります。今回も、相手がいるレース展開の中で、自分の体と相談しながら、最後まで諦めない走りを見せたいと考えています。
40歳、若手への影響力と自身の挑戦心
今年40歳を迎えた川崎選手に年齢について思うところも聞きました。体力の衰えなどは特に感じておらず、「むしろ昨年よりもはるかに練習量を増やしていますが、疲労具合も変わらないですし、怪我なくこなせています」と、年齢を感じさせないコンディションを維持しています。
トレイルランニング界ではベテランの域に入り、若手選手と一緒にトレーニングする機会も増え、頼られる存在になりつつあります。10年前に自身が先輩たちの姿に憧れたように、「そういった存在になってきているのかなっていう面では嬉しさもあります」と語る一方で、「まだまだ現役として、若手の強い選手に挑戦していきたい」という強い気持ちも持っています。職場の駅伝チームでも、自身の背中を見て後輩たちが成長してくれれば、と胸の内を話してくれました。
故郷への恩返し、上五島トレイルが目指す未来
川崎選手は、故郷である長崎県・新上五島町で「上五島トレイル」というトレイルランニングレースの実行委員も務めています。今年で3回目の開催を終え、来年の日程も決定。今後は10年継続を目標に、新体制で大会をさらに盛り上げていく計画です。
「ありがたいことにリピーターも新規の方もたくさん来てくれます。大会を通して、自分の故郷・五島列島の良さをもっと発信していきたい。『人生一度は五島列島に来てほしい』という思いがあるので、トレイルランニングの大会をきっかけに来ていただけたら嬉しいです」と、故郷への熱い思いを語ってくれました。アスリートとしてだけでなく、地域貢献という形でも活躍の場を広げています。
今季の挑戦は続く、世界選手権への意欲と異例のダブルヘッダーも?
Mt. FUJI 100miは今シーズンの最大の目標ですが、川崎選手の挑戦はまだまだ続きます。レース後のプランとしては、「Kaga Spa Trail Endurance 100 by UTMB」への出場も視野に入れています。しかし、そのレースのわずか2日前には、職場の陸上競技会で3000mのトラックレースを走るとのこと。「無謀かもしれないですけど、トラックの3000mを走って、2日後に加賀の100kmを走ろうかなと。誰もしないようなチャレンジも面白いんじゃないかと思っています」と、驚きのプランも明かしてくれました。
その後は、チームの最大目標である富士登山駅伝に集中し、さらに9月にスペインで開催される世界マウンテン&トレイルランニング選手権も視野に入れています。過去5回、日本代表として世界選手権を経験している川崎さんは「もし選ばれたら、また挑戦したい。もしかしたら最後になるかもしれないので、納得いく結果を残したいです」と、日の丸を背負うことへの意欲も示しました。
家族の応援を力に
2023年のMt. FUJIの際には、生まれたばかりのお子さんの存在が大きな力になったと語っていた川崎選手。お子さんも2歳になり、「多分、お父さんが走っていることは分かっていると思います。できれば、いい形で一緒にゴールしたいですね」と笑顔を見せます。家族の応援も、川崎選手の大きなモチベーションとなっているようです。
自然体でありながら、常に高みを目指し挑戦を続ける川崎雄哉選手。Mt. FUJI 100miでの活躍、そして今後の更なる飛躍に期待が高まります。















