TransLantau by UTMB 2024:アジアのトレイルランニングハブ・香港の魅力【松永紘明の世界トレイルランの旅・3(最終回)】

【編者より・プロトレイルランナーであり、Deep Japan Ultra 100のプロデューサーである松永紘明 Hiroaki Matsunaga さんによる昨年2024年を振り返るエッセイのシリーズをお送りしています。全3回の最終回は昨年11月に香港で行われたTransLantau by UTMBについて紹介していただきます。】
(文・松永紘明、編集・岩佐幸一<DogsorCaravan>、Photo © TransLantau by UTMB)


ポッドキャスト「トレイルランナーズ松永紘明/Hiroaki MatsunagaのFree Talk」
松永紘明さんがトレイルランニングに関するリスナーからの質問に答える60分のフリートークを毎週月曜日18時に配信しています。トレーニングのお供や移動中にどうぞ。

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香港・ランタオ島で開催されるUTMBワールドシリーズ

日本から直行便でわずか4時間半、時差もたった1時間の香港。ヨーロッパへの10時間近い飛行時間と8時間の時差に比べれば、地理的にも体調管理の面でも日本から最も参加しやすい海外レースが「TransLantau by UTMB」だろう。2020年1月以来、パンデミックを経て再び訪れた香港では、変わったものと変わらないものが混在していた。

パンデミック後の香港のトレイルランニングシーン

パンデミック以前は、香港当局によるトレイルランニング大会に対する規制は比較的緩やかなものだったと聞く。参加者数に上限はなく、どんな規模の大会でも開催が可能だった。

しかし、パンデミックによって多くのレースが中止に追い込まれたのちに、香港当局は新たなルールを導入した。登山やハイキングを楽しむ人が増加したことを理由に、新規開催の大会の参加者数に500名の上限を設けたのだ。今回私が参加したTransLantau by UTMBのようにパンデミック前から開催されていた大会については、従来の規模での開催が許可されているそうだ。

ランタオ島の魅力と独特の雰囲気

東京都の約半分の面積に、都市機能と自然が凝縮された香港。空港、街、山、全てが近接していて、世界でも屈指のアクセスの良さだ。今回初めて訪れたランタオ島は、予想以上に「島」の雰囲気が残っていた。まるで宮古島や屋久島、奄美大島、隠岐島のような、島特有の時間の流れを感じさせてくれる。

香港政府は規制によりランタオ島の高層ビル建設を制限し、この島の自然環境を保全しているという。そのため、香港の中心部からわずか1時間(高速フェリーなら約25分)の場所にありながら、全く異なる風景を楽しめるのだ。

大会前の準備と国際交流

大会3日前に現地入りした私は、初日の夜にこの大会の主催者やフランスからやってきたUTMBのチームとの顔合わせを兼ねた食事会に参加した。新鮮なシーフードがたっぷりのローカルレストランで、国境を越えた交流を楽しむことができた。

翌日は朝からコースの下見を行い、ラスト3kmを試走。その後、香港島へフェリーで移動し、主催者やUTMBチームとのフォーマルなヤムチャ(飲茶)をともにした。昨年はランタオ島のホテルの一室で行われたプレスカンファレンスも、今年は香港の中心に位置するセントラルマーケットで開催され、有力選手がそろって登壇する本格的なイベントとなった。

選手受付については大会前日となる金曜日の14時から18時となっているが、香港在住の参加者は中心部にあるHOKAのコンセプトストアでの事前受付が可能となっており、利便が図られている。大会会場での受付は約1,000名の海外からの参加者にほぼ限られ、混雑もなくスムーズに済ませることができた。

また、先月の韓国・チェジュ島でのTransJeju by UTMBに続き、ここでも私が新潟県で手掛けるトレイルランニング大会「DEEP JAPAN ULTRA 100」のPRブースを出展した。過去に香港、タイ、マレーシアなどからのこの大会に参加してくれたランナーと再会することができたことは、特に感慨深いものだった。

4つのカテゴリーのコースの特徴は階段

TransLantau by UTMBでは4つのカテゴリーのレースが用意されている。距離でいえば120km、100km、50km、25kmの4つとなる(それぞれTL120、TL100、TL50、TL25と呼ばれる)。

TL120はUTMBワールドシリーズの100マイルカテゴリーとして金曜日22時にスタート。TL100は土曜日9時、TL50は同日10時、そしてTL25は日曜日の9時にそれぞれスタートする。私はTL50を走ることにしている。

コースの最大の特徴は、なんといっても「階段」にある。概ね山の中腹あたりまでは幅1.5~2m程度のコンクリート造りの道や階段が続いている。トロントから来たメディア関係者で今回知り合ったマイケルは「世界中どこを探してもこんなトレイルを見ることはできない。これこそ香港特有のトレイル」と言ったが、私も同感だ。

