「Virtual UTMF」を前に宮﨑喜美乃、鬼塚智徳の両選手とコロナ禍の半年を振り返る

10月19日月曜日からStravaで「Virtual UTMF」が開催されます。今年はキャンセルとなったウルトラトレイル・マウントフジ Ultra-Trail Mt. Fuji(UTMF)がStravaで開催するバーチャルイベントは、10月19日月曜日からの7日間で100マイル(160km)を走るチャレンジで誰でも参加できます(無料のStravaの会員になる必要があります)。

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春先からあっという間に世界中に感染が拡大した新型コロナウィルスは私たちの暮らしに幅広く影響をもたらしました。そうした影響を前提に、広くみんなの健康を守るために生活や仕事のあり方を「ニューノーマル」に切り替えていく動きが広まっています。しかし、「ニューノーマル」を見つけたり受け入れることはしばしば苦労が伴います。

THE NORTH FACEアスリートとしてトレイルランニングに取り組む宮﨑喜美乃 Miyazaki Kimino鬼塚智徳 Onitsuka Tomonoriの両選手は、今シーズンをどんなふうに過ごしたのでしょうか。そして、大きな目標としていたUTMFに代わって来週から始まる「Virtual UTMF」にはどんな気持ちで取り組むのか。お二方にお話を聞かせていただきました。

仕事は大打撃、外出を控えて一時は眠れない日々が続いた宮﨑さん

「私の場合は在宅でできる仕事ではなく、春以降も以前と変わらず出勤しています。」と話すのは鬼塚さん。とはいえ、コロナ禍のニュースで騒がしい中で鬼塚さんにも大きな生活の変化がありました。4月に佐賀から福岡に転勤となって引っ越すことに。通勤時間はわずか5分という職住近接の環境から、電車とバスを乗り継いて1時間の通勤という変化は、アスリートとしての鬼塚さんの生活リズムを大きく変えました。「佐賀では朝の出勤前に走って、仕事から帰ってからも少し走れました。転勤してからは平日に走る時間はかなり減ってしまって。」実業団チームのエリート選手として長距離走に打ち込む生活からはすでに離れて久いとはいえ、走ることは鬼塚さんにとって大切な生活の一部であり続けています。

鬼塚智徳(おにつかとものり)さん:1980年福岡県生まれ。実業団ランナーとして1999年世界クロスカントリー日本代表、2000年全日本実業団ハーフマラソン3位(1:01:37)、2005年別府大分毎日マラソン(2:12:48)などの成績を挙げる。トレイルランニングでは2015年OSJおんたけ100k準優勝、2018年信越五岳100マイルで4位。昨年のUTMFでは安定したレース展開で7位となり表彰台に立った。

鬼塚智徳(おにつかとものり)さん:1980年福岡県生まれ。実業団ランナーとして1999年世界クロスカントリー日本代表、2000年全日本実業団ハーフマラソン3位(1:01:37)、2005年別府大分毎日マラソン(2:12:48)などの成績を挙げる。トレイルランニングでは2015年OSJおんたけ100k準優勝、2018年信越五岳100マイルで4位。昨年のUTMFでは安定したレース展開で7位となり表彰台に立った。(写真提供 Strava)

宮﨑さんの場合、新型コロナはもう少し深刻な状況をもたらしました。低酸素トレーナーの仕事の拠点としているミウラドルフィンズの低酸素室は海外の高所登山が難しくなったことから一時休業することに。コロナの後を見据えて時代に即した新しい事業を起こすために会社に籍はあるものの、目の前の仕事があっという間に消えたことで生活の不安を感じずにはいられなかったといいます。外を走る気にもなれなくなりました。「東京に緊急事態宣言が出てからは、近くの公園を走っても周りの人たちに見とがめられる気がして。アウトドアスポーツを仕事にしているのにコロナで人に迷惑をかけるようなことになったら仕事ができなくなる、とおびえて真面目に自粛してました。」今年のUTMFが中止と決まってからはモチベーションも失い、しばらくは不眠症の日々が続きました。

宮﨑喜美乃(みやざききみの)さん:1988年山口県生まれ。鹿屋体育大学大学院修士。高校、大学では駅伝部で全国駅伝に出場。登山とランニングの経験と研究を生かし、トレイルランニングでは2015年STYで女子優勝、2019年トレイル世界選手権(ポルトガル)日本代表、同年Oman by UTMB®︎で女子3位に。

宮﨑喜美乃(みやざききみの)さん:1988年山口県生まれ。鹿屋体育大学大学院修士。高校、大学では駅伝部で全国駅伝に出場。登山とランニングの経験と研究を生かし、トレイルランニングでは2015年STYで女子優勝、2019年トレイル世界選手権(ポルトガル)日本代表、同年Oman by UTMB®︎で女子3位に。(写真提供 Strava)

