ピレネー山脈を擁するスペイン北東部のカタルーニャは、欧州のトレイルランニング、スカイランニングの中心地の一つです。そのカタルーニャの中心となる都市、バルセロナに本社を置くBuffの名前を冠したトレイルランニング大会、Buff Epic Trailが105kmのレースとしてスタートしたのは2014年でした。
3年目となる今年の大会は7月22日金曜日から24日日曜日まで、105km、42km、21km、バーティカルキロメーターが開催されますが、その中でスカイランニング世界選手権 / Skyrunning World Championshipsが開催されます。世界選手権となったことで35カ国から有力選手が集まることとなった今年のBuff Epic Trailはスカイランニング、トレイルランニングのファンにとっては見応えある大会となります。とりわけ、日本からは前回2014年の世界選手権(Marathon du Mont-Blanc)に続いて、選抜された日本代表選手団が参加する二度目の世界選手権となります。日本代表の各選手が世界のトップ選手たちとどんなレースを展開するか、注目が集まります。
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トレイルランニングのオンラインメディア・DogsorCaravan(ドッグスオアキャラバン)では、前週のアンドラに続いてBuff Epic Trailが開催されるバルエラ / Barrueraに入り、スカイランニング世界選手権の模様を現地からレポートします。
当サイトのレポートは大会前の現地や日本代表選手の様子をお伝えするほか、世界選手権として開催される3つのレースの速報をお伝えしていきます。それぞれのレースがスタートするのは、バーティカルキロメーターが7月22日金曜日午前10時(日本時間同日午後5時)、105km(ULTRA)が23日土曜日午前6時(日本時間同日午後1時)、42km(SKY)が23日午前9時30分(日本時間同日午後4時30分)です。
この記事ではBuff Epic Trailのうち、スカイランニング世界選手権となる3つのレースについて、概要と有力選手をご紹介します。
ピレネー山脈の中核部、いくつもの山上湖を眺めながら進む105kのコース
2014年にBuff Epic Trailで初めて開催されたのは105kmのレースだけでした。コースの全長は105kmで累積獲得高度は7,950mD+。コースの最高地点は標高2,729mとなります。スタートのバルエラ / Barrueraの町をスタートすると北上しながら最初の12kmほどでいきなり標高差1400mの登りとなります。この最初の登りを含めて105kmのコースに標高差1000m超の登りが4度現れ、斜度56%という急斜面の登りも現れるというタフなコースです。コースの多くはアイグエストルタス・イ・エスタン・デ・サン・マウリシ国立公園の、車でのアクセスは限られる深い自然の中に設けられています。250人のランナーが参加し、制限時間は29時間。コースレコードは男女ともに2014年の優勝者であるイケル・カレラ / Iker Karreraの12時間19分16秒、ヌリア・ピカス / Nuria Picasの15時間0分29秒となっています。このレースで今回のスカイランニング世界選手権・ULTRAカテゴリーのチャンピオンが決まります。
女子 / Women
105kmの女子のレースは文字通り、世界のトップランナーによる優勝争いとなる予感で、今回の世界選手権の一番の見どころとなるでしょう。
優勝候補
女子では今季好調なカロリーヌ・シャヴェロ / Caroline Chaverot(フランス)がレースをリードしそうです。昨年はIAUトレイル世界選手権で2位の後、Lavaredo、Eiger Ultra Trailで優勝。今年もTransgrancanaria、MIUT(マデイラ)で優勝を重ね、先月の80km du Mont Blancでも優勝。80kmー120kmくらいのレースでの最近の好調ぶりからは今回の優勝に最も近い存在だといえます。一方、2014年にUTMF優勝など圧倒的な強さをみせたヌリア・ピカス / Nuria Picasはその後大きなレースには出ておらず、昨年はネパールでの山岳プロジェクトを地震で中断するなどしています。地元となるカタルーニャで再び長距離トレイルの女王として存在感を示すか。ネパールのミラ・ライ / Mira Raiは2015年に香港でのスカイランニングアジア選手権・MSIG Sai Kung 50kで圧勝したのち、欧州のレースを転戦し、80km du Mont Blancで優勝、Ultra Pirineuで2位など存在感を示しました。今シーズンはLavaredoでリジー・ホーカーのサポートに回っていたのがケガのせいでなかったとしたら、優勝争いの一角を占めることになるでしょう。そしてニュージーランドからはルース・クロフト / Ruth Croftがエントリーしています。2014年の富士登山競走で優勝してから、昨年はCCCで男女総合8位となる好タイムで優勝。今シーズンはTransvulcaniaで3位。この欧州、アジア・パシフィックから集まる4人のレース展開に注目です。
