有力選手が集まってハイレベルなレースとなった105kは実力に定評のあるアスリートがその力を見せつけました。日本代表選手も善戦し、星野(福田)由香理 / Yukari Hoshinoが女子8位に入りました。
Sponsored link
欧州を代表するウルトラランナーが実力で圧倒
スペイン・カタルーニャのバル・デ・ボイ / Vall de Boíを拠点に先週末に開催されたBuff Epic Trailは42kが開催されたのと同じ大会二日目の7月23日土曜日の早朝にバルエラ / Baruerraの町をスタート。2年ぶりのスカイランニング世界選手権・Ultraカテゴリーとなっています。コースはバルエラをスタート・フィニッシュに、広大なアイゲストルタス・イ・エスタン・サン・マウリシ国立公園をぐるりと一周します。コース上には13箇所のエイドステーションが設けられていますが、多くは深い山の中でクルマでのアクセスが難しく、選手だけでなくサポートチームや応援する人たちに取っても厳しいコースです。累積獲得高度は7,950mD+でコース最高地点の標高は2,729m。
なお、コース中盤の50km地点付近からの約10kmは環境保護のため、競技として走ることはしないことが各選手に求められました。このことへの対応策として、全選手についてスタートからフィニッシュまでの所要時間から10%を減じた時間が公式なタイムとされています。
午前6時にバルエラの町をスタートした195人のランナー(うち女性は28人)の先頭に立ったのはイギリス人でフランス在住のアンディ・サイモンズ / Andy Symondsでしたが、そのすぐ背後には前回2014年の世界選手権チャンピオン(80km du Mont-Blanc優勝)で昨年のUTMBで2位のルイス・アルベルト / Luis Albert Hernando(スペイン)やドミトリ・ミチャエフ / Dimitry Mitieyv、ビビアン・レイノー / Vivien Reynaud(フランス)、アンドラウルトラトレイル二連覇のフランセスク・ソレ / Francesc Solé(スペイン)といった選手が続きます。この集団の中に日本代表の東徹 / Toru Higashiも加わっていて、46km地点では先頭を並走するアンディ・サイモンズ、ルイス・アルベルトに9分差の5位で続きます。
朝のうちはコースには霧雨が降り、崖のように急な下りでは時折足を滑らせる選手もいて、観戦する側が心配になるほどでしたが、日が高くなるにつれて雲は去って快晴になりました。71km地点となるアスポット / Espotにはルイス・アルベルトがトップ、2位のアンディ・サイモンズに12分のリードで到着し、エイドでの補給をあっという間に済ませて先へ進み、好調ぶりをうかがわせます。結局、このままルイス・アルベルトがリードを次第に拡大してバルエラにフィニッシュ。11時間36分20秒(上述の10%を減じた公式タイム、以下同じ)でBuff Epic Trail 105kを優勝し、2014年に続いて世界選手権チャンピオンの座に2回連続で就きました。
2位にはアンディ・サイモンズが12時間5分でフィニッシュ。6月末にLavaredo Ultra Trailで優勝したばかりですが、今シーズンの好調ぶりが印象的でした。3位にはスペイン・バスクのランナー、ハビエ・ドミンゲス / Javier Dominguez Ledoが持ち前の粘り強い走りで後半に順位を上げてフィニッシュ。12時間16分でのフィニッシュでした。日本の東徹はアスポット / Espotへのはやや厳しい表情をしながら10位で到着。「もう足が終わっている」といいながらも「ここまできたら最後まで」といってエイドを後にしました。残りの約40kmは厳しいレースとなったものの、14時間36分で22位でフィニッシュしました。この日、東よりも苦しい展開となったのは小川壮太 / Sota Ogawaでした。昨年は王滝50kで優勝、スカイランニング日本選手権(美ヶ原80k)では優勝した東をあと一歩まで追い詰めての2位と好レースを見せていましたが、今回は激変する天候のせいか、アスポットについた時には胃腸の調子が優れず補給も十分にできない状態。しばらく様子をみたものの回復せず、残念ながらリタイアとなりました。
