UTMB®︎ World Seriesという新しい挑戦を始める理由・カトリーヌ・ポレッティ Catherine Polettiさんインタビュー

5月6日に発表され、世界のトレイルランニングコミュニティを驚かせた、UTMB®︎ World Series。UTMB®︎ Mont-Blancを頂点に、同じ基準と競技ルールで開催される約30の大会から構成される新シリーズは、IRONMANとの新しいパートナーシップに基づいて開催されます。

しかし、UTMB®︎ Mont-Blancへのエントリーという点では、抽選に参加するには30のシリーズ戦を完走して抽選チケットを得る必要がある一方、従来のITRAポイントによるエントリー資格は廃止され、新たに登場するUTMB®︎独自のパフォーマンスインデックスの対象となる大会を2年以内に一回以上完走することがエントリー資格になりました。

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エリート選手にとっては、30のシリーズ戦のそれぞれの上位選手がモンブランの出場権を得ることとなり、モンブランの勝者がシリーズチャンピオンとなります。年間を通じた獲得ポイント数で年間チャンピオンを決めていたUltra-Trail World Tourからも大きな変更です。

このたび、DogsorCaravanではUTMB®︎ Group会長のカトリーヌ・ポレッティ Catherine Polettiさんに単独でインタビューして、この新しいシリーズについて、質問をぶつけました。インタビューの聞き手にはUTMBのアスリートアンバサダーである丹羽薫 Niwa Kaoriさんにも加わっていただきました。

インタビューの動画は以下から。YouTubeの機能を使って日本語と英語の字幕をつけています。また、インタビューのテキスト全文はこの記事の中でご覧いただけます。

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オープニング

DC岩佐(以下DC) DogsorCaravanの岩佐です。今回はインタビューをお届けします。聞き手としてご一緒していただくのは丹羽薫さん。UTMBのアスリートアンバサダーです。ゲストはUTMB Group会長のカトリーヌ・ポレッティさんです。先週水曜日に大きな発表をされたばかりです。UTMB®︎ World Seriesが2022年からスタートします。カトリーヌさん、こんにちは。

はい、こんにちは。今回は新しい冒険の始まりです。一つのプロジェクトを通じて繋がる新しいイベントを立ち上げます。UTMBのスタンダートを皆さんの国内で楽しむことができる、美しい冒険の旅を提案します。

DC 薫さん、最初にUTMB®︎ World Seriesについて聞いたときはどんな印象を持ちましたか?

丹羽薫さん まずとても驚きましたね。これほどの大改革は予想していませんでした。エリート選手の立場からはとてもワクワクしました。シリーズのファイナルとなるUTMB®︎ Mont-Blancがみんなの目標になりますね。有力選手はシリーズ戦に参加して、そこでモンブランで行われるファイナルの出場権を手にする、という仕組みですからね。エリート選手のレベルはきっと上がるでしょう。特に日本についていえば、国際的な水準で開催されている大会はまだ少数です。日本のトレイルランニングのレベルを高めることにつながるでしょう。とてもいいことだと思います。

増え続けるエントリーに応えるため世界各地にUTMB®︎スタンダードの大会を作る

DC 薫さんは前向きに評価されました。もちろん私もです。しかし、今回の発表で先週末の世界のトレイルランニング界は文字通り大揺れでした。商業主義だと批判する声もありました。そういう声は私のTwitterでひときわ目につきました。そういったフィードバックについて、今、どう感じていますか?

