夕方からは気温も風も穏やか、霧も出ることはなく、走りやすいコンディションでした。しかし、強い日差しで気温が30℃を超えた午後1時からの数時間が、今年のハセツネCUPの全てを決めました。これまで上位に入った経験を持つ選手たちが浅間峠を過ぎると次々に大ブレーキがかかる中、男子の上位陣でこの前半をスマートに乗り切れた選手は限られました。この中から今シーズンに好成績を連発している三浦裕一 Yuichi Miuraが今年のハセツネCUPを制しました。女子では高村貴子 Takako Takamuraが前半が厳しかったことなど感じさせない別格の走りを見せて、三連覇を達成。ハセツネCUPの三連覇を達成したのは間瀬ちがやに続いて二人目となります。この他、トップ3には男子で2位に城武雅 Masashi Shirotake、3位に矢嶋信 Makoto YajimaとハセツネCUP初挑戦の二人が続きました。女子は2位が宮﨑喜美乃 Kimino Miyazaki、3位が立石ゆう子 Yuko Tateishi。宮﨑は2014年に11位となって以来、立石は初参加でこちらもフレッシュな顔ぶれとなりました。
一方、最初の数時間の難コンディションのためにリタイアが続出、完走率は例年を大幅に下回る66.7%に止まりました。
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(写真・浅間峠を3位で通過した三浦裕一。Photo by Koichi Iwasa, DogsorCaravan)
レースの展開
女子
今回のライブ速報は(株)ニフコがリリースしたシューレースキット「SPLC」のご協賛によりお送りしました。
高村貴子 Takako Takamuraは今回も他の女子選手を寄せ付けないレースを展開。スタート直後の気温の高い中、浅間峠 22.7kmでは女子の後続選手にすでに20分弱の差をつけてリード。月夜見 42.0kmでは33分、御岳 58.0kmで34分、フィニッシュでは37分とリードを広げての圧勝で三連覇を達成。2015年に3位となったことも含め、25歳でハセツネCUPの女王と呼ぶべき偉業です。しかしタイムは厳しいコンディションのため自己ベストの昨年(9:17:30)におよばない9:29:09にとどまりました。高村はレース後のインタビューでは「ハセツネが大好きなので来年も出て四連覇、そして大会記録に挑戦したい」(現在の大会記録は8:54:07、2008年・櫻井教美)と話していました。今シーズンは医大生として忙しい中で9月のスカイランニング世界選手権(スコットランド)で10位になるなど、国際的な舞台に活躍の場を広げています。
レース序盤に高村に続いたのは立石ゆう子 Yuko Tateishiと宮﨑喜美乃 Kimino Miyazaki。二人の間は1分ほどでしたが、月夜見 42.0kmを前に宮﨑が前へ出ます。事前の目標に近いタイムで各ポイントを通過できたという宮﨑が高村から37分差となる10:06:10でフィニッシュして今回のハセツネCUPで準優勝となりました。今シーズンは4月のUTMFで8位になったのに続く好成績です。3位になった立石は月夜見から御前山を経ての御岳 58.0kmで宮﨑に6分の差となりましたが、フィニッシュでは宮﨑に7分差で3位に。今年になって山やトレイルを走り始めたばかりですが。今年はいずれもスカイランニング世界選手権となっていた上田VK、ひろしま恐羅漢(63km)で優勝。今回、注目の女子アスリートとして存在感を示しました。
4位には9月のIAU100km世界選手権で4位となったばかりの太田美紀子 Mikiko Ota。5位は昨年もこの大会で5位だった吉田広美 Hiromi Yoshida。6位は2週前に上州武尊山120kを走ったばかり(5位)の浅原かおり Kaori Asaharaとなりました。
男子
