今年のモンブランも多くのドラマを生みました。フランス、イタリア、スイスにまたがるモンブランの山麓で開催中のウルトラトレイル・デュ・モンブラン / The North Face® Ultra-Trail du Mont Blanc®。その中の168kmのレース、UTMBは世界中の注目を集める世界最高峰のトレイルランニングイベントです。そのUTMBが今年も8月29日金曜日17:30(日本時間30日土曜日0:30)にフランス・シャモニーをスタート。男子では日本のUTMFで今年優勝したフランソワ・デンヌ/François D’Haene(フランス、Salomon)が20時間11分の大会新記録で優勝。女子は昨年のこの大会で優勝したローリー・ボジオ/Rory Bosio(アメリカ、The North Face)が二連覇。
経験豊富な有力選手も次々とリタイアした今年のUTMBのレースの結果をご紹介します。
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雨が降り、冷たい風が吹き付ける序盤
金曜日の午後になってスタート地点のシャモニーには雨が降り始めました。今年のUTMBももはや恒例ともいえる雨の中のスタートです。午後5時半のスタートで上位集団を形成したのは、ルイス・アルベルト・ヘルナンド/ Luis Alberto Hernando(スペイン、Adidas)、フランソワ・デンヌ/François D’Haeneに、ISFのスカイランニングシリーズ戦などで活躍しているトフォル・カスタニャー/Tofol Castaner(スペイン、Salomon)、そしてイケル・カレラ/Iker Karrera(スペイン、Salomon)の4人。雨でトレイルはぬかるみ、森林限界を超えた標高2000m以上のトレイルでは雨が上がってからも強い風が吹き、ランナーの体力を奪います。
Les Contamines / 31kmではこの上位4人の集団に、2012年の神流マウンテンラン&ウォークにも招待選手として来日した経験を持つファビアン・アントリーノス/Fabien Antolinos(フランス、Mizuno)や、アメリカの人気ランナー、アントン・クルピチカ/Anton Krupicka(New Balance)が続きます。更にトップ20圏内にはフランスの実力ある選手に交じって今年のUTMFで3位だったマイク・フート/Mike Foote(アメリカ、The North Face)やジェイソン・シュラーブ/Jason Schlarb(アメリカ/Altra)、ティモシー・オルソン/Timothy Olson(アメリカ、The North Face)、そして日本の原良和/Yoshikazu Hara(HOKA OneOne)が続きます。
一方女子では、ナタリー・マクレア/Nathalie Mauclair(フランス、Lafuma)、ヌリア・ピカス/Núria Picas(スペイン、Buff)が一緒にLes Contamines / 31kmにトップで到着。僅差で昨年優勝のローリー・ボジオ/Rory Bosio(アメリカ、The North Face)が続きました。その後、Courmayeur / 77kmまでにヌリア・ピカスがリードし、4分差でローリー・ボジオが続く展開に。トップから34分差でナタリー・マクレアが3位。そこから30分以上の差で、Uxue FRAILE(スペイン、Vibram)、フェルナンダ・マシェール/Fernanda Maciel(ブラジル、The North Face)が続きました。
次第に各ランナーの明暗が分かれ始めたCourmayeur以降の中盤
コース全体のほぼ中間地点となるCourmayeur / 77kmはドロップバッグが置けて、家族や仲間のサポートで賑わうエイドステーションですが、ここから先、朝になってから次第に今回のレースが展開し始めます。
トップ集団の4人はほぼ同時にCourmayeur / 77kmを出ますが、すぐに遅れを取り始めたのはルイス・アルベルト・ヘルナンド。3人となった上位集団を10分差でアントン・クルピチカが追います。
しかし、この辺りから次第に多くのランナーが不調を訴え始めます。トップ集団にいたルイスは今シーズンはTransvulcaniaやMont Blanc 80kなどのビッグレースを制していた今回の優勝候補でしたが、結局La Fouly / 109.6kmでリタイア。ジェライ・デュラン/Yeray Duran(スペイン、The North Face)はCourmayeur / 77kmでリタイア。Courmayeurにトップ10で到着していたマイク・フートも次第にペースが落ち、Champex-Lac / 122kでリタイア。5位を走っていたファビアン・アントリーノスもChampex-Lac / 122kでリタイア。Courmayeurには16位で到着の原良和もArnuva / 95kmでリタイア。今日は走りに冴えがみえなかったテイモシー・オルソンはLa Fouly、ハル・コナーはLes Contamines / 31kmでリタイア。
