初挑戦から20年、僕が富士登山競走で学んだこと 山岳アスリート・小川壮太に聞く【by HOKA ONE ONE】


日本一高い山に誰が一番早く登れるか。毎年7月末の金曜日に開催される富士登山競走は1948年に始まった日本で最も歴史ある山岳マラソンの大会です。富士吉田市役所前をスタートしてから約11kmは舗装路の長い登りが続き、そして吉田口五合目からは険しい登山道で山頂を目指します。五合目から山頂への標準的な所要時間は約6時間ですが、この大会で市役所前から五合目を経て山頂でフィニッシュするまでに設けられる制限時間は4時間30分。出場資格を満たしてエントリーした約2000人のうち、制限時間までに山頂にたどり着けるのはおよそ半分。富士登山競走を完走することは日々の鍛錬の証だといえます。

HOKA ONE ONEアスリートの小川壮太 Sota Ogawaさんは今年の富士登山競走を2時間59分38秒で完走して9位に。日本一の山で日本一速い選手となることを目指して次々に実力あるアスリートがこの大会に挑戦する中で、今年41歳になった小川壮太さんは今年もトップ10入りを果たしました。山梨県在住でトレイルランニングや山岳スキーなどで「山岳アスリート」として活躍する小川壮太さんに、今年の富士登山競走を振り返っていただきました。

40台でトップ10入り、見えてきた富士登山競走攻略のポイント

小川壮太さん

DC:壮太さんはほぼ毎年富士登山競走に出ていますよね。いつ頃から富士登山競走に出るようになったんですか?

最初に出たのは大学生の時でした。それ以来出なかった年もあるんですが、もう20回くらいは出ているんじゃないでしょうか。

DC:初めて出た時のご自身のタイムは覚えていらっしゃいますか?

確か、最初に出た時は3時間5分くらいだったと思います。でも2回目からは3時間15分とか20分くらいが精一杯になりました。なんといえばいいのか、頑張れば頑張るほど裏目に出るんです。そのころは富士登山競走の深みにハマったように感じましたね。

DC:コースにあわせて対策をしてもうまくいかなかった?

例えば、五合目以降の山登りのための練習を多くしたために体にダメージが残ってしまったことがありました。ある時はコース前半のロードでもっとスピードを出せるようにトレーニングをすると、その年は山ではタイムが出なかったり。そんな試行錯誤をずっと続けていました。練習のバランスが取れて結果が出るようになったのはほんの数年前のことで、それから3時間を切るタイムでフィニッシュできるようになりました。

DC:今、41歳ですよね。30代後半になってから3時間切りでトップ10入りを毎年続けているのはすごいことだと思います。

正直にいえば、最近になって身体が弾かなくなってきたなと感じています。でも富士登山競走はベテランの経験が活きる余地もあると思います。20代の頃は前半の舗装路の登りのスピードで貯金を作って後半の登山道に臨む、という走り方でした。今はロードで思い切って前に出たいところを我慢して、得意の登山道に入ってからじわじわと前の選手を捉えていくようになりました。昔はそんなふうに前半に我慢することができなかったんです。

2時間59分38秒で完走、9位になった小川壮太さん

ロードのスピードと山の脚力、様々な強み持った選手とのレースから学ぶ

DC:壮太さんにとっては富士登山競走とはやっぱり特別な存在ですか?

私はテクニカルな山を駆け下りるのが得意な一方で、富士登山競走のように登りだけのコースというのは苦手なんです。でも毎年7月にこの大会に向けて自分の苦手なことに向き合うことで、シーズン後半に向けて自分のコンディションが整ってくるような気がします。富士登山競走でどんな走りができたかによって、秋の大会に向けて自身が持てることもあれば、逆に課題が見つかることもありますね。自分にとってはバロメーターのような存在です。

富士登山競走はロードで活躍する選手、トレイルで活躍する選手がそれぞれの強みを生かして勝負できるちょうどいいコースになっていると思います。私もそれぞれ異なる強みを持った選手と競い合うことを通じて、毎年新しいことを勉強しています。だから、これからタイムや順位が落ちてきたとしても、現役として競技を続ける限りはこの大会に出続けるつもりです。

DC:71回を迎える歴史ある大会ですが、大会に出るようになってから20年、選手の顔ぶれや会場の雰囲気は変わりましたか?