トップ10候補
上記の4人に加えてトップ10を窺うのは次のアスリート。
- ジェンマ・アレナス / Gemma Arenas(スペイン):先月のUltra Skymarathon® Madeiraで優勝。スペイン国内で有力選手を集めるGran Trail Peñalara 113kで昨年優勝。
- フェデリカ・ボイファバ / Federica Boifava(イタリア):2014年のスカイランニング世界選手権(80k du Mont Blanc)で6位。昨年のDolomiti Extreme Trail 55kで優勝。
- マグダレナ・ラグザク / Magdalena Laczak(ポーランド):2014年のスカイランニング世界選手権(80k du Mont Blanc)で3位。
- ヒラリー・アレン / Hillary Allen(アメリカ): 2015年は80k du Mont Blancで3位、The Rut 50Kで2位、Speedgoat 50Kで優勝など、スカイランニング関連の大会で欧米にわたって活躍。今年もTransvulcaniaで5位、Lavaredoの48kのレースで優勝。
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フェルナンダ・マシェール / Fernanda Maciel(ブラジル):2014年にUTMFで2位、UTMBで4位。今年はLavaredoで3位に。
- アンナ・コメット / Anna Comet(スペイン):昨年、Transvulcania、80k du Mont Blancで2位。
- ドン・リー / Dong Li(中国):2015年にスカイランニングアジア選手権・MSIG Sai Kung 50kで2位、TNF 100 Australiaで優勝し、世界の舞台に躍り出た。今年1月のHK100で優勝。
- ベス・カーデリ / Beth Cardelli(オーストラリア):オーストラリアを代表する長距離トレイルランナー。今年のUltra Trail Australiaで優勝。
- アンナ・ストラコバ / Anna Strakova(チェコ): 昨年、Ice Trail Tarentaiseで3位、IAUトレイル世界選手権・MaXi Raceで9位。今年のUltra Skymarathon® Madeiraでは4位。
日本代表として参加の丹羽薫 / Kaori Niwa、星野(福田)由香理 / Yukari Hoshino, née Fukuda、岩楯志帆 / Shiho Iwadateはトップ20位圏内が目標となりそうですが、トップ10入りの大金星に期待したいところです。
男子 / Men
ULTRAの男子のレースは欧州、アメリカなどから実力が伯仲するランナーが揃い、トップ10は混戦となりそうです。
その中で実績で一歩飛び抜けているのがルイス・アルベルト・ヘルナンド / Luis Alberto Hernando(スペイン)でしょう。前回2014年の世界選手権・80km du Mont Blancで優勝、Transvulcaniaでは14年、15年と連勝し、昨年のUTMBでは2位。ガッツ溢れる走りで今回、優勝に一番近い選手です。モロッコのザイド・アイト・マレク / Zaid Ait Malekはスカイランニングのシリーズ戦の上位常連として知られます。2013年UTMB2位でベテランのミゲル・ヘラス / Miguel Heras(スペイン)はスピードが持ち前のトレイルランナーですが、好不調の波が大きい印象です。その意味では先月、Lavaredoで見事に優勝して、ケガによる不調からの復活を印象付けたアンディ・サイモンズ / Andy Symonds(イギリス)には今回も期待が集まります。
さらにトップ10のどこを走ってもおかしくないアスリートの名前は次のように続きます。
- パウ・バルトロ / Pau Bartolo(スペイン):2014年CCC、2015年TDSでそれぞれ優勝。
- ポール・ハミルトン / Paul Hamilton(アメリカ):2013年The Rut 50K優勝、2014年Speedgoat 50Kで2位。
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クリストファー・クレメンテ / Cristofer Clemente(スペイン):昨年のスカイランニングアジア選手権・MSIG Sai Kung 50kで3位、今年のUltra Skymarathon Medeiraで優勝。
- フランコ・コレ / Franco Collé(イタリア):2014年にTor des Geants優勝。昨年、The Rut 50Kで優勝。
- フルビオ・ダピ / Fulvio Dapit(イタリア):スカイランニングのベテラン、最近では4月に開催されたMIUT(マデイラ)で6位でした。
- ハビエ・ドミンゲス / Javier Dominguez Ledo(スペイン):2013年UTMBで3位。最近では6月のLavaredoで3位。
