先週末に開催されたウルトラトレイル・マウントフジ ULTRA-TRAIL Mt. FUJIは4月26日金曜日正午にUltra-Trail® World Tourの「PRO」レーベルのレースであるUTMF(165km 7,942mD+)が富士山こどもの国をスタート。スタート当日から降りはじめた雨はスタート後も断続的に降り続け、選手は濃い霧の中を進むことに。さらに上位の選手がフィニッシュしたのちの土曜日午後になるとコース後半の石割山、杓子山などでは雪が降りはじめてコースはあっという間に10センチほどはあるかという積雪に。大会は午後3時(スタートから27時間後)ごろ、レースを中止・コースを短縮することとし、各選手は待機中、または最寄りのエイドステーションまで進んだところで各エイドに対応して追加設定された短縮コースを完走、という扱いとなりました。ちなみにLiveTrailのデータによれば、スタートした2,458人のうち、河口湖大池公園までたどり着いたのは91人でした。
そうした中、フランストレイルランニング界の貴公子、グザビエ・テベナール Xavier ThvenardはUTMFのフル・コースを走るという3年越しの夢を叶え、その結果は鮮やかな優勝でした。そして中国からは女子のシャン・フージャオ Fuzhao Xiangが終始リードして男女総合16位という好成績で優勝。男子でもリャン・ジン Jing Liangがテベナールを相手に堂々たるレースを繰り広げてギャラリーを沸かせつつ2位に。日本の選手では自らの殻を破るアグレッシブな走りをみせた小原将寿 Masatoshi Obaraが4位となったのをはじめ、あわせて男子5人がトップ10入り。女子では昨年の3位に続いて再び、浅原かおり Kaori Asaharaが3位となって表彰台に立ちました。
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(写真・男子優勝のグザビエ・テベナール Xavier Thvenard。Photo courtesy of UTMF)
当サイトでは上位選手のレース展開を中心にTwitterアカウント / @DogsorCaravanでライブ速報をお届けしました。速報のログはTogetterでご覧いただけます。当サイトのUTMFのレポートは二社のご協賛によりお送りしました。今回のUTMFのモバイルフォン・サプライヤー・京セラからご提供いただいた高耐久スマホ「TORQUE G03」(トルクジーゼロサン)を活用して今回のレポートをお届けしました。
そして今回もThe North Faceにご協賛いただきました。大会前には今シーズンのThe North Faceのトレイルランニング・ギアについてご紹介していますので、ぜひご覧ください。
レースの展開
今年のUTMFのコースは富士山こどもの国(静岡県富士市)をスタートして時計回りに進み、山中湖で折り返す形で大池公園(山梨県富士河口湖町)にフィニッシュするのは昨年と同様です。ただ一部で昨年のコースから変更があることから、昨年の168km 8,100mD+から今年は165km 7,942mD+となりました。
大会当日、4月26日金曜日の朝は雨。2,458人がスタートした正午には前日の天気予報の通りに雨は落ち着いたように思えました。しかしその後も断続的に雨が降り、やや高めの気温でコースとなる富士山麓は濃い霧に覆われることに。
スタート直後、林道のゆるい下りのセクションとなるW1粟倉(16km)は名取将大 Masahiro Natoriが飛び出し、そのすぐ後ろにリャン・ジン Jing Liang(中国)、30秒おいてカール・ソルマン Carl Sorman(スウェーデン、イタリア在住)、さらに1分半でグザビエ・テベナール Xavier Thevenard(フランス)、ジェイ Jantaraboon “Jay” Kiangchaipaiphana(タイ)、小原将寿 Masatoshi Obara、コリー・ウォルタリング Coree Wolterting(アメリカ)の集団。さらに20秒ほどで日本の有力選手を含む上位集団が続く、という序盤になりました。その後も、いよいよ最初の大きな登りとなる天子ヶ岳登山口(30km)まではリャン・ジンが先頭になったほかはほぼ同じような順位と集団で進みます。
天子山地を熊森山まで縦走して下りてきたA2麓(51km)は例年、最初の山が選手をどうふるい分けるか注目されるところ。ここでやはり当初の見込み通りにテベナールとリャンがほぼ同着でリード。8分半とやや差が開いてやってきたのはロシアのアレクセイ・トルチェンコ Aleksei Tolstenkoと小原将寿。この4人がこの日の後の優勝争いのメンバーとなりました。