まず、随分垢抜けてきたな、と思いますね。以前は富士登山競走というのは特別なレースでそれに出る人も特別な志を持った人たちばかり。大会のレジェンド、芹沢雄二さん(七連覇を含め10回優勝)をはじめとして富士登山競走一筋に取り組んでおられた方がしのぎを削る、という雰囲気でした。さらに国体に山岳縦走競技があった頃は、各県代表選手のほとんどが富士登山競走に出ていました。鏑木(毅)さんや望月(将悟)もその頃は毎年出ていて、秋の国体に向けてライバルの仕上がりはどうかを見極めたり、初めて国体に出る選手の実力を見極めたりしていたのを思い出します。

DC:その頃から比べると現在はいろんなバックグラウンドを持つ選手が出るようになりました。

その通りです。特に五郎谷俊(2017年、18年優勝)さんや松本翔(2015年、2016年優勝)さんのように実業団で活躍するアスリートが出場するようになったのは大きいと思います。彼らの富士登山競走での活躍がメディアで取り上げられる機会が増えましたし、それに刺激を受けて実力ある選手がますます富士山にやってくるのではないかと期待しています。

8月はTDSに挑戦、山岳レースの魅力を追求

DC:今シーズンの予定を教えていただけますか。

8月末にTDS(UTMBのレースの一つで121km)が控えています。HOKA ONE ONEのチームメイトで同世代のルドビック・ポムレジュリアン・ショリエも出ます。彼らと一緒にベテランらしい持ち味でレースを盛り上げられたらいいですね。あと、11月4日には私がプロデュースする「甲州アルプスオートルートチャレンジ」を今年も開催します。昨年初めて開催した大会ですが、今年はすでに前回の3倍ものエントリーがあって手応えを感じてます。このレースはトレイルランニングというよりも山岳耐久レースという言葉の方が似合う、国内では数少ないタフなレースです。この大会を通じて、山の知識や経験を総動員して難度の高い山を縦走する楽しさを知ってもらえたらと思っています。前回の経験を生かしていい大会にできるよう準備していますので楽しみにしてください。

HOKA ONE ONEのCHALENGER ATR 4、Speedgoat 2が今期の定番

大会会場のHOKA ONE ONEブースには「走るマシュマロ」が登場。

DC:今回の富士登山競走はどのシューズで走りましたか?

今回はHOKA ONE ONEのプロトタイプのシューズでテストを兼ねて走りました。走行性能とクッション性のバランスを高めたシューズで、ロードとトレイルがミックスした富士登山競走のようなコースにはいいシューズになりそうです。

DC:壮太さんにとってHOKA ONE ONEのシューズの魅力とは?

高いクッション性で脚にかかる負荷を抑えることを重視しているところですね。それは私にとってはアスリートとしての寿命を延ばすことにつながります。あと私のようなアスリートからのリクエストやフィードバックを尊重してくれることも、私がHOKA ONE ONEのシューズづくりを信頼する理由です。例えば今シーズン登場したEVO JAWSは、チームメイトのマルコ・デ・ガスペリが開発に加わって、トレイルでスピードを求めるランナーの声に応えた200gを切るような軽量シューズ(注・27.0cmで204g)ですが、HOKA ONE ONEらしくミッドソールの安定性には妥協はありません。

DC:HOKA ONE ONEのシューズで壮太さんから日本のトレイルランナーに勧めたいモデルを教えていただけますか。

まずオススメしたいのはCHALLENGER ATR 4です。これは軽くてスムーズな走り心地が特徴で、濡れたトレイルからロードまで幅広いコンディションに対応するトレイルランニングシューズです。今シーズンは足型が幅広の足にもフィットするようになりましたから、今までHOKA ONE ONEは足型が合わなかった、という方にも試していただきたいですね。初心者から上級者までオススメしています。あと「チャレンジャー」という名前も個人的に共感できて好きなんです。

CHALLENGER ATR 4

タフな山岳トレイルを走破する、という私のスタイルに適しているのがSPEEDGOAT 2です。これはフィット感、安定性、耐久性、グリップ性が高いシューズで、チームメイトのルドビック・ポムレ(2016年UTMB優勝)もUTMBにはいいシューズだと話していました。ヨーロッパの固いトレイルからもクッションで脚を守ってくれます。

SPEEDGOAT 2

あとは7月に入って発売されたばかりのEVO MAFATEはレユニオンのような長距離の山岳トレイルを想定したシューズで、クッション性、耐久性、アウトソールのグリップ力を高めています。100マイルを走るならぜひチェックしていただきたいですね。

DC:ありがとうございます。まずはTDSでの活躍を楽しみにしています。

(協力:HOKA ONE ONE