逗子の子どもたちと出会った宮﨑さん。鬼塚さんは初めての通勤ランを始める。

一度はネガティブな方向に振れた振り子が軌道を取り戻したきっかけは、お二人ともランニングでした。

神奈川県逗子市では小学生から高校生までの子どもたち20人が大人と一緒にカヌーで50km、ハイキングで60kmの道のりを踏破して富士山須走登山口を目指すプロジェクト「ZU SEA TO MOUNTAINS」の準備が進んでいました。逗子在住のプロスキーヤー・三浦豪太さんが隊長を務めるこのプロジェクトに宮﨑さんもサポートのために加わります。昨年11月に女子3位となったOman by UTMB®︎ のドキュメンタリー映像を見ていた子どもたちと、宮﨑さんは9月のプロジェクト本番に向けた練習として逗子の海辺や山を走り始めました。「走り方や山を登るコツを話すとすごく楽しそうに、みんないい動きで走るんです。道具なんて気にせず、登りが続いたら歩く。子どもたちと一緒に走るのは初めてでしたが、初めて山を走ったときの楽しさを思い出させてくれました。」

一方、鬼塚さんは一念発起して会社から自宅まで15kmの帰宅ランを始めました。普通の市民ランナーなら通勤ランはよく聞く話かもしれません。しかし鬼塚さんは世界選手権に日本代表として出場したり、フルマラソンで2時間12分台の記録を持つエリートアスリートでした。これまで、通勤ランをした経験はありません。「でもそうでもしないと練習ができないな、と思いました。一日の仕事の後に疲れた状態で電車で帰宅しても、疲れがたまる一方のような気がしてしまいます。今は帰宅ランをするのが楽しいですね。」と笑顔で話します。

Virtual UTMFを来シーズンに向けた再起の一歩に

今年、不惑を迎えた鬼塚さんですが、目標とするレースがない日がこれほど長く続いたことはありません。Stravaを通してランニング仲間が頑張っている様子を知ることは刺激にはなるでしょうが、どうやってモチベーションを維持しているのでしょうか。その鍵は「まだまだアスリートとしていい結果を出したい」という強い思いにあります。「今年で40歳ですが、でもまだまだアスリートとしてやっていきたい。昨年のUTMFで7位になって表彰台に立った時にたくさんの人から感動したといってもらえたんですが、そんなふうに人の気持ちを動かすアスリートでいたいと思っています。」鬼塚さんは週末に英彦山をはじめとする修験道の山々をつなぐ100km近いコースで「Virtual UTMF」を締め括ろうと計画中です。

新しい仕事につなげられたら、と最近の宮﨑さんは積極的に山や海に足を運んで、歩いたり走ったり、クライミングをしたりする時間を増やしています。「行きたい山に行って自由にアクティビティを楽しんでいます。するとクライミングをした後にトレイルランをすると股関節の動きがよくなって走りやすいことに気付いたり。走ってばかりでケガしてしまった陸上部の学生時代を思い出しました」と最近の様子を話します。宮﨑さんは「Virtual UTMF」で今年の夏に走った逗子の海と山をつなぐ周回コースを走るつもり。途中で一緒に子どもたちと走るのを楽しみにしているそうです。

10月19日月曜日にVirtual UTMFはスタート

「Virtual UTMF」に参加するにはStravaの「チャレンジページ」からエントリー。10月19日月曜日から25日日曜日までの期間中にGPSデバイスやスマートフォンのStravaアプリを使ってランニングを記録してStravaに投稿。期間中のランニングの距離の累計が160kmに達したら、「Virtual UTMF」の完走です。スタート前日の本稿執筆時点ではすでに参加者は1万1千人を超えています。

完走者全員にStravaのプロフィールにオリジナルのデジタルバッジが表示されるほか、国内の完走者には同じデザインのリアルな記念ワッペンに申し込み可能。さらにUTMFのスペシャルスポンサーであるThe North FaceおよびCitroënが提供するプレゼントの抽選に応募できます。

それにしても、7日間で100マイルを走るのはなかなかハードルが高いですよね。このことをStravaのジャパン・カントリーマネージャーの三島さん(先日当サイトのポッドキャスト Run the Worldに出ていただきました)に聞いたところ、「100マイルにこだわらず、皆さんそれぞれの目標に向けた挑戦の機会として、頑張りすぎずに頑張ってもらえたら」とのことでした。ということなので、筆者も遠慮なく自分自身の目標に向けて1週間楽しもうと思っています!

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