その後は竜ヶ岳山頂(58km)でリャンがテベナールに2分先行、夜になったA4精進湖(78km)でもリャンが30秒先行、といった具合。この日のテベナールは勢いのある選手に先行させつつ、自身は慌てずにその少し後ろを走って様子をみるという作戦のように見えます。まさにそれは昨年優勝したUTMB®︎と同じような戦略のように思われました。
A4精進湖からはA6忍野あたりまでの約40kmは途中に足和田山はあるものの比較的フラットな区間です。このセクションでもリャンをテベナールがぴったり追っていましたが、A5勝山(95km)を出たあたりからリャン・ジンに異変が。テクニカルなトレイルを想定していた選んだシューズがロード区間では走りづらかったといい、ペースを落とすこととなります。浅間神社(101km)ではテベナールの1分半後を走っていたリャンでしたが、A6忍野(114km)までにトルチェンコに抜かれて3位に後退し、テベナールとは18分差となっていました。この間、テベナールの後続へのリードは広がる一方、リャンは3位に止まります。しかし一時は2位のトルチェンコから12分の差をつけられていたリャンがA8二十曲峠(140km)からの杓子山前後の岩をよじ登るセクションを含む終盤の難所でトルチェンコに追いつくことに。A9富士吉田(154km)ではリャンがテベナールからは57分という大差ながら、3位のトルチェンコに2分差をつけて2位に浮上。
フィニッシュの大池公園には午前7時36分、グザビエ・テベナール Xavier Thevenardが19時間36分26秒でフィニッシュして優勝。3年前の雨で大幅短縮となったUTMF以来のフル・コースを走りたいという思いを優勝という結果とともに果たすことになりました。63分と差は開いたものの、リャン・ジン Jing Liangが最後まで諦めない粘り強さで勝ち取った2位。中国国内の大会で優勝を重ね、1月のHong Kong 100で2位となっているリャンがまた一つ国際的な大会でその存在を世界に知らしめることになりました。
続く3位をめぐっても最後までドラマティックな展開となりました。序盤からトップ3をキープしていたトルチェンコの背後に迫ったのはローレン・ニューマン Loren Newman(アメリカ、中国在住)。レースが終盤に入るまで10位前後を走っていたニューマンは終始余裕を残した表情に見えましたが、A7山中湖(127km)では7位で2位のトルチェンコとは50分差。A8二十曲峠(140km)では5位で同じく35分差となり、A9富士吉田(154km)では先行していた小原を抜いて4位となったもののトルチェンコまではまだ15分差。しかし富士吉田からの10kmで、ペースを落としたトルチェンコを捉えただけでなく、2位のリャン・ジンの背中が見えるほどに追い詰めます。結局ニューマンがリャンにわずか36秒差の3位でフィニッシュ。見事なロング・スパートを見せました。
この日、序盤から積極的に前に出て4位をキープしていた小原将寿 Masatoshi Obaraは終盤になってニューマンに抜かれますが、A9富士吉田から先でペースを落としたトルチェンコを捉えて再び4位に浮上。そのままフィニッシュして、これまで7回のUTMF全てに出場してきた中で最高位を手にすることになりました。5位にはこの日のレースを引っ張ってきたアレクセイ・トルチェンコ Aleksei Tolstenko 。同じくレースをリードしたカール・ソルマン Carl Johan Sorman が6位に。
7位以降は日本の選手が続きました。7位の鬼塚智徳 Tomonori Onitsuka は序盤から安定した走りで順位を上げていきました。2016年の短縮版UTMFでは3位でしたが、100マイルのUTMFでは今回初めて表彰台に立つトップ10に入りました。8位の伊藤健太 Kenta Ito も後半に大幅に順位を上げる鮮やかな展開。昨年6位の土井陵 Takashi Doi は足の痛みに耐えながらの厳しいレースで9位に。
昨年のOSJ KOUMI 100優勝の木幡帝珠 Teishu Kohata も後半に順位を上げていくスマートな展開。UTMFでは昨年の32位から今年のトップ10入りと大きく飛躍しました。
