100マイルの自然の中のトレイルを1日かけて走るレースにおいても、参加選手の実績や直前の状況をみれば、さらには半分くらいまでレースが進んでしまえば、その日の勝負はみえてくることがほとんどです。しかし、今年のUTMBはそういった予想や見込みを最後まで裏切り続ける、ドラマティックな展開でした。8月26日金曜日にフランス・シャモニーをスタートしたUTMB®︎ (旧称 Ultra-Trail du Mont Blanc)は、フランスのルドビック・ポムレ / Ludovic Pommeretが中盤に50位まで順位を落としながらも後半に復活し、22時間0分でシャモニーにフィニッシュして優勝しました。女子は上位二人の接戦を制したカロリーヌ・シャヴェロ / Calorine Chaverot(フランス)が25時間15分で勝利。ポムレ、シャヴェロの二人ともUTMBで初のチャンピオンとなりました。日本からの参加では丹羽薫 / Kaori Niwaが女子8位で日本人女性で初の表彰台に立ったほか、男子の小原将寿 / Masatoshi Obaraが16位に入る快挙となりました。
トレイルランニングのオンラインメディア・DogsorCaravan.comは今シーズンからUTMB®︎の大会メディアパートナーに加わり、今年も現地から大会の模様をお届けしました。当サイトのUTMBの現地レポートは、大会パートナーであるMountainHardwear、montrailのご協賛によりお送りしました。
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100マイルレースの面白さを改めて示した男子のレース
日中の暑さがまだ残る午後6時、2555人の選手がシャモニーをスタートしてUTMBが始まりました。上位集団から次第に一人抜け出したのはザック・ミラー / Zach Miller(アメリカ)。2013年からアメリカのトレイルランニングレースを走るようになってその実力を発揮。昨年2015年にはCCCに出場して優勝しています。ミラーに続く先頭集団にはジュリアン・ショリエ / Julien Chorier、ファビアン・アントリーノス / Fabien Antolinos、ミゲル・ヘラス / Miguel Heras、ルイス・アルベルト / Luis Alberto Hernandoなど、今回の優勝候補のランナー達が続きます。しかし、ミラーは次第にリードを拡大し、クールマイユール / Courmayeur(79k地点)を過ぎ、グラン・コル・フェレ / Grand Col Ferret(101km地点)では後続に26分差。山から降りてきたラ・フーリー / La Fouly(110km地点)でも後続に20分の差で、このままミラーが初めての100マイルレース、それもUTMBで鮮烈な勝利を勝ち取るかにみえました。しかし、日が高く昇るにつれてミラーは厳しい表情を浮かべるようになってペースを落とします。
この間、ミラーの後続集団を走っていた錚々たる優勝候補の選手たちにも、UTMBのコースが厳しい選別で振り落とし始めます。前夜のうちにコンタミン / Les Contamines(31km地点)では、ジェイソン・シュラーブ / Jason Schlurb(アメリカ)、ライアン・サンデス / Ryan Sandes(南アフリカ)、トフォル・カスタナー / Tofol Castanyer(スペイン)がリタイア。日本の奥宮俊祐 / Shunsuke Okunomiyaもここでリタイアしています。さらにその先のクールマイユールまでで、ルイス・アルベルト・ヘルナンド / Alberto Hernando(スペイン)、トム・ロルブランシェ / Thomas Lorblanchet(フランス)、ディドリク・ヘルマンセン / Didrik Hermansen(ノルウェー)、ミゲル・ヘラス / Miguel Heras(スペイン)などが次々にリタイア。後半に入ってからもアンディ・サイモンズ / Andrew Symonds(イギリス)、ファビアン・アントリーノスもリタイア。大会全体で見てもスタートの翌朝午前9時までに全選手の42%がすでにリタイアしていました。
こうした中でも、序盤にはあえてミラーを追う先頭集団に加わらなかったランナー達が後半に入って次第にミラーとの差を詰め始めます。ルドビック・ポムレ / Ludovic Pommeret(フランス)は31km地点のコンタミンを越えたところから頭痛と腹痛に苦しめられ、コル・デュ・ボンノム / Col du Bonhommeを過ぎてシャピュー / Les Chapieux(50km地点)まで3時間以上の間は歩くほかなく、順位は50位まで落ちていました。しかし、その後は調子を取り戻し、徐々に先行する選手を捉え、トリアン / Trient(141km地点)には先頭を走っていたミラーのすぐ後ろに続いて2番手で到着。
