海外のトレイルランニングコミュニティで注目のブランドの新製品が日本に上陸します。
スポーツGPSスマートウオッチのCOROS(カロス)は最新モデルの「PACE2」のクラウドファンディングをMakuakeでスタートしました。COROSはすでに海外ではトレイルランニングやクライミングなどの山岳スポーツに向けたプレミアムモデルを発売していて注目を集めています。そのCOROSから普及価格帯でランニングをはじめとする幅広いスポーツに対応するマルチスポーツGPSスマートウオッチとして発売されるのが「PACE2」です。
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当サイトではクラウドファンディングに先立ってレビュー用に提供していただいた「PACE2」を早速試してみました。最初に感じたのは29gと軽くて薄いウオッチを身につける軽快さ。しかし使い込んでいくうちに気づいたのはスポーツウオッチとしての豊富な機能とフルGPSモードでバッテリー持続時間が30時間という妥協のないスペックの高さ。お値段はミドルレンジながら、ランニングパワー計測機能やトレーニングプラン管理機能といったシリアスなアスリートが求めるプレミアムモデルの機能を備える、ユニークな製品です。
COROS(カロス) PACE2のクラウドファンディングはMakuakeで1月25日まで受付中。この記事の公開時点では一般販売予定価格30,390円のところ28%オフの21,900円(税込・送料込)で支援可能となっています。
一見エントリークラスのランニングウオッチに見えるが、ガチなアスリートの期待に応えるスペック
アメリカ・バージニア州のスタートアップ企業として始まったCOROS(カロス)が2016年に最初に生み出した製品はスポーツ自転車用のスマートヘルメットでした。2018年春には製品ジャンルを拡大してマルチスポーツGPSウオッチ「PACE」を発売。その年の秋には「APEX」、2019年夏にはGPSモードで最長150時間というアドベンチャー仕様の「VERTIX」、今年2020年春には「APEX Pro」と製品ラインを拡大。COROSがサポートするアスリートを見ても、トレイルランニングやアルパインクライミングのようなハードコアでエクストリームなアウトドアスポーツにも焦点を当てていることがわかります。
また11月24日にはCOROSがマラソン世界記録保持者のエリウド・キプチョゲ Eliud Kipchoge選手と所属するNN Running Teamのスポンサーとなることが発表されました。このNN Running Teamには日本の福田穣選手が加入することが先週発表されています。キプチョゲ、福田の両選手をはじめとするNNのトップアスリートもPACE2をトレーニングに活用することになるのでしょう。
そのCOROSが今年秋、アメリカやヨーロッパ、中国で発売したのが「PACE2」。その名の通り「PACE」の2代目モデルという位置付けで、サイズは42 x 42 x 11.7 mm、重量はナイロンバンド込みで29g(シリコンバンドのモデルは35g)で「GPSウオッチとしては市場で最軽量」をうたっています。
ベゼルとケースはFRPでスクリーンはコーニング社製ガラス。ボタン類はベゼル右にデジタルダイヤルとボタンが一つずつ。外観はカジュアルなデザインですがベゼルが薄いのでディスプレイが大きく見え、チープなプラスチック感はありません。防水等級は5ATMです。
ディスプレイは「Always-On Memory LCD」で240 x 240ピクセル。スポーツウオッチでは一般的な省電力の液晶ディスプレイです。タッチスクリーンには対応していないので、操作はデジタルダイヤルとボタンで行うことになります。
以上のスペックはミドルレンジのスポーツGPSウオッチとしては平均的ですが、バッテリー持続時間が日常使用で20日間、「フルGPSモード」で30時間、「UltraMax GPSモード(長稼働モード)」で60時間となっているのにはちょっと驚き。レースやトレーニングで使う「フルGPSモード」は同じクラスの他社製品であれば10数時間くらいのものが多いので、PACE2のバッテリーライフは大盛り状態。バッテリーについては100kmや100マイルのトレイルランニングやウルトラマラソンのレースで使えるレベルの容量です。実際の生活の中で試したところ、一度100%まで充電してからちょくちょくメニュー画面を確認するために操作を繰り返し、毎日2、3時間程度のランニングを続けたところ、7日目が終わるところでバッテリーはゼロになりました。
アクティビティ中にバッテリーの残りが少ないと気づいたら長稼働モードに切り替えて稼働時間を延ばすこともできます(長稼働モードではGPSの測位の頻度を減らしつつも加速度センサーを使って距離やペースを記録し続けますが、一般的にデータの精度はフルGPSモードよりも落ちます)。
