【編者より・9月に行われた信越五岳トレイルランニングレースにあわせて来日していたアメリカの伝説のトレイルランナー、スコット・ジュレク/Scott Jurek。信越五岳を現地で観た感想やもうレースに出ることはないのか、これからランニングについて取り組みたいこと、そしてアドバイザーを務めるブルックス/Brooksのトレイルランニングシューズについて、来日中の9月17日に当サイトがインタビューしました。】
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信越五岳を観戦して日本とアメリカのランニング文化が融合していることに感激
DogsorCaravan.com(以下DC): 今回は日本についてすぐに信越五岳の会場入りでした。長旅だったでしょう。
スコット・ジュレク(以下SJ): 日本で東京以外のまだ行ったことのないところに行けて素晴らしい経験ができました。日本の文化と食べ物について新しい発見がありました。ヒロキさん(石川弘樹さん)がレースを開催しているところを自分の目で見ることができたのもよかったです。彼がアメリカのトレイルランニングレースに参加していたのをよくみていましたし、私が2003年に最初に日本に来た際には彼とチームを組んでハセツネに参加しました。その彼も今では自分がレースを開催するようになったんだなあ、と思うと感慨深いですね。時間が経つにつれてお互いに成長したのかな、と思います。
DC: そういえば、Instagramに信越五岳のコースを少し走ってみた様子の写真を投稿されていましたね。
SJ: あの写真を見てくれた人から「日本に行ってみたい、シンエツを走りたい」っていう反応がたくさんありました。日本に行きたいというアメリカ人は増えると思いますよ。信越五岳のようなレースが知られれば、海外からも参加したいという人がたくさんいると思いますね。
DC: 実際に信越五岳トレイルランニングレースを自分自身の目でみて、印象に残ったことはありますか?
SJ: 信越五岳のウェルカムパーティでもお話ししましたけれど、ヒロキさんやカブラキさん(鏑木毅さん)が海外のレースで経験したことを日本に持ち帰って広めていることに感激しました。例えばペーサー制度をレースに取り入れたのはおそらくアメリカ以外では信越五岳が初めてだと思います。私はペーサーという仕組みによって、ランナーが友達と一緒にレースを走るという経験をすることは素晴らしいことだと思うんです。友達にトレイルランニングを経験してもらい、どんなレースなのかを知ってもらうことができるわけですから。たぶん、「ペーサーなんて誰かに助けてもらうことになるからよくない」、「ペーサーがいると人や物資の移動の負荷が大きくなるから好ましくない」なんていう人もいると思います。そんなふうにペーサーについて否定的に考えるのはもったいないことです。ペーサー制度はウルトラランニングというスポーツが成長する上で大事な役割を果たしてきました。エイドステーションについても、ヒロキさんは信越五岳にたくさんのエイドを設置していますよね。それでもアメリカのレースに比べるとエイドの間の距離は長めだと思いますが(笑)。そしてそれぞれのエイドステーションにもさまざまな補給食を用意していました。おむすびや梅干しが用意されているのが素晴らしいですね。おむすびや梅干しはかつてヒロキさんやカブラキさんが私に日本の補給食だと教えてくれたのを思い出しました。日本の文化や特徴を尊重しながら新しい試みを取り入れていることに感銘を受けました。
日本のトレイルランニング、ウルトラランニングは世界の注目を集めている
DC: スコットさんにとっては2003年に初めて来日してハセツネに出場されて以来、今回が3回目の来日ですよね。2003年から比べると日本でもトレイルランニングの人気は年々高まっています。今回の来日で日本のトレイルランニングについて変わったと感じたことはありますか?
