2022年にUTMB®︎ ワールドシリーズがスタート、モンブラン出場には新シリーズ参加が条件に、IRONMANグループとの提携も

【追記・「イベント」は今後30大会程度まで拡大していくこと、希望する大会は無料で「クオリファイアー」の呼称を得られること、「クオリファイアー」はシリーズ独自のパフォーマンスインデックスの対象となり、モンブラン以外のシリーズ各大会のエントリーで優遇されること、を新たに追記しました。2021.05.07】モンブランはトレイルランニング界のコナに。参加のハードルは高くなるかもしれませんが、UTMB®︎のスピリッツはさらに世界に広がるともいえます。

UTMB®︎ Mont-Blancの開催に加え、世界各地に”by UTMB®︎”の大会を展開するUTMB Groupは、トライアスロンのシリーズ戦で知られるIRONMANグループと提携し、2022年に新たにUTMB®︎ ワールドシリーズ UTMB®︎ World Seriesを開催することを発表しました。新しいシリーズ戦ではUTMB®︎ Mont-Blancがチャンピオンを決定する年間の「ファイナル」と位置付けられ、米州、欧州、アジア・オセアニアでそれぞれ「メジャーズ」となる大会を設定、さらに「シリーズイベント」として現時点までにモンブランを含めて世界各地の8大会をラインナップ。「シリーズイベント」は今後30大会程度まで増える見込みです。これらの新シリーズで少なくとも一度は完走することがOCC、CCC®︎、UTMB®︎の3レースのエントリー資格となり、その上で抽選が行われます。これにより、新シリーズ以外のレースでITRAポイントを獲得することでは3レースについてはエントリー資格を満たせないこととなりました。

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モンブランを頂点に、UTMB®︎のクオリティと精神を世界に展開する新シリーズ

2003年の初開催以来、美しいコースと先端的な取り組みでトレイルランニング界をリードしてきたUTMB®︎ Mont-Blancは世界最高峰のトレイルランニングイベントです。2022年に新たにスタートするUTMB®︎ ワールドシリーズはこのUTMB®︎ Mont-Blancを頂点に、UTMB®︎の精神とクオリティを共有する世界各地の大会で構成されます。現時点ではUTMB®︎ Groupが各地の主催者とともに開催する”by UTMB®︎”として発表済みの4大会と、これまでにIRONMANグループの傘下に入っている3大会にモンブランをあわせた以下の8大会をラインナップし、今後は30大会程度まで増やしていくといいます。シリーズ戦の全日程は今年2021年の第3四半期に発表するとしています。

これらの大会から構成されるUTMB®︎ ワールドシリーズには「50K」、「100K」、「100M」 の3競技が設けられ、以下の4つのレイヤーから構成されます。

UTMB® ワールドシリーズ・ファイナル UTMB® World Series Finals

UTMB® Mont-Blancは年間のシリーズの最終戦であり、シリーズのチャンピオンを決める「ファイナル」と位置付けられ、「50K」、「100K」、「100M」のシリーズ3競技についてそれぞれOCC、CCC®︎、UTMB®︎が開催されます。この「ファイナル」となるレースに出場するには、エリート選手か一般選手かの区別を問わず、後述のUTMB®ワールドシリーズメジャーまたはUTMB®ワールドシリーズイベントのいずれかを完走することが参加資格となります。詳細はまだ明らかにされていないものの、抽選においては「メジャー」を完走した場合や、複数の大会を完走した場合に抽選券が増える仕組みです。後述のようにエリート選手はシリーズ戦で上位に入ることで抽選なしで出場可能となりますが、ファイナルの開催までの15ヶ月間にシリーズ戦で結果を残すことなく出場することはできません。

以上から、2022年以降はOCC、CCC®︎、UTMB®︎についてはITRAポイントによるエントリー資格は撤廃され、新シリーズ以外のローカル大会に参加しても出場資格は満たせないことになります。

