今年も6月29日の暑い土曜日に開催されたウェスタン・ステイツ/Western States Endurance Run (WS100)。昨年に続いて二年連続出場する幸運に恵まれた当サイト・岩佐も名誉ある24時間以内の完走賞、「シルバーバックル」を手にすることができました。
以下に岩佐のレースレポートをお送りします。この記事ではレースの結果の全体的なまとめからスタート前まで。全部で3回程度にわけてお届けします。
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It needed to happen that day. I just wasn’t willing to quit.
Gordy Ainsleigh, founder of Western States Endurance Run, in the movie “Unbreakable”
大まかな展開
レース開催の当日の北カリフォルニアは猛烈な暑さに見舞われ、フィニッシュ地点のオーバーン/Auburnの最高気温は39℃とレース史上2番目の暑さ。当方は昨年(25時間27分で完走)果たせなかった24時間以内の完走を目標としていたものの、酷暑の予報を聞いて24時間以内完走は半ば断念。自分の身体の状態を確かめながら、水分と糖分の補給を切らさないようにして無事に完走することを目標にスタート。
昨年以上に序盤から中盤でペースを上げすぎないよう、さらに下りではペースを抑えて大腿四頭筋を温存するように注意を払って進んだところ、本人の感覚とは異なり62マイル地点のForesthillまでは昨年より少し早いくらいのペースで到着。
レースの結果を大きく分けるといわれる、Foresthill以降の比較的走りやすい38マイルは二人のペーサーに前半後半で分担してプッシュしてもらうことに。前半の62マイルから80マイルまでは陽気な俊足女性ランナーのRoxana。昨年同様、補給のバランスが崩れて体調もメンタルも大きく底を打ったこの区間では、明るく厳しい彼女のプッシュを受けて大きく減速することなく80マイル地点のGreen Gateに到着。ここでペーサーは昨年もペーサーをしてくれた聡明な男性ランナー、Shyamalに交代。24時間以内完走ペースに8分の貯金でスタートするが、直後にコースをロスト。川底へと大きく下る林道に入ってしまい、往復で1マイル強、約25分のロス。
しかしここから急に走れる脚が復活。ここから多くなる緩やかな下りを力の限り走りつづけ、次のエイド、85マイル地点のALTには24時間以内完走ペースへの貯金を3分まで取り戻す。この後も力強いペースを維持し続け、93.5マイル地点のHighway 49では貯金を20分、97マイル地点のNo Hands Bridgeで25分まで積み増す。
しかし、急なペースアップがたたったのか、だんだん水分を補給してもスムーズに受け付けなくなり、90マイル地点あたりからは水分をとっても吐き出してしまうように。最後の数マイルはペーサーのShyamalの賢明な判断に従って、ペースを上げず、歩きを入れながら貯金を確認しながらフィニッシュを目指しました。
エントリーまで
アメリカ・カリフォルニア州のシエラネバダ山脈の山間のリゾート地、スコーバレー/Squaw Valleyをスタートし、西へ向けて山や深い渓谷(キャニオン)を下って登ることを繰り返し、シエラネバダの入口の町、オーバーン/Auburnまでのウェスタン・ステイツ・トレイルの100マイルを走る。乗馬のレースをきっかけに始まった世界で最も伝統ある100マイルレースは今年2013年に40回目を迎えた(その歴史や背景は以下の当サイト記事をご覧ください)。
このアメリカで最も長い伝統を誇り、有力選手が毎年激しくしのぎを削る100マイルレースで、鏑木毅さんが2位に入ったのが2009年。鏑木さんはその直後のUTMB(ウルトラトレイル・デュ・モンブラン)でも3位に入り、世界のトップ選手としてその存在が世界に知られることになる。