いつだって、何か大掛かりなことを始めるときは、初めからみんなに気に入ってもらうことはできません。文句を言う人は、そうでない人より目立つものです。

まずはベストを尽くします。なぜなら、8月末にこれ以上たくさんの人たちをモンブランの山麓に迎えることは不可能だからです。2017年を振り返ると、エントリー数は1万7千人でした。2018年には2万4千人で、2019年には3万2千人を超えました。こうしたエントリーの急増に対して、2019年まではITRAポイントでエントリー資格を変更することで対応してきました。もっと多くのレースを走って、もっとポイントをためて、とお願いしてきたわけです。でも、ポイントを稼ぐために世界中を旅してもっとレースを走って、とお願いするのは無理があります。

それで考え方を変えました。とにかく、現在以上のランナーにここにきてもらうことは不可能なのです。参加を希望される方と向き合わねばなりません。その結果、多数の大会からなるイベントを思いついたのです。

UTMB®︎の名に恥じない基準を持ち、どの国でも共通の競技規則で他国に展開します。世界の各国においてその国へのリスペクトを示します。あなたたちにもみてもらった通りです。タイや中国、アルゼンチン、それぞれの国で、同じ競技ルールで大会を開催しました。

UTWTとはこの点が違います。UTWTは独立した大会の集まりで、各大会は「私たちの大会はお墨付きです」というだけでした。競技のルールという点ではそれぞれ異なっていました。例えば必携装備のルールが大会ごとに異なっているというのでは、選手は困ると思います。大会ごとに異なるルールをその都度、調べて覚えておかなくてはいけません。こうして例え国が違っても、共通の考え方に基づく共通のルールで大会を開催するようにしよう、と決めました。

DC なるほど、これまでもUTMBは応募者数が増えるのにあわせてエントリーや抽選を見直してきました。最近ではランニングストーンとか。今回のワールドシリーズでも、そうした選手の皆さんを共通のUTMBのカルチャー、価値観をもった大会で受け入れる、ということですね。

DC では私から、今回一番の大きな質問です。ワールドシリーズにはどのような大会が加わることになりますか。たぶん、8月のUTMB®︎ Mont-Blancで発表されるのではないかと思っています。今年の第三四半期に発表といわれていました。そこで合計で30の大会が揃います、と。そこで質問ですが、先週の発表では8大会の名前を挙げていましたね。そこにはアメリカやフランスの大会はありませんでした。日本もありませんでした。みんな、残りの22大会はどんな大会がシリーズに加わるのだろうと思っています。私はアメリカや日本の大会もきっと入るだろうと思いますが、これらの国のレースはそれぞれの歴史やレガシーを持っていることが多い。なので、まだ大会が少ないトレイルランニングのフロンティアで大会を立ち上げるのかもしれない、と思っています。オマーンやタイのように。残る22の大会はどのような大会となりそうか、考えを聞かせてください。

まず、これまでのUTMB®︎ Mont-Blancにエントリーされている選手やその国や地域について、分析しています。日本や中国からのエントリーが多いことは認識しています。タイ、そしてアメリカと世界中からエントリーがあります。トレイルランニングの大きなコミュニティがどの国や地域にあるかを正確に把握しています。

すでにリストにあげた8大会の他にももちろん協議を進めている大会があります。2022年には全部で30大会が揃った状態でシリーズをスタートします。協議中なのでまだどの大会が入るかは言えませんけれど。シリーズ戦として加わってもらうには、共通の競技ルールと大会開催の基準に従っていただけることが必須です。合意して決定するまではどの大会がシリーズに加わるかはいえません。第三四半期、秋には発表します。選手の皆さんにはこうした事情を理解していただきたいと思います。私たちは仕事を進めていて、秋には2022年のワールドシリーズの全容を発表します。

Less travel, Better travel

COVIDのパンデミックをきっかけに考えるようになったのは、必ずしも全員がモンブランに来る必要はないのでは、ということです。全員がレースのために遠く海外まで旅行する必要はないのでは。それぞれの選手に、比較的近いところですばらしい大会に参加する機会を提供したい、と考えました。旅行の量を減らすことでより深い旅の経験をする、それが今日求められていると思います。モンブランに限らず、大会に参加するにはその地へと行く必要があります。家族や友達と旅行をして、一緒に時間を過ごしながら訪ねた国のことを知ります。旅先の人たちと交流し、文化を知ることになります。こうした交流はトレイルランニングの大事な要素だと思います。単なる競技ではない何かがあるスポーツです。

