1月17日土曜日に香港でビブラム・ホンコン100ウルトラトレイルレース/Vibram® Hong Kong 100 Ultra Trail® Race(HK100)が開催されました。Ultra Trail World Tourの開幕戦として注目された香港を代表するトレイルのルート、MacLehose Trailなどで開催された100キロのトレイルランニングレースの結果は、男子は中国の若手でフルマラソンで2:15の記録を持つヤン・ロンフェイ/Yan Long Feiが優勝。女子では昨年のこの大会で2位だった地元香港のワン・チョウ・ピュイヤン/周佩欣/Wyan Chow Pui Yanが優勝しました。日本から参加したなかでは飯野航/Wataru Iinoが7位、山屋光司/Koji Yamayaが10位に入りました。
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レースの展開
レースは午前8時にSai KungエリアのPak Tam Chung / 北潭涌をスタート。気温は15℃程度で、少しひんやりとした感じながらランニングにはよいコンディション。天気も終日晴れです。
この日優勝したヤン・ロンフェイ/Yan Long Feiは序盤から上位5–6人の集団の中で走り始めますが、決して積極的に飛び出すことはありませんでした。CP3 海下 / Hoi Ha 36kになって、集団からジョルディ・ガミト・バウス/Jordi Gamito Bausとソンドル・アムダール/Sondre Amdahlが抜け出たところにヤン・ロンフェイもついていきます。ヤン・ロンフェイはレース後のインタビューでも「序盤は無理に飛び出さず、CP7 Beacon Hill / 筆架山 73kあたりから勝負をかけた」と話していますが、その通り、徐々に加速してCP8 Shing Mun Dam / 城門水塘 83kでは5分程度の差をソンドル・アムダールにつけています。その後のコース最高のピークもペースを維持したヤン・ロンフェイが優勝。9時間52分42秒というタイムは2012年のライアン・サンデス/Ryan Sandesの大会記録を2分更新する好記録でした。フルマラソンで2時間15分の記録を持つなど陸上選手として活躍していたヤン・ロンフェイがトレイルを走り始めたのは昨年。香港のトレイルレースでは昨年すでに優勝しているほか、スカイランニング世界選手権として開催されたモンブラン・マラソンでも序盤はキリアンを始めとする先頭集団でリード。100kmは初めてのレースでしたが、堅実なレース展開で実力の高さを示しました。
2位には昨年UTMBで7位になるなど国際的に活躍するソンドル・アムダールが10時間を切る好タイムで入りました。3位に入ったアントワーヌ・ギュイヨン/Antoine Guillonは序盤では30位近くを走っていましたが、後半のアップダウンが大きくなるパートに入って徐々にスピードを上げ始め、CP6 Gilwell Camp / 基維爾訓練營 65kではすでに3位になっていました。100マイルの山岳レースに強い印象があるベテランのアントワーヌですが、オールマイティな強さを見せつけました。
なお、レース前に上位が見込まれていた昨年のトップ3、ティルサ・タマン/Tirtha Bahadur Tamang、ベド・スヌワル/Bede Bahadur Sunuwar、ブラド・イクセル/Vlad Ixelの三人はDNSでした。
女子で序盤をリードしたのは昨年のスカイランニング世界選手権として開催された80km du Mont-Blancで9位だったドン・リー/Dong Li。続くワン・チョウ・ピュイヤン/Wyan Chow Pui Yanやリサ・ボルザニ/Lisa Borzaniに10分以上の差をつけていましたが中盤に入ってワン・チョウ・ピュイヤンにリードを許します。結局、昨年のHK100で2位だったほか、地元香港のレースで上位常連として知られているワン・チョウ・ピュイヤンがリードを保って優勝しました。2位にはドン・リー。3位には昨年のトル・デ・ジアンで2位となったリサ・ボルザニ。女子で上位が見込まれたフランチェスカ・カネパ/Francesca Canepa、クレア・プライス/Claire PriceはDNFでした。
健闘した日本勢
男子では日本の有力トレイルランナーも上位を走り、注目を集めました。日本からの参加で最高位の7位に入ったのは飯野 航/Wataru Iino。序盤から10位台を走り安定した走りをみせ、後半には徐々に順位を上げてトップ10でのフィニッシュ。ウルトラマラソンや海外の砂漠レースなどで活躍する飯野は最近NHKの番組「グレートレース」で紹介されたマダガスカルでのステージレースに出場して番組にも登場しています。トレイルランニングレースでも、上州武尊山で120kで7位に入っています。
10位に入ったのは山屋光司/Koji Yamaya。この日は10位台後半からスタートし、後半に入っても安定した走りで、徐々にペースを落としていく先行ランナーを捉えて順位を上げました。粘り強い山屋らしい走りでトップ10をつかみました。
大瀬和文/Kazufumi Ooseはこの日は快調にペースを上げてCP3 海下 / Hoi Ha 36kではトップから3分の7位につけます。しかし、徐々に上がり始めた気温のせいか胃腸の不具合に悩まされ、CP5 Kei Ling Ha / 企嶺下 52kでは一旦横になって休むことに。落ち着いて休んだことが奏功して後半には調子を取り戻して11位まで順位を上げました。
永田務/Tsutomu Nagataは持ち前のスピードでCP5 Kei Ling Ha / 企嶺下 52kまでの前半はトップが視界に入るほどの僅差で3–4位を走っていましたが、CP6 Gilwell Camp / 基維爾訓練營 65kまで向かう途中で暑さのせいか大幅に減速。その後は持ち直して後半は再びトップ10に食い込む粘りを見せて8番手でフィニッシュ。しかし、途中の必携装備のチェックで携帯電話を持っていなかったことからフィニッシュ後にペナルティとしてタイムに1時間が加えられることとなりました。
