奥宮俊祐、松岡宏美が優勝、装備不携帯による失格も・2016 ハセツネ30kリザルト

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桜咲く薄曇りの秋川渓谷を会場に、春のシーズン開幕を告げるトレイルランニングレース、ハセツネ30kが4月3日日曜日に開催されました。男女でそれぞれ優勝を勝ち取ったのは昨年のハセツネ30k・ハセツネカップのチャンピオン、奥宮俊祐 / Shunsuke Okunomiyaと、長野県を拠点に昨年からトレイルを走り始めたルーキー、松岡宏美 / Hiromi Matsuokaでした。昨年から上位に10代や20代前半のランナーが多く入るようになりましたが、今年も特に女子で若いトレイルランナーの活躍が目立つようになりました。

一方、この日トップでフィニッシュしたランナーが必携装備品を携帯していなかったとして、フィニッシュ後に失格となるという出来事もあり、トレイルランニング・コミュニティで議論となっています。

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この記事ではハセツネ30kのリザルトとこの日の失格の経緯についての解説をご覧いただけます。

大会当日の早朝には少し小雨もぱらつき、10時過ぎには少し気温が下がりましたが、この日のあきる野は曇り空の一日。大会に参加したランナーにとっては走りやすいコンディションでした。

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スタートから約2kmの沢戸橋。20代の和田優一、門出康孝が先行し、大瀬和文、牧野公則、奥宮俊祐などが続く。

この日の展開

ハセツネカップ男子のレースは序盤の登りの舗装林道を経てトッキリ場(11km地点)ではすでに牛田美樹 / Miki Ushidaがリード。昨年のこの大会で3位、スカイランナー日本シリーズ年間チャンピオンの牛田はその後も安定した走りでリードを続け、後続に4分差となる2時間39分に秋川渓谷リバーティオにフィニッシュしました。しかし、フィニッシュ直後の装備チェックで必携装備品のレインウェアを携帯していなかったとして失格となりました。

代わって今回のハセツネ30kの優勝を手にすることになったのはハセツネではベテランの奥宮俊祐。序盤で牛田に続いていたのは加藤淳一 / Junichi Kato牧野公則 / Masanori Makino大瀬和文 / Kazufumi Ooseでしたが、後半に入って奥宮が加速。第二関門の入山峠(25km地点)を過ぎたところではリードを奪い、そのまま逃げ切って2時間43分でフィニッシュ。昨年のハセツネ30k、ハセツネカップに続いての優勝を果たしました。わずか18秒差まで奥宮を追い詰めて2位に続いたのは牧野公則。昨年はハセツネ30kで6位、STYで8位、ハセツネカップで10位で今年も昨年以上の活躍を予感させる好レースを見せました。3位にはトップから1分差で土屋克則 / Katsunori Tsuchiya、4位に加藤淳一、5位に山口真彦 / Masahiko、6位に大瀬和文が続きました。

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25km地点付近の入山峠を走る牧野公則。Photo by Shinya Yamada

女子では関西をベースにロードマラソンで活躍している吉住友里 / Yuri Yoshizumiが序盤からレースをリード。昨年の俵千香のタイムを18分と大幅に上回る3時間8分でフィニッシュしましたが、こちらもフィニッシュ後に必携装備品のレインウェアの不携帯で失格に。この日の女子の優勝は松岡宏美 / Hiromi Matsuokaが3時間21分で手にしました。長野県をベースにトレイルランニングを始めた昨年はモントレイル戸隠20k、Rockin’ Bear黒姫36k、信州戸隠45kで優勝、武田の杜2位と地元の大会で次々に上位を獲得。25歳の新ヒロインがこの日のハセツネ30kで誕生しました。

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フィニッシュ後に笑顔を見せる松岡宏美 / Hiromi Matsuoka。Photo by Hitomi Iwasa, née Ogawa

2位には4分差で昨年のハセツネカップ3位で注目された大学生、高村貴子 / Takako Takamura。3位にベテランの大庭知子 / Tomoko Oobaが続きました。4位は齋藤美紀 / Miki Saito、5位は湯浅綾子 / Ayako Yuasa、6位に小堀紗希 / Saki Koboriが入りました。

当サイトでは続いて、男女でそれぞれ優勝した奥宮俊祐さん、松岡宏美さん、男子2位の牧野公則さんのインタビューをお送りします。

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昨年に続いてハセツネ30kで優勝した奥宮俊祐のフィニッシュ。

解説・優勝したはずが必携品不携帯で失格に

今回のハセツネ30kでは男女ともに優勝したはずのランナーがフィニッシュ後に失格となるハプニングがありました。大会審判部の説明では、今回の大会で必携装備品となっていたレインウェアについては受付時に装備チェックを行っていたものの、これらの選手についてフィニッシュ後に装備チェックを行ったところ携帯しておらず、選手の側でも装備チェック後にレインウェアをおいてレースをスタートしたことを認めた、とのことでした。トレイルランニングの大会で、トップでフィニッシュして優勝したはずの選手が競技規則違反で失格になるというのは少なくとも日本では初めての出来事だと思われます。

自然環境の中で行われるトレイルランニングというスポーツの性質から、自分の安全を守るための自助努力が参加者には求められ、そのためにどのようなルールを定めるかは大会主催者側の裁量により決まること。参加する以上はランナーはルールを守らなければならないというのは、誰にもうなづけることでしょう。今回のハセツネ30kで主催者がルールに違反したランナーを失格にしたことには何の異論を挟む余地もありません。

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しかし、トレイルランニングが社会で認められる新しいスポーツとして成長するにはルールとその執行が近代的な理念に基づいていることが求められるのではないでしょうか。