UTMB® ワールドシリーズ メジャー UTMB® World Series Majors

年間のシリーズの中で、米州、欧州、アジア・オセアニアでそれぞれコンチネンタル・ファイナルとなる大会が設定され、この3つの大会が「メジャー」と位置付けられます。「メジャー」の3大会では「50K」、「100K」、「100M」の少なくとも一つについてレースを開催。完走者にはモンブランでの「ファイナル」で抽選チケットが最低でも2倍となる特典が与えられます。

UTMB® ワールドシリーズ イベント UTMB® World Series Events

シリーズの「イベント」はヨーロッパ、アジア、オセアニア、アメリカ、アフリカの手つかずの自然に囲まれた特別な場所で開催されるトレイルランニング大会により構成されます。これらの大会はUTMB®︎での冒険を最高レベルのクオリティで世界中のランナーに提供することをねらいとします。

「イベント」の大会においてもシリーズの3競技の少なくとも一つのレースが開催され、完走することで「ランニングストーン」を1個付与。1個につき抽選チケット1枚でモンブランの「ファイナル」の抽選に参加できます。

UTMB® ワールドシリーズ クオリファイアー UTMB® World Series Qualifiers

上記3つのカテゴリーの他に、希望する大会については申請すれば無料で「クオリファイアー」のレーベルを提供。これら「クオリファイアー」の大会については、完走しても「イベント」の参加資格となることはないものの、「イベント」への参加で優遇される、としています。また、UTMB®︎ワールドシリーズで算出して公開される参加ランナーのパフォーマンスインデックスについては、「クオリファイアー」の各レースについても提供されるとしています。

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UTMB®︎とIRONMANが提携

今回のUTMB®︎ ワールドシリーズの発表にあわせて、UTMB®︎ GroupとIRONMANグループの提携も発表されました。IRONMANといえばトライアスロンのシリーズ戦やRock’n’Rollマラソンシリーズで知られるスポーツビジネスの大手企業。トレイルランニングについても2018年5月にUltra-Trail Australia(オーストラリア)、2019年1月にTarawera Ultramarathon(ニュージーランド)、2020年10月にmozart 100(オーストリア)を買収して傘下に入れていました。今回の新シリーズにもIRONMAN傘下の3大会が加わっています。

世界の頂点を目指すエリート選手もシリーズ戦で結果を出すことでモンブランに挑戦できる仕組みに

今回の発表の中では、UTMB® ワールドシリーズとして独自のパフォーマンス・インデックス Peformance Indexを開発するとしています。「新しいUTMB® ワールドシリーズでも、自分のパフォーマンスレベルを評価・比較するためにこのシステムを継続して使用することができます」とされていることから、明言はされていないもののITRAが算出して提供しているパフォーマンスインデックスと同等もしくは同じものだと思われます。ローカルイベントなどの結果についてパフォーマンスインデックスで評価されているランナーは、ワールドシリーズの「イベント」各大会へのエントリーで優遇されるとしています。 この独自のパフォーマンスインデックスは「ファイナル」、「メジャー」、「イベント」の他、「クオリファイアー」のレースのリザルトに基づいて各ランナーに提供されます。そしてこれらの大会に参加してパフォーマンスインデックスを算出されているランナーは「イベント」の各大会についてエントリーで優遇されることになります。

また、シリーズの中に設ける競技の種目としては20K、50K、100K、100Mの4種目を設けるとしており、UTMB®︎ Mont-BlancやITRAでも用いられてきたkmエフォート(距離と標高差の両方を考慮して体感距離を算出する方法)を用いて各種目は定義されるとしています。

「ファイナル」となるUTMB®︎ Mont-Blancへのエリート選手の参加枠については、素案をエリート選手のグループに打診してその意見を集約した上で策定したといいます。具体的には次のようになっており、加えて「15ヶ月にわたって参加して資格を得る必要がある」とされています。これらから、前年5月から当該年5月までに行われたシリーズ各大会で上位に入って資格を得た選手が当該年8月の「ファイナル」に参加できるものと思われます。これまでのUTMB®︎ Mont-Blancではエリート参加枠はパフォーマンスインデックスで基準が示されていて、どの大会で成績をあげたかは問われていなかったので、大きな変更点です。

