[DC] Iker Karreraが驚異的なタイムで優勝、18人の日本からの参加者が完走・トルデジアン/Tor des Geants 2013 レース結果 #tor13

【追記・日本から参加のランナーの記録について当サイトの数え漏れがあったため修正しました。当サイト数えでは日本からのランナーの完走者は18人となります。2013/9/22】

先週の9月8日(日)から9月14日(土)まで7日間、150時間にわたって開催されたトルデジアン/Tor des Geants(以下、TdG)。モンブランの南、イタリアのヴァッレ・ダオスタ自治州をコースとする330km、24,000mD+の「レース」でスペインのIker Karrera(Salomon)が大会新記録となる70時間4分で優勝。女子は昨年優勝のFrancesca Canepa(イタリア)が二連覇を果たしました。
さらに日本からの参加者では8位入賞のMasahiro Ono/小野雅弘さん(Tecnica)、女子5位のHiroko Suzuki/鈴木博子さん(Salomon)を含む18人のランナーが完走を果たしました。

 

序盤

TdGのスタートは9月8日(日)の午前10時(日本時間同日午後5時)の予定でしたが、大盛り上がりのセレモニーが続いた結果、実際のスタートは午前10時17分。クールマイユールの街をスタートしたのは707人のランナー。雨の中のスタートとなり、一時雨が上がることもあったものの、この日曜日はほぼ終日雨が降ったりの一日となりました。

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雨の中のスタート。Photo by Enrico Romanzi/Tor des Geants

コース序盤、Col Arp(2571m)、Passo Alto(2857m)、Col Crosatie(2829m)のピークを越えて最初のライフベース、Valgrisenche(48.6km)に最初に到着したのはIker Karrera(Salomon、スペイン)で日曜日の17時6分。2011年UTMBで2位など100マイルレースでの実力は世界トップクラスのIkerが序盤からリードします。続いたのは地元ヴァッレ・ダオスタのFranco Colle(イタリア)。さらに2011年UTMBで6位のPatrick Bohard(LaFuma、フランス)、Julien Voeffray(スイス)、Lionel Trivel(LaFuma、フランス)など、前評判通りの顔ぶれが続きます。女子も、昨年の優勝者で地元在住のFrancesca Canepa(イタリア)が日曜日の18時21分にトップで到着。昨年2位のSonia Glarey(イタリア)、2012年UTMF優勝のNerea Martinez(Salomon、スペイン)が続きます。

Christophe Le Saux | endurance | gara | giorno1 2013 | hd | heroes | journey | Pietro Celesia | TOR 2013 08092013

初日の雨の中を進む昨年3位のChristophe Le Saux。Photo by Pietro Celesia/Tor des Geants

日本関係ではShogo Mochizuki/望月将悟(La Sportiva)が18位、Masahiro Ono/小野雅弘(Tecnica)が39位、Hiroko Suzuki/鈴木博子(Salomon)が104位。

一方、朝からの雨が続く夜、Col Crosatieからの下りで中国からのランナー、Yuan Yangさん42歳が転倒。救急搬送されたものの翌朝までにYangさんは死亡が確認されました。現在TdG大会本部ではYuan Yangさんの遺族への義援金を受け付けています。

Fund raising for the family of the Chinese runner Yuan Yang | Tor des Geants

中盤

上位ランナーは二日目の月曜日には早くもコース中盤へ。恵まれた天候の中、3つ目のライフベース・Donnas(148km地点)にIkerは月曜日の10時40分には到着。続く2位は6分後にFranco、更に33分後にLionelが3位。ここで昨年の優勝者、Oscar Perez(スペイン)が4位に浮上。10位にはShogo Mochizuki/望月将悟、24位にMasahiro Ono/小野雅弘。女子は総合14位にFrancesca、総合17位にNereaという展開。

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Refugio Codaでつかの間の休憩と補給をするIker Karrera。Photo by Pietro Celesia/Tor des Geants

