眺めのいい走りやすいスピードレースになるものと思っていたら思いがけない難コースに悶絶。昨年11月末に中東の国、オマーンで開催されたOman by UTMB®︎は今回初開催の137kmのウルトラディスタンスのトレイルランニングレース。日本から唯一参加した当サイトの中の人、岩佐のレポートをお送りします。
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UTMB®︎が全面協力して中東の国、オマーンで開催されたウルトラ・トレイルのレース
UTMB®︎はこれまでの大会運営の経験とノウハウを生かして世界の魅力的なトレイルを開拓する取り組みを始めていて、昨年2018年3月にはその最初の成果として中国でGaoligong by UTMB®︎が開催されました。続く第二弾として開催されたのが11月29日のOman by UTMB®︎。なお今年2019年4月5-6日には第三弾となるUshuaia by UTMB®︎(アルゼンチン)の開催が決まっているほか、Gaoligong by UTMB®︎は来年の2020年3月21-22日に第二回大会が開催されます。
オマーンは中東のアラビア半島の東端に位置する国です。他の湾岸諸国と同じく豊かな産油国で、年間を通じて雨はほとんど降らず夏の間は平均気温が40℃に達するという厳しい気候です。しかし、冬の3ヶ月はその暑さも和らぎ日本でいえば春の終わりくらいの過ごしやすさになります。暑さと乾燥という気候からは見渡す限りの砂漠をイメージしますが、オマーンの北部には標高2,000m前後の高地が続くアフダル山地があり、Oman by UTMB®︎はそこをコースとしています。このアフダル山地は標高が高いので暑さがしのぎやすく、小さな町やリゾート地が点在しています。137kmのコースはこれらをつないでいるのですが、そのうちの80kmはフランスのUTMB®︎のチームが協力して新たに設定したコースだとのこと。
オマーンの旅へ出発、でも出発前にオンラインビザの申請を忘れずに
Oman by UTMB®︎に参加するため、まずはオマーンの首都・マスカットに向かいます。今回、日本からカタール航空でドーハまで約12時間、ドーハからマスカットまで1時間50分。探してみると、日本からはインドを経由する航空便もあるようです。マスカット国際空港は今年3月に新ターミナルがオープンしたばかりでとても快適でした。
あと気をつけておきたいのは日本からオマーンに入国するには観光ビザの取得が必要です。オマーン国のオンラインビザ申請ウェブサイトで申し込みます。ウェブサイトは英語で表記されていて、最初にIDとパスワードを登録してアカウントを作ります。そのアカウントでログインしてから氏名や生年月日、パスポート番号などを入力、パスポートの画像、自分の証明写真アップロードして、ビザ申請料をクレジットカードを使ってオンライン決済で支払います。支払いを済ませるとしばらくしてからビザ許可のEメールが届くのでこれを印刷しておきます。ビザ申請料は10日間の観光ビザで5リアル(約1400円)、30日間だと20リアル(約5,700円)となっていました。マスカット国際空港には入国審査の手前にビザをその場で申請できるカウンターがあって長い列ができていましたが、オンラインでビザを取得しておけばこのカウンターに並ぶ必要はなく入国審査に直行できます。なお、観光ビザは申請が許可されてから入国まで1ヶ月間有効とのことなので、オマーンへの旅行が近づいてきたら忘れずにオンラインでビザ申請をしておきましょう。
預け入れたバッグを受け取って到着ロビーに出ると、今回のメディアツアーの参加者の皆さんに合流。車でホテルに向かいました。ちなみにマスカットはもちろんオマーン国内には鉄道がなく、乗り合いのバスもあまり観光には使われない様子。旅行者はタクシーやハイヤーを使うことになります。Oman by UTMB®︎に参加する場合は、主催者が用意するパッケージツアーに参加するのがよさそうです。
海外取材で空港に着いたらまず考えるのはスマートフォンの通信回線の確保。今回は宿泊したホテルに隣接するショッピングモールのOmantelのお店で旅行者向けのプリペイドのSIMカードを購入。1週間有効な2GBのデータ通信に、SNS専用のデータ通信が1GBといくらかの音声通信・SMSがついて7リアル(約2000円)でした。ちなみに帰国の前日にはデータ通信を使い果たしてしまいそうに。Omantelのスマホアプリで1リアルで1GB(使用開始から24時間有効)のデータプランを買おうとしたのですが、クレジットカードの決済が通らず。マスカットに戻ってからOmantelのお店の店頭にあった自動支払機を使ってみたところ、クレジットカードでデータプランを買うことができました。さらにちなみにオマーンの電気のコンセントはイギリスや香港と同じBFタイプです。
街も自然もまだ観光地になりすぎていないのが魅力
