富士山麓に降り続ける無情の雨。降り続ける雨の中、大幅にコースを短縮して開催された今年の大会は日本のトレイルランニングの歴史に残る大会となりました。9月23日金曜日、富士山麓を一周する169kmのコースで開催されるはずだったウルトラトレイル・マウントフジ Ultra-Trail Mt. Fujiのレース、UTMFは朝霧高原までの44kmのコースに短縮して開催されました。レース中も強い雨が降り続ける中、レースはディラン・ボウマン / Dylan Bowman (The North Face / Red Bull, アメリカ)が3時間46分38秒で男子優勝。女子はフェルナンダ・マシェール / Fernanda Maciel (The North Face / Red Bull, ブラジル)が4時間51分3秒で優勝しました。翌日の71kmのSTYは予定通り正午にスタートしましたが雨脚は次第に強まります。結局、午後3時45分ごろレースは中止となりました。
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今回のUTMFはUltra-Trail World Tour全12戦の第11戦でした。当サイトは今シーズンからUltra-Trail World Tourのオフィシャル・メディアパートナーに加わり、シリーズ戦となっている各レースについてお伝えしています。
今回のウルトラトレイル・マウントフジ / Ultra-Trail Mt. Fujiのレポートは、The North Faceのご協賛によりお送りします。
UTMF
降り続ける雨、スタート直前に衝撃のコース短縮
台風16号は日本列島をすでに通過したはずでしたが、金曜日の富士山麓は前夜から雨が降り続けました。深夜午前1時35分には富士宮市、富士市に大雨警報が発令。大雨警報が発令されている中でのトレイルランニング大会の開催は難しいというのが国内の大会主催者の常識で、UTMFの実行委員会は午後1時のスタートに向けて判断を迫られました。その結果、午前8時半にはスタート時刻の繰り下げや大会の中止を含む検討を行って正午までに発表するとのアナウンスがなされました。
その後、スタート会場の河口湖では午前の遅くには雨は上がり天気は回復に向かっているかにみえました。しかし、依然として富士宮市、富士市は大雨警報が発令されたまま。この間、A3麓の先にある涸れ川は腰近くまでの水流となっているなど、深刻な状況が伝えられます。そして正午に大会はUTMFのスタートを午後1時から午後3時へと2時間繰り下げること、A3麓(48km地点)にトップの選手が到着した時点で警報が解除されていない場合はレースを中止または中断すること、各参加者には今夜の宿泊の手配を勧めることが発表されました(その後、警報は午後2時36分に解除されました)。
そして午後2時半、スタート地点となる河口湖大池公園に身支度を整えたランナーが勢揃いして開催された開会式の冒頭、大会実行委員長の鏑木毅さんが悲痛な面持ちでUTMFのコースをA3麓までに短縮して48kmのレースとすることを発表。会場では大きなため息が聞こえました。さらに午後3時のスタート後にコース上に落石の危険が大きい箇所があるとしてフィニッシュ地点が麓から道の駅あさぎりに変更。これによりコースは約4キロ短縮された44kmとなりました。
大会側からはUTMFの完走者で希望するランナーは翌日正午にスタートする71kmのSTYに参加できることも発表されました。
雨の中のレースはディラン・ボウマンとフェルナンダ・マシェールが制覇
開会式でコースがA3麓までとなることが発表された直後には、集まった参加者には落胆の表情がみえました。しかし特に大きな混乱もなく、レースは大池公園をスタート。男子のレースはディラン・ボウマン / Dylan Bowmanがスタートからレースをリード、グザビエ・テベナール / Xavier Thevenard、ライアン・スミス / Ryan Smithが僅差で続きます。この日のコースは上述の通り道の駅あさぎりまでの44km、累積獲得高度は1,400mD+程度となり、スピーディーな展開。最後までディラン・ボウマンがリードを守って3時間46分で優勝しました。2位には2分差でグザビエ・テベナールが続き、優勝候補と見られていた二人が上位に入りました。3位、4位には鬼塚智徳 / Tomonori Onitsukaと須賀暁 / Satoru Suga。二人はA2本栖湖を出てからのロードで先行するランナーを捉えました。5位にはライアン・スミス、6位にはベヌワ・ジロンデル / Benoit Girondelと続きました。