SJ: 11年前の2003年にハセツネに参加したときと比べると、日本でもウルトラランニング、トレイルランニングというスポーツが広く知られるようになったんだな、と思いました。山で行われるレースが格段に増えていて、山の中を走るというスポーツの存在が広く知られるようになっていると感じました。そして競技のレベルも著しく上がっていますよね。これはアメリカでも同じで、スポーツとして成長するにつれて競技のレベルは年々上がっていきました。特に今回の信越五岳では女性のランナーが多く出場していたことに驚きました。11年前のハセツネとは比べ物にならないくらい女性が多かった。日本でこのスポーツが成長していることを実感しました。
DC: 日本のトレイルランニングも世界に追いついてきているといえるでしょうか。
SJ: 私は日本のトレイルランナーではヒロキさんやカブラキさんと同じレースで競い合ってきましたが、100kmのロードマラソンや24時間走などのウルトラマラソンでも日本のランナーは以前から世界的な活躍をしていることで有名です。例えばオオタキさん(大滝雅之、48時間走アジア記録保持者)、セキヤさん(關家良一、24時間走世界選手権で4回優勝)、シンゴさん(井上真悟、2010年24時間走世界選手権優勝)など多くの実力ある日本のランナーとレースで競い合い友情を育ててきたので、日本でトレイルランニングやウルトラランニングが盛り上がっているのをみるのはうれしいですね。一方、このスポーツが世界的に人気となり、その中で日本はトップランナーが是非参加したいと考えるレースを開催するようになっています。ウルトラトレイル・マウントフジ(UTMF)にはアメリカやヨーロッパからも多くのランナーが参加していますよね。アメリカでも以前であればアメリカ以外のレースが話題になることは少なかったのに、最近ではヨーロッパやアジアのレースが話題になり、参加するランナーが増えてきているんですよ。私自身の経験でもOxfam Trailwaler Hong Kong、台湾のSoochow International UltraMarathonに参加したのは忘れがたい思い出です。
DC: 今回、信越五岳で優勝した原良和さんもトレイルとロードのウルトラマラソンの両方で活躍していますね。
SJ: ハラさんとは6月のウェスタン・ステイツでも話す機会がありましたが、ロードとトレイルの両方に挑戦しようとしているというのがうれしいですね。アメリカでもトレイルの長距離で活躍するランナーがロードのウルトラマラソンを走ることは少ないんです。でも、どちらからも多くのことを学ぶことができますから、たくさんのランナーに是非両方に挑戦してほしいですね。私もロードのウルトラマラソンで貴重な経験をしました。スパルタスロンではセキヤさん、オオタキさんといった日本のランナーと優勝争いをしました。24時間走世界選手権(2010年)でシンゴさんが優勝したとき、2位の私も24時間走のアメリカ記録を更新することができました。日本はウルトラマラソンの分野では素晴らしいランナーを輩出してきた歴史があるんです。
これからはトレイルランニングのルーツをたどりたい
DC: 昨年8月のレッドビル100の前にスコットさんがiRunFarのインタビューに答えているのを見返しました。その中で、おそらく1、2年のうちに順位を競うような形でレースに参加することからは引退するだろう、と話していましたよね。一年経った今、どのように考えていますか?
SJ: 核心を突く質問ですね。去年はレッドビル100(Leadville Trail 100、アメリカ・コロラド州で開催される歴史ある100マイルレース)に出ましたが、今年はレースには出ていません。今年は4月にイギリスのボブ・グラハム・ラウンド*を走りましたが、最近は(タイムを競うレースではない)アドベンチャー・ランに関心があります。仲間と一緒にルートを自分で時間を計りながら走りましたが、アメリカ人でイギリスのボブ・グラハム・ラウンドを完走したのは初めてだったんです。これまでいろんなランナーがこのコースを走ってきた歴史を感じながら走りました。こうしたアドベンチャー・ランはトレイルランニングの歴史を振り返ると大きな意味を持っていて、そこを走ることには私がこのスポーツを始めるようになった動機をたどるという意味もあります。その他、PCT(パシフィック・クレスト・トレイル/Pacific Crest Trail)**で、FKT(Fastest Known Time、ある特定のコース、ルートについての最速踏破記録)に挑戦したいと思っています。長いルートを何日もかけて走ってみたいですね。たぶん、これまで私が取り組んできたことを考えれば、私の体はきっとそういう挑戦に適していると思います。
- * ボブ・グラハム・ラウンド(Bob Graham Round):イギリスの湖水地方のケズィックの町を起点・終点にして丘陵地帯にある42のピークをつないだコース。1932年にケズィックで民宿を経営していたボブ・グラハムが24時間以内で完走して以来、多くのランナーが24時間以内での完走に挑戦している。イギリス流のトレイルランニングであるフェルランニングの代表的なコースで、今日では24時間以内でいくつのピークを越えられるか、といった様々な課題に挑戦するランナーがいる。
- ** PCT(パシフィック・クレスト・トレイル/Pacific Crest Trail):カリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州の山地を通ってアメリカ西海岸を南のメキシコ国境から北のカナダ国境まで縦走する全長4260kmのロングトレイル。
DC: すると、もうレースに出ることはないのでしょうか。
SJ: レースでは24時間走に来年また挑戦してみたいと思っています。将来のことを話すのは難しいですが、おそらく来年が私にとって競技としてウルトラマラソンの大会に出る最後の年になるのではないかと思います。
DC: そうすると100マイルのレースを走ることはもうなさそうですか?例えばUTMFとか。
SJ: うーん、マウントフジ、UTMFはいつか走りたいと思っていたんです。震災の影響で開催されませんでしたが2011年に開催されれば出ようと思っていました。(順位を競うレースとしては)走ることはなさそうですね。また日本に来て富士山を楽しく走ってみたいとは思っています。順位を競うということではなくて、カブラキさんがUTMFを続けていくのを応援するために走ってみたいですね。あと、富士山の頂上にもいつか登ってみたい。
DC: 数日かけて走るようなレースには関心がありますか。サハラ・マラソンとか、トル・デ・ジアンとかはどうですか?