オマーンに到着してから、最初の3日間は首都のマスカットを拠点に観光しました。マスカットは人口77万人の大都市ですが、市街地はかなり広く分散しています。最初に訪れたのはオマーン国立博物館。2016年にオープンした博物館の建物は壮麗で、ギャラリーは先史時代の石器からはじまるオマーンの歴史と文化を包括的にカバーする重厚な内容です。オマーンは17世紀にポルトガルを放逐してからはインド洋全域に商船を送る海洋貿易国となります。その結果、東アフリカ沿岸部を支配下に入れて19世紀にはザンジバル(現在のタンザニア)に首都を置いていた、という歴史があります。この辺りの予習をしておけば半日以上はじっくり観ることができるボリュームのある博物館でした。
マスカットから車で海岸沿いに東へ2時間半のところにあるのがワディ・シャブ Wadi Shabの渓谷。「ワディ」とは「涸れ川」という意味で、ワディ・シャブは海岸の背後には標高2000m級の山地から流れ出てくる川の一つ。川の両岸にそそり立つ崖の間に天然のプールがあることで有名なスポットです。
メディアツアーの皆さんと一緒に川の河口に到着すると、対岸にあるハイキングコースに行くためにまずは渡し船に乗ります。対岸に到着すると川の上流にある天然のプールに向けてハイキングをスタート。川の両側は高さ2-300mの崖となっていて、その間を進んでいきます。岩を越えたり片側が川へと切れ落ちていてスリルのある場所もありますが、よく歩かれているトレイルで特に危険なところはありませんでした。訪れた日は曇り空でしたが、日差しの強い日には日焼け止めや水分補給が必要とのこと。
翌日はなんと海へ。オマーン湾に浮かぶダイマニヤット島でのシュノーケリングに出かけました。ダイマニヤット島はサンゴ礁でできた9つの小さな島の集まりで、全部集めても面積は100ヘクタール。自然保護区に指定されていて小さな監視施設があるだけで、観光施設などは全くない自然のままの島です。マスカットのマリーナからは70km、約1時間ほど、時折高い波でしぶきを浴びながらプレジャーボートで向かいます。
世界最高レベルに美しく、難易度の高いコースを持つOman by UTMB®︎
首都・マスカットでの観光ののち、いよいよ週末に開催されるOman by UTMB®︎の選手受付やレース後のセレモニーが行われる内陸の町、ニズワ Nizwaに移動です。マスカットからは約170km、高速道路で2時間半ほどの所要時間です。実はニズワに入ったのは大会が夜にスタートするその当日のお昼頃。選手受付、必携装備のチェックにレースのブリーフィングを受けて、ホテルに戻ってレースのための装備やウェアのチェックをしたらあっという間に夕方になってしまいました。
ここでOman by UTMB®︎がどんなレースなのか紹介しましょう。今回が初開催なので、視界の開けたトレイルの写真とコースの距離が137kmで制限時間が44時間という情報から比較的楽に完走できるレースになるのではと予想していました。しかし実際には完走率44%で世界有数の難易度の高いウルトラディスタンスのトレイルランニングレースとなったのでした(あとで紹介する通り、今年開催される第二回大会ではコースは166kmと長くなるほか、50km前後のレースも新たに開催されます)。
- コースは岩の段差で走りづらいテクニカルなトレイルが多い:Oman by UTMB®︎のコースはスタートとフィニッシュの場所が異なるポイント・トゥ・ポイントのコース。スタート直後の10kmちょっとは走りやすいワディ(涸れ川)の中の林道のようなコース。その後はアフダル山地の中の小さな村や現在では人が住んでいない廃村となった場所をつないでいて、ワディが刻んだ深い渓谷の間を進んだり、渓谷を登ったり下りたりとアップダウンを繰り返します。乾燥した土地なので高い植物はなく、トレイルは岩の上の足の置きやすい場所に一歩一歩を置く感じで進みます。岩に段差があるので、つまづきそうになることもしばしば。コースの高低図をみると高低差は少ないように思えるのですが、実際には小さな起伏がたくさんあってなかなか簡単には進ませてくれません。
- 危険な箇所はわずか、コースマーキングの見落としに注意:コースの一部で崖をトラバースしていくところに足元の悪い岩場となっているところがあり、そこには安全確保のためにワイヤーが設置されました。選手はこのパートに入る前にハーネスとヘルメットを装着して、安全を確保しながら通過することになります。しかし全体としてみればそうした危険な箇所はほとんどありません。コース上では町や山の方向を示す道標はほとんど見ませんでしたが、石を積んだケルンはたくさん見かけました。おそらくはかつては地元の人たちがこのトレイルを使って行き来をしていたのでしょう。レースのためのコースマーキングはかなりしっかりつけられています(コース全体で22,000個!)。ただ、緑色のペンキの丸印と小さめのプラスチックの反射板のみとかなり控えめです。トレイルの雰囲気を壊さない点は素晴らしいですが、見落とさないように注意が必要です。