男子のレースは城武雅 Masashi Shirotakeが序盤をリード。浅間峠 22.7kmにトップで到着した城武のタイムは2:21:55で2014年の大会記録(上田瑠偉)から7分遅れで、7時間30分くらいの完走タイムとなるハイペース。2位で続いていた川崎雄哉 Yuya Kawasakiに6分の差をつけていました。しかし、城武はその後両脚が攣るというトラブルで、三頭山で立ち止まって様子をみるほど。2番手の川崎も浅間峠を越えたあたりからペースダウン。三頭山から下りてきた鞘口峠では三浦裕一 Yuichi Miuraがトップで通過。城武、小原将寿 Masatoshi Obaraが続きました。
毎年、様々なドラマが起こる月夜見 42.0kmですが今回は三浦がトップで通過、そのまま三浦裕一がフィニッシュして今年のハセツネCUPを勝ち取りました。脚が攣った城武ですが、6分差の2番手て月夜見へ。城武は調子の悪さから「もうやめたい」といいながらも三浦を追って月夜見を出発。その後も御岳 58.0kmで三浦に7分差、フィニッシュでも13分差で2位に。今年のハセツネ30kで優勝した際にも聞いたとおり、フルマラソンでの自己ベストは2時間19分というスピードの持ち主である城武ですが、トレイルのレースは始めたばかり。しかし、ハセツネCUPのコースを全て通して走る試走はこの夏に三度、その際には7時間45分で完走したといいますから相当な実力の持ち主です。2位という結果だけでなく、トラブルの後のレース後半の粘り強さが印象的でした。
二人に続く3番手を走っていたのは小原将寿。御岳 58.0kmをトップから19分、4番手の矢嶋信 Makoto Yajimaとの間は17分開いていました。しかし、日の出山を過ぎたところでコースをロスト。変電所のようなものが見える舗装路に出た、とのことなので、梅ノ木峠のアンテナ塔のあたりまでロストした模様。往復で20-30分のロストとなりました。小原がロストしている間に矢嶋が3位に。そのまま三浦から50分差で3位でフィニッシュしました。小原は矢嶋から12分遅れて4位となりました。
5位には菊嶋啓 Kei Kikushima、6位に牧野公則 Masanori Makinoが入りました。
観戦記・暑さでレースは大荒れ、「山岳耐久」の原点を感じさせた今年のハセツネCUP
大会が開催された10月7日は台風が去って温かい空気が入ったため気温が上昇。もよりの青梅では午前11時に31.4℃に達しました。午後3時ごろ、標高840mの浅間峠の気温計は22℃を指していました。その後、夕方には気温は下がり、霧もなく恵まれたコンディションに。しかし、午前1時から数時間の暑さが参加選手を苦しめた結果、前回が74.1%、前々回が78.3%だった完走率は66.7%に止まりました。上位選手においても、ハセツネCUPの経験豊富な選手が次々に調子を崩してペースを落としたりリタイアすることになりました。それだけに、優勝した三浦裕一、高村貴子をはじめ上位入賞した各選手は走力だけでない強さを今回のハセツネCUPで発揮したことになります。
中でも、今回ハセツネ初挑戦の城武雅(男子2位)、矢嶋信(男子3位)、立石ゆう子(女子3位)、2014年以来2回目の宮﨑喜美乃(女子2位)が上位に入ったことが、今回のハセツネCUPの大きな特徴でした。今回の結果を解釈するならば、「ハセツネCUPは近年スピードがものをいうレースになってきたとはいえ、一度コンディションが厳しくなれば、自分のペースを守ってコース終盤まで粘れる選手が栄冠を勝ち取る」、ということかもしれません。その意味ではハセツネCUPの原点である登山家のトレーニングや、「山岳耐久レース」という大会の原点を思い起こさせる大会でした。
リザルト
全体のリザルトはこちら。
男子 Men
- 三浦裕一 Yuichi Miura 7:52:06
- 城武雅 Masashi Shirotake(TEAM RXL) 8:05:35
- 矢嶋信 Makoto Yajima 8:42:40
- 小原将寿 Masatoshi Obara (ANSWER4) 8:54:31
