2026年のWorld Trail Majors(ワールドトレイルメジャーズ)がついに幕を開けました。
3年目を迎えるこのシリーズの初戦、Anta Guanjun Hong Kong 100(HK100)は、今年もアジア、アメリカ、ヨーロッパから有力選手が集結し、香港の西貢(サイクン)半島を舞台に熱戦が繰り広げられました。大都市のすぐそばにありながら、手つかずの自然と急峻な地形が同居するこの独特なレースは、私たちにトレイルランニングの「競技性」と「精神性」の両面を鮮烈に見せつけてくれました。
Sponsored link
コース変更による高速化、地元アジア勢の圧倒的なスピード、そして昨年の上位入賞者たちが再び顔を揃えた女子レースでの感動的なフィナーレ。2026年シーズンの行方を占う重要な開幕戦の模様を振り返ります。
(写真はHK100男子優勝のチン・グイドゥ。All Photo © World Trail Majors/Hong Kong 100)
自然の猛威とコース短縮がもたらした「超高速レース」
今年のHK100を語る上で避けて通れないのが、コースコンディションの変化です。昨年夏、熱帯低気圧「Wipha」が香港を含む東南アジア地域に甚大な被害をもたらしました。1884年の統計開始以来最大とも言われる降雨量は、HK100のコースの一部にも土砂崩れなどの爪痕を残しました。
その影響で、今回のルートは一部変更を余儀なくされました。ウルトラディスタンス(93km)、ハーフ(50km)共に距離が短縮され、累積獲得標高も減少しました。しかし、これはレースの易化を意味しませんでした。むしろ、ランナーたちは「記録的な高速レースになる」と予測し、スタートから猛烈なペースで飛び出すことになったのです。
男子93km:チン・グイドゥーが雪辱の優勝、レジェンドたちも健闘
朝7時、気温12度という絶好のコンディションの中、3,000人以上のランナーがスタートを切りました。序盤からハイペースな展開となり、32km地点ではダコタ・ジョーンズ Dakota JONES (USA) ら国際的な実力者たちが、中国の有力選手たちと共に大きな先頭集団を形成していました。
レース後半、抜け出したのはチン・グイドゥー 覃桂郁 QIN Guidu (CHN) でした。昨年の準優勝者である彼は、その悔しさを晴らすかのような快走を見せ、8時間52分36秒でフィニッシュ。見事に頂点に立ち、シリーズ最初の1500ポイントを獲得しました。

チン・グイドゥー 覃桂郁 QIN Guidu (CHN)
一方、大会三連覇の偉業に挑んだモン・グアンフー 蒙光富 MENG Guangfu (CHN) は、トップから約6分差の8時間58分50秒でフィニッシュ。惜しくも王座防衛はなりませんでしたが、堂々の準優勝でその強さを証明しました。 3位にはデン・グオミン 邓国敏 DENG Guomin (CHN) が9時間09分48秒で入りました。彼もまた昨年に続くトップ3入りを果たしており、中国勢の層の厚さと安定感を世界に見せつける結果となりました。

モン・グアンフー 蒙光富 MENG Guangfu (CHN)
トップ3以外にも、世界の実力者たちが意地を見せました。 アメリカのダコタ・ジョーンズは、終盤まで表彰台圏内に迫る粘りで4位。フィリピンのジョン・レイ・オニファ John Ray ONIFA (PHL) は5位。 そして6位には、ヤン・ロンフェイ 闫龙飞 YAN Longfei (CHN) が入りました。2015年の優勝者であり2016年準優勝の実績を持つレジェンドは、32km地点では先頭集団に食らいつき、その後も安定したペースを刻んでトップ10を死守。長年にわたりトップレベルを維持するベテランの強さを見せつけました。
女子93km:昨年の2位と3位が選んだ「共有された勝利」
女子レースは、昨年の上位入賞者たちが再び激突する、まさに因縁の対決となりました。

ハウ・ハ Hau HA (VNM)
レースの大部分を支配したのは、ベトナムのハウ・ハ Hau HA (VNM) でした。彼女は昨年の3位から順位を上げるべく、最初のチェックポイントから他を圧倒するペースで飛ばし、一時は後続に10分以上の大差をつけていました。 しかし後半、猛烈な追い上げを見せたのが、昨年2位のヴェロニカ・レング Veronika LENG (SVK) でした。スロバキア出身で香港在住の彼女は、70km地点から驚異的なペースアップを見せ、残り9kmでついにハを捕らえます。
昨年の2位と3位、優勝を渇望していたはずの二人が並んだ時、選んだのは決着をつけることではなく、互いの健闘を称え合うことでした。

