佐藤圭介のスカイランニング世界シリーズ最終戦、リモーネ・エクストリーム / Limone Xtreme参加レポート(2/3)

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【編者より・10月に開催されるリモーネ・エクストリーム / Limone Xtremeはイタリア北部のリゾート地、ガルダ湖に面したリモーネの街を拠点に湖を取り囲む山岳地帯で行われる大会で、23kmのスカイレースや標高差1000mを一気に駆け上がるバーティカルなどのレースが行われます。今年2015年の大会でバーティカルとスカイレースの二つに挑戦した / さんにレポートを寄稿していただきました。レポートは3回に分けて掲載し、今回はその第二回で初日に開催されたバーティカル・キロメーターと二日目のスカイレースについて。】

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佐藤圭介のスカイランニング世界シリーズ最終戦、リモーネ・エクストリーム / Limone Xtreme参加レポート(1/3)

2015.12.28

暗闇の中を駆け上がるバーティカル・キロメーター

初めての欧州の本場のバーティカルだが、足は思うように進まず

いよいよ夜となり、スタート15分くらい前からヘッドライトに明かりを付けた参加者たちがスタートゲートに集まってきます。招待選手を含むエリート選手グループのスペースがスタッフにより区切られます。僕は前列から2列目の左手に陣取りました。招待選手の名前が抑揚ある声で呼ばれ、会場が盛り上がっていきます。

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変更後のバーティカルのコース概要。大会ウェブサイトより。

19時から10秒前にカウントダウンがはじまり、ガルダ湖湖畔の広場をスタート。石造りの雰囲気ある家並みの路地裏をものすごい勢いで登っていきます。この路地裏がすでに急な傾斜で、本当にバーティカルな街です。湖畔の主要道をまたぎ、宿泊するホテルヨーロッパの脇の石畳へ。本当はすぐホテル脇を右折するのがコース変更前のコースなのですが、そのまま石畳を直進して谷あいのコースへ入っていきます。この時点でも女子選手の速さはかなりのものです。 石畳に立ち並ぶ家並みを抜けていよいよトレイルへ。このあたりまで「アレアレ!」の声援やガラガラと鳴るカウベルの応援を受け、高揚した雰囲気。僕もテンションを上げて登っていきます。トレイルへ入ったといってもまだ石畳は先にずっと続いています。すると2km地点くらいでもう女子のトップ選手に追い抜かれます。あとで見たらadidasの選手でした。このあたりはダブルトラックといった感じで比較的追い抜きは容易。少し進むとあたりは暗く、沢が横切っていたり、いきなり道が右方向に転回したりと、前の様子は分かりにくくなります。斜度はあるものの走れる道です。しかし、僕はきつく感じて走りと歩きを繰り返します。トレイルについているマーキングは白赤のもので、10–50mの間隔で反射板がついています。分かりやすいのですが、前の選手の背中を追うのであまり目に入りません。

3km地点を過ぎると一度下り基調の短いトレイルが現れ、そこから少し登るとエイド(ristoro)となります。カップで渡されるスポーツドリンクを口に含み、ここからは道幅の狭いシングルトラックを登っていきます。このエイド手前で女子3番手のマイテ・マイオラ / Maite Maiora Elizondo 選手に抜かれました。傾斜はそれほどきつくないのですが、自分でも足が止まりつつあるのが分かりました。一人また一人と抜かれます。「止まるな」と言い聞かせ、しっかり膝をプッシュして登ります。この辺りの記憶はあまりなく、無我夢中の状態です。