女子のレースはフェルナンダ・マシェール / Fernanda Macielが序盤からリードしますがW1鳴沢(13km地点)ではエイドでの補給中に2番手の鴨井夕子 / Yuko Kamoiに追いつかれるほどの接戦。実際、その後のA1精進湖(20km)までのロードでは鴨井夕子がフェルナンダに代わってトップに。しかし、その後はフェルナンダが再びリードを奪い返して4時間51分でフィニッシュ。11分差で鴨井が2位になりました。3位には丹羽薫 / Kaori Niwa、4位に中国のシー・ヤンシュー / Yanxiu Shi、5位に高島由佳子 / Yukako Takashima、6位に星野由香理 / Yukari Hoshinoが入りました。
STY
さらに強まる雨でレースが中止に
UTMFが44kmに短縮された翌日。STYにエントリーしている約970人に加え、前日のUTMFを完走したばかりでSTYにも参加しようという173人のランナーが富士山こどもの国に集まります。しかし正午のレーススタートを前に雨脚は強まるばかり。しかしSTYは定刻通りにスタートするとアナウンスされました。
レースのスタート後もさらに雨脚は強まり、トップの選手数人が太郎坊(17km地点)を通過した14時ごろには94mm/hという猛烈な雨となります。富士宮市では午後2時34分に大雨警報が発令されました。一方、コース上ではあまりの増水にコースを進むことをあきらめてスタート地点のこどもの国に戻るランナーも現れます。結局午後3時ごろには大会からレースを一時中断し、全選手にコース上の最寄りのエイドステーションで待機するようにとの連絡が発信されました。そして午後3時45分ごろ、STYのレースを中止すると大会は発表。全選手はスタート地点のこどもの国から山中湖きららまでの各エイドから河口湖に順次戻りました。1000人以上の選手の搬送は概ねスムースに進んだ模様です。
一方、STYのレースに目を転じると序盤からレースを積極的にリードした大杉哲也をはじめ4ー5人のランナーがコースから外れるというハプニング。太郎坊では牧野公則 / Masanori Makinoがトップで通過します。しかしその後、すばしり(27km)からは荒木宏太 / Kota Arakiが次第にペースを上げ、山中湖(40km)にはトップで到着。宗石和久 / Kazuhisa Muneishi、ヴラド・イクセル / Vlad Ixelが続きました。女子はエミリー・ウッドランド / Emily Woodlandとマリー・マクノートン / Marie Mcnaughtonと香港の二人が先行。太郎坊ではウッドランドが先行しましたが、その後はマクノートンがリードを奪って女子選手でただ一人山中湖まで到着。2位のウッドランド、3位の大石由美子 / Yumiko Oishiはすばしりで足止めとなりそこでレースが中止されました。レースが中断されたためSTYには公式のリザルトはありませんが、各選手の通過状況は大会のLiveTrail(各選手の通過状況をリアルタイムで見られるウェブサイト)でみることができます。
観戦記・自然の脅威に対して勇気ある判断、しかし疑問も残る
今年のウルトラトレイル・マウントフジは降り続く雨に話題をさらわれた大会となりました。直前の天気予報では大会が行われる週末は金曜日の午前まで雨が残るものの、以降は天候が回復するという予報でした。しかし実際には土曜の午後まで雨、それも大雨警報が発令されるような激しい雨が降り続く週末でした。
そしてレースについてはUTMFがコースの大幅短縮、STYがレース中断という異例の事態に。こうした大会側の判断について参加者からは「自然の脅威に対しては逆らえない」、「難しい判断が迫られる中で最善の判断だった」と概ね前向きな声が目立ちました。しかしながら大雨警報が発令される中でレースをスタートさせたことは、後から振り返ってみれば中止あるいは短縮をあらかじめ見込んでいたようにも思えます。ならば、あえてスタートさせたのはなぜか?という疑問も生まれます。大会運営の様々な事情からどんな状況であってもレースをスタートしないという選択肢がないのであれば、リスクと様々な「事情」の妥協策としてUTMBのように代替コースをあらかじめ用意することが今後の課題となるのかもしれません。