- ベン・ダフュース / Benjamin Duffus(オーストラリア):前回のスカイランニング世界選手権・80km du Mont Blancで3位。今年5月のUltra Trail Australiaでは2位。
- マイク・フート / Mike Foote(アメリカ):2013年UTMBで5位、2014年UTMFで3位など、粘り強いレース展開を見せるランナー。今年6月のLavaredoでは途中で大きく失速して上位争いから脱落しています。
- マイク・ウルフ / Mike Wolfe(アメリカ):アメリカの実力あるトレイルランナーで欧州では前回のスカイランニング世界選手権・80km du Mont Blancで8位。最近ではアメリカのレース、Zion 50kに出て優勝しています。
さらにこの後にも実力が近接した選手が続いており、その中には日本代表の東徹 / Toru Higashi、小川壮太 / Sota Ogawaも含まれています。東、小川も11–20位の中盤が目標になるでしょうが、レース展開によってはさらに上位を狙えるかもしれません。二人に続く選手の名前としてドミトリ・ミチャエフ / Dmitry Mityaev(ロシア)、ジェライ・デュラン / Yeray Durán López(スペイン)、フランセスク・ソレ / Francesc Solé Duocastella(スペイン)、オーレリアン・デュナン / Aurelien Dunand Pallaz(フランス)、パトリック・ボアード / Patrick Bohard(フランス)、クリストフ・ルソー / Christophe Le Saux(フランス)が挙げられます。
深い自然の中、テクニカルな山岳コースの42k
昨年から設けられている42kのコースは105kのコースの後半部分に該当し、山の中の小さな村、アスポット / Espotからバルエラ / Barrueraへと向かいます。距離 42kmの累積獲得高度は3,200mD+。3000m級の山の稜線や峠、谷底、沼地をつなぐコースは途中で滝や山上湖のそばを通り、ガレたテクニカルなパートも現れます、こちらは500人のランナーが参加し、制限時間は8時間。昨年の優勝タイムは男子が4時間59分36秒、女子が6時間40分53秒でしたが、スカイランニング世界選手権となる今回の優勝タイムはこれらを大幅に上回ることとなるでしょう。
女子 / Women
42kの女子は欧州勢の勝負となりそうです。
優勝候補最右翼はマイテ・マイオラ / Maite Maiora(スペイン)。昨年はIAUトレイル世界選手権・MaXi Raceで3位の後、Limone Extremeで2位となっています。同じくスペイン勢ではスカイランニングで上位常連でゼガマ・マラソンで2度優勝して今年3位のオイハナ・コルタザー / Oihana Kortazar(スペイン)がSKYカテゴリーを得意としています。アゼラ・ガルシア / Azara Garcia(スペイン)は昨年のゼガマ・マラソンで優勝して注目を集めました。この3人のスペイン人に絡みそうなのは北欧の二人。まずは今年のゼガマで優勝して注目を浴びた若手、イングビルド・カスペルセン / Yngvild Kaspersen(ノルウェー)です。昨年は香港のLantau 2 peaksで優勝しています。スウェーデンのイーダ・ニルソン / Ida Nilssonは昨年のスウェーデンのウルトラマラソン、Ultravasan 90kで2位となったのち今年はTransvulcania、Mont Blanc Marathonで優勝。今勢いのある選手だといえます。
上の4人に続いてトップ10を狙うのは次のみなさん。
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パオラ・カブレリゾ / Paola Cabrerizo(スペイン):昨年のゼガマ・マラソンで2位。
- マルタ・モリスト / Marta Molist(スペイン): 今年のゼガマ4位、6月開催のLivigno Skymarathonで5位。
- エカテリーナ・ミトヤエワ / Ekaterina Mityaeva(ロシア):今年のモンブラン・マラソンで3位。
- ラグナ・デバツ / Ragna Debats(スペイン):昨年のGore-Tex® Transalpine-Run(268k)で優勝。
- 長谷川香奈子 / Kanako Hasegawa(日本): 昨年のスカイランニングアジア選手権・MSIG SaiKung 28kで3位。日本代表としてトップ10入りに期待がかかります。
男子 / Men
男子42kも実力が伯仲するアスリートが集まっています。
優勝候補の3人
その中で実績において頭一つ抜け出ているのは、まずマヌエル・メリラス / Manuel Merillas(スペイン)。昨年のゼガマで2位、Limoneで3位など、注目度の高いレースで活躍しています。イギリスのトム・オーウェンス / Tom Owensは前回の世界選手権・モンブラン・マラソンで3位。その後、昨年はIAUトレイル世界選手権で4位でした。そして、日本の松本大 / Dai Matsumotoがこの二人に絡む展開が見られるかもしれません。昨年のアジア選手権・MSIG Sai Kung 28kで優勝し、ゼガマで13位、Limoneで19位と欧州での経験が今回の世界選手権でどう生かされるかに日本のファンの注目が集まります。