旅を通じてその国を知り、そこに住む人たちと出会うことができます。世界の素晴らしい場所で開催される大会をシリーズに迎えることができたら、そうした場所を知る最高の機会を皆さんに提供できます。

IRONMANと提携しても主導権は持つ

DC 興味深いお話ですね。世界中のトレイルランナーの皆さんにとって、重要なメッセージだと思います。UTMB®︎のことだけでなく、地球環境や持続可能性のことまで考えた結論だということですよね。

DC でも、もう少しビジネス面の質問をさせてください。今回提携を発表されたIRONMANグループについて伺います。IRONMANはこの3年間に三つの大会を傘下に入れています。Ultra-Trail Australia, Tarawera, そしてmozart 100です。私の知る限りでは、これらの大会はこの3年間で大きく大会が変わったようには見受けられません。IRONMANが大会をどうしようとしているかまだわかりません。今回の提携からどのようなメリットや貢献を期待していますか?例えば、もっとメディアへの露出を増やすとか、新しいマーケティングを取り入れるとか。新しいパートナーシップへの期待を聞かせてください。

現時点ではシリーズのメンバーとしては8つの大会を発表しています。これを30の大会にする必要がありますが、あと1年しかありません。それでも考え方や基準を変えるわけにはいきません。短期間に30大会まで増やすためにはIRONMANとの提携が役立つと考えています。オーストラリアなどの3大会はすでにIRONMANの傘下に入っています。

IRONMANに協力してもらいますが、ルールを作るのは私たちです。IRONMANを通じて加わる大会もUTMB®︎のルールの下で行われます。大会名などでも「IRONMAN」ではなく「by UTMB®︎」と表記されます。IRONMANは力のある企業です。2022年に30大会でスタートするにはその力が必要です。

これまで私たちの独力でby UTMB®︎の大会を開拓してきましたが、ルールや運営について共有するだけでも大変な仕事です。あなたにも協力してもらったライブ配信もそうです。持続可能性に配慮した競技ルールにするのも同じく大変です。他にもチャリティなどについても考え方を展開します。スポーツだけには止まりません。私たちはそうした実務に集中して、大会を新たに迎えるための勧誘や交渉はIRONMANに協力してもらうわけです。様々なパートナー候補がありましたが、十分な実力があり、かつUTMB®︎が主導権を持つことを認めてくれたのはIRONMANが初めてだったのです。

こういったわけで、なぜ今は8大会しかないのかという理由を説明することはできませんが、ラインナップ拡大を加速するパートナーはいます。IRONMANは世界中のスポーツ大会の主催者とネットワークを築いています。

DC 彼らを通じて大会主催者とのつながりが広がるわけですね。UTMB®︎では誰も知った人がいない国であっても、IRONMANはつながりを持っていると。

IRONMANは世界中にスタッフがいますからね。UTMB®︎ではルールや大会の精神の共有や展開に集中したいのです。まだシリーズに入っていない新しい大会の開拓はIRONMANに任せます。何事でも、優秀な人材を集めて事業を加速させるには、チームを大きくすることが大事です。

DC すると、UTMB®︎とIRONMANで役割はそれぞれ決まっているということですね。

シリーズイベントとクオリファイア

丹羽薫さん どの大会もレースの基準は共通というのはいいですね。いいアイディアですが、一つ質問です。例えば日本の大会主催者がワールドシリーズに加わりたいとします。その時、いくらロイヤリティを払うのかとか、どんな条件を満たす必要があるのか。そうした詳細は主催者に向けて公開されていません。主催者に対してシリーズ参加の条件などを公開する予定はありますか?