もう一人、後半に一気に頭角を現したのがジェディミナス・グリニウス / Gediminas Grinius。このリトアニアの粘り強いアスリートは序盤から先頭集団のすぐ後ろの10位前後を走っていましたが、先行していた優勝候補の各選手が脱落する中で順位をじわじわと上げていき、トリアンではミラーの姿を捉えます。
こうしてトリアン(141km地点)にはミラー、ポムレ、グリニウスの3人がほぼ同時に入り、レースはここで振り出しに戻りますが、そこから抜け出したのはポムレ。トリアンを出てからの登りで続く二人を引き離してカトーニュ / Catogne(146k地点)ではミラー、グリニウスと10分差。その先のエイド、ヴァルローシン / Vallorcine(151km地点)を経て最後の大きな登りを終えたテット・オーバーン / Tête aux Vents(159km地点)では、2番手のグリニウスとの差を24分まで拡大。見事な終盤劇を演じたルドビック・ポムレが22時間0分2秒でシャモニーにフィニッシュして優勝しました。1975年生まれのポムレは現在41歳。2004年からトレイルレースを走っている経験豊富なランナーで、2009年のCCCで3位、2009年、2014年のレユニオン(Diagonale des Fous)で2位。昨年はIAUトレイル世界選手権・Maxi Race 84kで5位。日本との関係でも2010年のハセツネカップでHOKAのシューズを履いて(ポムレはHOKAの創業者の一人でもあります)優勝、昨年2015年の神流M&Wにも招待選手として参加して優勝しています。UTMBにおいても若い世代の台頭がめざましい中でベテランともいえるポムレが前半の不調にもかかわらず粘り強い走りでついに優勝。このことは、UTMB、とりわけ悪天候や暑さといった条件が厳しい中でのUTMBでは、過去のレースの結果や身体的な能力だけでは勝負は決まらないのだということを改めて示したといえます。
2位になったのはジェディミナス・グリニウスでポムレから26分差。Ultra-Trail World Tourのシリーズ戦での活躍ですっかり有名なグリニウスは、今年Transgrancanaria、Lavaredoでそれぞれ2位。UTMBでは2014年に5位、昨年はトップ10を走りながら終盤にリタイアしていましたが、今回はスマートで安定した実力を見せました。日本のファンには昨年のUTMFで優勝した姿も印象に残っていることでしょう。この日のレースを引っ張ったザック・ミラーはトリアン(141km地点)から先の二人だけでなく、Team Nike Trailのチームメイトであるティム・トレフソン / Tim Tollefson、デビット・レニー / David Laneyの後塵を拝することになりました。トレフソンは昨年のCCCでミラーに次いで2位、レニーも昨年のUTMBでは後半の追撃で3位になっていましたが、二人とも前半のペースを抑え、中盤は10位前後を走って終盤に順位を上げるというスマートなレースを見せました。3位のトレフソン、4位のレニー、そして6位でフィニッシュしたミラーという3人のアメリカ人ランナーが今回のUTMBで見せた走りは、遠くない将来にUTMBの男子のレースでアメリカ人のチャンピオンが誕生するに違いないとシャモニーでは話題となりました。
ミラーの前に5位でフィニッシュしたのはこちらもレースではいつも大きく崩れず安定した実力を見せるハビエ・ドミンゲス / Javier Dominguez Ledo(スペイン)。7位のセバスチャン・カミュ / Sébastien Camus(フランス)もトリアンには力なく歩いて到着しましたが、その後見事に立て直しました。8位にはUTMBではおなじみのジュリアン・ショリエ / Julien Chorier(フランス)で、序盤の力強い走りはその実力が健在であることを示しました。9位にはジウーリオ・オルナティ / Giulio Ornati(イタリア)、10位にはフアン・マリア・ジメネス / Juan Maria Jimenez Llorens(スペイン)が入りました。