女子はシャン・フージャオ Fuzhao Xiang (中国)が24時間20分で圧勝。Hong Kong 100で今年2位、昨年3位といった形で知られていた実力を、再び国際的な舞台で発揮することになりました。この日の女子のレースはシャンに加え、シルベーヌ・キュソ Sylvaine Cussot (フランス)、ルー・クリフトン Lou Marie Clifton (オーストラリア)の3人が先行する形で始まりました。A2麓(51km)はではシャンが2番手のキュソに14分差のリード。3番手のクリフトンはキュソに24分差をつけられていました。このまま、お互いの差が広がる形で終盤までコースを進みますが、二日目に入って石割山や杓子山の天候が厳しくなるにつれてキュソがペースダウン。A9富士吉田(154km)を出てからキュソが大きくペースを落とすことに。その結果、クリフトンが2位でフィニッシュ。シャンとは111分差と大きな差となりました。三位には浅原かおり Kaori Asahara 。前半は慎重でしたがA7山中湖(124km)を過ぎると次々に順位を上げていき3位でフィニッシュ。昨年に続いて2年連続の3位を手にしています。4位にはキュソ、5位にマンイー・チャン Manyee Cheung (中国香港)、6位に高島由佳子 Yukako Takashima という結果になりました。
フランス、スペイン、アメリカだけではないトレイルランニングの世界的な広がりを実感
スタートから翌日まで雨がふり、朝には厳しく冷え込むというコンディションは選手にとっては厳しいものになりました。しかし、経験豊富な有力選手にはそうした状況こそワクワクするもの。今回上位に入った各選手も例外ではなかったようです。優勝したグザビエ・テベナールにとっては、雨で短縮された2016年の大会で100マイルを完走するチャンスを逃して以来、念願の完走を果たしたことになります。ただ、レースとしてみた場合には、着実に自分の走りをしたことに尽きると言えます。当サイトからも含め、レース後にはレース中の展開や駆け引きについての質問がグザビエに飛んでいましたが、静かな笑みを浮かべて「自分の走りをしただけ」と話すだけ。しかしこれはUTMB®︎三度優勝のトレイルランニングのトップ選手としての偽りのない本音だったでしょう。
今回印象に残ったのは中国の選手の活躍。女子優勝のシャン・フージャオは後続選手に大差をつけています。タイムをみると、昨年優勝で今や世界のトップ選手として注目されるコートニー・ドウォルターは昨年24時間を切っています。コースは変更になっていて直接比較はできませんが、天候で厳しいコンディションとなったことも考えると、今回のシャンのパフォーマンスはドウォルターに迫るものだと言えます。男子2位のリャン・ジンは途中でペースを落としながらも、最後まで諦めない走りが鮮やかでした。世界のトップ選手とのレースの経験で今後ますます活躍するための手がかりを得たかもしれません。
それにしてもトレイルランニングの世界は広い、と実感した今回の大会でした。男子ではローレン・ニューマン、アレクセイ・トルチェンコ、カール・ソルマンといった今回トップ10入りした選手は、まだ国際的な大会で活躍が知られていない存在。そうした選手がこれだけ上位に入ってくるというなら、我々の周りにはまだまだ知られていないけれど強い選手はいっぱいいるのかも知れません。
日本の選手では女子の浅原かおりさん、男子の小原将寿さん、鬼塚智徳さんはそれぞれ過去の自分のUTMFの経験、結果に満足することなく、さらなる高みを目指して実現しました。今回のMVPといえる存在ではないでしょうか。
リザルト
全体のリザルトはこちら。(確定前のLiveTrailのリザルトはこちら)
UTMF – Women
- シャン・フージャオ Fuzhao Xiang (中国、Toread) 24:20:00
- ルー・クリフトン Lou Marie Clifton (オーストラリア) 25:50:48
- 浅原かおり Kaori Asahara (日本) 25:55:53
- シルベーヌ・キュソ Sylvaine Cussot (フランス) 26:10:16
- マンイー・チャン Manyee Cheung (中国香港) 27:14:46
- 高島由佳子 Yukako Takashima (日本・Raidlight) 27:53:26
- 星野由香理 Yukari Hoshino (日本・Altra) 28:20:57
- 丹羽薫 Kaori Niwa (日本、Salomon) 28:54:07
- 林絵里 Eri Hayashi (日本) 29:26:22
UTMF – Men
- グザビエ・テベナール Xavier Thevenard (フランス、Asics) 19:36:26