二つのパターンを考えています。一つは「クオリファイア」で、これはレースを完走した経験の証明を提供してもらいます。パフォーマンスインデックスの計算の対象となるので、リザルトを提出してもらいます。参加選手についてインデックスが計算してその数字を経験の証明とします。従来のITRAポイントとは関係なく、パフォーマンスインデックスさえあればエントリー資格を認めます。レースを完走した経験が証明されているからです。大会がこの「クオリファイア」となるのは無料です。

もう一つのパターンはワールドシリーズに加わることです。フランチャイズの一員に加わるので、こちらは有料です。我々からその大会に対して様々なサポートを提供するからです。ワールドシリーズのレースについては、UTMB®︎も主催者のチームに加わって一緒に大会を運営します。おそらく、我々のスタッフが現地に常駐して、その大会の運営委員会の意思決定にも加わります。大会の運営そのものにUTMB®︎が参加することになります。

このほか様々な実務があります。シリーズのレースにはUTMB®︎から提供する全ての基準を実現することが目標になります。ライブ配信もその一つです。エントリーの仕組みとか大会運営のためのITサービスなども全てです。

こうした基準やITツールを導入するのにスタッフが仕事をします。だからそこに費用が発生します。こうしたところはビジネスの要素があります。とはいえ、決して悪いことではありません。仕事に対して対価が発生するわけで当然のことと思います。

丹羽薫さん よくわかります。でも主催者が費用などの情報を知るにはどうしたらいいですか?何か一覧表がありますか?カトリーヌさんに連絡すればいいですか?

私たちに連絡してください。私個人ではなくUTMB®︎ Groupの会社にお願いします。そうした連絡の窓口を用意していて、担当者が対応します。私はこの会社の会長で、何でも私が対応するというわけにはいかないので。主催者からのリクエストに対応するスタッフを揃えているので、まずは連絡をください。ご要望に応じて、適切なスタッフが対応します。

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丹羽薫さん UTMFの他にも日本には新しい100マイルのレースがありますが、そうした日本の主催者から連絡はありますか?

全部のレースについては把握していません。シリーズに加わることに興味を持ってもらえたらいいですね。関心のある主催者は連絡をください。最初からビジネスライクにするわけではないので気軽にどうぞ。

たくさんの問い合わせをお待ちしています。私個人の意見ですが、日本についてはシリーズに大会一つでは足りないのではと思います。日本はトレイルランナーがたくさんいらっしゃるし、シリーズに大会が一つでは、UTMB®︎の基準に沿って開催される優れたレースに参加する機会が少なすぎるでしょう。私たちは日本の大会主催者の皆さんを歓迎します。ご興味ある方とはどなたでもお話しさせていただきます。

パフォーマンスインデックスは元からUTMB®︎のもの、ITRAは算出をやめる

DC なるほど、ご覧になっている大会主催者の皆さん、日本はシリーズに席が二つあるみたいですよ(冗談です)。続いての質問なんですが、新しいUTMB®︎独自のパフォーマンスインデックスについてです。これはシリーズの大会とクオリファイアの大会の結果について計算されます。クオリファイアになるのは無料ですが、これまでITRAのパフォーマンスインデックスにカウントされ、ITRAポイントを認められるのは有料でした。

DC これは大きな変化だと思います。ITRAのインデックスとポイントをどちらも止めてしまったわけです。ランナーにとっても、大会主催者にとっても、それにITRAにとっても大きな変化だと思います。実は私はITRAの日本会員の代表でもあるので、仲間からはちょっと意見も聞こえてきます。ITRAのパフォーマンスインデックスやポイントについてはどのように考えていますか?