このほか、他社製品ではあまりみないPACE2のユニークな機能が「ナイトモード(発光モード)」。これは日没から日の出までの夜間の間、ディスプレイの表示が読めるくらいの明るさでバックライトを常時点灯させるという機能。これとは別に、腕を傾けるジェスチャーに反応して一時的にバックライトを点灯させる機能もあります。これをオンにしておけば日没から日の出までの間、ウオッチを顔に向けて返した時にバックライトが点灯します。両方の機能を同時にオンにするとナイトモードの方が優先します。どちらを使うか(あるいはどちらも使わないか)はアクティビティの内容によって選ぶことになるでしょう。
ランニングパワーの計測が可能、トレーニング管理機能も備えている
そのほかのハードウェアのスペックをみると、GPS関連はGPS、GLONASS、Beidoに対応し、Galileoにも将来のファームウェア更新で対応予定。PACE2の設定画面をみるとGPSは日本のQZSSと合わせて利用し、オプションでロシアの GLONASSか中国のBeidoのどちらかを追加して利用できるようになっています。
このほか、光学心拍センサー、加速度センサーに加えて、アウトドアスポーツで役立つ気圧センサー、コンパス、ジャイロスコープ、気温センサーを搭載。アクセサリーとの通信はBluetoothとANT+に対応。チェストストラップを使う心拍計やフットポッド、自転車関係のアクセサリーなどは他社製も含めて幅広く利用可能です。
対応するスポーツアクティビティとして用意されているのは「ラン」、「トレッドミル」、「トラックラン」、「バイク」、「屋内バイク」、「プール(Pool Swim)、「アウトドア(Open Water Swim)」、「ロー(カヤック)」、「屋内ロー」、「静水ボート(Flatwater、SUP)」、「トライアスロン」、「筋トレ(Strength)」、「屋内有酸素(Gym Cardio)」、「屋外有酸素(GPS Cardio)」。それぞれのアクティビティ中にディスプレイに表示される距離などの数値類は最大6ページまでスマホアプリで細かくカスタマイズ可能です。アクティビティの種類を新しく作ることはできませんが、「屋外有酸素」をカスタマイズする形でなら対応可能です。
以上に加えてPACE2の本気を感じさせるのが、ランニングパワー計測機能とトレーニング管理機能です。
ランニングのトレーニングの量や質を考えるとき、同じ走行距離でも速さが違えば強度は異なります。同じスピードでも向かい風や上り坂では強度が高くなる、といった具合です。そこでより客観的にトレーニングの強度を把握するために、「体重×加速度×速度」で計算される「ランニングパワー」という指標が注目されています。
身につけるデバイスでランニングパワーを測る場合には、ランニング中の体の動きについてデバイスの様々なセンサーから得られるデータからある種のアルゴリズムによって算出することになります。このため、シューズに加速度センサーなどが内蔵されたフットポッドを着けたりします(StrydやGarmin、そしてCOROSもこのフットポッドを製品としています)。そして最近ではPolarからアクセサリーなしでもウオッチ本体だけでこのランニングパワーを計測できるウオッチ(Vantage VやGRIT X)が登場しています。COROS PACE2もウオッチ本体だけでランニングパワーが計測できる機能を搭載してPolarに続くことになりましたが、お値段はPolarの半分以下という点が画期的です。
外部アクセサリーを使わずにウオッチ本体だけでどれくらい正確にランニングパワーが計測できるかが気になるところです。精度の評価はいろいろな要素があって複雑ですが、DC RAINMAKERのレビューによればCOROSはこの機能を搭載するにあたってStrydの協力を得ていて、実際に様々なテストをした結果も良好な様子です。
PACE2の本気のもう一つはトレーニング管理機能です。これは例えば6ヶ月後の50マイルのレースに向けたトレーニングプラン、さらにその日のウォームアップからクールダウンまでの練習メニューをウオッチに登録しておけるという機能。実際に走る時には、その練習メニューを呼び出して、ウオッチからの指示に従って練習ができるというわけです。
トレーニングメニューを一から自分で組み立てることもできますが、Corosのウェブサイトにはいくつかプランが用意されていて、ダウンロードして自分のウオッチに登録することもできます。例えば、「マラソンでサブ3:15を目指す」というプランをダウンロードしてみます。
トレーニングの開始日を決めるとレース当日まで8週間のトレーニングが設定されました。初日の火曜日は「40分のイージーラン」という内容で10分のウォームアップに続いて5分/kmで40秒、3分10-30秒/kmで20秒を繰り返し、クールダウンという内容でした。
このほかにも一回で取り組むトレーニングの組み合わせを「ワークアウト」として登録することもできます。こちらも自分で自由に組むことができますが、Corosのウェブサイトからダウンロードできるヒラリー・アレン(2019年TDS®︎で2位)のワークアウトをダウンロードしてみます。
すると、縄跳び、スクワットジャンプ、と始まる32組のトレーニングで所要時間23分のワークアウトがダウンロードできました。これをウオッチに同期して登録すれば、必要な時にメニューから呼び出してウオッチの指示に従ってワークアウトができるというわけです。
