Ultra-Trail Mt. Fujiまであと2週間となり、当方のTwitterやFacebookのタイムラインも関連の話題で賑やかだ。
一方、公式ブログでは次のような記事も。
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RD鏑木さんによる注意喚起。
マラソン大会ではないです | BLOG|ULTRA-TRAIL Mt.FUJI
村越先生による、コース終盤の難関、天子山塊についての具体的なアドバイス。
鍵は天子に・・・ | BLOG|ULTRA-TRAIL Mt.FUJI
連休前半に試走されたランナーやハイカーの方からの情報のまとめ。個人的にはちょっと首を傾げるような話もあるが、ランナーとしては周りからどのように見られているかを考えることは大事だ。
試走のご報告いただきましてありがとうございます。 | BLOG|ULTRA-TRAIL Mt.FUJI
このビッグイベントを他のトレイルランニングのレースと同じように考えてはいけない、特に天子山塊は要注意、という話なのだが、具体的に何が危険でどのような準備をしておけばいいのだろうか。当方のささやかな経験とランナー仲間の皆様との話から考えた3つのポイントをまとめてみる。
(1)コース中の危険箇所:コースアウトしないこととしたら冷静にコースに戻ることが重要
コースの中ではA8・西富士中学校(UTMF/KM102、STY/KM28)から始まる天子山塊の縦走に崩落箇所、やせ尾根などがあり特に要注意だといわれている。詳細は村越先生のブログ記事にあるとおり。
ただ当方も試走したがこれらは北アルプスの核心部の岩場、鎖場の連続などとは違い、通過すること自体には特にスキルや経験は要しない。周囲をよく観察して足を踏み外さなければむやみに恐れる必要はないと思う。夜間は通常昼間以上に周囲を慎重に観察するので、なおさら危険は小さいだろう。危険があるとすれば、STYで足が残っている状態でタイムトライアルを仕掛けて無謀な加速をしかける場合だろうか。
天子山塊についてより注意すべきなのは、コースを外れることと外れた後のリカバリーに失敗することではないかと思う。天子山塊の長者ヶ岳~地蔵峠の稜線、毛無山から端足峠の下りは踏み跡が不明瞭な箇所が少なくない。レース当日には入念なコース表示やロープなどでの危険箇所の指示がなされているだろうが、これらを見落としたり、思い込みでコース外の分岐に踏み込んだり、コースを間違えた先行ランナーについて行ってしまうことは十分考えられる。
すると、大体とんでもない傾斜を勢い余って降りてしまい、登り返す辛さを避けてさらに下ってしまい、とても安全に下れない岩場や崖に行き当たって滑落、あるいはそこで登り返そうとしてもとても登り返せそうにない荒れた急斜面を降りてきたことに気付いて進退窮まる、という展開があり得る。
このような危険を避けるには、自分がコース上のどの辺りにいるか把握し、コース表示を常に確認し、万一コースを外れたら直ぐに深入りせず直ぐに来た道を引き返す、ということが必要だろう。コース上の位置の把握といっても地形図とコンパスというようなことでなくとも、コース地図で自分がどこにいるのかを前後の山の名前から推測するだけでも十分だろう。スマートフォンの地図アプリも使えるかもしれない。
(2)糖分、水分、電解質の補給計画:十分に検討、試行し、DNF/棄権の可能性も常に計算に入れる
レース全体にいえるが、特に天使山塊を経由するA8・西富士中学校からA9・本栖湖スポーツセンターまでの27キロ・2700mD+はトップクラスのランナーでも4時間はかかる。UTMFに関してこれほど長くエイドがない区間がレース後半にあるというのは、コースの設定に苦渋の判断があったことが伺える。A8から先に進む際、当日は入念な意思確認がされるという話もある。UTMFの選手については、54キロ地点・須走での関門時刻の設定(スタートから12時間)がやや厳しめで、結果として走力、体力に不安のあるランナーは振るい落とされるのでは、という話もある。一方STYは比較的走れる下り基調の林道28キロを経てA8に到着し、ほとんどのランナーは意気揚々と先に進むだろう。
当方のささやかな経験からみて、12時間以上、100キロを超えるようなレースでは補給が非常に重要になってくる。ハンガーノック、脱水は確実にパフォーマンスを落とし、長く続けば命にかかわる。レース序盤から確実に補給を行い、補給に用いる携行食やドリンクなどには試して慣れておく必要がある。よく、胃がやられて何も身体が受け付けなくなったという話しを聞くが、よく聞いてみると補給のタイミングに問題がある場合がほとんどのように思える。またジェルやパワーバーのようなエナジーバーは身体が受け付けないのであまり取らない、という話しも聞くが、それでうまく行くのはレースがさほど長くない(12時間、100キロを越えない)ので大きなトラブルになる前にフィニッシュしてしまうからだと思う。