女子ではCourmayeurを出てまもなく、ローリー・ボジオがヌリア・ピカスを交わしてトップに立ちます。
最後になってドラマは展開、Champex-Lacからの終盤
La Fouly / 109.6kmを同じSalomonのチームメイトのイケル・カレラ、トフォル・カスタニャーと一緒に出たフランソワ・デンヌはここから勝負を賭けて集団から独り飛び出します。Campex-Lac / 122kmに単独トップで到着したフランソワはイケルとトフォルに10分のリード。昨年のグザビエ・テベナール/Xavier Thevenardの大会記録を10分程上回るペース。故障、トラブルもなく安定した走りで進みます。
4番手で上位3人を追っていたアントン・クルピチカは次第にペースを落とし始めます。Courmayeurを出た先のBertoneから食べ物を体が受け付けない状態に。アントンはこの後もこの胃の不具合に苦しみ、Trient / 139.7kmのエイドで3時間半もの長い休憩をとります。アントンは結局その後もリタイアはせず、26時間30分でフィニッシュしています。アントンに代わるようにして4番手に上昇してきたのはジェイソン・シュラーブです。
168kmのフィニッシュ地点、シャモニーに一番で到着して優勝したのはフランソワ・デンヌ。20:11:44のタイムは昨年2013年のグザビエ・テベナール/Xavier Thevenardによる20:34:57を大幅に更新。UTMBで20時間の壁が破られる可能性がみえてきました。フランソワは2012年の短縮版UTMBで優勝しているほか、2013年のグラン・レイド・レユニオン優勝、そして今年のUTMFで優勝と、100マイルの山岳レースでは現在世界最強のランナーであることを明らかにしました。
2位にはイケル・カレラ、トフォル・カスタニャーが20:55:42で同時にフィニッシュ。イケルは2011年UTMBで2位、昨年2013年のトル・デ・ジアンで優勝、今年のUTMFでも中盤までフランソワに次いで2位。トフォルは昨年のCCCで優勝しており、100マイルのレースは今回が初めて。最終盤のLa Flegereではやや疲れのみえたトフォルをイケルが待って一緒に走る場面もあり、長い旅を二人でともに終えました。
4位のジェイソン・シュラーブはアメリカのコロラド州などのレースで多く活躍、2013年はSpeedgoat 50kで3位、Run Rabbit Run 100で優勝しています。UTMBは初挑戦でした。5位にはジェディミナス・グリニウス/Gediminas Grinius(リトアニア、Inov–8)。ドイツや東欧のレースを中心に活躍しているランナーで、最近の国際的なレースでは今年3月のTransgrancanariaで11位。6位のアンドリュー・タッキー/Andrew Tuckey(オーストラリア、The North Face)はThe North Face 100 Australiaなどオーストラリアのメジャーレースでは何度もトップ3に入っているオーストラリアを代表するランナー。7位のソンドレ・アムダール/Sondre Amdahl(ノルウェー)は40代のベテランランナーで最近では今年3月のTransgrancanariaで6位。昨年のCCCで10位。8位にはUTMBの上位常連のカルロス・サー/Calros Sa(ポルトガル)。9位に昨年8位のベルトラン・コロン・バトン/Bertrand Collomb-Patton(フランス)、10位に昨年14位のステファン・ボロニア/Stéphane Brogniart(フランス、The North Face)。
女子の優勝はローリー・ボジオ。23:23:20というタイムは男女総合でも14位に入るハイレベルな記録です。アメリカではWestern Statesで2012年に2位などトップ10の常連ですが、ここシャモニーでも明るいキャラクターですっかり人気の存在です。2位のヌリア・ピカスは今シーズンのUTWTの主なレースを軒並み制し、春のUTMF優勝で日本でもおなじみです。昨年は初めての100マイルだったUTMBでローリー・ボジオに次いで2位でしたが、今回も同じ形での2位となりました。3位にはナタリー・マクレア。昨年IAUトレイル世界選手権、TDS、グラン・レイド・レユニオンをいずれも優勝して注目されたナタリーは、今年春にはUTMFにも参加しました。