とうとう、ゴールの小屋に向う前つづら折りの道が現れます。上の方から、「アレアレ!」の声援とカウベルの鳴る音を聞きながら、最後の登りを進みます。この最終盤にコースで一番のぬかるみがありスリッピーなトレイルがあります。道が狭いのでなかなか前の選手を抜けません。ゴール手前のたき火が見えてきました。そして奥には建物も。そこまではつづら折りの道が数十メートルですが、コースを間違えそうになる僕をスタッフが誘導します。もうひとつだけ登ってゴール。手元の時計で54分台でした。スタッフにゼッケンのチップを取り外されて振り返ると、先日香港のランタウ2ピークス / Lantau 2 Peaksで女子優勝のイングビルド・カスペレン / Yngvild Kasperen選手。そのまま前の小屋に近づくと、男子で優勝したレミ・ボネット / Remi Bonnet 選手はもう着替え終わっていました。バナナ、チョコレート、クッキー、温かいレモンティーが振る舞われているので順にもらって、建物の中の暖炉で暖を取りました。フィニッシュ地点の標高は1200mくらいあり、走っている時はあまり 気になりませんでしたが、急激に汗冷えしてきます。 走り終わって街の夜景を見ながら、レースを振り返ります。出し切れたのか、悔しいのか。念願の本場のバーティカルを走り切ったのですが、コースが変更されたのも残念で、なんだか府に落ちない感じでした。

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リモーネの街に設けられたフィニッシュゲートには大勢の観客が集まります。All photos courtesy by Keisuke Sato unless mentioned.

リモーネではバーティカルとスカイレースの両方をしっかり納得いくようにやり切ろうと思っていたので、すぐに気持ちを切り替えます。一緒にバーティカルに出場していた仲間の菊地選手を待って下山しました。

一夜明けてスカイレースに挑戦

積雪で変更されたコースは元のリモーネ・エクストリームとは違う印象に

バーティカルの翌日に開催されるスカイレースは、受付の時点でコースが変更されることが告知されていました。元は標高1,600mの稜線を回り湖畔から反時計周りに一周するコースでしたが、積雪のため変更されたコースは、稜線を標高1,200mまで登った後に谷へ降下。変更前のバーティカルのコースに沿ってバーティカルのフィニッシュ地点を経て、稜線の登りを経てから湖畔のゴールへ駆け下ります。当初のコースと比べて累積獲得高度は600mD+ほどの追加ですが、元々のレースとは違うタイプのレースになってしまったと感じました。

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変更後のスカイレースの概要図。大きなピークへの登りと下りの組み合わせから、3つのピークを組み合わせたコースに。大会ウェブサイトより。

コース変更でエイドの場所も変わります。変更前はDos de la Tera、Larici、Cima Mughera、Mt. Carone中腹、Cadrione、Corno Neroの6箇所(とはいえ現地に行くまで地名と地図が一致しなかったのですが)でしたが、変更後はまったく違う場所に合計6箇所です。エイドの地名もよく分からず、結局はエイドまでの大体の距離と地形の特徴だけ覚えて走りました。

前夜のバーティカルから翌朝のスカイレースに向けて準備

バーティカルが終わった瞬間から、翌日のスカイレースにへ向けて気持ちを切り替えます。今回のレースはバーティカルとスカイレースの両方をコンバインドとしてしっかり走り切ることを目的にしてきたからです。今回のリザルトの上位選手の名前を見る限り、ヨーロッパ(特にイタリア、スペイン)の選手にとってはバーティカルとスカイレースにコンバインドで出るのは普通という印象です。つまり、前日にバーティカルに出た選手が翌日のスカイレースに出るのは当たり前、といった雰囲気です。しかもバーティカルで優勝した選手が、翌日のスカイレースでも勝つこともあるのです。自分もやってみるしかない。そのような心境でした。

前夜のバーティカルを終えて、身体をエマージェンシーシートに包んで登ったばかりのコースを下っていきます。石畳の道で足を捻らないように気をつけます。21時半には宿に戻り、すぐに着替えて風呂で体を温めました。脚の痛む部分、張りのある部分にコールドシートを張ります。若干お腹も空いたので、いただいた赤飯を食べて23 時過ぎに就寝。翌朝は6時に起床、朝食を取ってスカイレースの準備です。

大会の定める必携品はシェルだけです。コースの変更で距離は変わらないものの累積獲得高度は3000mD+まで増えています。去年のリザルトから3時間切りと設定していた目標タイムを3時間30分ほどに改めます。ジェルは当初の予定から一個増やし、 谷あいにある4つめのエイドでサポートしていただく田中さんにも予備を預けました。 他にフラスクに200mlの凌駕アクアチャージを溶かしたものを入れて、腰のポケットに入れます。