SJ: サハラ・マラソンや(南アフリカで開催される)コムラッズのような歴史あるレースには興味がありますよ。ただ、今のところは先ほどお話ししたPCTへのチャレンジにより興味があります。いずれにしても勝ち負けを競うというよりは歴史あるイベントを経験する、という意味で興味があります。トップレベルのランナーの中には、勝てなくなってきたらもうレースには出ないという人もいますが、私の場合はそうではありません。自分の興味が湧くレースにはこれからも出たいと思っています。
DC: 現在のスコットさんがレースについて興味をかき立てられるのはどんな点ですか?
SJ: いろんなことが気になりますよ。歴史もそうだし、人物も、そしてその土地の文化もそうです。今回、信越五岳のレースは走りませんでしたがレース以外で素晴らしい経験をしました。トレイルランニング、あるいはウルトラマラソンの経験というのは、(コースを走ることだけでなく)その国や開催される山についての見聞きすること全てが魅力的です。私は長年にわたってレースで勝つことを目標にしてきて、今でも勝負には興味がありますが、それが全てではない、とも思っています。タイムにこだわらず、完走を目標にするランナーも多くいて、それは素晴らしいことだと思います。レースというイベントはたくさんの人が集まる、大きなパーティのような面もありますよね。私がウルトラランニングのコミュニティが素晴らしいと思う理由の一つです。
これからはランニング・コミュニティにお返しをしたい
DC: スコットさんは執筆や講演などの活動にも力を入れていますね。
SJ: 執筆や講演を通じてトレイルランニング、ウルトラランニングというスポーツに対して、私なりに恩返しをしたいと思っています。そのためにできる限り、各地を旅しています。今回は日本に一週間滞在していますが、アメリカに戻って5日後にはベルリンマラソンが行われるドイツにいき、ブルックスのスタッフと一緒に仕事をします。世界各地に旅をして、これまで私が経験したこと、学んだことを多くの人に伝えることが私の役割だと考えています。アスリートにはそうした役割を好まない人もいると思いますが、私は楽しみながら取り組んでいます。私はこのスポーツを通じて多くのことを学び、多くの人から刺激を受けてこれまで競技を続けてきました。そうした経験を次の世代の人たちに伝えていきたいと願っています。
DC: スコットさん自身がレースのようなイベントを開催することもあるんですか?