レース前から有力ランナーとして地元でも注目された原良和/Yoshikazu Haraは序盤は「やや体は重い感じだった」とのことで先頭集団から少しおいて10位前後でコースを進みます。50kmを過ぎて後半に入ると徐々に加速し始め、トップから25分程度の5位につけます。さらに「前を走るアントワーヌを意識」しながら走っていましたが、CP7 Beacon Hill / 筆架山 73kを過ぎ、コースが舗装路を経由してからトレイルに戻る入り口を見落としてコースをロスト。大幅に時間を失ってしまったことで無理をせずリタイアしました。
そのほか、日本からの参加では12位に横内宣明/Noriaki Yokouchi、14位に奥宮俊祐/Shunsuke Okunomiya。小林慶太/Keita Kobayashiは72位でした。
リザルト
大会公式のリザルトはこちら。
(男子)
- ヤン・ロンフェイ/Yan Long Fei(Salomon)<中国> 9:52:42 (大会新記録<これまでの記録は2012年のライアン・サンデス/Ryan Sandesによる9:54:57>)
- ソンドル・アムダール/Sondre Amdahl (GORE) <ノルウェー> 9:59:46
- アントワーヌ・ギュイヨン/Antoine Guillon(WAA)<フランス> 10:30:02
- シリル・コワントル/Cyril Cointre(WAA)<フランス> 10:54:33
- ジョルディ・ガミト・バウス/Jordi Gamito Baus <スペイン> 10:54:34
- ジェイムズ・ロバーツ/James Roberts <オーストラリア> 10:56:33
- 飯野 航/Wataru Iino <日本> 11:05:33
- サントシュ・タマン/Santosh Tamang <ネパール> 11:21:24
- ストン・ツアン/Stone Tsang Siu Keung <香港> 11:24:08
- 山屋光司/Koji Yamaya(HOKA OneOne)<日本> 11:26:51
(上位に入った日本から参加の皆さん)
- 11位 大瀬和文/Kazufumi Oose 11:39:29
- 12位 横内宣明/Noriaki Yokouchi 11:44:32
- 14位 奥宮俊祐/Shunsuke Okunomiya(Montrail / MountainHardwear) 11:50:18
- 永田務/Tsutomu Nagataは11:05:51でフィニッシュしましたが、上記の通り必携装備 に漏れがあったため1時間のペナルティとなりました。順位としては20位に相当します。
(女子)
- ワン・チョウ・ピュイヤン/Wyan Chow Pui Yan <香港> 12:24:56
- ドン・リー/Dong Li(Salomon)<中国> 12:39:54
- リサ・ボルザニ/Lisa Borzani(Vibram)<イタリア> 12:50:38
- マリー・マクノートン/Marie Mcnaughton <香港/ニュージーランド> 12:51:03
- ニコール・ラウ/Nicole Lau <香港> 13:37:32
- ステファニー・ケース/Stephanie Case <香港/カナダ> 13:42:45
- カレン・フン・シーユン/Karen Hung Shee Yueng 14:25:47
- エミリー・ウッドランド/Emily Woodland 14:31:43
- ナディア・カウチャ/Nadia Koucha 14:45:58
- モンツェ・ペレス/Montse Perez 14:53:48
観戦記・まだあまり知られていないが魅力に満ちた香港のトレイルランニング
このHK100をはじめ、香港のトレイルランニングレースについては2010年くらいからその存在が日本の一部のトレイルランナーにも知られはじめたと思いますが、今年はHK100の1800人のランナーのうち90人以上が日本からの参加者となり、一気に知名度を高めたように思われます。
当サイトもレースの前にコースの一部を歩きましたが、そのトレイルはよく整備されながらも深い自然の中にいることを感じさせるものでした。よく言われるように急な登り下りや長く続く階段もありますが、自然の中に身を置く楽しみが損なわれるわけではないと感じました。また、大都会の市内からほんの少し足を運ぶだけでこうした自然の中に入れるのも魅力です。公共交通機関が整った土地柄もあって、香港のトレイルランナーは山に入るそのままのウェアや装備で地下鉄やバス、タクシーに乗ってトレイルに出かけて、そのまま帰宅すると聞きます。
また、このHK100というイベントについては地元のボランティアスタッフの陽気さ、元気さが印象に残りました。世界から集まるランナーに気軽に声をかけ、気遣いをしてくれるのは、世界各地から様々な人が集まる国際都市・香港らしい土地柄なのかもしれません。
レースとしても世界から有力選手が集まりながらも、それを今回制したのは中国本土の若手であったり、地元香港の有力選手だというのが、今の香港のトレイルランニングの勢いを表していると思われます。日本のトレイルランナーにはHK100の魅力が知られてますます多くの人が参加するでしょう。また実力あるランナーにとっては、このHK100での活躍は世界で活躍するための登竜門の一つ、として認識されることになるでしょう。
当サイトのお送りしたライブ速報のログ
Live Coverage of 2015 Vibram Hong Kong 100 Ultra Trail Race – Togetterまとめ
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- Wyan Chow Pui-yan claims home victory as records fall in Vibram Hong Kong 100(Rachel Jacqueline / South China Morning Post)
謝辞
今回のHK100の取材にあたっては、原良和さん・朋子さんご夫妻に多大なご協力をいただきました。また、ちあき・フィヨルドさんをはじめとする香港在住の日本人コミュニティの皆さんに事前に様々な情報をご提供いただくなどご支援いただきました。レースの速報にあたってはHK100のオーガナイザーであるジャネットさん、スティーブさん、アメリカのiRunFarにもご協力いただきました。感謝いたします。