今の話は誤解があると思います。ちょっと説明しますね。2013年にITRAを設立するにあたって、ミシェルと私で初めての準備会合を主催しています。設立時は関係する人がみんな集まりました。その頃はITRAの仕事は皆が掛け持ちです。ITRAがパフォーマンスインデックスを管理したり資格レースの審査をするために、UTMB®︎のITツールを提供していました。

そうした経緯があり、今回の新しいワールドシリーズでは、もともとUTMB®︎が所有するITツールを使って自分たちでパフォーマンスインデックスを運営することをITRAに伝えました。その際にITRAと契約をして、ITRAがUTMB®︎のITツールとパフォーマンスインデックスを今後も使うことになりました。ちなみに、インデックスはデディエ・カーディが開発したアルゴリズムで算出しますが、彼もUTMB®︎ Groupに在籍しています。運用管理のためのツールはLiveTrailが開発していて、LiveTrailはUTMB®︎ Groupの企業です。

その利用についてITRAと契約を結んでいましたが、数週間前にITRAから契約を打ち切られました。UTMB®︎に依存する関係を解消したいとのことでした。それで、私たちは今回発表した新しい独自のパフォーマンスインデックスを新たに計算し、管理していくこととしたのです。

というわけで、パフォーマンスインデックスは初めからUTMBのリソースを使って作られています。私たちはパフォーマンスインデックスをこれからも使い、改善してトレイルランニング界のために運営していくつもりです。これまで使っていて、とても正確なツールであることを知っていますからね。

ITRAポイントをエントリー資格にするのは止めました。ポイントを資格にすると、次々にレースに出ることを求めてしまいますから。例えば、15ポイントが必要だけど、まだ14ポイントしかない。でも3つのレースの結果で揃えないといけない。資格を満たすには1ポイントのレースではなくて5ポイントのレースに出ないといけない、とか。また、エリート選手がポイントが足りないということもあります。キリアンがUTMB®︎の資格にポイントが足りないということもありました。

選手がトレイルランニングの経験の証明さえ示せればいい、というのが、今回ポイント制をやめた背景です。100K、100M、50Kの三つのカテゴリーについてパフォーマンスインデックスで経験を証明する仕組みです。このため、これまでITRAのパフォーマンスインデックスで用いられていたカテゴリーは止めました。50Kなどのカテゴリーは、距離と累積高度から換算されるKmエフォートの数値により定義されます。選手はクオリファイアのレースを走ればリザルトがUTMB®︎に送られることになります。すると該当するカテゴリーでパフォーマンスインデックスが計算され、(UTMB®︎ Mont-Blancの)エントリー資格を満たすことになります。

ワールドシリーズのイベントを完走した場合には二つのことが起こります。まずは「ランニングストーン」を獲得できます。ワールドシリーズの30のレースを走ると、一回完走につき一個以上のランニングストーンを得られます。一個につき抽選チケット一枚です。

一方、エリートの場合は「シリーズイベント」の各レースについて男女ともにそれぞれ上位3人は「ファイナル」となるモンブランに出場できます。「メジャー」と呼ぶレースを3つ設定します。これはエリート選手の意見を反映しました。エリート選手の中には、選手が集まれる大会があるといいという意見がありました。お互いに直接会ってレースができる大会も選べるようにしてほしいとのことでした。これらの3つの「メジャー」では各レースで男女それぞれ上位10人がモンブランでの「ファイナル」の出場権を得られます。エイジ別でもトップの選手一人はモンブランの出場権を獲得します。このようにエリートと一般のランナーでは出場への道が異なります。それでも、エリートでも一般でも各地から集まって顔を合わせる機会はやはり必要です。エリートも一般ランナーも一緒に同じレースを走るのは、トレイルランニングの魅力の一つだと思います。

というわけで、新しいシステムはITRAポイントよりもいいと思います。

エントリー資格は最小限の経験を確認できればよい standard

DC インタビューの前に薫さんと話していて、気がついたことがあります。新しいエントリー資格だとUTMB®︎で100マイルを走るのにも、100Kのカテゴリーで一回完走すればいいことになります。今までは2つのレースでITRAポイントで10ポイントを得ておく必要がありました。少なくとも一回は100マイルのレースを走る必要があったわけです。100km相当を一度走るだけで、モンブランの100マイルを完走するためのトレイルでの経験を確かめたことになるのでしょうか?どう思いますか?選手の安全性は確保できるでしょうか。