当時トレイルランニングを始めたばかりの当方もこの鏑木さんの活躍に胸を踊らせた。鏑木さんのUTMBでの活躍を伝えるメディアの情報にひとしきり酔いしれたあと、やや情報が少なかったWS100について調べ始めた。そしてこのレースで外国人、しかも当時40歳を超えてベテランの部にカウントされていた鏑木さんが2位ということがとんでもなく痛快な活躍であることを知った(後日、鏑木さんと話した際も、『これからしばらく経てば、自分の成果の中でWS100の2位はUTMBよりも高く評価されると思う』と聞いた)。
「それなら自分もやってみたい」。そんな単純な思いから始まったWS100への当方の挑戦。2011年の抽選外れを経て、2012年に初めて抽選に当たって出場。25時間27分で完走した。アメリカの100マイルレースの独特の熱気と温かなコミュニティの存在。2010年と11年に参加したUTMBとは違って、日本のランナーにはハードルが高いためか、ランナー仲間からの情報や事前のサポートというのは特になく、いろんなことを自分で調べて手探りでの参加だった。そして参加してみれば、様々な人たちと知り合い、フィニッシュは当初予定していなかったペーサーと一緒だった。何も思い残すことはないレースだったが、もう一度経験できるならしてみたい、そしてできるならこのレースのルーツとなった「24時間以内での100マイルの完走」を果たしてみたい。そんな思いから軽い気持ちで再度応募した2013年のレースに再び当選してしまった(抽選の仕組みはやや複雑だが、前年に100マイルなどのレースを完走する資格を満たした応募者から抽選で選ばれる確率は7%くらいだった)。
スタートまで
今回は6月14日にワイオミング州で行われたBighorn 100に参加する鏑木さんをサポートするため、6月上旬から渡米。Bighornでの鏑木さんの見事な逆転優勝に感激し、その後、コロラド州ボルダーでスコット・ジュレク/Scott Jurek、クリッシー・メール/Krissy Moehl、アントン(トニー)・クルピチカ/Anton (Tony) Krupicka、リッキー・ゲイツ/Ricky Gates、そして4月に日本で一緒に過ごしたばかりのジョー・グラント/Joe Grantなど、ボルダーのランニング・コミュニティの有名人たちと会い、トレイルを走る。夢のような時間が過ぎ、日本に帰る鏑木さんをデンバーで見送ってカリフォルニアに移動したのが6月20日。
カリフォルニアでの予定はあまりはっきり立てていなかったのだが、着いた翌日には昨年ペーサーをしてくれて今年もお願いするShyamal、昨年のWS100のレース中にエイドで知り合ったサブリナさん(ベイエリア在住の日本人でランナーと日本人のコミュニティに幅広い知己を持つすごい方)と再会。滞在中は食事をご一緒したり、ご自宅にお邪魔したりと思いがけずお世話になってしまった。おかげで地元のランナー仲間の皆さんとMt. Diabloへのなかなか手強いトレイルをご一緒したり、巨大なブランチを一気に平らげたり。午後にはマリン・カウンティに移動して、当日行われていたトレイルレース、Marin Ultra Challengeをフィニッシュしたばかりの俊足の日本人ランナー・Yazさんをはじめとするベイエリアの日本人ランナーの皆さんとお目にかかることもできた。
そんなこんなでベイエリアで楽しく過ごしてから水曜日にはレースの行われる内陸部へ移動。途中のサクラメントでは、これまた昨年のWS100でひょんなことから知り合ったWillyとRoxanaのカップルと待ち合わせてディナー。陽気で明るい笑顔の絶えない二人に励まされる。Roxanaには今回ペーサーもお願いしているが、「エイドでは休ませないからね」とやる気満々だ。日曜日からの雨が上がったこの日は気温も急上昇。当方は気になっていた長い髪を二人とのディナーの前にサクラメントの理髪店で一気に短くカットした。
昨年と同じく木曜日の午前にスタート地点のSquaw Valleyへ。途中のTruckeeの町でコーヒーショップに立ち寄って朝食。カリフォルニアのこういうキレイすぎない緩い感じが残るコーヒーショップは居心地がいい。