日本関連では小原将寿 / Masatoshi Obaraが16位(24時間39分)でフィニッシュし、世界トップレベルのアスリートの証であるトップ20入りを果たしました。この日は序盤から20位前後を走りましたが、「暑さで体調はずっと悪いまま」といいながらもギリギリのところで自分の力を出し切るペースを守り続けました。2014年に41位(26時間22分)、昨年はリタイアでしたが、見事に今回はその実力を発揮しました。このほか、アメリカ在住の藤岡正純 / Masazumi Fujiokaが36位、昨年11位の土井陵 / Takashi Doiが39位。上位が期待された大瀬和文 / Kazufumi Oseはクールマイユールまでの前半は20位以内を走りましたが、後半に入って調子を崩したまま、立て直せずに108位でフィニッシュ。別府浩司 / Koji Beppuは最後は大瀬と一緒に励まし合いながらも競り合い、109位。パワースポーツ代表でレースのプロデュースだけでなく、シニアのアスリートとしても高い実力を持つ滝川次郎 / Jiro Takikawaは129位(32:58:13)で初めてのUTMBをフィニッシュ。年代別(V2H<1957-1966年生まれ>)で5位でした。
女子では今季大活躍のカロリーヌ・シャヴェロが昨年の雪辱を果たす
女子のレースは当サイトでも優勝候補に挙げていたカロリーヌ・シャヴェロ / Caroline Chaverot(フランス)とアンドレア・ヒューザー / Andrea Huser(スイス)の二人の競り合いが続きました。シャヴェロは今シーズンは注目度の高いトレイルレースでの優勝が続き、先月のスカイランニング世界選手権・Buff Epic Trail 105kでも優勝していますが、昨年のUTMBでは先頭を走りながらも痛恨のリタイアでした。今回もシャヴェロはスタートから先頭を走り、昨年はTDSで優勝しているヒューザーが追います。二人は途中で互いに抜いたり抜かれたりこそしなかったものの、最後まで20分以上の差が着くことはなく、トリアン(141km地点)ではわずか4分強まで差が縮まりました。昨年はヴァルローシン(151km地点)で無念のリタイアとなったシャヴェロも今年はヴァルローシンの前後に位置する大きな登りでそれぞれヒューザーへの差を広げる快走を見せました。結局、カロリーヌ・シャヴェロがヒューザーに7分のリードを守って、25時間15分40秒でUTMBでの初優勝を果たしました。
2位にヒューザーがフィニッシュした後、二人に約2時間おいて3位争いをしていたのは昨年のUTMFで優勝したウシュエ・フライエ / Uxue Fraile Azpeitia(スペイン)とジュリエット・ブランシェ / Juliette Blanchet(フランス)。日が落ちる前から空には雨雲が広がり、シャモニーを激しい雷雨が襲う中で二人のバトルを制したのはウシュエ・フライエ。27時間10分22秒で3位でフィニッシュ。4位はジュリエット・ブランシェでした。5位にはアメリカのマグダレナ・ブーレ / Magdalena Boulet、6位にはジャスミン・パリス / Jasmin Paris(イギリス)、7位にイルディコ・ウェルミシャー / Ildiko Wermescher(ハンガリー)と続きます。そして、8位に丹羽薫 / Kaori Niwaが29時間17分41秒がフィッシュ。今回がUTMBへの初挑戦となる丹羽ですが、序盤から安定したペースを守ってトップ10入りです。今年から女子の表彰が従来の5人から10人に拡大されたこともあり、丹羽は日本人女性として初めてUTMBの表彰台に立つという快挙を勝ち取りました。
このほか、日本関係では新保佳代 / Kayo Shibuyaが37時間49分24秒で女子31位で完走しています。
UTMB 2016 リザルト
大会全体のリザルトはこちらから。
男子
- ルドビック・ポムレ / Ludovic Pommeret (HOKA, FRA) 22:00:02
- ジェディミナス・グリニウス / Gediminas Grinius (Vibram, LTU) 22:26:05
- ティム・トレフソン / Tim Tollefson (Nike, USA) 22:30:28
- デビット・レニー / David Laney (Nike, USA) 22:41:14
- ハビエ・ドミンゲス / Javier Dominguez Ledo (Vibram, ESP) 22:44:16
- ザック・ミラー / Zach Miller (Nike, USA) 22:54:26
- セバスチャン・カミュ / Sébastien Camus (Garmin, FRA) 23:12:43
