[DC] ミニマルだが意外と収容力あり、ボトル派には有力な選択肢・Ultimate Direction / AK Race Vest

今年から来年のトレイルランニング・ウルトラマラソンで使うギアのトレンドに「バックパックのシンプル化」、「ボトルの見直し」が挙げられる。そんなトレンドにズバリとはまるのが、アメリカで今月発売されたばかりのUltimate DirectionのSignature Seriesのバックパックだ。当サイトでも発売前にその概要をお伝えしたが、日本での販売開始に先駆けてこのバックパックについて実際に使ってみた印象をレポートします。

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2010年秋にSalomonのランニング用バックパック、Advanced Skin(通称キリアンザック)が登場して以来、胸、腰でバックパックをしっかりハーネスで固定するスタイルから、腰で固定しないベスト型のバックパックが流行している。肩と胸をぴったりと覆うフィット感で揺れを感じにくい、荷物が背中の高い位置で固定できて腰への負担を感じにくい、左右の肩のハーネスについたポケットを活用するとレース中のバックパックのつけ外しを減らせる、などのメリットがある。

一方、これまでドリンクを持ち運ぶのは背中に入れたハイドレーションバッグを使うのが常識だったところに、ボトルを活用することが見直されている。レース中のドリンクの補給が容易で、残量もわかりやすい。ある程度このスポーツに慣れてくると、持ち運ぶべきドリンクの量を見極めることができボトルでも十分だと考えるランナーが多くなった。さらにアメリカやヨーロッパからボトルを積極的に活用できるギアが紹介されるようになったことも大きいだろう。

そうした中で登場したのが、Ultimate Directionの新シリーズ、シグナチャーシリーズ。アスリートの名前を冠したサイズや用途の異なる3タイプのバックパックが発売された。ここではまず、Anton Krupickaの名前を冠した“AK Race Vest”を紹介したい。非常に軽量、シンプルな構造だが必携品が少なめでエイドでの補給が期待できるウルトラディスタンス(50k以上)のレースにぴったりだ。例えば経験あるランナーで来年3月開催のIzu Trail Journeyを走る人にお勧めしたい。

Ultimate Direction Anton Krupicka Race Vest | Hydration Vest

スペック

まず、このシグナチャーシリーズの3つのバックパックのスペックを比較。AK Race Vest(以下、AKR)に限らず、シグナチャーシリーズはSalomonの通称キリアンザックやUltrAspireと比べて背面長がやや短いことがわかる。この差は着用した時に背中の荷物が高い位置に来る感覚につながる。荷物の重心が上にくることを好むランナーには好ましい特徴だろう。また、小柄でバックパックの背面長が長すぎることに悩む女性ランナーにも好ましいかもしれない。

AK Race Vest

容量:4.5L

重さ:173g(ボトル2本込みで330g)

背面:30cm x 23 cm

サイズ:SM・胸囲58-89cm、ML・胸囲79-104cm

SJ Ultra Vest

    1. 容量:9.2L

 

    1. 重さ:215g(ボトル2本込みで392g)

 

    1. 背面:30cm x 23 cm x 6cm

 

    1. サイズ:S・胸囲63-84cm、M・胸囲79-94cm、L・胸囲91-112cm

 

PB Adventure Vest

    1. 容量:12L

 

    1. 重さ:337g(ボトル2本込みで507g)

 

    1. 背面:30cm x 23 cm x 11cm

 

    1. サイズ:SM・胸囲58-84cm、ML・胸囲84-104cm

 

参考にAK Race Vestに近いバックパックは次の通り。
Salomon / Advanced Skin S-LAB 5 Set

    1. 容量:5L

 

    1. 重さ:390g(ハイドレーションバッグ込み)

 

    1. 背面:37cm x 20 cm x 6cm

 

Salomon / Advanced Skin S-LAB 12 Set

    1. 容量:12L

 

    1. 重さ:570g(ハイドレーションバッグ込み)

 

    1. 背面:42cm x 22 cm x 18cm
これも読む
逆境を乗り越える心のスイッチを押す・鏑木毅がトレイルランニングから学んだこと【2023年新春インタビュー】

 

UltAspire / Spry

    1. 容量:NA

 

    1. 重さ:171g

 

    1. 背面:32cm x 19 cm(実測)

 

UltAspire / Surge

    1. 容量:NA

 

    1. 重さ:304g(ハイドレーションバッグ込み)

 

    1. 背面:33cm x 24 cm(実測)

 

UltAspire / Omega

    1. 容量:8.2L

 

    1. 重さ:337g(ハイドレーションバッグ込み)

 