Squaw Valley到着。リゾート地のこの町に宿は多いがスタート地点に近いところはどこも結構なお値段。レース当日の早朝の移動を考えて前回に続いて今回もそうした宿を日曜の夜まで4泊を予約していた。ただ、慣れてくるとここまで便利でなくても良い気もする。キャンプまでは行かないまでも、クルマで20分ほどのTruckeeかTahoe Cityに宿をとり、レース当日の土曜日早朝にチェックアウト。そのままSquaw Valleyの駐車場に荷物とクルマを残しておくので十分な気もした(もちろん同行者がいればこのクルマでオーバーンまで移動してもらえればベスト)。
木曜日のSquawはまだ受付も始まっておらず、静かなもの。それでもオープンしていた大会公式グッズのショップをのぞいてウロウロいていると、いろいろな有名人と遭遇。昨年優勝のTim Olsonを見かけて声をかけたり。その後、約束していたiRunFar.comのブライアン・パウエル/Bryon Powellも忙しいなか時間を割いてくれて、しばし雑談。インタビュービデオを撮影。睡眠の時間を調整するため早めに床に就く。
レース前日の金曜日。翌日の早朝のスタートを想定してやや早めの5時前に起床。当日の暑さに備えた装備をチェックし、ドロップバッグの中身を確認。7時からオープンするスターバックスでコーヒーと朝食を買い、外のソファーでのんびりする。同じ考えのランナーでカウンターには行列。日陰は涼しいが雲一つない青空から照りつける日差しはすでに暑い。
ウロウロしていると様々な有名人が次々に現れる。昨年のWS100やUTMFで知り会ったランナー仲間とも再会。
そうこうするうちに、ランナーの受付が始まったので早めに済ませる。名前が書かれたテープを腕に巻いてもらい、血圧と体重を測ってそこに書き込んでもらう。スポンサー各社提供のTシャツやバッグを受け取り、結果速報サイトにも掲載される顔写真を撮影。その後、ランナーと視野についての医学調査や使用するシューズやウェアのブランド調査のアンケートに答えて受付は終了。昨年同様、ドロップバッグをコーンが立てられた道端に置いて準備完了。今回は16マイル地点のRed Star Ridgeと62マイル地点のForesthill、フィニッシュ地点(着替えなど)の3箇所だけ。去年より一つ減らした。
まだ午後のプレレース・ミーティングまでは時間があるので、宿に戻って一休みしてもよかったのだが、外でこの暑さに体を少しでも慣らしておくと同時に、日中に程よい疲れを得ることで夜によく眠れるようにしたかったので、そのまま早めのランチを買い込んでプレレース・ミーティングの行われる芝生の広場の日陰へ。これは我ながら悪くないアイディアだった。
プレレース・ミーティングは実行委員会メンバー(正確にはBoard of Trusteesのメンバー)の紹介やレースについて長年貢献してきた人たちの表彰、ラッフル・チケットの抽選会(一種の寄付で、クジを購入した人から抽選で数名が来年2015年のWS100の出場権を得ることができるというもの)、明日の気温やトレイルのコンディションについて説明があったのち、John Medingerの名調子による男女有力選手の紹介が行われて終了。それにしても暑い。標高1800mのSquawでこれでは先が思いやられる。昨年のプレレース・ミーティングではウィンドジャケットを着ていても寒くてフリースを持ってくればよかった、と思っていたのを思い出した。
しばし、会場の広場で立ち話をしたあと、サブリナさん、Yazさんと再会。明日はSquawでのスタートから仲間の応援方々、当方のクルーもしていただけるとのこと。Squaw Valleyのスタート地点の様子をしばし見学してから、スターバックスで日本語でおしゃべり。すっかりリラックスしてお二人と分かれてからは、早めの夕食にあり付き、熱いシャワーを浴びる。8時前にはベッドに横になると、早起きと日中の疲れが効いたようで狙いどおりすんなりと眠りに落ちた。午前3時までの7時間強を熟睡。なかなか悪くない。
(続きます)