先週公開した「ファーストインプレッション編」では、Insta360からお借りして最新アクションカメラ「GO Ultra」と今年春に発売された360度カメラ「X5」のスペックや特徴を、トレイルランナーの視点から考察した。それ以来、合間を見つけてこの二つのカメラを持ち出してさまざまな動画を撮っています。
今回はその続編として、筆者にとってホームグラウンドともいえる三浦アルプス(神奈川県)に2台のカメラを持ち込み、走りながら、そして時には手足を使いながら、それぞれのカメラがトレイルランナーの現実にどう応えるのかを試す、ハンズオンレビューをお送りします。
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それぞれのカメラの個性を一言で表現すれば、GO Ultraの「体験する没入感」と、X5の「創造する客観性」。それぞれの魅力は、緑豊かな植生が広がり、絶え間ないアップダウンの中に時々テクニカルなセクションがあるトレイルがランナーを飽きさせない三浦アルプスでの経験をどのように映すのか。トレイルランニングファンにとって、どちらが使える相棒といえるのでしょうか。
Insta360 GO UltraとX5、そして活用するためのアクセサリーを持って三浦アルプスへ
今回は横須賀市の田浦梅林から葉山町の二子山へと至る、約5kmの三浦アルプスのトレイル。当日は曇り空で光は穏やか、気温も高すぎず、トレイルランニングにはいいコンディションです。適度なアップダウンとテクニカルなセクションが混在するこのコースは、カメラの手ブレ補正やマウントの安定性を試すのに良さそうです。
GO Ultraは一見、普通のアクションカメラのように見えながら、カメラ本体を取り出してマグネットでマウントできるというユニークなカメラです。この日のレビューでは次のアクセサリーを使ってマウントしてみます。
- マグネット式簡易クリップ(標準キットに付属)
- GO Ultra簡易クリップヘッドバンド(別売)
- 磁気ペンダント(標準キットに付属)
360度カメラのX5はカメラに一直線に接続できる自撮り棒を使って「消える自撮り棒」の効果を試します。今回は、重さ365g、最縮長36cmとコンパクトながら最長3mまで伸ばせる「強化版超長い自撮り棒」を使います。
GO Ultra はトレイルとの一体感を記録する究極のPOVカメラ
GO Ultraの最大のメリットは、カメラ本体を取り出して身体にマウントすることにより、ハンズフリーでPOV(一人称視点)映像が撮れることです。今回は3種類のマウントを試し、トレイルランでの使い勝手を試しました。
最初に試したのはマグネット式簡易クリップを使ってキャップのツバ先に装着する、最も手軽なスタイル。これはキャップをかぶっているだけなのでそれほど装着の違和感もなく、手軽に試すことができます。ただ、今回試したキャップはツバが硬くて長めだったせいか、走り込むと細かな振動がコツコツと伝わってくるような揺れを感じました。映像自体はFlowState補正で滑らかになりますが、視点が細かく振動する感覚は残ります。後日別のキャップで試してみるとよりフィット感を感じたので、GO Ultraをマウントするのに最適なキャップを探してみる余地はあるように思います。バランスのいいキャップを見つけられれば、長時間のトレイルランニングでも快適にGO Ultraを身につけていられそうです。
次はGo Ultra 簡易クリップヘッドバンドです。これは伸縮性のあるゴムバンドに先に紹介したマグネット式簡易クリップを装着するというもので、バンドの裏側にはシリコンラバーの滑り止めがあり、バンド自体はベルクロで固定します。これは揺れ感がほとんどなく、ランニングはもちろんもっと激しい動作でもフィット感がキープできると思いました。ただ、それでもトレイルランニングの下りを飛び跳ねながら駆け下りた場面では撮れた映像に多少のブレがありました(ここまで激しいアクションを捉えるなら、カメラ本体がより小さいInsta360 Go 3sを選択肢にすべきかもしれません)。あと、長時間装着していると頭の締め付けがちょっと気になります。