SJ: そうですね、カナダのバンクーバー、ウィスラーの辺りでトレイルランニングの合宿セミナーをやったこともありますよ。レースにも興味がありますが、セミナーのような活動を通じて多くの人にこのスポーツを知ってもらうことにより興味があります。このスポーツから学んだことを広めていきたい、と思うんです。新しい土地に旅してそこの山を走りながらトレイルランニングについてみんなに伝えることができたら素晴らしいですね。走るだけでなくて、トレイルを走るテクニックやトレーニングといったことも一緒に学べるようなことができれば、と思っています。
EAT & RUNのその後と新しい日本の食べ物との出会い
DC: 「EAT & RUN」の出版以来、健康と食事、というのがスコットさんの新しい専門分野として知られるようになったと思います。同書が出版されて2年経ちましたが、その後の反響や、最近この分野で気になっている話題があれば教えていただけますか。
SJ: ランナーからは食生活や食品について考え直すきっかけになったと大きな反響がありました。それまで、ランナーが食生活について気にすることはあまりなかったと思います。「EAT & RUN」を出版して、「あのレシピを試してみたらとてもおいしかったよ」「100%のビーガンとはいかないけれど、ファストフードを食べなくなった」という声を聞きます。アメリカでもランナーが自分の健康状態について気にかけることが増えてきたと実感します。とはいえ、食生活についてランナーと話しをすると、今でもビーガンなんてとてもマネできないといわれることも多いですよ。もっと食事について考えるように訴えていきたいですね。例えば、アメリカ以外の食材に目を向けることとか。おむすびもそうです。アメリカ人にとってはなじみのない食べ物ですが、私はヒロキさんからレシピを教わって以来お気に入りです。その他にもメキシコのコッパー・キャニオンで経験した食事についてアメリカで話すと多くの人が関心を持ってくれます。ウルトラランニングをしようと思ったら必ずその最中に何かを食べることになります。さらに長い距離を走るための体作りに適した食生活をすることも必要です。
DC: 今回の日本への旅で何か新しく気に入った食べ物はありますか。
SJ: ありましたよ。長野で出会ったおやきですが、中に入っている野沢菜も初めて食べましたがとてもおいしかった。あとは大福ですね。少し塩味のするお餅と穏やかな甘みの餡の組み合わせが気に入りました。お餅は中身で餡に包まれているものと思っていたので、中身と外側が逆のもあることを初めて知りました。ウルトラランニングでは日本の食事、食材はレース中の補給食としても、トレーニングのための食事としても最適だと思いますね。その他にも、今回は日本でもカレーが一般的な食事だということを知りました。日本で食べられているカレーというのはインド料理かタイ料理のカレーだと思っていましたが、日本風のカレーというのがあってレース後の空腹を満たすのに人気だと友人たちに教えてもらいました。
DC: また新しいテーマについて本を出版される予定はありますか?
SJ: 今まさに次の著書の構想を練っているところです。まだその内容は具体的になっていませんが、これまで私がランニングを通じて経験したこと、学んできたことを「EAT & RUN」とは違う形でまとめることになると思います。まだ具体的にお話しできる段階ではないのですが、1ー2年のうちにご覧に入れることができると思います。期待していてください。
カスケディア、ピュアグリットはスコットの経験を織り込んだトレイルランニングシューズ
DC: ランニングシューズについて聞かせてください。スコットさんがブルックスと一緒に仕事を初めてもう何年になりますか?
SJ: 実はもう10年になります。2004年に最初のカスケディア(Cascadia)を開発したのが最初でした。驚くことにそれ以来リニューアルを続けてカスケディア 10に至っています(カスケディア 10は2014年夏のORショーで登場)。カスケディアの開発に当たっては、(単なる広告塔としての)アスリートとしてだけでなく、トレイルランニングシューズを作るためのアドバイザーとしてチームに加わりました。アメリカではカスケディアは今も人気のトレイルランニングシューズとしてランナーに愛されているのがうれしいですね。10年前に開発した当時はかかとの方を高くしながらもソールを薄手にするというコンセプトが斬新でした。「そんなシューズで走ったら脚が故障するに決まってる、クレイジーだ」という人も多かったのです。ソールのかかとの内側に衝撃を吸収する素材を組み込むのは他のシューズでもよくみられますが、カスケディアでは「ピボット・ポスト」と呼ぶ衝撃吸収の仕組みを前足部とかかとのそれぞれ足の内側と外側の4ヶ所に配置しています。このように脚の前後左右に対称に衝撃吸収の仕組みを設けることでどのような斜面であっても、傾いた岩の上や木の根の上であっても対応できるのが特徴です。このピボット・ポストや幅広で安定性の高いアウトソールといった当初のコンセプトはランナーの皆さんに受け入れられて、最新モデルまで続いています。
DC: 最近登場したピュアグリット(PureGrit)はミニマリストというトレンドを取り入れていますね。