今回の大会は短縮・中止となった後の選手への周知、選手の搬送といったオペレーションは非常に手際がよかったと前向きな評価が聞かれます。しかしその背後にはトレイルランニングが自然の中で行うスポーツであるがゆえのリスクと、競技としての成長とのバランスという大きなテーマが横たわっています。今回のウルトラトレイル・マウントフジもトレイルランニングの将来について考える様々な材料を残した大会となりました。
リザルト
リザルトはこちら(STYについては大会公式のリザルトはありませんが、リンク先では各選手の通過状況を見ることができます)。
UTMF男子(44kmに短縮)
- ディラン・ボウマン / Dylan Bowman (The North Face / Red Bull, USA) 3:46:38
- グザビエ・テベナール / Xavier Thevenard (ASICS, FRA) 3:48:33
- 鬼塚智徳 / Tomonori Onitsuka (The North Face, JPN) 4:01:28
- 須賀暁 / Satoru Suga (The North Face, JPN) 4:01:30
- ライアン・スミス / Ryan Smith (Rocky Mountain Runners, GBR) 4:02:07
- ベヌワ・ジロンデル / Benoit Girondel (ASICS, FRA) 4:03:34
- 大瀬和文 / Kazufumi Ose (Salomon, JPN) 4:04:08
- 小原将寿 / Masatoshi Obara (HOKA OneOne, JPN) 4:07:40
- サンゲ・シェルパ / Sange Sherpa (WAA, NEP) 4:24:44
- セバスチャン・シェニョー / Sebastien Chaigneau (The North Face, FRA) 4:25:53
- 小林慶太 / Keita Kobayashi (The North Face, JPN) 4:27:14
- 鳥海宏太 / Kota Toriumi (JPN) 4:27:26
- 松永紘明 / Hiroaki Matsunaga (The North Face, JPN) 4:27:40
- 吉田賢治 / Kenji Yoshida (La Sportiva, JPN) 4:27:54
- 加藤晶文 / Masafumi Kato (第1空挺団, JPN) 4:28:54
- ジョン・エリス / John Ellis (AUS) 4:29:07
- 田邉愼一 / Shinichi Tanabe (JPN) 4:31:33
- 野本哲晃 / Tetsuaki Nomoto (JPN) 4:33:01
- 嶋崎功一 / Koichi Shimazaki (JPN) 4:39:10
- 今西泰彦 / Yasuhiko Imanishi (JPN) 4:40:15
UTMF女子(44kmに短縮)
- フェルナンダ・マシェール / Fernanda Maciel (The North Face / Red Bull, BRA) 4:51:03
- 鴨井夕子 / Yuko Kamoi (Altra, JPN) 5:02:12
- 丹羽薫 / Kaori Niwa (Salomon, JPN) 5:10:22
- シー・ヤンシュー / Yanxiu Shi (CHN) 5:11:20
- 高島由佳子 / Yukako Takashima (JPN) 5:11:57
- 星野由香理 / Yukari Hoshino (JPN) 5:21:11
- 黒田清美 / Kiyomi Kuroda (JPN) 5:23:34
- 浅原かおり / Kaori Asahara (JPN) 5:33:21
- 大庭知子 / Tomoko Oba (JPN) 5:37:51
- 關利絵子 / Rieko Seki (JPN) 5:41:17
- コリーヌ・ウィリアムズ / Corinne Williams (USA) 5:43:29
- 政正恵 / Masae Masa (JPN) 5:45:23
- シルケ・コースター / Silke Koester (Rocky Mountain Runners, USA) 5:45:57
- 野間陽子 / Yoko Noma (JPN) 5:46:41
- 岡さゆり / Sayuri Oka (JPN) 5:46:46
- 新保佳代 / Kayo Shinbo (JPN) 5:48:49