勝利を分け合ったハウ・ハ Hau HA (VNM)とヴェロニカ・レング Veronika LENG (SVK)
「後半のために体力を温存していました。調子が良かったので、前を行く女子選手を追いかけようと走り続け、ついに彼女(ハウ・ハ)に追いつきました。お互いに会えたことがとても嬉しくて、そのまま一緒に下って、1位を分かち合ってフィニッシュすることにしたんです。」(ヴェロニカ・レング)
結果、10時間43分35秒で二人は手を取り合って同着優勝。昨年の2位と3位が、今年は仲良く表彰台の頂点を分け合うことになりました。
3位には、トップから9分差でチー・リンジェ 迟凌洁 Lingjie CHI (CHN) が入りました。彼女は昨年の5位から大きく順位を上げ、念願のトップ3入りを果たしました。
また、後続もハイレベルな争いとなりました。 4位には、2024年の準優勝者であるリー・イン 李颖 Ying LI (CHN) が入りました。実績ある彼女が表彰台を逃すほどの激戦でしたが、しっかりと上位をキープしました。 5位のジャン・ウェンリー 蒋汶利 Wenli JIANG (CHN) に続き、6位にはイギリスのカトリーナ・ハムリン Katrina HAMLIN (GBR) が食い込みました。 さらに、地元香港のスターであり2023年の優勝者であるチャン・マン・イー Man Yee CHEUNG (HKG) は12時間06分05秒で9位フィニッシュ。かつての女王や準優勝経験者が中位グループとなるほど、今大会の女子フィールドの層の厚さは際立っていました。
The Half:ショートシリーズの激闘、吉住友里の猛追
昨年に続き、World Trail Majorsの「ショートシリーズ」として開催された「The Half」(50km)もまた、息つく暇もない高速バトルとなりました。
このカテゴリーには、日本からも実力者が参戦しました。男子では上田 瑠偉 Rui UEDA (JPN) が、女子では吉住 友里 Yuri YOSHIZUMI (JPN) がスタートラインに立ちました。
2024年の同大会で4位という成績を残している上田瑠偉は、さらなる高みを目指してスタートラインに立ちました。 レースはスタートから猛烈なペースで始まり、2つのダムとビーチを越えた19km地点ですでにサバイバルの様相を呈していました。男子先頭集団にはシー・グオ 施果 SHI Guo (CHN)、シー・アイアイ 施爱爱 SHI Aiai (CHN)、スウェーデンのアントン・グスタフソン Anton GUSTAFSSON (SWE)、そしてワン・ルチン 王汝琴 WANG Ruqin (CHN) らが名を連ねていました。

上田瑠偉は30km過ぎでリタイヤを選ぶことに。
上田も序盤は好位置につけていましたが、勝負の分かれ目となった32km地点、香港特有の階段が続く強力な登りセクション付近で、残念ながらレースを去る(ドロップ)結果となりました。
女子レースでは、昨年の同種目「The Half」で準優勝(2位)を果たしている吉住 友里 Yuri YOSHIZUMI (JPN) が、再び表彰台を目指しました。しかし、ロードのスピードに実績のある海外勢が飛ばす序盤、8位と出遅れる苦しい展開となります。
彼女の真骨頂はそこからでした。最後のチェックポイントを過ぎてから、驚異的な粘りと気迫で前を行くランナーを次々と捉えます。なんとそこから4人を抜き去り、一気に順位を上げてフィニッシュラインへ飛び込みました。

最終盤に一気に先行する選手を抜き、4位に浮上した吉住友里。
最終的に男子はワン・ルチンが3時間56分14秒で逃げ切り優勝。アントン・グスタフソンが粘りの走りで2位に入りました。 女子はファン・シュエメイ 黄雪梅 HUANG Xuemei (CHN) が4時間48分12秒で圧勝しましたが、吉住友里は5時間05分46秒の4位。2年連続の表彰台こそ逃しましたが、後半に見せた怒涛の追い上げは、アジアの強豪が集まる高速レースの中で強烈なインパクトを残しました。