    1. 背面:37cm x 24 cm(実測)

 

細部のギミック

AKRについて細部の作りを見てみる。これまでのトレイルランニング用バックパックにはない尖った作りが見受けられる。以下は、来年3月10日開催のIzu Trail Journey(70k)を想定し、ルールに定められた装備を詰めてみた。

ベースとなる高密度の網戸状素材

Izu Trail Journeyを想定した装備。このレースはウルトラトレイル・マウントフジとほぼ同じ装備を必携としている。

Izu Trail Journeyを想定した装備。このレースはウルトラトレイル・マウントフジとほぼ同じ装備を必携としている。

まず背面。背中に入れた山と高原地図が完全に透けて見える。AKRの背面と体前面のベスト部分のベースは高密度に織られた網戸のような極薄の素材一枚でできている。

裏側から見たAKR

裏側から見たAKR

極薄の網戸状の記事は背中から荷物が透けて見える。

極薄の網戸状の記事は背中から荷物が透けて見える。

網戸状の素材は丈夫、このように折れ曲がりには耐える。

網戸状の素材は丈夫、このように折れ曲がりには耐える。

背中の荷室には特に内張などはないので、通気性がいい代わりに防水性は全くない。雨や汗が荷室に入り放題なので、濡れては困るものはパッキングに気を配る必要がある。
また、この網戸状の素材自体にはクッション性はないので、固いものの角が背中に当たらないように工夫も必要だろう。
なお、この素材はSJ Ultra Vest(以下SJU)でも同じように用いられているがPB Adventure Vest(以下PBA)では粗いメッシュに編まれて生地自体にクッション性のある素材が用いられている。

体前部のボトルホルダー
シグナチャーシリーズの最大の特徴である体前部のボトルホルダーは赤い伸縮性のあるネット状の薄い素材で覆われる。ショックコードでボトルを締める仕組みがあり、この部分は高級軽量素材キューベンファイバーで強化されている。
こんな華奢な作りで20ozのボトルを持ち堪えられるのかと心配になるが、下記のように試走した感じでは特に不安はなかった。ただ、耐久性に課題はあるかもしれない。ちなみにSJUやPBAではAKRと異なり、ボトルホルダーの底や側面はキューベンファイバーやスポンジ状のクッションで補強されている。

AKRのボトルホルダー。全体が赤い伸縮性のある素材で覆われている。

AKRのボトルホルダー。全体が赤い伸縮性のある素材で覆われている。

体前部の小物入れ
体前部のベスト部分にはボトルホルダーの上と下にポケットがあり、左右合計4つのポケットがある。
上のポケットは縦長でジェルなら3個くらいは入るか。iPhoneも少しきつめだが入れられる。伸縮性のあるネット素材でできていて、特にベルクロやジッパーなどで留める仕組みはない。

上のポケットにはジェルなら3個ほど。

上のポケットにはジェルなら3個ほど。

下のポケットは横長でベルクロ留めできる蓋がついている。ジェルなら無理して2個ほどか。ボトルを入れていると出し入れしにくいので、サプリメントや胃腸薬などの小さいものをいれておくのが良さそう。

下のポケットは横長のつくり。

下のポケットは横長のつくり。

腰のポケット
背中の荷室の脇、腰のあたりにも左右にジッパーで開閉できるポケットがある。ジェルならそれぞれ2個が入るくらい。背負った状態では出し入れしにくいので、ジェルの予備をいれておく使い方になるだろうか。

腰のポケット。Ultimate Directionのロゴがアクセントになっている。

腰のポケット。Ultimate Directionのロゴがアクセントになっている。

背中の荷室
背中の荷室は背中側に薄い高密度の網戸、外側に伸縮性のあるネット素材だけでできており、ものの出し入れは上からだけ。サイドジッパーなどはない。また、出し入れをする上の部分にも開口部全体を覆うジッパーや蓋はなく、中央部で一箇所ひもとベルクロで固定するだけ。
あまり欲張って詰め込みすぎたり、パッキングが上手くない場合にはランニング中にものが飛び出すかもしれない。ただ、あまり欲張らなければ、体全体にAKRをフィットさせることで開口部はきちんと蓋ができる仕組みになっている。
また外側にジャケットなどを固定し荷物全体の揺れを防ぐバンジーコードがついている。

上記の装備を全て詰めた状態のAKR。

上記の装備を全て詰めた状態のAKR。

外側につけたジャケットを外したところ。伸縮性のあるネット素材から中の荷物が透けて見える。この生地にはかなり伸縮性があるので、見た目より多く荷物は詰めることができる。