女子のレースは一昨年昨年のこの大会の優勝者で今回も優勝候補の筆頭だったヌリア・ピカス / Nuria Picasが足のケガからの回復が十分でなく23km地点のエイドでリタイア。結果、もう一人の優勝候補であるカロリーヌ・シャヴェロ / Caroline Chaverot(フランス)が圧倒的な強さをみせ、終始男子も含めたトップ10争いに加わりました。タイムは13時間13分0秒でフィニッシュして総合10位でした。昨年からIAUトレイル世界選手権で2位、Lavaredo、Eiger Ultra Trailで優勝。今年に入ってTransgrancanaria、MIUT(マデイラ)で優勝を重ね、シャヴェロは先月の80km du Mont Blancでも優勝と好調ぶりが際立っていましたが、今回も期待を裏切りませんでした。
女子2位は1時間差で14時間15分でエバ・マリア・モレダ / Eva María Moreda(スペイン)、3位にイギリスのジャスミン・パリス / Jasmin Paris。4位にモー・ゴベール / Maud Gorbert(フランス)、5位はフェルナンダ・マシェール / Fernanda Maciel(ブラジル)と長距離トレイルで活躍するアスリートが続きました。日本代表では星野(福田)由香理 / Yukari Hoshinoが15時間54分で8位に。自身が目標としていたタイム(18時間、星野の調整前のたいmは17時間40分)を上回り、トップ10入りを果たしました。丹羽薫 / Kaori Niwaは17時間11分で12位、岩楯志帆 / Shiho Iwadateは24時間7分で21位で完走しています。
国別ランキングで日本は3位に
スカイランニング世界選手権では、選手の出身国をチームとして、成績上位の3人の獲得ポイントを合算して順位を競う国別ランキングの表彰も行われます。今回、日本チームはスペイン、チェコにつぐ3位となりました。
世界の壁は厚い、しかし日本のスカイランナーが切磋琢磨している成果が確認された今回の世界選手権
世界選手権として開催されたBuff Epic Trail 105kは欧州の長距離トレイルランニングで活躍するアスリートが予想通りの活躍をみせました。欧州、特にスペインの選手でUTMBのような国際的に知られたレースにはまだデビューしていないものの今回上位に入る選手がいるあたりに、フランスと並ぶトレイル・スカイランニング大国・スペインの層の厚さを目の当たりにすることになりました。
105kに出場した日本代表選手の中では星野(福田)由香理は女子8位となり、トップ5の表彰台にかなり近づいたといえます。今シーズンはUSM 50k(マデイラ)で9位、Korea 50kで優勝など、海外のレースに積極的に挑戦しているほか、国内でも上田VKに経ヶ岳バーティカルリミットのようなウルトラディスタンスとは異なるレースにも挑戦しています。そうした努力が今回の結果につながったといえそうです。東徹は意外にも100kmという距離を走ること自体が今回が初めて。さらに欧州のレースは初体験でしたが、序盤では上位選手にしっかりついていく走りをみせました。今回、苦しみながら完走した経験が、次の海外レースに向けたバネとなることを期待したいところです。
今回、表彰式の最後に行われた国別ランキングの発表で日本が3位となったことは、今回の日本選手団にとって嬉しいサプライズとなりました。JSA代表の松本大さんにとって、この国別ランキングでのトップ10入りが悲願だったといいます。無論、今回の出場選手の国別の構成に偏りがあったり、ナショナルチームとして組織された形で参加していない選手もいることを考えれば、このランキングが国別の実力を正確に反映しているとはいえません。しかし、日本でJSAが様々な努力で日本のトップアスリートを集結し、チームジャパンとして参加した結果が報われたことは間違いありません。個々の選手の力だけをとれば、世界のトップ選手と競い合える日本のアスリートはまだ少ないといわざるを得ません。しかし、今回のような世界選手権への挑戦をきっかけに互いに刺激を与え合うことはプラスに働くに違いありません。またそうした刺激を与え合う姿が、日本でスカイランニングのファンを増やしていくきっかけにもなることでしょう。
日本のスカイランナー、トレイルランナーからも注目を集めそうなBuff Epic Trail
