アスリートの健康をモニタリングするITRAのQUARTZプログラムは建設的なやり方でドーピングのないスポーツを目指す

国際トレイルランニング協会(ITRA)はトレイルランニングで国際的な競技レベルで活躍するアスリートに「QUARTZプログラム」への参加を呼びかけており、今シーズンは71人の選手が参加することを発表しました。このプログラムの下で選手は定期的に健康状態についてのデータを提出し、医師やスポーツ科学の専門家から健康にスポーツを続けていくためのアドバイスを受けることになります。

しかし、QUARTZプログラムは選手の健康を守ることを通じて現代のスポーツ界の大きな問題であるドーピングを防ぐ、という大きな目標も見据えています。ドーピングに関してはWADA(世界アンチ・ドーピング機関)が規則を決めて検査を行っており、トレイルランニングにおいてもUTMB®︎をはじめとする国際的な大会ではドーピング検査が行われています。しかし、大会の前後に行う検査のコストは高くて導入できる大会は限られます。また、ドーピングが禁止されるのは競技の公正さを損ねるという理由に加えて、選手の健康に悪影響を与えるという理由もあるとすれば、後者については大会前後の検査だけでは限界があるといえます。

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QUARTZプログラムはWADAの規則のもとに行われるドーピング検査の代わりになるものではありませんが、一年を通じて健康状態のチェックを受けることを通じてアスリートをドーピングから遠ざける効果が期待できます。参加するアスリートからみれば自身の健康状態をチェックできるメリットに加えて、QUARTZプログラムに参加していること自体が「トップ選手としてドーピングを決してしない」という決意表明だともいえるでしょう。

ITRAはアスリーツ・フォー・トランスペアレンシー協会(Athletes For Transparency)ウルトラスポーツサイエンス財団(Ultra Sports Science)と共同で「QUARTZプログラム」を運営しており、有力選手に提供するヘルスモニタリングはスポーツブランドなどのサポートを受けて選手には無償で提供されます。サポートの拡大によってプログラムに参加する選手も年々増加。今年はITRAの成績指数のランキングで男女それぞれのトップ10、距離別カテゴリーのトップ3といった基準を満たした選手に加えて、過去にドーピング違反により受けた競技資格停止から復帰した選手に参加を呼びかけ、応じた71人が参加することになります。

2019年のQUARTZ Eliteプログラム参加者(男子)

2019年のQUARTZ Eliteプログラム参加者(男子)

2019年のQUARTZ Eliteプログラム参加者(女子)

2019年のQUARTZ Eliteプログラム参加者(女子)

QUARTZプログラムはこの記事で紹介したトップレベルのアスリートを対象とした「QUARTZ Elite」の他に、大会主催者を対象とした「QUARTZ Event」、一般的なランナーを対象とした「QUARTZ Regular」といったサービスも提供。例えばある大会に参加するランナーが大会参加に必要な健康診断書やTUE(治療使用特例)申請書をQUARTZプログラムのデータベースに登録し、大会側ではそのデータベースを通じて参加者の健康状態を確認する、といった利用の仕方が想定されています。すでに30万人のアスリート、82の大会がQUARTZプログラムを活用しているといいます。

個別のアスリートの健康状態についてのデータを管理し、利用することはプライバシーの問題が付きまといます。とりわけ世界トップレベルの選手の場合は自身についての情報が漏れれば競技で不利になると考える人もいるでしょう。しかしトレイルランニングの健全な発展とスポーツ科学の進展のためには、QUARTZプログラムには大きな役割を期待したいところです。

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