100Kのレースを完走できる選手について、100マイルを走れないとはいえないと思います。ミシェルのこれまでの経験からいっても、十分一つのステップを超えていると思います。マラソンを完走できなら50Kは問題ないでしょう。楽ではないでしょうが、1日で、あるいは12時間くらいで完走できるでしょう。朝から夜までの1日を走り続けることができると考えられます。100Kの場合はエリート選手なら朝から夜の1日のレースです。一般ランナーの場合はさらに夜も走ることになります。おそらく日中+夜間を走ることもできるようになります。スピードは必要とされず、長い時間を走れるか、の問題ですから。レースで優勝はできないでしょうが、多くの選手は勝負ではなくて完走することを目指しています。完走目的なら長い時間をかけて完走できるように対応できるものです。

そういった経験から、日中に加えて夜間も続けて走ることはできるようになると思います。そうやって日中いっぱい、そして夜中いっぱいと走れるのです。大体、長い時間を走れるかどうかが分かれ目になっていて、速く走れるかどうか、体力があるかどうかは関係がないですね。それなら練習ができるし、確実に完走できます。もし難しければ途中で止めることもできます。

丹羽薫さん 関門の制限時間を長めに設定するつもりはありますか?

表彰台に立とうとする選手にとっては(距離が長いのは)厳しいと思います。他の選手と競争をするからです。でも完走を目指す一般ランナーは自分自身と競うだけで、他の選手とは競争しません。エントリー資格にこのような段階を設けるのは、夜も走った経験がないとレースで完全に迷子になってしまう可能性があるからです。夜も続けて走る経験をすることで、さらにもう1日走ることもできるようになります。

丹羽薫さん 日本のレースの場合は起伏の小さい走れるコースもあります。アメリカもそうだと思います。100kmでも夜間に走る必要がないレースもあります。

そうでしょうか、Kmエフォートで基準を設けているので大丈夫だと思いますよ。100Kのカテゴリーなら、累積獲得高度が2000mは必要なので、全く起伏がないということはありません。

丹羽薫さん それでも距離が足りないのでは?夜を通して走ることなく完走すると思いますよ。

UTMB®︎を初めて開催した時、すでに100マイルでかつUTMB®︎よりも難しいレースはありましたが、エントリー資格なんてありませんでした。

今、問題なのは標高の高い山岳エリアでコースを見失うことですね。UTMBの場合、コンタミンからコルドボンノムに登ったところで40km地点になります。ボンノムからはレシャピューを経て、コルデラセーニュ。ここで登りがありますね。そこからクールマイユールです。ここで調子がよくなければ一旦休むこともレースをやめることもできます。だから心配はないと考えます。

丹羽薫さん わかりました。では完走者数は減ってしまうのではないですか?

いいえ、そうは思いません。今はこれだけたくさんのレースがあって、それを走ろうというランナーもたくさんいますからね。もちろん、休憩を取ったりリタイアしたりする選手もいると思います。ランナーの経験値も上がっているし、ランナーの数もどんどん増えています。エントリー資格が変わったからといって完走できないランナーが多くなることはないでしょう。UTMBの最初の頃は完走率は30%でした。今は60%くらいです。一方で、経験豊富でもリタイアする選手はいます。それはランニングの経験というよりは、山でのハイキングの経験が足りないのではと思います。長時間行動する必要がありますから、そのせいで体調を崩すことがあるのでしょう。

薫さん、エリートランナーでも途中でリタイアする選手がたくさんいるのは知っているでしょう。体力がないせいでも経験が足りないせいでもなく、いい成績をあげようとすることがリタイアにつながります。いつも限界スレスレに挑戦していますよね。自分でもわかると思います。何かがきっかけで大問題になることも。