Francesca Canepa | free solo | giorno2 2013 | hd | nature | Pietro Celesia | Rifugio Coda | TOR 2013 10092013

Refugio Codaを出発した女子優勝のFrancesca Canepa。Photo by Pietro Celesia/Tor des Geants

その日の夜には上位選手は4つ目のライフベース、Gressoney St. Jean(200km)を通過。Ikerの2位・Francoへのリードは40分に広がる快走ぶり。GressoneyでMasahiro Ono/小野雅弘が10位に浮上。一方、Shogo Mochizuki/望月将悟は徐々に膝の痛みに苦しみ始めて21位に後退。この後の222.5kmのSt. Jaquesのエイドでリタイアします。

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その他この日の夜にリタイアした中には、昨年2位のGregoire Millet(フランス)、昨年3位のChristophe Le Saux(Hoka One One、フランス)、女子の昨年2位・Sonia Glarey(イタリア)、先々週のTDSで優勝のArnau Julia Bonmati(スペイン)などの名前も。

終盤

三日目の火曜日には上位選手は既にコース終盤へ。5つ目のライフベース・Valtournenche(236km)にIkerは火曜日の9時56分に到着。続くFrancoへのリードは56分まで拡大。続く257km地点のCuneyで昨年優勝のOscar Perezのコースレコードを3時間21分上回る圧倒的なペースで進みます。Valtournenche到着で小野雅弘は9位。女子は休憩などで一旦2位になったFrancescaが1時間40分も先行していたNereaをとらえてValtournencheで再びトップに。

火曜日の夜、21時32分にはIkerが6つ目のライフベース・Ollomont(283km)に到着。この頃には上位の7選手の間はそれぞれ1時間以上離れ、トップから7位は約12時間差。

結局、序盤からトップに立ち続けたIker Karreraが四日目の水曜日8時21分に70時間4分15秒で優勝。昨年優勝のOscarの大会記録を6時間以上更新する驚異的なタイムでのフィニッシュでした。

そしてCourmayeurでフィニッシュを待つファンを驚かせたのが2位のOscar Perez。OllomontではIkerに1時間半もの差が開いていたにもかかわらず、最終盤の50kmで一気にその差を縮めわずか25分差でのフィニッシュ。このような超耐久レースでの最終盤の力のこもった走りに驚きの声が上がりました。

女子では昨年に続いてFrancesca Canepaが木曜日午前2時29分にフィニッシュして優勝。88時間12分17秒で総合15位、2位のNerea Martinezに2時間49分の差をつけて昨年に続いて連覇しました。

日本関係ではMasahiro Ono/小野雅弘(Tecnica)が81時間46分31秒で8位、Hiroko Suzuki/鈴木博子(Salomon)が103時間55分45秒で女子5位(総合51位)でフィニッシュしました。

さらに90年代に活躍した伝説の山岳ランナーで今シーズンに久しぶりにレースに復帰した現在51歳のBruno Brunod(イタリア)は99時間44分32秒、36位でフィニッシュし、ファンを沸かせました。

Giorno4 2013 | hd | night vision | Pietro Celesia | TOR 2013 12092013

トップ選手にとっては最後の夜となった4日目水曜日の夜。冷え込みが厳しくコースにも雪がついた。Photo by Pietro Celesia/Tor des Geants

150時間におよぶ制限時間が経過した9月14日土曜日の午後4時過ぎまでに383人(男子345人、女子38人)がCourmayeurのフィニッシュゲートをくぐりました。

