[DC] トレイルランニングからドーピング違反選手は永久追放されるべき? アメリカのTNF 50マイル選手権で議論に

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今週末の12月5日土曜日にアメリカ・サンフランシスコ郊外で開催されたThe North Face 50 mile Championship(TNF 50マイル選手権、TNF50)はアメリカ国内だけでなく世界から有力選手が集結し、例年にも増してハイレベルなレースとなりました。この大会に先立って、アメリカのトレイルランニング界では、ドーピングをめぐって議論が巻き起こりました。その概要と日本のトレイルランニングへの意味をまとめました。

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議論の発端

この大会の開催の前週にイタリアの女性ランナー、エリサ・デスコ / Elisa Descoがエリート選手リストに加わったことから議論が始まりました。エリサ・デスコは2014年のスカイランニング世界選手権・Mont Blanc Marathonで優勝(当サイトの記事はこちら)、今年2月のスカイランニングアジア選手権・MSIG Sai Kung 28kでも優勝(当サイトの記事はこちら)など欧州を中心に活躍し、今シーズンのスカイランニング世界シリーズ・SKYカテゴリーで年間ランキング3位となっています。その彼女は2009年のマウンテンランニング世界選手権大会(World Mountain Running Championships)をトップでフィニッシュした直後のドーピング検査で「クロ」との結果が出て、最終的には国際陸連から2010年から2012年にかけて2年間の出場資格停止処分を受けた、という経緯があります。エリサ・デスコが違反したのはEPO(エリスロポエチン、血液中の赤血球を増加させるホルモンで筋肉への酸素供給量を増やして持久力を高める効果がある)に関するチェックについてでした。なお、2012年にレースに復帰後のエリサ・デスコはその後の活躍の中でもドーピングに関しては「シロ」の結果が続いており、今回のサンフランシスコでの大会への出場そのものにドーピングに関する疑いがあるわけではありません。

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2014年のスカイランニング世界選手権・Mont Blanc Marathonで優勝したエリサ・デスコ / (中央)。

「ドーピング違反者は永久追放」との意見が噴出

エリサ・デスコのTNF50への出場と彼女の過去のドーピング違反を伝えたアメリカのトレイルランニングのウェブサイト・iRunFarの記事には、エリサ・デスコの今回のTNF50について批判的なコメントが集中。「一度でもドーピングに違反した選手はトレイルランニングの大会からは永久追放されるべき」、「たとえ国際陸連の処分期間が過ぎたとしても、トレイルランニングのコミュニティはドーピング違反経験者を受け入れるべきではない」、「大会側がドーピング違反者を締め出す責任がある」といった厳しい意見がFacebookへのコメントなどにあふれました。

これに対してiRunFarでは、一度でもドーピング違反となった選手は、二度と通常のレポートの対象としない(最小限のレポートしかしない)という編集方針を確認。エリートアスリートであるイアン・シャーマン / Ian Sharmanが代表者であるスカイランニングの米国シリーズ・US Skyrunningも、ドーピング違反者は永久追放とする方針をアナウンス。ISFに対しても同様のルール変更を働きかけるとしています。こうしたアメリカ国内の反応をアメリカの代表的なランニング雑誌・Runner’s Worldも伝えています

一方、欧州側ではイベントレポートや写真でスカイランニングに関わりの深い写真家・ポッドキャスターのイアン・コーレス / Ian Corlessがこの件について言及。一連の反応とそれに関する事実を伝えながら、アメリカ国内の永久追放とすべきとの反応については、エリサ・デスコがドーピング違反を起こし、その処分を受けた時点では2年間の資格停止以上のルールはなかったこと、ドーピング検査に100%の信頼が置けるのか、といった点を挙げて、「慎重な議論が必要」との意見を示しています。

その背景にある考え方

最近ではロシアでの国ぐるみでのドーピング疑惑からロシア人選手の国際大会への出場が暫定的に認められなくなるなど、ドーピングは広くスポーツ界で話題になっています。それは、トレイルランニングやウルトラマラソンといった、まだニッチなスポーツにもついても無縁ではありません。