4位のフェルナンダ・マシェールは今年春のUTMFで2位。今日のUTMBでコース上でみせる表情は厳しいものがありましたが表彰台に登る4位に入りました。5位はUxue Fraile。欧州の山岳レースでは上位常連で昨年のCavalls del Vent 100kで2位をはじめ多くのレースで表彰台に立っていますがおそらく100マイルは初の挑戦です。
今年はフランスやスペインだけでなく、世界各国の実力あるランナーがこのモンブランで実力を発揮し、このUTMBの場が国際的なトレイルランニングの頂点であることが印象づけられました。
日本のランナーでは大瀬和文が金星を上げる
世界のトップランナーが苦しんだ今年のUTMBは日本から参加したランナーにとっても厳しいレースとなり、原良和のほか、野本哲晃、山屋光司がリタイア。
そうした中で大瀬和文(TEAM TARZAN)の23位、24:31:45でのフィニッシュという結果に注目です。この日の大瀬は慎重なレース展開で、多くのランナーがペースを落とした後半も着実に順位を上げました。
大瀬が本格的にトレイルランニングのレースに取り組み始めたのは昨年からですが、昨年は信越五岳3位、今年もハセツネ30kで2位、UTMF19位など成長著しい注目株です。UTMBでの20位圏内は世界のトップアスリートとして認知される一つのボーダーラインといえ、初挑戦での今回の結果は日本のトレイルランニング・コミュニティにとっても明るいニュースです。これからの大瀬の活躍に注目です。
リザルト
- 大会公式のリザルトはこちら。
男子
- フランソワ・デンヌ/François D’Haene(フランス、Salomon) 20:11:44
- トフォル・カスタニャー/Tofol Castaner(スペイン、Salomon)20:55:42 イケルと同着
- イケル・カレラ/Iker Karrera(スペイン、Salomon)20:55:46 トフォルと同着
- ジェイソン・シュラーブ/Jason Schlarb(アメリカ、Altra)21:39:44
- ジェディミナス・グリニウス/Gediminas Grinius(リトアニア、Inov–8)21:50:04
- アンドリュー・タッキー/Andrew Tuckey(オーストラリア)22:40:26
- ソンドレ・アムダール/Sondre Amdahl(ノルウェー)22:42:37
- カルロス・サー/Calros Sa(ポルトガル)22:50:07
- ベルトラン・コロン・バトン/Bertrand Collomb-Patton(フランス)22:51:54
- ステファン・ボロニア/Stéphane Brogniart(フランス、The North Face)22:57:05
- 23. 大瀬和文/Kazufumi Oose (TEAM TARZAN) 24:31:45
- 46. 小原将寿/Masatoshi Obara(Inov–8) 26:22:29
- 74. 松永紘明/Hiroaki Matsunaga(The North Face) 28:17:57
女子
- ローリー・ボジオ/Rory Bosio(アメリカ、The North Face)23:23:20
- ヌリア・ピカス/Núria Picas(スペイン、Buff) 24:54:29
- ナタリー・マクレア/Nathalie Mauclair(フランス、Lafuma) 25:47:35
- フェルナンダ・マシェール/Fernanda Maciel(ブラジル、The North Face) 26:05:47
- Uxue Fraile(スペイン、Vibram)26:22:19
- Ildiko Wermescher(ハンガリー、MAMMUT) 27:47:52
- Andrea Huser(スイス) 28:20:24
- Ester Alves Se(ポルトガル) 28:39:01
- Emily Richards-Chisholm(アメリカ) 29:11:29
- ショーナ・ステファンソン/Shona Stephenson (オーストラリア、Inov–8)30:04:21
参考
- ウルトラトレイル・デュ・モンブラン/The North Face® Ultra-Trail du Mont-Blanc® 大会ウェブサイト
- 大会公式のWeb TV(ストリーミングライブ放送)
UTMB Live 2014 – English by UltraTrailMontBlanc- 大会のTwitterアカウント
- 大会のFacebookページ
- iRunFar.comの結果紹介記事
- 仏Trails Endurance誌の結果紹介記事(男子)
- 仏Trails Endurance誌の結果紹介記事(女子)