最後は磁気ペンダントを試します。首から下げたペンダントをシャツの内側に入れ、磁力でシャツの外側にカメラを固定します。頭への締め付けがないのはいいのですが、ランニングの場合は首周りの素肌にベンダントの布テープが触れるのがあまり快適ではありません。撮れた動画も上下の揺れだけでなく、左右の揺れも目立つ感じに。ウォーキングやハイキングのように歩くペースでのアクティビティや、日常生活や旅行のVlog撮影には一番の選択肢になりそうです。
今回のトレイルランニングのコースの中盤、三浦アルプスの東側から尾根に登るところに、木の根を掴んでよじ登るような急登が現れました。ここではPOV撮影に強いGO Ultraが威力を発揮します。ヘッドバンドにマウントしたGO Ultraのカメラ本体が、手足を使って身体を安全に支えながら滑りやすい急斜面を登る自分の目の前の光景を記録していました。後から映像を見返すと、その時の様子が鮮明に蘇ります。例えばコースの試走の記録として、「このセクションは三点支持が必要」といった具体的な攻略法を、口頭の説明だけでなく実際の目線映像で共有できる。これにより、言葉だけでは伝わりにくいコースの難易度や注意点が、より直感的に伝わるはずです。
トレイルランナーが「見たまま」を記録する上で、GO Ultraは画期的な体験をさせてくれました。
X5 は走りの体験を一つの作品に昇華させる360度カメラ
GO Ultraを試しながらも、X5でも撮影します。最長3mになる「超長い自撮り棒」ですが、太さはあるものの36cmまで短くなるので、ベスト型のバックパックのチェストポケットにもなんとか収まります。
とはいえ、眺めのいいところや気持ちよく走れそうなシングルトラックで撮影を始めようとすれば、X5のケースを外して、自撮り棒に取り付けるという一手間はあります。
幸い、X5には『手首を2回ひねる』ジェスチャーで録画を開始・停止できるクイックキャプチャー機能があり、これを見つけてからは撮影のストレスが激減しました。しかし、シングルトラックでは足元に注意しながら、張り出した木の枝にカメラをぶつけないか常に気になります。見晴らしの良い展望台からの撮影でも、カメラや自撮り棒が周囲の人の邪魔にならないか気を配る必要があります。
しかし、そうした周囲への目配りの煩わしさを補って余りあるのが、「構図を全く考えずに撮影できる」という開放感、気楽さです。自撮り棒を高く掲げる時も、短めにした自撮り棒を持って走る時も、一度もカメラの向きを気にしなくても撮影できているという安心感があります。
周囲の安全に気を配るほかは、目の前に広がる美しい自然や、一歩先のトレイルの様子に集中していれば、X5は全方位の光景を静かに記録し続けてくれます。写真でも動画でもまず大事なのは構図という常識を破ってくれるのがX5です。
このX5が映像撮影にもたらす可能性を試行錯誤しながら探るのは楽しい経験です。今回の三浦アルプスでは私もいくつかの撮影を試してみました。
まずは3mの超長い自撮り棒を活用してドローン風の空撮ショットに挑戦です。山頂の展望台に立ち、自撮り棒を空高く掲げ、上下、左右にゆっくりと動かすだけです。後から映像を確認すると、あっと驚く光景が広がっていた。自分の見慣れた目線ではなく。まるで上空を旋回する鷹や鳶の視点から、三浦半島のパノノラマを背景に手を振る自分たちを捉えた、空撮映像そのものが撮れました。
次は伴走カメラマンの視点でランニング仲間の姿を撮影します。仲間の前後、左右を走り、X5を二人の間にただ差し出しておけば、手ブレが少ない360度動画が撮影できました。後から画角を変えれば、走る仲間の後ろ姿、横顔、二人で並んで走るところ、とさまざまな角度の動画を切り出すことができるのです。まるで透明なランニングカメラマンが自分たちの隣で、二人が走る心のうちまで撮影しておいてくれたように感じました。
