ITRAのデータでみるトレイルランニングの現在

ITRA(国際トレイルランニング協会)は世界中で開催されるトレイルランニング・レースのコースやそのリザルトを日々収集しています。そうしたデータを元にして申請に応じてレースを審査してITRAポイントを承認しているほか、レースに参加した選手の成績を客観的に比較できる成績指数(パフォーマンス・インデックス Performance Index)を算出して公開しています。

ITRAはこのたび、2013年から蓄積してきた195の国と地域の25,700のレースに参加した177万人の選手が記録した計500万件のリザルトを集計し、「2020 Trail Running Infographics」として公開しました。そのデータはいろいろな解釈の仕方ができるので、それだけでトレイルランニングについての真実が明らかになるわけではありません。しかし、身近な経験と合わせることで様々な仮説を立てることができるかもしれません。

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この記事ではITRAが公開したインフォグラッフィックについて一部を紹介します。

ランナーの数では男女差は縮小

ITRAによれば大会に参加した選手の男女比は男性が77%、女性が23%。そして女性の割合は2013年の18%から2019年は26%になっていて、年々男女の人数の差は小さくなっていることがうかがえます。

年々男女の人数の差は小さくなっている。

年々男女の人数の差は小さくなっている。

国別で女性の比率が最も高いのはフィンランドで43%。オーストラリア(41%)、アルゼンチン(39%)、カナダ(39%)、ニュージーランド(38%)が続いています。

アジアには今後の可能性が開けているのかも

成績指数からみると、レースに参加した結果を元に成績指数が算出される選手の数は2015年の60万人から2019年には117万人とほぼ倍増。一方で成績指数の平均値は選手数の増加とともに低くなっています。トレイルランニングの競技層が広がって、様々な人たちが安心してトレイルランニングに参加するようになったことが背景にあるように思われます。

成績指数の平均値は選手数の増加とともに低くなっている。

成績指数の平均値は選手数の増加とともに低くなっている。

世界の地域別に成績指数の平均値をみると、ヨーロッパや北米、オセアニアに比べると、アフリカや南米、アジアは低くなっています。とりわけアジアは一段低いですが、その背景にはトレイルランニングのレースに参加する層が他の地域に比べて厚いのではないかと思われます。もしそうであれば、アジアではトレイルランニングというスポーツが幅広く社会に受け入れられている、といえるかもしれません。

アジアは成績指数の平均値はやや低い。

アジアは成績指数の平均値はやや低い。

距離や累積高度によるレースの分類でいえば、S(概ね距離で30-50km)とM(同じく50kmから80km)であわせて全体の54%を占めています。100km以上に相当するXLや100マイル以上に相当するXXLは全体の1割に止まります。

S(30-50km)、M(50-80km)のレースの参加者数が全体の半分以上となっている。

S(30-50km)、M(50-80km)のレースの参加者数が全体の半分以上となっている。

成績指数でみると走力のピラミッド構造が明らかに

選手の成績指数による分布もインフォグラフィックスでは示されています。成績指数を算出するにあたっては、陸上競技やマラソンなどの世界記録などを元に、ある距離と累積獲得高度を持つコースで理論上記録される可能性のある最速タイムを算出。この最速タイムを記録した場合を1000とし、そのタイムにどの程度遅れるかを指数化したのが成績指数となります。

成績指数の分布。

成績指数の分布。

インフォグラフィックではITRAがインターナショナルレベルのエリート選手と定義する男性825点以上、女性700点以上の選手の数をヒストグラムで示しています。その分布は上位ほど人数が少なくなるピラミッド型で、UTMB®︎でトップ10に入るレベルの「トップエリート」に相当するのは男性で33人、女性で20人となっています。

エリート選手の間ではその実力はピラミッド上に分布している。

エリート選手の間ではその実力はピラミッド上に分布している。

シニアでもハイパフォーマンスをキープできるが男女差もある

トレイルランニングでは40代になっても走力を維持できる、とりわけ女性選手は長期間トップレベルのパフォーマンスをキープすることが多い。身の回りでも世界のレースのリザルトからも、そのように思い当たることが多いですが、これもITRAのデータで裏付けられています。

各年齢の上位100人の成績指数を比較すると、男性の場合は27歳で成績指数がピークとなり、以後は緩やかに指数がダウンして46歳で19歳の平均指数のレベルに達します。一方で女性は24歳で成績指数がピークに達してからは概ね40歳までそのレベルをキープ。19歳の平均指数のレベルにまでなるのは49歳で、男性よりも遅いことがわかります。

年齢による成績指数の推移は男女の間で差があることが示唆されている。

年齢による成績指数の推移は男女の間で差があることが示唆されている。

ただ、このことがトレイルランニングにおける男女の体力や運動能力の特徴を示しているかどうかは慎重に解釈する必要があるかもしれません。さらに多くの女性がトレイルランニングをはじめたら、競争のレベルが上がるとかプレッシャーが高まるといった理由で男性と同じようになるということもあるかもしれません。また、このデータは同じ選手の成績指数の推移を追ったデータではないことから、実際に長い時間をかけて同じ選手のキャリアと成績の推移を調べれば、また異なる結果となることがあるかもしれません。

今年の夏はトレイルランニング・レースのリザルトを知らせるニュースをお伝えする機会があまりありませんが、こうしたデータを眺めてみることで新しい発想が生まれてくるかもしれません。

(source: ITRA

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