アメリカ国内でドーピング違反者は永久追放という厳しい措置を求める意見があげる理由としては、ドーピングは身体に大きな影響を与え、たとえ2年間といった処分期間があったとしてもその影響は身体から消えることはないというフィジカルな理由や、ドーピング検査の負担を考えればエリート選手に限ったとしても抜き打ち検査以上の対応は難しい現状では、厳重な処分によるアナウンス効果を期待すべきという一罰百戒論があるようです。また、国際陸連の処分は2年間であったとしてもトレイルランニング、ウルトラマラソンでは永久追放とすべきという意見の背景には、このスポーツを守り育ててきた小さなコミュニティが重んじる価値観が尊重されるべき、といったアメリカらしい意見もみられます。

ドーピングがその選手、スポーツ界、ひいては社会にも害をおよぼす許されない行為であることは間違いありませんが、ドーピングをめぐるスキャンダルは絶えることがありません。そもそもドーピング行為の定義が医学や生理学といった科学や技術によって常に見直しが迫られるという事情があります。上記のフィジカルな理由も科学的な因果関係に基づくとすれば常にそうした研究や調査が続けられる必要も出てきます。一罰百戒という理由付けも、抑止効果はあるとしても行為に対する罰としてあまりに大きすぎるものであってはならないでしょう。とりわけ、永久追放となれば名誉回復の機会もない非常に重い処分です。コミュニティの価値観の尊重も行き過ぎればコミュニティの成長を妨げる排他的な主張となりかねません。このスポーツに関わる人は絶えず関心を持ち、議論を続ける必要がある問題でしょう。

日本のトレイルランニング界も無縁ではない

日本のトレイルランニング、ウルトラマラソンのコミュニティではドーピングに関する具体的な事例は寡聞にして聞きません。日本のコミュニティはまだ小さく、選手がドーピングの誘惑にかられるような状況もまだないのかもしれません。それでも少し考えてみれば、日本にとっても決して対岸の火事ではなく、対策は急務でしょう。

一つは、今後日本のトレイルランニング、ウルトラマラソンのアスリートがドーピングに手を染める可能性はないとはいえません。UTMBやスカイランニングの世界シリーズ戦ではすでにドーピング検査が行われているとしても、国内で何の検査も行われず、処分規定もないという状況がアスリートを惑わせる状況を作り出すかもしれません。

さらに、ドーピング検査も処分規定もないという状況で万一スキャンダルが起これば、海外からみた日本のトレイルランニング界の評価、価値は失墜するかもしれません。仮にUTMBで日本のアスリートがクロだったら、その選手が活躍した日本の大会の結果は疑惑を免れないでしょう。その他、仮にUTMFやハセツネで活躍した海外選手が過去や未来にどこかでクロなら、そうしたドーピングの疑惑のある選手を見つける手立てもルールもなしに活躍させた日本の大会は国際的なレースイベントとしては認められなくなる可能性もあるでしょう。

もちろん、日本の大会が(仮に一部の国際的でハイレベルな競争が行われる大会に限ったとしても)ドーピング検査を行うことは非常に負担が重いことでしょう。どのような方法で、誰について何を検査すればいいのか。誰に検査を頼めばいいのか。そのための費用をどうやってまかなうのか。クロとなった場合の処分はどのように決めるのか。ドーピング対策には個別の大会を超えた日本のトレイルランニング界が全体として取り組み、おそらく陸上競技のように先行するスポーツ分野と連携して支援を受ける必要があるでしょう。

どう思われますか?

上記のように、ドーピング問題それ自体が議論の絶えない問題であり、日本のトレイルランニング界にも無縁ではありません。当サイトをご覧の皆様のご意見を歓迎したします。この記事のコメント欄のほか、当サイトへのメールなどでもご意見を承り、可能であれば追ってご紹介したいと思います。

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