トップ10圏内
アレクシス・セヴェネ / Alexis Sevennec(フランス)はDolomites Skyraceで2013年から昨年まで5位、5位、6位の結果を残しています。パスカル・エガリ / Pascal Egli(スイス)は昨年のDolomites Skyraceで3位、Tromsø Skyraceで4位。先月のLivigno Skymarathonで3位になっています。日本代表の近藤敬仁 / Yoshihito Kondo、上田瑠偉 / Ruy Uedaもトップ10入りを目標に、どこまで上を目指せるかに期待したいところ。スペインのヘス・ヘルナンデス / Jessed Hernandezは2014年のBuff Epic Trail 105kで2位となり、昨年はゼガマで6位でした。マルチン・スビエルク / Marcin Swierc(ポーランド)は前回の世界選手権・モンブラン・マラソンで8位。その前回に6位だったオーストラリアのブレイク・ホース / Blake Hoseは昨年のTransvulcaniaで3位でした。
20位圏内
次の皆さんも上に挙げた選手に実力は迫る存在。日本代表の星野和明 / Kazuaki Hoshino、牛田美樹 / Miki Ushidaもここに食い込んでほしいところです。
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デイビット・ビーン / David Byrne(オーストラリア):昨年のアジア選手権・MSIG Sai Kung 28kで5位。今年のTaraweraで2位。
- パブロ・ビラ / Pablo Villa(スペイン):先月のLivigno Skymarathonで5位。
- オスカー・カザル・ミル / Oscar Casal Mir(アンドラ):昨年のGore-Tex® Transalpine-Run(268k)で2位、今年4月のYading Skyrunで4位。
- ティルサ・タマン / Tirtha Tamang(ネパール):2014年のHK100優勝。
- マルク・カザル・ミル / Marc Casal Mir(アンドラ):今年4月のYading Skyrunで3位。先月のLivigno Skymarathonで8位。
今回初開催のバーティカルキロメーター
バーティカルキロメーターはスカイランニング世界選手権となる今回初開催となります。大会のメイン会場が置かれるバルエラ / Barrueraの教会の前をスタート、最初は105kのコースと同じトレイルに入りますが、やがて一部は斜度50度に達する尾根沿いに登ります。距離2.96mで標高1,095mから2,128mのフィニッシュを目指します。
女子 / Women
女子ではラウラ・オルグ / Laura Orgué(スペイン)、マイテ・マイオラ / Maite Maiora(スペイン)、ヴァネッサ・オルテガ / Vanesa Ortega(スペイン)、VKの世界記録保持者のクリステル・デワレ / Christel Dewalle(フランス)、テレーズ・スユルセン / Therese Sjursen(ノルウェー)、イングビルド・カスペルセン / Yngvild Kaspersen(ノルウェー)、エカテリーナ・ミトヤエワ / Ekaterina Mityaeva(ロシア)。日本代表の富士登山競走、3回優勝の小川ミーナ / Mina Ogawaがどんな走りを見せるかに注目。岩楯志帆 / Shiho IwadateがULTRAとのコンバインドに挑戦します。
男子 / Men
男子はフェラン・テイシード / Ferran Teixido(アンドラ)、サウル・アントニオ-パデュア(コロンビア)、アグステ・ロク / Agustí Roc(スペイン)、ヤン・マルガリト/ Jan Margarit(スペイン)、アレクシス・セヴェネク / Alexis Sevennec(フランス)、パスカル・エガリ / Pascal Egli(スイス)。日本代表の渡辺良治 / Ryoji Watanabeは今月に入ってびわ湖バレイVKで優勝してこの世界選手権に乗り込みます。このほか、上田瑠偉 / Ruy UedaがSKYとのコンバインドでVKを走ります。
スカイランニング世界選手権 / Skyrunning World Championships・バフ・エピックトレイル / BUFF® Epic Trail観戦に役立つリンク
- 大会ウェブサイト
- ISF(国際スカイランニング協会)のウェブサイト
- JSA(日本スカイランニング協会)のウェブサイト、日本代表選手一覧
- 105k(ULTRA)のレース概要
- 42k(SKY)のレース概要
- バーティカルキロメーター(VK)のレース概要
- 大会当時、各レースに参加する全ランナーの通過状況などが一覧できるライブ・トラッキングのウェブサイト(発表され次第、リンクします)
- 大会の公式となるBuffのTwitterアカウント @buff_es
- 大会の公式となるBuff SpainのFacebookページ