TL50の場合、コースの概要は次のとおりだ。

CP1(9.3km地点、Chi Ma Wan)までに標高差200m程度の丘を一つ越える。続いてCP2(23.5km地点、Pui O)までは、コース全体の中で最も気持ちよく走れる区間となる。CP2を出てからようやく本格的な山岳セクションに入り、約5.5kmの距離で700mの標高差を登って、コース最高標高地点を越える。

CP3(35.4km地点、Pak Mong)からは標高差約400mの登りが待ち受ける。ここを登り切って頂上付近の丘陵地を越えると、下りは岩と土のテクニカルなトレイルとなり、注意が必要だ。中腹からは再び階段が現れ、右手に溜め池を見ながら駆け下りる。

最後のエイド、CP4(43.5km地点、Discovery Bay)からは、先ほど見えた溜め池まで約3.5kmの舗装路を登ることになる。ここから約2kmは幅が50cmほどと狭いトレイルや左側が崖になっているセクションもあって気が抜けない。

舗装路に出て左手にチャペルが見えると、ラスト3kmだ。最後のひと山を越え、舗装路と階段の下りを経て、シルバーマインベイ・ビーチを約1km走ってゴールとなる。

暑さと湿度は日本のランナーには想定内だが、今回は台風接近の影響も

土曜日のレース当日は最高気温が27℃ほどで、湿度は50~60%という条件だった。TL50は累積標高差2,700m、距離は約53kmのコースを走る。

私は1リットルの水を持ってスタートし、4つのCPでそれぞれ1リットルずつ、計5リットルの水分を摂取した。今回も水500mlにつきKODA Electrolytes Powder MATCHA味を一つ、計10包溶かした水を飲みながら走った。加えてKODA GEL LEMON LIME味を30分に一つ、計12個消費した。結果は6時間46分、総合5位でのゴールとなった。

周りの選手の様子をみると、特にヨーロッパから参加の選手は暑さと湿度に苦しんだようだ。日本で夏に外を走るトレーニングを経験しているランナーであれば、水分補給をしっかり行うことで十分に対応可能だったのではないだろうか。

土曜日は台風の影響で、日中の薄曇りから夜には雨風が強まった。100kmと120kmのカテゴリーでは選手のリタイアが相次ぐことになった。そんな厳しいコンディションの中、TK120では黒河輝信選手が見事優勝を果たした。彼は30km地点ですでに足が終わった状態でリタイアも考えたが、沿道からの応援に支えられてゴールにたどり着いたという。

TL50では吉住友里選手が女子準優勝という素晴らしい結果を残した。彼女は大会3日前までに2日間かけて全コースを試走したとのことで「疲れはあったものの、コースを知っておいてよかった」と話していた。

香港がアジアのトレイルランニングのハブである理由

約5年ぶりに訪れた香港のトレイルランニングシーンの魅力はトレイルへのアクセスのよさにある。高層ビルが立ち並ぶ街のどこにいても、ほどんどの場合5~10分でトレイルに入ることができる。今回はランタオ島の存在も魅力の一つであることを知った。香港島のビジネス街からフェリーに乗って1時間でランタオ島に行くことができる。トレイルを走った後は常夏のビーチリゾートを楽しめる。

大都市の生活も、南国のリゾートも、トレイルランニングも楽しむことができる香港は、国際的で極めて多様性に富んだユニークなトレイルランニング・コミュニティを育んでいる。その中で、自分たちがより楽しむために新しいビジネスを助け合いながら立ち上げる人たちもいる。

香港には世界各地のランニングの製品、例えば新しいアイディアを取り入れたスポーツブラやエナジージェル、新素材のトレッキングポールなどがいち早く集まってくる。創造的でバイタリティに満ちた香港のコミュニティの人たちは、互いに助け合いながら、マーケットを発掘して育て上げ、結束はいっそう強くなる。こうしたコミュニティのダイナミクスこそ、香港がアジアのトレイルランニングのハブとしてリードしている秘密なのだろう。

トレイルランニングがつなぐ国際交流の輪

3回にわたる連載で、2024年に訪ねたシャモニー、チェジュ島、ランタオ島を走る経験を読者の皆さんに紹介した。10月開催のTransJeju by UTMB、11月のTransLantau by UTMBに12月のChiang Mai Thailand by UTMBを加えたUTMBワールドシリーズの三つのイベントを転戦する選手や関係者も多く、これらの大会の存在はアジアのトレイルランニングシーンの活性化に貢献している。

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たとえ片言の英語であっても、トレイルランニングという共通項があれば、世界中に友達ができる。自然の中で一人、自分を深く見つめ、自分をより深く知るという経験。これさえ共有していれば、言葉では伝わらない深いところで、お互いの思想の一部を分かち合うことができる。そして国籍や言語を越えた交流は、あなたの人生をより豊かにしてくれるだろう。

新たな土地を走り、新たな人と出会うこと。私にとってそれが一番の幸せだ。皆さんも自分らしい最高の人生を送るために、旅に出てみよう。人生の方向を示すような出会いが、あなたを待っているかもしれない。

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