- 菊嶋啓 Kei Kikushima 8:56:30
- 牧野公則 Masanori Makino (Salomon) 8:57:07
- 伊藤健太 Kenta Ito 9:02:41
- 細山雄一 Yuichi Hosoyama 9:09:34
- 伊東努 Tsutomu Ito 9:09:49
- 牛田美樹 Miki Ushida(inov-8) 9:11:31
- 野田武志 Takeshi Noda 9:17:51
- 古賀聖 Sei Koga 9:21:07
- 橋本哲二 Tetsuji Hashimoto 9:21:44
- 駒村俊介 Shunsuke Komamura 9:25:18
- 中川大輔 Daisuke Nakagawa 9:27:53
- 冨塚翔亮 Shosuke Tomizuka 9:39:35
- 山本浩平 Kohei Yamamoto 9:40:31
- 川崎雄哉 Yuya Kawasaki 9:41:10
- 柴田幸生 Yukio Shibata 9:41:12
- 吉田賢治 Kenji Yoshida (La Sportiva) 9:41:16
このほか、当サイトのプレビューで紹介した男子選手の結果は次の通りでした。
- 21位 栗原健誌
- 25位 荒木宏太
- 26位 平賀太智
- 28位 佐谷尚紀
- 32位 円井基史
- 34位 シン・ジェドク 沈在徳 Jaeduk Sim
- 43位 東徹
- 82位 長田豪史
- 94位 佐藤雄太郎
- 135位 秋元佑介
- 336位 名取将大
- DNF: 吉原稔、小川壮太、大瀬和文、須賀暁、八木(小林)慶太、岩井竜太、土屋克則、森本幸司、嶋崎功一、小山真一、山谷良登、谷允弥、寺尾修、横内宣明
- DNS: 奥宮俊祐、小林誠治、堀江謙一、澤田幸治、貝瀬淳、山田琢也、細木郁生、横山峰弘
女子 Women
- 高村貴子 Takako Takamura 9:29:09
- 宮﨑喜美乃 Kimino Miyazaki(The North Face) 10:06:10
- 立石ゆう子 Yuko Tateishi 10:13:32
- 太田美紀子 Mikiko Ota 10:38:07
- 吉田広美 Hiromi Yoshida 10:56:43
- 浅原かおり Kaori Asahara 11:17:10
- 大庭知子 Tomoko Oba 11:24:38
- 久津間紗希 Saki Kutsuma 11:39:03
- 青木奈和子 Nawako Aoki 12:07:12
- 關利絵子 Rieko Seki 12:07:30
- 中野沙知 Sachi Nakano 12:09:55
- 松井一葉 Kazuha Matsui 12:17:35
- 村井絢子 Ayako Murai 12:17:48
- 針谷香苗 Kanae Harigaya 12:42:37
- 野間陽子 Yoko Noma 12:42:37
- 岡崎愛 Megumi Okazaki 12:57:33
- 中村美香 Mika Nakamura 13:00:50
- 吉田ゆかり Yukari Yoshida 13:07:05
- 折戸小百合 Sayuri Orito 13:18:27
- 大松知恵 Chie Omatsu 13:20:51
このほか、当サイトのプレビューで紹介した女子選手の結果は次の通りでした。
- 39位 湯浅綾子
- DNF: 斎藤綾乃、林絵里、渡邉ゆかり、岩村聖華、山室宏美、湊瑛穂、三浦枝利子
- DNS: 星野緑、福田恵里佳、又井ゆうこ、成田志保、寺岡涼子
謝辞
今回のライブ速報をお送りするにあたっては多くの方にご協力いただきました。特に上宮逸子、佐藤千大、矢崎智也、山田慎也、山登祐太、渡邉孝浩(五十音順)の皆さんにコース上からのレポートでご協力いただきました。岩佐比登美からレポート全体についてアドバイス、協力を受けました。今回も大会会場ではたくさんの皆さんから励ましのお言葉を頂戴しました。心より感謝いたします。