美しい眺め、思うように足に力が入らないレースに苦戦

スカイレースのスタートは正午。11時過ぎには宿を出てアップを始め、スタート地点に向かいます。いよいよスカイランニングの最終戦、リモーネ・エクストリームのメインイベントであるSKYカテゴリーがスタートするとあって、会場に集まる選手の興奮が伝わってきます。アップに余念にない人。仲間と談笑をしている人。コーヒーを飲んでいる人。人それぞれです。僕も、ついに本場のスカイレースのあの壁を登り切るぞ、と決意を新たにします。イタリアのスカイランニング文化を精一杯感じようと会場をぐるっと回って10分前にスタート地点に。今度は招待選手らのエリアには入れず、一般のテープが引いてあるところに並びました。

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スカイレースのスタートの直前。

スタートラインに並ぶころから招待選手が名前を呼ばれ、松本選手や星野選手も歓声に迎えられてスタートの最前列に。近くには山本選手、菊池選手もいます。昨夜のバーティカルで優勝したばかりのレミ・ボネット選手も呼ばれて、いよいよカウントダウン、そしてスタート。 湖畔沿いの狭い路地を猛ダッシュで進んでいきます。

レストランのテラスが並ぶ湖畔広場から2km以上の登り基調の石畳や舗装路の道となります。たくさんの観光客からの応援に興奮しながら走ります。ペースは速く、キロ 3分30秒を切っていたのではないかと思います。日本と違って一般の人も飛ばしまくっています。車道に出て数百メートル走るといよいよトレイルへ。ここは最初からかなりガレています。この時点で30番台くらい。斜度もそれなりにある感じで、すぐに膝をプッシュしながら歩き始めます。やはり脚は少し重い。でもそんなに調子悪くはなさそう。

狭い道が蛇行して続きます。後ろから追い上げてくる選手は道が転回するところを利用してうまく抜いていきます。登り始めて500mも進まないうちに女子トップのラウラ・オルグ / Laura Orgue選手に抜かれます。彼女も歩いているのですが、速いのです。 日本から来た仲間の山本選手のすぐ後ろにつけましたが、足が徐々に動かなくなっていきます。標高800mあたりからコースは木々に囲まれ始めます。そしてこの時に昨夜も抜かれた女子のマイテ・マイオラ / Maite Maiora Elizondo 選手。スピードはちょっとした差なのに、僕との差はどんどん広がります。やがて少し斜度が緩くなって走れるところも出てきますが、走れない。どんどん抜かれていきます。このあたりは標高1,000–1,100mくらいです。

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やがて森を抜けて稜線へ。コース最高点の標高1,200m地点です。自分の体は思うように動かずきついながらも、向かって左側に広がる湖の眺めに感動している自分に気付きます。この景色がすべての原動力です。ちょうど晴れ間となり、走っていて気持ちのいい気温です。暑くも寒くもありません。

稜線の狭いトレイルを抜けるとコースはダブルトラックとなります。ちょうどMTBに乗った3人とすれ違い、ここは走れるところなのに僕はすでにフラフラ、力が入らず、歩き出してしまいます。 まだ10km地点にも来ていないのに。ここでランタウ・2ピークスで女子優勝のイングビルド・カスペレン / Yngvild Kasperen 選手にも抜かれ、ほかの選手にもどんどんパスされていきます。エネルギーが切れたところで2個目のジェル。摂ったらすぐにエイド、ここは昨日のバーティカルのフィニッシュ地点です。バナナと塩を補給すると、昨日の下山ルートを下りていきます。完全な下り区間になり、少し回復したのか再び走り出します。次のエイドまで足場が悪いところもありますがそんなに難しい下りではありません。4個目のエイドには田中さんがいてくれて、預けておいたジェルを受け取ります。「佐藤君まだいけるぞ」と励まされると先ほどまでのフラフラも治り、シングルトラックを進んでいきます。

ここからコース変更前のバーティカルの登りへ取り掛かります。足取りは回復、何より昨日はコース変更で登れなかった尾根を前に心高まります。しばらく登る尾根へ向けてトレースするように進んだところ、事前には示されていなかった所に水だけのエイドがありました。ここから標高差500mくらいのバーティカルが始まります。ここからがこのレースで一番苦しかったです。間隔をおいていて応援してくれる人たちがいて元気がでたものの、僕の足は止まってしまい大失速。歩き続けることもできず止まっては歩き登っては歩きを繰り返します。このコースで唯一長めのロープがある標高900m付近を抜けます。ここまで何人も女子選手にパスされてきましたが、この登りの標高1000mあたりで、先日日本で開催された尾瀬VK優勝の / 選手(注・尾瀬VKでの当サイトとのインタビューはこちら)にも抜かれます。気持ち入らず満身創痍でついに座り込んでしまいます。