リザルト

  • 男子
    1. Iker Karrera (Salomon, スペイン) 70:04:15
    2. Oscar Perez (スペイン) 70:29:41
    3. Franco Colle (Tecnica, イタリア) 72:05:23
    4. Lionel Trivel (LaFuma, フランス) 77:02:53
    5. Patrick Bohard (LaFuma, フランス) 78:47:46
    6. Marco Zanchi (Tecnica, イタリア) 80:25:08
    7. Nickademus Hollon (Ink N Burn, アメリカ) 81:33:18
    8. Masahiro Ono/小野雅弘 (Tecnica, 日本) 81:46:31
    9. Giuseppe Grange (Grivel, イタリア) 83:05:53
    10. Massimo Borettaz (イタリア) 85:17:39
  • 女子
    1. Francesca Canepa (イタリア) 88:12:17
    2. Nerea Martinez Urruzola (Salomon, スペイン) 91:01:42
    3. Scilla Tonetti Emanuela (イタリア) 94:45:59
    4. Giuliana Arrigoni (Tecnica, イタリア) 97:58:23
    5. Hiroko Suzuki/鈴木博子 (Salomon, 日本) 103:55:45
    6. Chiara Colonnello (イタリア) 106:09:36
    7. Keri Devine (ニュージーランド) 108:12:22
    8. Federica Boifava (イタリア) 117:54:37
    9. Jackie Muir (カナダ) 120:53:24
    10. Missy Gosney (アメリカ) 122:59:18
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リザルト(日本関係)

  • #265 Hatori, Ayumu rank: 148/Men’s 135 position: FINISH 125:57:43
  • #346 Anjo, Akemi rank: 357/Women’s 32 position: FINISH 148:02:14
  • #373 Tsuruhashi, Miyuki rank: 368/Women’s 34 position: FINISH 148:24:13
  • #375 Yoshimoto, Makoto rank: 367/Men’s 334 position: FINISH 148:23:07
  • #498 Kojima, Toshiyuki rank: 244/Men’s 226 position: FINISH 142:23:17
  • #535 Mochizuki, Shogo rank: Withdrawn position: St Jeacq Mar 20:37
  • #540 Kaihata, Kazuko rank: 335/Women’s 28 position: FINISH 147:11:43
  • #587 Takeishi, Koichi rank: 253/Men’s 235 position: FINISH 143:02:01
  • #664 Seki, Akihiko rank: Withdrawn position: La Thuile Dom 14:35
  • #676 Kitano, Satoshi rank: 59/Men’s 53 position: FINISH 107:00:33
  • #687 Higuchi, Hiroyuki rank: Withdrawn position: Niel Mer 17:57
  • #689 Miyaji, Jiro rank: 345/Men’s 315 position: FINISH Sab 13:49
  • #691 Matsuda, Shigeo rank: 371/Men’s 337 position: FINISH 148:27:47
  • #700 Yamamoto, Kazuhiko rank: 369/Men’s 335 position: FINISH 148:24:24
  • #701 Aida, Sho rank: 272/Men’s 253 position: FINISH 144:23:44
  • #721 Hashimoto, Miki rank: Withdrawn position: Valtour OUT Gio 20:31
  • #748 Tamura, Satoshi rank: 288/Men’s 268 position: FINISH 145:01:38
  • #752 Matsunuma, Yoshiko rank: 379/Women’s 37 position: FINISH 149:07:18
  • #781 Yamato, Yuta rank: 243/Men’s 225 position: FINISH 142:22:34
  • #786 Mitomi, Saiko rank: Withdrawn position: Bosses Sab 6:32
  • #800 Osono, Hiroyuki rank: 159/Men’s 146 position: FINISH 127:00:10
  • #801 Yoshizawa, Hirotomo rank: Withdrawn position: Sassa Mer 7:45
  • #890 Iwasa, Koichi rank: Withdrawn position: Niel Mer 7:04
Giorno5 2013 | hd | Pietro Celesia | TOR 2013 | Valtournenche 13092013

5日目木曜日の早朝。236kmのValtournenche付近を進むYuta Yamatoさん。Photo by Pietro Celesia/Tor des Geants

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当サイト岩佐の経験の範囲でいえば、アメリカで「ウルトラマラソンのスーパーボウル」といわれるWestern Stateは、そのコースをどれだけ走れるかが問われる「ランニング・レース」だ。そして同じ160キロという距離でもモンブランを巡る長い登り下りが繰り返されるUTMBは走ること以上に登り下りをいかに効率よく早歩きで進めるかが問われる「ウォーキング・レース」だった。