COROS PACE2をランニングで使ってみた
続いては実際にCOROS PACE2を使ってランニングをしてみた様子をご紹介。
左上のデジタルダイヤルを長押ししてロックを解除してからもう一度プッシュするとアクティビティの選択画面に。ここではウオッチの設定メニューやトレーニング、ワークアウトを呼び出すことも可能です。
ここでデジタルダイヤルを押して「ラン」を選択。ディスプレイの下部に心拍数、バッテリー残量(%)、GPSの測位状況、現在時刻が表示されます。心拍とGPSの計測中はロゴが点滅していて、この時すぐに「開始」しようとすると「計測中です」とアラートが出ます。しかし、計測はさほど待たされることはありません。「開始」の他はシンプルなインターバル走のメニューやランニング中のアラートの設定ができます(距離毎のアラートのほか、ペース、ピッチ、心拍数ランニングパワーが設定したレンジから外れたらアラートを出すことができるほか、一定時間毎に補給を促すアラートも設定可能)。
ユニークなのは「体力」という項目で、これは文字通り身体的な体力があと何%残っているかという指標。
右下のボタンを長押しするとツールボックスのメニューが現れます。これはランニング中でもメニューを呼び出すことができ、バッテリーを「長稼働モード」に切り替えたり、「ナイトモード(発光モード)」のオンオフを切り替えることもできます。
このツールボックスのメニューにはバッテリー容量の設定もあります。この項目を開くと、前回の充電からどれくらいのペースで残量が減っていてあと何日持つかがグラフで表示できるほか、残りの日数、フルGPSモードで使用可能な残り時間、さらにはここまでのバッテリー消費の内訳(GPSを使ったワークアウト、バックライト点灯、心拍数計測など)まで表示してくれます。このあたりはバッテリーの持続時間が気になるトレイルランナー、ウルトラマラソンランナーにはかなり「刺さる」機能です。
ランニング終了後はウオッチ本体でも、同期後のスマホアプリでも詳細なメトリクスが確認できます。
スマートウオッチとしてはライフログ関連を中心とした基本的な機能を備える
以上で見てきたのはランニングをはじめとするマルチスポーツGPSウオッチとしてのPACE2です。ここでスポーツをしている以外の時の日常生活で使うスマートウオッチとしてPACE2をみると、その機能は基本的なものにとどまっているという印象です。
ウオッチ本体のウオッチフェイス画面からデジタルダイヤルを回すとその日の消費カロリー数、ステップ数、運動時間、登った階段の数が表示され、さらに回すと心拍数の推移、高度の推移、気圧の推移、温度の推移、日の出や日没の時刻、スマホからの通知と切り替わります。
スマートフォンアプリでも同様なメトリクスが一覧できますが、スマホだけで見られるデータとしては、ウオッチがトラッキングする睡眠時間、直近1週間のトレーニング負荷のレベルの推移、フィットネスインデックス(安静時心拍数、VO2Max、LT値など)、体力レベルがあります。
以上、ライフログやフィットネス関係の機能は備えていますが、例えばApple Watchとの比較でいえば音楽を聴く機能、血中酸素濃度を測る機能、かざして支払いをするコンタクトレス決済機能などはありません。あと、天気予報もPACE2では見られません。
まとめ:手頃な値段のスポーツウオッチ「撒き餌」モデルであると同時に、シリアスなアスリートのニーズに応える飛び抜けた機能を備える
たぶん、多くの人にとってPACE2はコスパがよくて初心者にも勧めやすい入門モデルという位置付けになるでしょう。まず199ドル(アメリカでの価格)という価格はGPSスポーツウオッチの市場ではかなり控えめなお値段。29gという軽さやメタルを使わないカジュアルなデザインも、気軽に試してみようという気持ちをそそります。ちょっと詳しい人ならバッテリー持続時間がフルGPSモードで30時間と長いことがお得と感じるでしょう。その意味でPACE2はCOROSが幅広いマーケットに受け入れられることをねらった「撒き餌」モデルのように思えます。
しかし、PACE2のスペックを細かく見ていくと入門モデルと呼ぶにはかなり凝った機能も備えていることに気づきます。ランニングパワーを計測したり、トレーニングプランを設定するような使い方をするのは、フルマラソンの自己ベスト更新とか、トライアスロンや100マイルのトレイルランニング完走というような目標に向けて、ストイックにトレーニングを続けている人たちです。その意味でPACE2は経験豊富なエリートアスリートにも注目されるモデルとなるのではないでしょうか。
もちろん、COROSや他のメーカーのより高価格のアウトドア向けGPSスマートウオッチはさらに幅広い機能を備え、バッテリー持続時間も長かったりします。なかでもPACE2をトレイルランニングのために使うなら、ルートのナビゲーション機能はあったらうれしいところです。とはいえ、手頃な値段の初心者向けでありながらも上級者向けの尖った機能も備えたPACE2は、ほかにはないユニークな存在として、当サイトとしてもおすすめのマルチスポーツGPSウオッチです。