外側につけたジャケットを外したところ。伸縮性のあるネット素材から中の荷物が透けて見える。この生地にはかなり伸縮性があるので、見た目より多く荷物は詰めることができる。

外側の伸縮性のある素材を指で伸ばしたところ。

外側の伸縮性のある素材を指で伸ばしたところ。

荷物を出し入れする開口部を留める仕組み。ループ状のひもにベルクロのタブを通して留める。開口部は密閉する作りとなっていない。

荷物を出し入れする開口部を留める仕組み。ループ状のひもにベルクロのタブを通して留める。開口部は密閉する作りとなっていない。

なお、背中にはHydraPakの2Lのハイドレーションバッグを入れてみたがピッタリと収まる。上記の開口部を留める仕組みを使ってハイドレーションバッグを固定することもできるほか、体前部のベスト部分にはチューブを通すためのゴムひものループも設けられている。ボトルとハイドレーションバッグで合計3Lを超える水も持ち運べる。ハセツネや道志村のようにエイドが少ないレースで活用できるかもしれない。

着用した感じ

荷物を全て詰めて着用してみると、華奢で薄手の素材であるにもかかわらず、体へのフィット感は高い。
大きな特徴として、荷物全体の重心が背中のやや高い位置にきて、腰のあたりが自由になる範囲が広いことが挙げられる。これは背中の上部は空けて重心が背中の真ん中当たりにくるUltrAspireとは大きく異なる。重心が背中の上部にくることのフィジカルなメリットは明らかでないが、上体が安定する気がする、荷物の横揺れが少ない気がする、登りで上体が倒れ込むのを前に進む力に変えやすい気がする、といったことからこれを好むランナーは多そうだ。

また、体前部で左右のハーネスをつなぐ仕組みは、AKRは上下二つ。下は普通の細いスターナムストラップ、上は同様のストラップだが伸縮するゴム素材が使われており、これが全体の揺れ防止に貢献しているようだ。この二つのストラップは上下に自由に移動できる。

UltrAspireでは体前部をつなぐ仕組みは上下二つ、フックを引っ掛ける仕組みだが胸の下の方についていて上下に動く仕組みはない。こちらの方が胸の上の方を締め付けないので体がより自由に動く感覚が得られるだろう。これは好みが分かれるところかもしれない。

シグナチャーシリーズの従来のバックパックにはない特徴として、ボトルが垂直に収まる、という点が挙げられる。例えばSalomon / Advanced Skin S-LABにも胸のハーネス部分にボトルを収めるポケットがあり、これを活用するランナーは少なくない。しかし、ハーネスの配置から、このポケットは斜めにボトルを挿すことになり、ランニング中に振る腕と干渉することがある。AKRではボトルを垂直に挿すのでこのような干渉が起きない。キリアンザックで20ozのボトルを使いたかった人には朗報かもしれない。

なお、海外のレビュー記事ではAKRのボトルの位置が、女性の場合には胸部で干渉するかもしれない、という話題があった。女性がこのシグナチャーシリーズを試す場合はチェックしたいポイントだろう。

実際に走ってみて

実際に上記の装備を詰めたAKRを背負って駒沢公園を10キロほど走ってみた。特に気になるのが、胸のボトルがどれくらい安定しているか、という点だ。この点を動画に収めたのが下だ。左右のボトルは水で一杯に満たしている。

走ったところ、胸のボトルも含めてあまり揺れは感じなかった。揺れに伴う水がビシャビシャいう音もレース中ならさほど気にならないだろう。思ったよりはずっと安定しているという印象。

ただ、揺れは皆無ではない。ボトルがある脇腹の前の方は走るうちにボトルが当たるのが少し気になった。アザになるようなことはないので、慣れてしまうのかもしれない。

総括

以上、Ultimate Direction / AK Race Vestについて一通りレビューしてみた。かなりミニマルで尖った作りではあるが、意外と使える印象だ。ジャケットや補給食などを持ち運ばなくてはならないときに、最小限のバックパックとして活用できる。Izu Trail Journeyや信越五岳などエイドはあるがハンドボトルやウェストバッグだけでは不安なときに良さそう。荷物を合理的に削れるならUTMFでも使えるかもしれない。

また、ハイドレーションバッグを使わず、ボトルを使いたいとこだわるランナーにも、ボトルが使いやすいバックパックとして有力な選択肢に違いない。

一方、構造がシンプルなため、中に入れるものはうまくパッキングする必要がある。また、薄手の生地はどれくらい耐久性があるか、これから確認したい。

Ultimate Directionのシグナチャーシリーズは、日本でも来年1月に販売開始の模様だ。

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