Halfの男子トップ10

Halfの女子トップ10
シリーズはアリゾナへ
香港の摩天楼と荒々しい自然の中で幕を開けた2026年のWorld Trail Majors。アジア勢の圧倒的なスピードと、女子レースで見られたスポーツマンシップは、今シーズンの充実を予感させるものでした。
シリーズは休む間もなく、次の舞台へと移ります。2月14日・15日には、アメリカ・アリゾナ州で「Black Canyon Ultras presented by Hoka」が開催されます。Western Statesへの切符(ゴールデンチケット)も懸かったこのレースは、香港とは全く異なる砂漠の高速トレイルです。
リザルト
100KM – 女子
- ヴェロニカ・レング Veronika LENG (SVK) 10:43:35
- ハウ・ハ Hau HA (VNM) 10:43:35
- チー・リンジェ 迟凌洁 Lingjie CHI (CHN) 10:52:22
- リー・イン 李颖 Ying LI (CHN) 11:28:04
- ジャン・ウェンリー 蒋汶利 Wenli JIANG (CHN) 11:29:46
- カトリーナ・ハムリン Katrina HAMLIN (GBR) 11:51:50
- ワン・リーピン 王利萍 Liping WANG (CHN) 12:00:31
- エリザベス・ダンガダン Elizabeth DANGADANG (PHI) 12:05:12
- チャン・マン・イー Man Yee CHEUNG (HKG) 12:06:05
- マー・チュンユエ 马春月 Chunyue MA (CHN) 12:34:04
100KM – 男子
- チン・グイドゥー 覃桂郁 QIN Guidu (CHN) 08:52:36
- モン・グアンフー 蒙光富 MENG Guangfu (CHN) 08:58:50
- デン・グオミン 邓国敏 DENG Guomin (CHN) 09:09:48
- ダコタ・ジョーンズ Dakota JONES (USA) 09:15:49
- ジョン・レイ・オニファ John Ray ONIFA (PHL) 09:50:52
- ヤン・ロンフェイ 闫龙飞 YAN Longfei (CHN) 09:59:08
- アレクサンドル・ネイリンク Alexandre NEYRINCK (BEL) 10:01:31
- フェルディナン・エロー Ferdinand AIRAULT (FRA) 10:06:53
- バイ・フイ 柏辉 BAI Hui (CHN) 10:11:15
- ホー・フージュン 何富军 HE Fujun (CHN) 10:11:41
The Half 50KM – 女子
- ファン・シュエメイ 黄雪梅 HUANG Xuemei (CHN) 04:48:12
- ヤン・ヤン 杨艳 YANG Yan (CHN) 04:48:56
- エステル・シラグ Eszter CSILLAG (HUN) 04:51:17
- 吉住 友里 Yuri YOSHIZUMI (JPN) 05:05:46
- ハエル・モラレス・オセゲラ Jael MORALES OSEGUERA (MEX) 05:05:54
- ヴァンジャ・クノップス Vanja CNOPS (BEL) 05:12:36
- ルオ・チォン 罗琼 LUO Qiong (CHN) 05:13:51
- ニルマラ・ライ Nirmala RAI (NPL) 05:16:17
- ワン・アイリー 王爱丽 WANG Aili (CHN) 05:30:02
- カルパナ・ブダ Kalpana BUDHA (NPL) 05:34:43
- デン・ロンファ 邓荣华 DENG Ronghua (CHN) 05:40:50
The Half 50KM – 男子
- ワン・ルチン 王汝琴 WANG Ruqin (CHN) 03:56:14
- アントン・グスタフソン Anton GUSTAFSSON (SWE) 03:58:05
- シー・グオ 施果 SHI Guo (CHN) 03:58:32
- チャン・シェン 张胜 ZHANG Sheng (CHN) 04:00:56
- ルーク・グレンフェル・ショー Luke GRENFELL-SHAW (GBR) 04:05:04
- シー・アイアイ 施爱爱 SHI Aiai (CHN) 04:11:53
- リー・シンジン 李兴静 LI Xinjing (CHN) 04:14:05
- ロムニック・トンカリング Romnick TONGKALING (PHL) 04:17:21
- ロー・ロクイン 羅樂賢 LO Lok Yin (HKG) 04:22:50
- チャン・ジェンロン 张振龙 ZHANG Zhenlong (CHN) 04:25:25
- ション・ジェンチァン 熊正强 XIONG Zhengqiang (CHN) 04:26:03
(source: World Trail Majors)