何がルール違反なのか明確に決めておく

今回のハセツネ30kで参加者に送付されたパンフレット(PDF)や大会要項を見れば、レインウェアが必携装備品であり、その不携帯は失格となることが明らかです。しかし、別途定められているハセツネCUP競技規則(この規則にハセツネ30kも準ずるとされています。)では「防寒具兼用の雨具」が推奨品なのか、必要装備品(不携帯は規則違反となる)なのか、どちらとも取れる表現です。背景を慮って解釈すれば、経験豊富なトレイルランナーが参加するハセツネカップには明瞭に必要装備品を定めないが、初心者も多いハセツネ30kは競技規則に上乗せして必携装備品を明確に定める、ということだと思われます。

ただ、参加者が何が必携装備品なのか容易に理解できるようにし、主催者の競技規則違反の判断に明確な根拠を与えるためには、競技規則と参加者向けの案内の間で表現を整合させておく必要があるでしょう。

また、そもそもなぜレインウェアを必携装備品とするのか、についてもその理由や意図を明確にしておくべきではないでしょうか。「規則で決まっているんだから守らないヤツは許さない」、という教条主義の理屈ではなく、「初心者も多い大会で自然環境への対処の経験が様々なので平等な競技条件とするために全員に携帯を求める」といった目的の説明が必要でしょう。この目的がなければ、後で述べる違反者へのペナルティの程度についても判断できず、「違反者は去れ」といった極端な見方を生みかねません。

失格以外にもいろんなペナルティがあり得る

レースで失格になるというのは単にレースに出なかったのと同じというわけではなく、違反行為への重大な非難を受けたことを意味します。このため、海外のトレイルランニングレースの場合は、規則違反に対する主催者の対応としては失格(ディスクオリファイ)だけでなく、より非難の度合いが小さいタイムの加算(完走タイムに15分、30分などを加算したり、途中のチェックポイントで一定時間の待機を求めるなど)も行われています。

こうすることで、「無罪か死刑か」といった極端な判断ではなく、大会としてどのようなルール違反をより重大と考えるかといった考え方を示したり、軽微なルール違反にも非難の意思を示すことができます。

それぞれのルールに目的があり、違反者への対応が懲罰よりもそもそも違反を起こさないことを狙いにするのであれば、失格以外のペナルティを設けるべきでしょう。

ルール違反者を安易に排除しない

ルール違反を起こした選手にも違反の内容にはよりますが、再び競技に戻る道は認められるべきでしょう。トレイルランニングが自然を愛し、その中で走ることを楽しむスポーツであるなら、その価値観を共有しようとする人に対しては常に寛容であるべきではないかと、当サイトは考えます。かつてなら小さいコミュニティの中で閉じていたルールや規範への背馳への非難が社会全体で行われる事例を最近よく見かけます。そうした非難により救われる人も多いでしょうが、しばしば非難は過熱しがちで、後になってみれば原因に対して過剰に思えることも少なくありません。背馳した規則はなぜ設けられているのか考えてみることで、どこかでそうした過剰に対する違和感を持てるのではないでしょうか。

ハセツネ30k リザルト

参加者全員のリザルトは大会ウェブサイトからご覧ください。

男子 / Men

  1. 奥宮 俊祐(Funtrails / montrail / MountainHardwear) 2:43:41
  2. 牧野 公則 (大月市消防署)2:43:59
  3. 土屋 克則  2:44:44
  4. 加藤 淳一 (Montura)2:47:13
  5. 山口 真彦  2:47:54
  6. 大瀬 和文 (Salomon)2:49:02
  7. 和田 優一 (フィジカルケア)2:49:17
  8. 重原 政幸 (ごり)2:52:41
  9. 森岡 光夫 (La Sportiva)2:52:51
  10. 佐藤 岳人 (アドバンテージ)2:53:35
  11. 名取 将大 (La Sportiva) 2:53:45
  12. 山口 兼孝  2:53:56
  13. 武藤 尚一郎 2:55:51
  14. 佐藤 憲次  2:56:18
  15. 寺尾 修 (見次クラブ)2:56:36
  16. 野田 武志 (新宿中央公園)2:57:16
  17. 山谷 良登 (北澤ぶどう園)2:57:43
  18. 吉田 賢治 (La Sportiva) 2:58:48
  19. 佐谷 尚紀 (無茶会)2:59:14
  20. 相浦 勇人  2:59:24
2016Hasetsune30k_men_podium

男子トップ6の皆さんのPodium Shot。 左から6位大瀬和文、2位牧野公則、優勝の奥宮俊祐、3位土屋克則、4位加藤淳一。5位山口真彦は欠席。

女子 / Women

  1. 松岡 宏美 (montrail / MountainHardwear)3:21:51
  2. 髙村 貴子 (Tecnica)3:25:32
  3. 大庭 知子 (霞ヶ丘AC)3:34:29
  4. 齋藤 美紀  3:47:52
  5. 湯浅 綾子  3:51:53
  6. 小堀 紗希  3:53:19
  7. 大松 知恵  3:56:29
  8. 竹村 香苗 (チーム山猿)3:56:58
  9. 中村 久美  3:57:57
  10. 寺岡 涼子 (TEAM松永)3:58:31
2016Hasetsune30k_women_podium

女子トップ6の皆さんのPodium Shot。 左から6位小堀紗希、5位湯浅綾子、2位高村貴子、優勝の松岡宏美、3位大庭知子、4位齋藤美紀。

参考

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DC Weekly 2024年2月6日 Rocky Raccoon 100、大紀町、V Trail、Ultra Fiord、くだまつ笠戸島

謝辞

今回のハセツネ30kではコース上での取材にあたっては山田慎也さんにご協力いただきました。感謝いたします。また、岩佐(旧姓小川)比登美から大会会場での取材にサポートを受けました。

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