  • UTMB®︎ ワールドシリーズ「ファイナル」のエリート参加枠
    • 「メジャー」の3大会で50K、100K、100Mの各カテゴリーにおける男子上位10名、女子上位10名は、次回開催される同カテゴリーのファイナルへの出場権を獲得。
    • UTMB®ワールドシリーズ「イベント」の各大会で50K、100K、100Mの各カテゴリーにおける男子上位3名、女子上位3名は、次回開催される同カテゴリーのファイナルへの出場権を獲得。

解説・新しい道を進むUTMB®︎、発展の道をたどることは素晴らしいがオールドファンには少し残念かも

世界中で人気が高まり、競技人口が増加しているトレイルランニングというスポーツの中で、UTMB®︎ Mont-Blancは初心者からトップアスリートまで幅広く人気を集める世界最高峰の大会となりました。2022年にスタートするUTMB®︎ ワールドシリーズは果敢にトレイルランニングのフロンティアを切り開いてきたUTMB®︎の次の一歩であると同時に、従来からの大きな方針転換でもあります。

方針転換の一つはITRAとの相互に独立した関係の明確化としてあらわれています。主催者のポレッティ夫妻が中心となってシャモニーでITRA設立に向けた会合を開いたのが2012年。一つの大会として著しい成功を収めたUltra-Trail du Mont-Blancにとって、次の大きな課題はスポーツとしてのトレイルランニングの地位を国際的に確立することにありました。その後、世界陸連の下でトレイルランニングとITRAの地位が固まり、パフォーマンスインデックスや大会のポイント審査といった仕組みが定着しました。一方でUTMBとITRAは実質的に一体でITRAの中立性が損なわれているのではないかという批判も当初からありました。こうした状況を踏まえて近年ではUTMBの共同ディレクターでもあったミシェル・ポレッティ氏がITRAの会長を退任するなど、ITRAは以前よりも中立な姿勢を取ろうとしています。今回のUTMB®︎ワールドシリーズではUTMB®︎がITRAのパフォーマンスインデックスの意義は認めつつも、エリート選手の基準には自らのシリーズ戦での成績のみを考慮するとしたことも、両者の健全な距離感を保とうという意識がうかがえます。

方針転換のもう一つは、Ultra-Trail World Tour(UTWT)との関係です。UTMB®︎の他、世界各地の魅力的なトレイルランニング大会が互いに協力するという形式で2014年にスタート。国際的なトレイルランニングのトップブランドとして認められる一方で、レーベル分けやシリーズへの新規参加をめぐる利害などの調整はしばしば空転することもあった様子です。2020年には有力な設立メンバーだった大会がシリーズから脱退。現在、UTWTの運営主体はUTMB®︎ Groupに吸収されており、カトリーヌ・ポレッティ氏の下で再出発が期待されているところでした。今回のUTMB®︎ ワールドシリーズではUTWTについては何も言及されていませんが、世界各地で開催される大会の年間シリーズ戦、トップレベルのエリート選手が頂点を目指すシリーズ戦というフォーマットがUTWTと重なるのは明らか。この点では、UTMB®︎は自らのスピリットを展開する上で、他の独立した大会との協力に頼らず、IRONMANとの提携と自らのブランド力で開拓することを選んだといえます。(追記・TrailRunner誌の記事はUTWTは2022年1月に解散し、参加している一部の大会は「メジャー」の大会になる、としています。)

コロナ禍という外部要因が吹き荒れる中で大きな方針転換で前に進むUTMB®︎。日本の身近なトレイルを走って経験を積み重ねれば世界の頂点となるモンブランに通じていたことは、トレイルランニングというスポーツが世界で一体だと感じる一つの理由でした。その意味では今回の発表でトレイルランイングの一体感は少し失われたのかもしれません。しかしUTMB®︎が太鼓判を押す魅力的でクオリティの高い大会が世界各地に増えるのであれば、UTMB®︎のファンにとっては悪い話ではないでしょう。今後もトレイルランニングの世界の最先端を走るUTMB®︎の挑戦をウォッチしていきたいと思います。

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