- リャン・ジン Jing Liang (中国、Toread) 20:39:38
- ローレン・ニューマン Loren David Newman (アメリカ、中国在住) 20:40:14
- 小原将寿 Masatoshi Obara (日本、Answer4) 20:59:24
- アレクセイ・トルチェンコ Aleksei Tolstenko (ロシア) 21:03:43
- カール・ソルマン Carl Johan Sorman (スウェーデン、イタリア在住) 22:04:28
- 鬼塚智徳 Tomonori Onitsuka (日本、The North Face) 22:27:44
- 伊藤健太 Kenta Ito (日本) 22:51:38
- 土井陵 Takashi Doi (日本) 22:51:39
- 木幡帝珠 Teishu Kohata (日本) 23:08:34
- 牧野公則 Masanori Makino (日本、Salomon) 23:13:07
- トフォル・カスタニエール Tofol Castanyer Bernat (スペイン、Salomon) 23:18:41
- 松崎将博 Masahiro Matsuzaki (日本) 23:31:30
- 松井啓 Akira Matsui (日本) 23:54:42
- ヘンリク・ウェスターリン Henrik Westerlin (デンマーク) 23:57:28
- 柴本貴弘 Takahiro Shibamoto (日本) 24:25:12
- 鈴木祐児 Yuji Suzuki (日本) 24:33:10
- 赤松亮 Ryo Akamatsu (日本)24:36:46
- 山本浩平 Kohei Yamamoto (日本) 24:46:42
- 丹羽望 Nozomu Niwa (日本) 24:47:56
このほか、当サイトが注目していた選手でレースに参加した選手の結果は次の通り。
- 男子
- 23位 木村隼人 Hayato Kimura
- 32位 松永紘明 Hiroaki Matsunaga
- 34位 中根孝太 Kota Nakane
- 75位 谷川照樹 Teruki Tanikawa
- 77位 菊嶋啓 Kei Kikushima
- A7山中湖でフィニッシュ ヤノシュ・クウォールジック Janosch Kowalczyk(ドイツ)
- A8二十曲峠でフィニッシュ コリー・ウォルタリング Coree Woltering
- A7山中湖でフィニッシュ 三浦裕一 Yuichi Miura
- A7山中湖でフィニッシュ ジェイ Jantaraboon “Jay” Kiangchaipaiphana(タイ)
- A7山中湖でフィニッシュ ライアン・ゲルフィ Ryan Ghelfi
- A7山中湖でフィニッシュ 矢嶋信 Makoto Yajima
- A7山中湖でフィニッシュ 伊藤康 Ko Ito
- A5勝山でフィニッシュ 荒木宏太 Kota Araki
- A5勝山でフィニッシュ 川崎雄哉 Yuya Kawasaki
- A5勝山でフィニッシュ 小林誠治 Seiji Kobayashi
- A5勝山でフィニッシュ 奥宮俊祐 Shunsuke Okunomiya
- DNF 森本幸司 Koji Morimoto
- DNF 名取将大 Masahiro Natori
- 女子
- A9富士吉田でフィニッシュ 黒田清美 Kiyomi Kudoda
- A9富士吉田でフィニッシュ 枝元香菜子 Kanako Edamoto
- A9富士吉田でフィニッシュ 宮島亜希子 Akiko Miyajima
- A8二十曲峠でフィニッシュ 關利絵子 Rieko Seki
- A8二十曲峠でフィニッシュ 大庭知子 Tomoko Oba
- A8二十曲峠でフィニッシュ 山ノ内はるか Haruka Yamanouchi
- A8二十曲峠でフィニッシュ 吉田広美 Hiromi Yoshida
- A8二十曲峠でフィニッシュ 村井絢子 Ayako Murai
- A8二十曲峠でフィニッシュ 野田麻利江 Marie Noda
- A7山中湖でフィニッシュ 大石由美子 Yumiko Oishi
- A7山中湖でフィニッシュ 岡崎愛 Megumi Okazaki
- A7山中湖でフィニッシュ 又井ゆうこ Yuko Matai
- A7山中湖でフィニッシュ 折戸小百合 Sayuri Orito
- A7山中湖でフィニッシュ 浅原里美 Satomi Asahara
- A7山中湖でフィニッシュ 望月千幸 Chiyuki Mochizuki