水分については個人差や当日の気候の差が大きいが、エイドで毎回ハイドレーションバッグやボトルに補給する。ボトルについてはバックパックにフィットして固定できるものを使い、安易に市販のペットボトル入り飲料で代用しない。電解質は粉末または錠剤型のスポーツドリンクを携行する。糖質については、レース開始2時間後くらいから45分から1時間ごとにジェル一つ(100-120kcal)を取る。別に味わう必要はないので、口いっぱいにジェルを広げなくても舌に載せたらそのまま丸呑みすればよい。摂ったらすぐに水分を少し摂る。そのために、エイド出発時に次のエイドまでに必要となるジェルはバックパックを下ろさなくても取り出せるようにポケットなどに移しておく。またジェルなどを摂るタイミングを見失いがちなので、エイドが近づいてきたら到着までにジェル一個を摂ると決めておくのも手。
無論、ジェルにこだわる必要はなく、おにぎりでも菓子パンでもバームクーヘンでも必要な糖質が摂れればなんでもいいのだが、24時間以上も行動し続け、その間に必要な補給の量を考えればジェルが携行には最も効率的で、おにぎりや菓子パンというのはいささか「ぜいたく」な行動食だといえる。もちろん、糖質の種類の問題もあり、ジェルに含まれる糖質が運動時に適しているという利点もある。とはいえ、ずっと同じジェルを摂り続けるのは次第に苦痛になるので、ブランドやフレーバーを複数用意したり、固形のバーやグミ、少しだけ好きなお菓子を組み合わせれば些か気分が紛れる。ただし、当日までに一度は試しておくことが必須だろう。
もし、家族や仲間にサポートを頼めるなら、補給用のフラスクにジェルなどの補給食を預けておき、サポート箇所で空き容器と交換すればベスト。ジェルを少し水で薄めて置いたり、ベスパとのカクテルにしておいたり、ハチミツベースのオーガニック補給食を用意したりと選択肢が広がる。
UTMFでもエイドでは様々な補給食が提供されるが、これを当てにして携行する補給食を絞るのはお勧めしない。エイドではジェルが取り放題というわけではないし、バナナやチョコレート、各種フルーツは悪くないがそれだけで次のエイドまで補給できるほど毎回食べられるとは思えない。焼きそばのようなご当地メニューは楽しみだが、それだけで腹を満たせるほど取れるとは限らない(大体人気のメニューほど供給不足になり、最後尾のランナーがやってくるまでに食べ尽くされてしまうのが常だ)。エイドで提供される補給食はジェルに飽きた舌をリフレッシュするためのもの、と考えておくのが無難だろう。
万一、ハンガーノックや脱水になったらどうするか。空腹を感じたのに補給をしないと次第に体が軽く、頭がふらついてくる。十分な水分が摂れない状態が続くと頭が朦朧とし、鳥肌が立ってくる。この状態でも、パフォーマンスを落とせばまだ2ー3時間は行動できる。すぐに走るのはやめて歩きに切り替える。そして次の行動を考える。2ー3時間歩けば次のエイドに到着するなら焦らず歩く。それができなければどこで安全に棄権/DNFできるかを考える。天子山塊については、まだ公式なエスケープポイントは発表されていないが、ルートの安全さを考えると猪之頭峠で朝霧側に下りるか、地蔵峠で下部温泉側に下りるか、あるいはA8・西富士中学校に引き返すか。残る2ー3時間でどの選択肢が選べるかを判断する。
完走や目標時間内のフィニッシュに執着して、パフォーマンスを落とさず、ぶっ倒れること覚悟で突っ込むことは自殺行為、いや前後のランナーや大会関係の皆様に迷惑をかけるだけなので、厳に慎みたい。
ちなみに当方の経験では、ハンガーノックも脱水も早めに気付いてパフォーマンスを落としてなんとかエイドまでつなぐことができれば、エイドで補給後30分もすれば元のパフォーマンスが戻ってくる。大きなロスだが、安易に諦めることなく冷静に判断すればレースは続けられる。
(3)防寒対策:レース規定になくても長袖シャツ、グローブは用意したい
レース当日の天候次第ではあるが、5月中旬とはいえ、風が強かったりして、山岳パートや夜間、荒天時は気温はぐっと下がって摂氏10度以下になることは考えられる。トラブルで立ち止まる時間が長くなれば辛さは増す。Tシャツではかなり辛いだろう。
レース規則にある必携品には「レインウェア(山岳の悪天候に対応できる防水性を備えたもの)」(当方の聞くところではこれば上着だけではなく足に履くパンツも必携とのこと)、「 足首丈のランニングパンツ(長ズボン)、あるいは膝の隠れる丈のレギンスやタイツ」が挙げられている。
当方としては、ここに次の二つを加えることを提案したい。
・長袖のシャツ。UTMBでは昨年から必携品に加えられているが、上半身の防寒には薄手の長袖のシャツをレインウェアと組み合わせるのが最も効率的だろう。ダウンジャケットやフリースジャケットを持つ前にまず長袖の身体にタイトにフィットするシャツを用意したい。UTMBでは180g以上のものを持つこととされているが、UTMFではコンディションがよければもう少し薄いもの、例えばPatagoniaのCapline2くらいのものでもよいかもしれない。
・グローブ。手指の冷え対策にも、天子山塊の急な登り降りで手を安全確保に使うためにもグローブがあると有効。薄手のもので十分機能するだろう。
以上、当方の限られた経験と見聞から、当方自身が安全確保のためにやろうと思っていることをまとめてみた。もし、この記事をご覧の方で何かアイディアやご意見をお知らせいただければ歓迎します。本番まであと少し、準備して安全にこのビッグイベントを楽しみたい。
昨日のOSJ湘南クラブハウスでの鏑木さんによるUTMF対策セミナー最終回にて、写真はそうけんさんより。