今回はスカイランニング世界選手権として開催されたBuff Epic Trailに日本から参加したのは、日本代表選手団とJSAのメンバーがほとんどだったようですが、この大会自体は、誰にでも開かれている大会です。これまで欧州のトレイルランニング、スカイランニングの大会というと、アルプスやその周辺で開催される大会が日本ではおなじみですが、スペインはまだあまり知られていないように思います。楽しく挑戦しがいのある海外トレイルに関心のあるファンなら調べてみる価値がありそうです。
当サイトは取材を通じてコースの一部を見たにすぎませんが、ザレた感じの足元の良くない登りやどこまでも広がる荒涼とした風景は、コロラドのロッキー山脈を思い出しました。例えばUTMBのコースと比べると、より荒々しく野生的な感じです。
Buff® Epic Trail 105k / スカイランニング世界選手権・Ultraカテゴリー リザルト
全体のリザルトはこちら。タイムはいずれも上述の事情により、実際のタイムから10%短くした公式タイムです。
Men / 男子
- ルイス・アルベルト・ヘルナンド / Luis Alberto Hernando(adidas、スペイン) 11:36:20
- アンディ・サイモンズ / Andy Symonds(Scott Running、 イギリス) 12:05:07
- ハビエ・ドミンゲス / Javier Dominguez Ledo(Vibram、スペイン) 12:16:16
- マヌエル・アングイタ / Manuel Anguita Bayo(スペイン) 12:22:34
- ズデネク・クリス / Zdenek Kriz (チェコ) 12:36:00
- ジェライ・デュラン / Yeray Durán López(Buff、スペイン) 12:49:35
- セバス・サンチェス / Sebas Sánchez Sáez(スペイン) 12:53:15
- ルイス・フェルナンデス / Luis Fernandes(ポルトガル) 13:00:05
- キム・コリソン / Kim Collison(イギリス) 13:09:13
- サム・マカケオン / Sam Mccutcheon(ニュージーランド) 13:29:45
- 22. 東徹 / Toru Higashi(Asics、日本) 14:36:32
Women / 女子
- カロリーヌ・シャヴェロ / Caroline Chaverot(Hoka OneOne、フランス) 13:13:00
- エバ=マリア・モレダ / Eva Maria Moreda Gabaldón(スペイン) 14:15:01
- ジャスミン・パリス / Jasmin Paris(イギリス) 14:22:25
- モー・ゴベール / Maud Gobert (adidas、フランス) 14:50:52
- フェルナンダ・マシェール / Fernanda Maciel (The North Face / Redbull、ブラジル) 15:16:28
- クリスティナ・パティソン / Kristina Pattison(La Sportiva、アメリカ) 15:38:06
- ヒラリー・アレン / Hillary Allen(The North Face、アメリカ) 15:40:06
- 星野(福田)由香理 / Yukari Hoshino(Altra、日本) 15:54:24
- ジェマ・アレナス / Gema Arenas Alcazar(スペイン) 16:12:12
- ズザナ・アルバナコワ / Zuzana Urbancova(チェコ) 16:32:39
- 12. 丹羽薫 / Kaori Niwa(Salomon、日本) 17:11:34
- 21. 岩楯志帆 / Shiho Iwadate(日本) 24:07:25
関連レポート、写真集など
- スペインのトレイルランニング情報サイト、kataverno.comでSergei Mayayoの撮った日本のランナーの写真が多数。FOTOS Buff Epic trail 2016: Carrera 105k Campeonato Mundo Skyrunning. De Luis Alberto al farolillo rojo « Kataverno.com