そこにくると、トルデジアン/TdGとはコースの全体を通して標高差で1000−1500mの登り下り、しかもかなり急な傾斜のそれらを繰り返す。コースのほとんどで、当方のレベルでは走ることはできない。そんなコースが330kmにも及ぶ。UTMBとも全く違うレースだ。

今回で4回目となるトルデジアンだが、前回までは上位入賞者の顔ぶれはどちらかというと、砂漠でのステージレースなどで活躍するスピードよりも耐久力とスマートさを強みにするランナーが多かったように思う。そこに今回現れたのは男子で大会記録を更新して優勝したIker Karreraだ。UTMBに関心のある人なら、一昨年の2011年でキリアン/Kilian Jornet、セバスチャン/Sebastien Chaigneauと一緒に終盤までUTMBを走り、結局2位に入った彼の姿に見覚えがあるだろう。Ikerは世界のウルトラ/トレイルランニングの主戦場である100マイルのトレイルランニングレースで世界トップクラスの実力の持ち主だ。その彼が持ち前のスピードで330kmの厳しいレースに挑戦した。

トレイルランニングの人気が高まり、様々なバックグラウンドの選手が登場する中で、より長くより険しいプロジェクトにチャレンジしようとするランナーが増えている。このトルデジアンについても欧州だけでなく、北米のランナーにもその名は知られている。トップレベルのランナーにとって、このトルデジアンがあまたあるトレイルランニングのレースの中で究極のレースとして挑戦の対象となっていくことは間違いない。これからもトルデジアンは世界のトレイルランニングファンにとって目の話せないイベントとなるだろう。

一方、トルデジアンのもう一つの顔は一般ランナーにとってコースの厳しさと美しさ、レースを支えるオーガナイザーやボランティアのスタッフの皆さんの温かさに触れることができる、究極の山の旅という側面だ。トルデジアンのコースはヴァッレ・ダオスタ自治州内に設けられた二つのロングトレッキングルートをつないだものだが、それを全部スルーハイク、ましてや走るということはこのトルデジアンができるまであまり盛んではなかったという。地元の皆さんにとっても深い谷で隔てられた山は、自分の村のハイキングコースはよく知っていても隣の谷のトレイルは縁がなかった。それがこのトルデジアンを通じてヴァッレ・ダオスタ全体をトレイルがつないでいることが意識されるようになった。大げさにいえばこのトルデジアンというイベントは地元ヴァッレ・ダオスタの人たちにとって自分たちの郷土の誇りとなりつつある。

どこまでも続く登り、勾配が増した後にガレ場の岩を伝いながら進んで小さな峠を越えた先に広がる広大な谷。エイドで何かと世話を焼こうとしてくれるスタッフの皆さん。パスタやポレンタ、ハム、チーズの味。何度も前を行ったり後ろを行ったりしているうちに日が進むうちに仲間になるランナー同士。忘れがたい旅となるだろう。

しかし、山の旅といっても150時間という制限時間の中で完走することは決して容易なことではない。ある程度の走力や急坂を登り続ける脚力を持った上で、自分の体調を見極めながら補給や休憩をとること。厳しい寒暖の差があるコース上では、通常のトレイルランニングのレースでは持つことがないような装備も時には必要になるだろう。そして完走までの長い時間の中では思いもかけないトラブルも起こるだろう。解決できない致命的なトラブルもあれば、自分が柔軟に受け入れることで解決できるトラブルもある。そこをどう見極めて解決していくか。

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序盤のエイドステーションで補給する当サイト・岩佐 Photo by Koichi Iwasa/DogsorCaravan.com

そんな話を聞いて興味が持てるならば、都合2週間近くの休みを9月中旬に取り、ヴァッレ・ダオスタに来るべきだろう。

(当サイトでは引き続き、トルデジアンに関するストーリーを掲載予定です。)

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