ただ眼下の景色は素晴らしく、この景色を見にきたんだよな、と1分ほどで再び歩き出します。石室のようなところを横目に抜け、この2回目の登り返しの最高点へ。ここにあるエイドで水とジェルを飲んでバーティカルのために下見した下りに入ります。森の中のつづら折りのなんでもない土のトレイルですが、とにかく体が動かず下りなのに歩いてしまう始末。補給はきちんと摂っているのになぜ、と思いながらトボトボと下っていきます。稜線で意外と冷えたらしく、腕から先だけが震えが止まらなくなりました。下りでも一度しゃがみ込みますが、脇をすごい速さで後続の選手が追いぬいていきます。たくさんの選手が僕に「アレアレ」、「ダイダイ」と声をかけてくれ、肩をポンと叩いてくれます。一番きついところでした。でも温かさに触れ、本当に来てよかったなと思いました。このレースを通じて涙が出そうなところがあり、自分の力を出し切れない悔しさ、絶景への感動などイタリアの山の中で参加者が皆全力をつくして進んでいくことなどを考えるうちにいろいろな感情が湧き上がります。

石畳の道に出てからも下りはまだ続きますが、ペースは上がりません。そして行きでも通過した最後のエイドに。 フラフラだったのでここで少し落ち着くことにしました。チョコやドライフルーツ、バナナなど、一通りのものを食べ、コーラを多めに飲みました。酸味があって美味しかったです。このコーラでいくらか復活します。ここから一度下って昨日のバーティカルのコースから西側のトレイルへ進み、最後の標高差400mの登りです。いつもなら平気のはず(特に今年はウルトラのレースにも出ているので)ですが、今回は長く感じられ、気の重い登りでした。エイドのコーラで回復したのか、この登りは歩きながらもどんどん登っていけました。20人以上追い抜きました。やがてコースは森の中に進み、稜線部へ。ここからは土の走れるトレイルで、あとは下りだけと思ってなんとか走ります。ただ足はもう終わっていて、やっとの思いで走ります。また女性の選手に追い抜かれていきます。

まもなく視界が開けて、眼下にガルダ湖とリモーネの街並みが見えてきます。ここからの下りはかなりテクニカルな岩場です。トップ選手はここをすごいスピードで下りていくだろうなと思いながら進みます。標高で1,000m近く一気に下げていきます。 ガレた岩場を抜け、沢の狭い道、次に手すりのついた道で山を巻くように。しばらくアップダウンを繰り返し、昨日のバーティカルで街からトレイルへ入った入り口あたりへ。フィニッシュまでもう少し。川沿いの石畳の道をスピードを上げて駆け下ります。湖までもう少し。湖畔の手前で道路を左折するとゴールまでは残り数百メートル。街に入ると人が増え、声援も大きくなり、いよいよフィニッシュゲートへ。声援をくれる人はハイタッチをしてくれます。ここで田中さんを見つけホッとしました。無事下山できた、と。そしてフィニッシュ。レースは終わりました。悔しさよりも今年のスカイランニングのシーズンを無事に終えたことの安堵と、今回このリモーネに行かせてくれた皆さんに感謝でいっぱいでした。

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前日のバーティカルに続いてスカイレースをフィニッシュした佐藤圭介。

(続く)

佐藤圭介のスカイランニング世界シリーズ最終戦、リモーネ・エクストリーム / Limone Xtreme参加レポート(3/3)

2016.01.04
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ABOUTこの記事をかいた人

Keisuke Sato

佐藤圭介(さとう・けいすけ)1986年12月生まれ。高校・大学と陸上競技の競歩に取り組む。2013年上州武尊スカイビュートレイルから標高差のあるスカイレースに取り組む。JST南関東所属。チームチョキ、!竹トレらん部!でも活躍中。