思いつきで試して印象的な場面が撮れたのが、追い越しシーンのストーリーテリングです。X5と自撮り棒を持ちながら前を走る仲間の背後に迫り、並び、そして追い抜きます。この間、画面は仲間のランナーを捉え続けます。普通のカメラなら、ランナーとの位置関係が変わるのに合わせて、レンズの向きを変えて、最後は背後に向けたカメラを持って走る、という熟練の技が必要になります。しかしX5なら、ただ持って走るだけ。驚くべきは編集作業です。アプリで追い越す仲間を一度タップして『AI追跡』を選ぶだけで、カメラが自動的にその仲間をフレームの中心に捉え続けてくれるのです。あの複雑なカメラワークが、数タップで完成してしまいました。
結論:GO Ultraで「体験する没入感」、X5で「創造する客観性」
三浦アルプスのトレイルでGO Ultra、X5を試して見えてきたのは、トレイルランナーが「何を記録したいか」という問いに対して、異なる哲学で応える二つの選択肢です。
Insta360 GO Ultra はランナー自身の「記憶を追体験」するためのツール
GO Ultraの最大の魅力は、なんといっても圧倒的な「手軽さ」にあります。ヘッドバンドやキャップに装着してしまえば、その存在を忘れて走りに集中できる。このストレスフリーな感覚により、ランナー自身の「見たまま」を忠実に記録することができるのです。後から映像を見返した時に蘇るのは、美しい風景だけではありません。急登を登る荒い息づかいや、ふと振り返ったときに視界に広がる青空、木の根を避ける自分の足の運びまで、トレイルランニングの「体験」そのものを記録してくれるのです。
一方で、カメラ本体のみではバッテリー持続時間は70分と短めであること、その充電や撮影した動画の確認、撮影モードの変更に必要なポッド部分の防水性は高くないことは気を付ける必要があります。しかし、それを補って余りある「体験の再現性」は、GO Ultraを唯一無二の存在にしています。
- こんなあなたにおすすめ!
- レースやトレーニングで「自分が見た風景」「感じた息遣い」を、後から何度でも追体験したい。
- 撮影のために走るリズムを乱されたくない、あくまでランニングに集中したい。
- Vlogのように、飾らない日々のランニング体験を気軽に記録として残したい。
Insta360 X5:ランニング体験を「見せる作品」に昇華させるツール
これに対して、X5は「表現の自由度」において他の追随を許さないアドバンテージがあります。自撮り棒が必要であり、それをしっかり支えておく必要がありますが、撮りたいものに向けてX5をかざしたら、あとは構図を考える必要はありません。360度という無限のキャンバスに記録された映像を手に入れて、後からドローン風の空撮や、仲間と並走するカメラマン視点など、プロが撮ったかのような映像を自在に創造できるのです。
もちろん、外にむき出しのレンズを傷つけないように、そして自撮り棒につけたカメラを何かにぶつけないように注意が必要です。編集にも少し慣れが必要でしょう。しかし、自分と仲間、そして壮大な自然が一体となったダイナミックな映像は、グループランの楽しさを何倍にも増幅させてくれるだろう。「こんな映像が撮れたんだ!」という驚きと発見を、X5はもたらしてくれます。
- こんなあなたにおすすめ!
- トレイルの壮大な風景と、その中を走る自分の姿を一つの物語として、作品として残したい。
- 仲間とのグループランの楽しさや一体感を、全員が主役になれるダイナミックな映像でシェアしたい。
- YouTubeなどで、他の人が「どうやって撮ったの?」と驚くような、ユニークでクリエイティブな映像を発信したい。
ハンズオンレビューを終えて
今回のハンズオン・レビューを通じて、GO UltraとX5のそれぞれの個性、同じ撮影でも異なるアプローチを結果を目指すカメラだということがわかりました。
GO Ultraはランナー自身の「記憶を追体験」させてくれる最高のパーソナルカメラ。 X5はランニング体験を「見せる映像」へと昇華させてくれる最高のクリエイティブツール、だといえます。
暑い夏が過ぎ、トレイルランニングが最も楽しい季節がやってきました。レースや日々の冒険の思い出を、ただの記憶としてだけでなく、鮮やかな記録として残したい。Insta360の二つのカメラは、そんな我々の願いをそれぞれのユニークな方法で叶えてくれる道具となるでしょう。
