SJ: ピュアグリットでは新しい発想を持ち込んでシューズ全体を軽量化しましたが、ミニマリストというトレンドと快適さのバランスを重視しました。他社からはもっと軽いミニマリスト・ランニングシューズがいくつも出ていましたが、「トレイルを足の裏の感触で楽しみたい」とはいってもゴツゴツした岩の多いトレイルを長く走るのにはあまり向かないと思います。ピュアグリットはそのバランスをうまくとって、ソールを薄く平らにし、メキシコのコッパー・キャニオンで出会った幅広なサンダルの形状を取り入れました。また、最新のピュアグリット 3では地面を捉えるグリップ力の高いアウトソールを採用しています。高めの突起でどんな天候でもグリップ力を発揮するので、イギリスのフェルランニングのようなぬかるんだトレイルでも安心して走れます。アッパーはカスケディアと同じく軽量なメッシュ素材にしています。ぬかるんだトレイルを走る場合、シューズに防水素材を使うと一旦濡れたらなかなか乾きませんよね。水抜けのよい軽量なメッシュ素材のシューズの方がぬかるんだトレイルには適しています。ブルックスではシューズのデザインチームと実際の経験に基づいて細かい点まで頻繁にフィードバックして開発を進めています。私が(ブルックスの本社がある)シアトルに住んでいたころは、頻繁にブルックスのオフィスを訪ねて試作のシューズをテストしたりしていたものです。今はコロラドに住んでいて、Skypeを使って打ち合わせをしますが今も年に数回はオフィスで一緒に仕事をしています。
DC: ランニングシューズのブランドとしてのブルックスの特徴は何ですか。
SJ: ブルックスは他のブランドと違ってランニングに特化したメーカーです。ランニングというスポーツとランナーのことをよく研究しています。また、「Run Happy」というキャッチフレーズにも現れているように、シューズやウェアを通じてランナーがいかに快適に走れるか、を考え抜いています。レースの結果に勝負をかけるシリアスなランナーだけでなく、全てのランナーがハッピーに走れることを目指しているんですね。その結果、ソールや足形についてもブルックスが一番フィットするというランナーが多いのです。優れた技術やデザイン力を持ちながらも、ランナーの視点に立ったもの作りをしているのがブルックスです。日本のトレイルランナーの皆さんにもブルックスのシューズを体験してもらいたいですね。
ボーナス:スコット・ジュレクによるトレイルランニングでの補給の考え方
【編者より・9月18日のスコット・ジュレクのトークイベントでは、トレイルランニングやウルトラマラソンを走る際に重要な水分やエネルギーの補給についての基本的な考え方について、スコット自身が解説しました。その概要を以下にご紹介します。】
水分補給:発汗量テストで自分に必要な水分の量を知ろう
フルマラソンを数時間で走るのとは異なり、トレイルランニング、ウルトラマラソンではより長時間にわたって走るために水分の補給が欠かせません。しかし補給に必要な水分の量は体重や体質によって大きく異なるので、発汗量テストを行って必要な水分量を知ることを勧めます。
- まず、走る前に衣服を全て脱いだ、全裸の状態で体重を量ります。
- その後、60–120分間のランニングをします。
- もう一度、衣服を全て脱いで体重を量ります。
- ランニングの前後の体重差とランニングをした時間から一時間当たりの発汗量を計算します。
- 一時間当たりの発汗量の97–98%が一時間当たりに必要な水分の補給量です(2–3%の水分が失われた状態は運動のパフォーマンスを妨げません)。
塩分(電解質)補給:毎時200–400mg
トレイルランニング、ウルトラマラソンで長時間走る際には、塩分(sodium、電解質の一種)を一時間当たり200–400mgずつ補給します。ただし、自身の体重や体調により補給量は調整しましょう。塩分はサプリメントだけでなく、ジェルやエイドの補給食からもとることができます。ドリンクやサプリメントの栄養表示を参考にしましょう。
炭水化物補給:体重に応じて適量を摂る
ランニング中の炭水化物の補給量としては、(体重<kg>/1000)に対して、一時間当たりで×0.7〜×1.0を目安とします(例:体重60kgなら60gに対して最小で42g、最大で60g)。大体ジェル一袋、バナナ一本、エナジーバー半分には25gの炭水化物が含まれています。ドリンクやサプリメントの栄養表示を参考にしましょう。
スコット・ジュレク/Scott Jurek:アメリカのトレイルランナー、ウルトラマラソンランナー。1973年ミネソタ州生まれ。1994年からアメリカのトレイルランニング、ウルトラマラソンのレースで活躍し始め、ウェスタン・ステイツで七連覇(1999–2005年)、スパルタスロン三連覇(2006–2008年)、ハードロック優勝(2007年)、2010年の24時間走世界選手権で2位、アメリカ記録更新(266.677km / 165.7マイル)などの記録を残し、「生きる伝説」(リビング・レジェンド)と呼ばれる。ベストセラー「Born to Run 走るために生まれた ウルトラランナーVS人類最強の”走る民族”」(クリストファー・マクドゥーガル、2009年)の中心人物の一人として取り上げられたほか、自身の著書、「Eat & Run」(2012年)も大きな話題を呼んだ。