- ジュリアン・ショリエ / Julien Chorier (HOKA, FRA) 23:13:34
- ジウーリオ・オルナティ / Giulio Ornati (Salomon, ITA) 23:25:38
- フアン・マリア・ジメネス / Juan Maria Jimenez Llorens (ESP) 23:27:18
- マルコ・ザンチ / Marco Zanchi (Vibram, ITA) 23:44:43
- フランシスコ・ハビエ・ロドリゲス / FRAncisco Javier Rodriguez Bodas (ESP) 23:50:21
- ビクター・ベルナド / Victor Bernad Blasco (ESP) 23:53:25
- アルマンド・ホルヘ・テイシェイラ / Armando Jorge Teixeira (Salomon, POR) 24:22:22
- フアン・ホセ・ラロッチャ / Juan Jose Larrotcha (ESP) 24:35:08
- 小原将寿 / Masatoshi Obara (HOKA, JPN) 24:39:02
- ポール・ギブリン / Paul Giblin (Nathan, GBR) 25:03:05
- ギヨーム・ポーシェ / Guillaume Porche (FRA) 25:03:10
- ダミアン・ホール / Damian Hall (GBR) 25:12:11
- ライアン・スミス / Ryan Smith (GBR) 25:37:33
日本関連
- 36 藤岡正純 / Masazumi Fujioka 27:39:21
- 39 土井陵 / Takashi Doi 28:02:57
- 89 竹内正宏 / Masahiro Takeuchi 31:05:36
- 108 大瀬和文 / Kazufumi Ose (Salomon) 32:11:05
- 109 別府浩司 / Koji Beppu 32:11:48
- 129 滝川次郎 / Jiro Takikawa (Powersports) 32:58:13
女子
- カロリーヌ・シャヴェロ / Caroline Chaverot (HOKA, FRA) 25:15:40
- アンドレア・ヒューザー / Andrea Huser (Mammut, SUI) 25:22:56
- ウシュエ・フライエ / Uxue FRAile Azpeitia (Vibram, ESP) 27:10:22
- ジュリエット・ブランシェ / Juliette Blanchet (Isostar, FRA) 27:37:18
- マグダレナ・ブーレ / Magdalena Boulet (HOKA, USA) 28:18:05
- ジャスミン・パリス / Jasmin Paris (GBR) 28:34:35
- イルディコ・ウェルミシャー / Ildiko Wermescher (Mammut, HUN) 29:13:56
- 丹羽薫 / Kaori Niwa (Salomon, JPN) 29:17:41
- デニス・ジンマーマン / Denise Zimmermann (Salomon, SUI) 31:00:03
- ソフィー・グラント / Sophie Grant (GBR) 31:53:07
- グラツィアーナ・ペー / Graziana Pe (The North Face, ITA) 32:26:50
- ニッキー・スピンクス / Nicky Spinks (inov-8, GBR) 32:32:11
- スサーナ・シモエス / SUSAna Simoes (POR) 32:36:22
- シルケ・コースター / Silke Koester (USA) 33:00:21
- マリー・マクノートン / Marie Mcnaughton (NZL) 33:56:28
- ジーン・ブラウン / Jean Brown (GBR) 33:57:59
- ヤンシン・マ / Yanxing Ma (CHN) 34:05:44
- イレーヌ・キネギム / Irene Kinnegim (NED) 34:12:55
- アリシア・シャベリ / Alicia Chaveli Peris (ESP) 34:31:02
- キャロル・モーガン / Carol Morgan (IRL) 34:39:49
日本関連
- 31 新保佳代 / Kayo Shibuya (inov-8) 37:49:24