昨夜はUTMB®︎が導入する新しいエントリーの仕組みについての発表があり、当サイトでも早速その内容を説明する記事をお届けしました。エントリーに必要なポイントは引き下げられたものの、一部の大会でだけ得られる「ランニングストーン」を貯めると抽選なしで出場権が得られる、という仕組みを2021年大会へのエントリーから導入します(移行期間として2020年大会へのエントリーにもその一部が導入されます)。
一見するとちょっとわかりにくい新エントリーシステムなのですが、ランナーがUTMB®︎にエントリーするための負荷を減らして、自分のシナリオに応じてUTMB®︎出場への準備ができる柔軟性がある仕組みになったのは朗報だといえそうです。
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これまでだと170kmのUTMB®︎なら2年以内に15ポイント、例えば100マイル(6ポイント)を2つと50kmくらい(3ポイント)を完走しなければ抽選券を得ることすらできませんでした。そして抽選での当選率は初回では3割以下(2019年大会へのエントリーの場合の当サイトの推定)。さらに抽選に外れたら翌年の抽選で抽選券が2枚になるといっても、また2年以内に15ポイントは必要になるし、ポイントが揃えられなかったらさらにその翌年では抽選券は1枚しか得られません。抽選に二度外れると抽選なしでエントリーできるといっても、その場合は4年間にわたって年1回は100マイルや100kmを完走し、そのほかにも50kmなど距離がより短いレースも年1回くらいは走らないといけません。これは故障で走れない時期があるとUTMB®︎への道ははるかに遠ざかっていくことになります。
しかし、2021年から新しいシステムではランナーのニーズや状況に応じてそれぞれのやり方でUTMB®︎への出場を目指すことができることになります。
トレイルランニングを続けながら焦らずにチャンスを待ちたい場合
来年、再来年のUTMB®︎に何としても出たいというのでなければ、自分のペースでトレイルランニングを続けながら、UTMB®︎にエントリーを続けて抽選で当たるチャンスを待つことになります。この場合はITRAポイントが認められている大会は日本にもたくさんあるので、これまで通りに自分のペースでポイントを貯めていくことができます。
さらに新しいエントリーシステムでは、UTMB®︎のエントリーに必要なポイントは10ポイントを最大2つのレースで2年以内と2019年まで(15ポイントを最大3つのレースで2年以内)と比べてハードルが下がりました。しかも、抽選に外れた場合に抽選券(チケット)が翌年の抽選で一枚追加される仕組みは、エントリーしない年を挟んで追加抽選券を繰り越せることになりました(従来は休みなく続けてエントリーすることが追加の要件でした)。加えて、UTMB®︎の抽選で外れた場合、翌年以降にエントリーするのがCCC®︎など他のレースであっても追加抽選券は与えられるようになります(従来は同じレースに続けてエントリーしないと追加抽選券は得られない)。
一方、このようにエントリーのハードルが下がり、追加抽選券が認められる条件が緩和されたことで、UTMB®︎にエントリーするランナーの数は増えるでしょうから、抽選での当選確率は下がるかもしれません。また、以下に紹介する「ランニングストーン」を得て抽選なしで出場権を獲得、またはチケットを大幅に追加してエントリーしてくるランナーが増えてくれば、その分だけ「ランニングストーン」なしでエントリーしている人たちのチャンスは小さくなるでしょう。さらに2021年以降はこれまでのような直前二度落選者への抽選免除の仕組みが維持されるとは明言されていません。
来年か再来年に必ずUTMB®︎に出たい場合
一刻も早くUTMB®︎に出たい、という人には新システムで導入された「ランニングストーン」は朗報です。例えば今年の秋に開催のOman by UTMB®︎の137kmや170kmに出場すれば6ポイントが認められるほか、「By UTMB®︎」の大会完走者への特典として「ランニングストーン」18個(1ポイントにつき3個)が認められます。ストーンが18個あれば抽選免除で出場権が得られるので、残る4ポイントは100km前後のレースを自由に選んで完走すれば10ポイントを満たして、翌年のUTMB®︎のスタートラインに立つことができます。
このほかにもUltra-Trail World Tour(UTWT)のレース完走者にも「ランニングストーン」は認められます(1ポイントにつき1個)。UTWTのレースで100マイル程度のレースでストーン6個が得られます。抽選免除に必要なストーン18個を貯めるには100マイルなら3回完走する必要があります。
ただ現状では「By UTMB®︎」のレースはGaoligong(中国), Ushuaia(アルゼンチン), Oman(オマーン)の3つのみ。いずれも日本からは少々遠く感じる場所での開催です。今後、「By UTMB®︎」のレースは20大会まで増やす構想があるようですが、世界の各大陸に分布する形を志向しているので増えたとしてもまだトレイルランニングの大会が少ないエリアでの大会になる可能性が高いでしょう。また、「By UTMB®︎」の大会が増えて、ストーンを貯めてエントリーする人が想定以上に増えてくれば、必要なストーン数を引き上げるといった措置も考えられます。
急がないけれども、4、5年のうちにはある程度確実にUTMB®︎に出たい場合
Ultra-Trail World Tour(UTWT)のレースで得られる「ランニングストーン」は上記のように「By UTMB®︎」のレースより少なく、ストーン18個を貯めるのは大変に思えますが、ストーンは4年間有効、という点がポイントです。4年間のうちにUTWTのレースを3つか4つ完走すれば(加えてUTWT以外のレースも完走しないと10ポイントに達しないかもしれませんが)抽選免除で出場権が得られます。しかもその間毎年10ポイントを満たしてエントリーし続ける必要はない、というのも朗報です。UTWTのレースは今年は20大会がラインナップしており、それぞれUTMB®︎とは異なる個性を持った大会である点は魅力です。
さらに「ランニングストーン」は必要な数を貯めると抽選免除がも認められるだけでなく、ストーン1個を追加の抽選券1枚に替えてエントリーすることもできます。UTMB®︎にエントリーする際の10ポイントの中に、UTWTの100マイルレースで得た6ポイントがあればストーン6個を得ているので、これを全て追加抽選券に替えれば(一部のみを替えることも可能)本来の抽選券に加えて7枚の抽選券で抽選に参加することができます。UTWTのレースを走らずにエントリーする場合に比べると7倍も当選の可能性が高まるのは魅力です。しかもこれもストーンが4年間有効なので、自分の都合に合わせて抽選に参加するタイミングをある程度選ぶことができます。
この場合もストーンを貯めてエントリーする人が増えてくれば、必要なストーン数は引き上げられるかもしれません。また、追加抽選券が得られるのは魅力的ですが、落選回数に応じて回数の二乗で抽選券が増えていくWestern Statesの例を見ていると、抽選券が増えていくほど限界的な当選率の上積みは小さくなり、当選率50%ほどで足踏み状態となるので、過度な期待はできないかもしれません。
というわけで、少々複雑になるように思えますが、ランナーのニーズや状況にあわせてUTMB®︎への目指し方を選べるようになった点は大きな改革です。当サイトではUTMB®︎のウォッチャーとして今後もUTMB®︎の話題を紹介していきます。