- 気候は穏やか、でも夜の冷え込みと日中の日差しに注意:オマーンの冬は平均気温が20℃前後と過ごしやすく、Oman by UTMB®︎が開催される11月末はトレイルランニングには最適な気候となります。それでも朝晩は気温が下がり、レースのコースの大半は標高2000mを超えるアフダル山地の中なのでさらに気温は下がるので、ある程度の寒さ対策は必要となります。一方、日中は冬でも日差しはかなり強いので日焼け止め対策が必須。レースではサングラスや日除け付きのキャップが必携装備となっています。
- エイドステーションの数は多いが、提供されるのは最小限のもの:137kmのコースにはフィニッシュまでに21箇所のエイドステーションがあるので、水分の補給に困ることはありません。ただ、水の補給のみのエイドは本当に水とスポーツドリンクのみ、補給食が取れるところも加えてコーラにフルーツとクラッカーやビスケットくらいで温かい食事が取れるところはありません。それ以上の補給が必要な場合はランナー自身が必要なものを携行する、というのは当たり前のことではありますが忘れないようにする必要があります。
実際に走ってみた→52kmで制限時間に間に合わずリタイア
1週間のオマーン滞在のメインイベントはもちろんOman by UTMB®︎への参加です。レース当日の夕方、準備を整えてニズワから車で約20分ほどのスタートラインへ向かいます。今年初開催ながらも57カ国から326人が参加するスタートラインは、選手だけでなく地元の皆さんがたくさん集まって盛り上がります。
レースは午後7時30分にスタート。ぐるっと町の中を一周してからワディ(涸れ川)に沿って走ります。最初の約20kmは緩やかな登りが続いて走りやすそうですがペースは抑えて進みます。スタートから13kmの最初のエイドステーションを過ぎるとコースは川の流れに沿って大きな岩の間を進み、小さなアップダウンを繰り返すようになります。その後は林道のスイッチバックで登りが続いたあと、夜空の下に荒涼とした岩場のトレイルが広がる中を進みました。この辺りになると前後の選手との間の少し広がってきたので、コースマーキングを見落とさないように注意して進みます。大きなアップダウンはないのですが、岩に段差があって時々足のつま先を引っ掛けて転びそうに。なかなかスピードが上がりません。
次のエイドステーションまでのセクションは約5km。ワディが作った巨大な渓谷を進みましたが、巨大な崖と真っ青な空が作り出す壮大な景色に圧倒されっぱなし。いつまでもこのトレイルを進んでいたい、でも次のエイドステーションについたら今回のオマーンの旅は終わりになることが残念でなりません。結局制限時間に約40分遅れで52km地点のエイドに到着。この時点ですでに三分の一の選手がリタイアしていると聞いて、Oman by UTMB®︎が世界有数の難コースのレースであると確信しました。
2019年は11月28-30日に開催、コースは166kmになり、50kmくらいのレースが加わる
第一回のOman by UTMB®︎は完走率44%、137kmのコースの優勝タイムが20時間45分と、世界屈指の難レースとして世界のトレイルランニング界にデビューしました。でも単に走りづらいというだけではなく、ヨーロッパや東アジアでは経験することのない巨大な渓谷と荒々しい岩が広がるトレイルはトレイルランニングファンのやる気をかき立てる魅力に満ちています。
Oman by UTMB®︎では早くも第2回大会を11月28-30日に開催することを決めていて、コースは100マイル(166km)に延長され、今年は通らなかったオマーンの最高峰・シャムス山(3009m)も通るようになるとのこと。加えて、この100マイルのコースをベースにしながらもテクニカルなパートは控えめにして50km程度のレースも行われるそうです。おそらく第一回と同様に、Oman by UTMB®︎を完走するとITRAのポイントが認められるほかにモンブランのUTMB®︎のエントリーの抽選で有利になる特典(翌年のUTMB®︎のエントリーで被抽選権が2倍、ポイントが3年間有効)もあるでしょう。モンブランのUTMB®︎に挑戦したい人にとっては見逃せないチャンスです。エントリー受付はまもなく開始の予定なので、気になる方はOman by UTMB®︎のウェブサイトでメールアドレスを登録して、大会からのお知らせを是非お見逃しなく。
第一回大会の完走を果たせなかった私としては、ぜひもう一度挑戦してみたいですが、あのコースで100マイルになるのなら相当にしっかりトレーニングをしないと完走は難しそう。まずは新しい50kmのレースの方に挑戦するのも相当やりがいがありそうかな、と思っています。もしもう一度オマーンに行けるなら、ダイマニエット島のシュノーケリングは絶対もう一度行きたいし、食事も楽しみたいところ(オマーンの料理は基本的には地中海、中東の料理にインド料理の要素が加わっているといった感じで、かつてトルコでトルコ料理に魅了された私にはどれも口に合いました)。そんなことを考えて、オマーンから帰国後は少し真面目にトレーニングに取り組んでいる今日この頃です。