一般ランナーであれば限界に挑戦することはなく、少し余裕のある状態で進むでしょう。休憩して、カロリー補給をして、また進む。たぶんペースはゆっくりで。それで十分完走できます。印象だけでいえば、完走するランナーはうまくやった人たちですが、必ずしも体力に優れた人ではないんです。他の選手と競わずに、トレーニングをして、行動を続けることができる人たちです。こういったランナーはレースも練習のつもりで走ります。

エリートは違います。レースは練習とは違う。レースはある種の境目ギリギリで走ります。どちらかに転ぶと全てダメになってしまうし、反対に最高のパフォーマンスで走れる。

UTMB®︎ Mont-Blanc 2021は新時代にあわせて生まれ変わった大会に

DC ミシェルさんは経験豊かなトレイルランナーだし、UTMB®︎で18年にわたって選手を見続けてきましたからね。では最後に、今年2021年のUTMB®︎ Mont-Blancについて聞かせてください。おそらくCOVID-19のために今年の大会はこれまでとは大きく異なる大会となるのでしょう。あのシャモニーのフィニッシュゲートにたくさんの人が集まる姿はみられないでしょうね。こうした困難で、流動的な状況の中で大会を開催する上で、苦労されていることは何ですか?

ワクチンや検査によって、昨年に比べて現在の状況はずっとよくなったと思います。おかげで大会を開催できる可能性はあると思っています。大会ではあらゆるシナリオに沿ったプランを準備しています。救急レスキューについてもいくつかシナリオを考えています。こうしたプランをあらかじめ示しておいて実際にはその必要はありませんでした、という方が楽です、しかし私たちは、当初予定した通りに開始します、という姿勢を保つ方がいいと考えます。

だから現時点ではシャモニーのゲートの広場に人が集まれるかどうかについては何もいいません。ただ、人が集まれないとしても素晴らしい大会にするための準備は進めています。コースは170kmもあるんですから、コース上のどこかでは人と会うこともできるでしょう。シャモニーの広場は狭いですが、コース全体を通してみればいろんな出会いやふれあいがあるでしょう。

素晴らしく美しい大会にすることができると信じています。まさにトレイルランニングが生まれ変わった、記念の大会になるでしょう。大きなパーティになると思います。新しくなった最初の大会のように。

DC ということは2023年なるのを前にした前奏曲のような大会になりそうですね。もちろん新しいワールドシリーズを前にした前触れともいえるでしょう。

2019年とは違った大会になりますよ。きっと感動はさらに大きく、さらに大きな大会となって開催します。再び会えることの喜びも大きいでしょう。バーチャルだけでなく、顔を合わせて集まることも大事なんです。

丹羽薫さん 今年のUTMB®︎は自己隔離期間があったとしてもフランスに行って参加します。レースの規則はどう変わるでしょうか。例えば私的サポートは受けられないとか、制約はありそうですか?

可能ですよ。現在のプランの一つで、他のシナリオに変わったとしても大丈夫だと思います。何か変更があればもれなく連絡します。個人的な意見ですが、サポートについては問題にならないと思います。ただ8月末の状況次第ではあります。8月末にはどうなっているかはわかりません。もしわかっていても、ここではお話できないですね。

丹羽薫さん いつごろ決定して発表する予定ですか?

決まり次第、ですね。いつフランスにいらっしゃるかわかりませんが、状況は日に日によくなっています。最悪の状況に備えてください。シューズしか手元にない、とか。でもそんなことにはならないでしょう。個人的には計画通りに開催できると思います。最悪の場合にもどのように対処するかを準備しています。前もってあれこれ言うよりも、今は予定通りにやります、とした方がいいと考えています。

DC カトリーヌさん、ありがとうございました。今回は新しいことがたくさんで理解するのに時間がかかります。発表から1週間でやっと分かることもあるでしょう。私としてはDogsorCaravanに日本語の記事を書くことでUTMB®︎や興味のあるランナーの皆さんのお力になりたいと思います。このインタビューをご覧の方は引き続き、このYouTubeやポッドキャストにご注目ください。

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