3年ぶりに富士山麓に日本のトレイルランニングを代表するイベントが帰ってきます。
新型コロナウィルスの感染拡大のために2020年、2021年と中止を重ねることになったウルトラトレイル・マウントフジ Ultra-Trail Mt. Fuji(UTMF)が4月22日金曜日から三日間の日程で3年ぶりに開催されます。
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(写真・2019年のUTMFのスタート、Photo by ULTRA-TRAIL Mt. FUJI)
「UTMF165k」と「KAI69k」の二つのレース、富士急ハイランドが新たに会場に
今年の大会は参加者が国内在住者に限られ、2回のワクチン接種または大会直前のPCR検査での陰性「大会受付日に主催者が実施する抗原検査(費用別途1,500円)を受け陰性であること」が参加条件に加わっています。【追記・新型コロナウィルスに関する参加条件は今年3月に変更されていたため訂正しました。2022.04.17】レースは100マイルの「UTMF165k」に加え、コース後半の69kmで「KAI69k」が新たに加わります。大会会場は前回大会について発表されていたとおり、富士急ハイランドがUTMF169kのフィニッシュ、KAI69kのスタート・フィニッシュとなります。実際に富士急ハイランドを会場として開催されるのは今回が初めてです。
「UTMF165k」は富士山こどもの国(富士市)をスタートし、時計回りで富士急ハイランド(富士河口湖町・富士吉田市)、山中湖畔(山中湖村)を経て富士急ハイランドでフィニッシュする165km 7,573mD+ / 7,613mD-のコース。2,400人の選手は500人ごとの5つのウェーブに分かれ、4月22日金曜日14時30分に第一ウェーブがスタート。15分間隔で15時30分に最後の第5ウェーブがスタートします。制限時間は第5ウェーブスタートから44時間後の24日日曜日11時30分となります。
2019年大会との比較でコースを見ると、主な違いは次の通り。
- 富士山こどもの国のスタート地点は2019年のC駐車場から、2018年までのスタート地点だった草原の家付近に。
- スタートから15km付近にあったウォーターエイドの粟倉は今回は設置されず。
- 58km付近、端足峠から竜ヶ岳に登らず、そのまま峠を越えて本栖湖畔へ。
- 87km付近、足和田山からの下りの最後で勝山に下りずに大嵐へ。勝山にあったエイドも設置されず、U4精進湖(73km)の次のエイドは22.7km先のU5富士急ハイランドに(95.7km)。
- 94km付近、富士急ハイランド前から国道139号から浅間神社へと向かっていた区間は、富士急ハイランド内のエイドU5を経て、トレイルで東富士五湖道路の側道に合流。吉田口遊歩道で下って浅間神社の東側へ。
- 忍野村のエイドは前回の村民ふれあいホールではなく、コース上では手前の忍野村民交流広場にU6忍野として設置(115km)。
- 145km過ぎ、大明見の道路を横断する橋を過ぎたのちに道路へと下りず、直進して新たにエイド(U9富士吉田 149.8km)が置かれる明見湖へ。以後、5km先の富士急線寿駅付近まで新コース。
- 157km付近、霜山からの下りの途中で河口湖畔の浅川へ向かわず、南に延びる尾根を南下。天上山(カチカチ山)山頂を経て、新倉交差点付近で舗装路に出るとまもなく順位確定ポイント。富士急ハイランド内を通過して2kmでフィニッシュ。
「KAI69k」は480人の選手が23日土曜日11時に富士急ハイランドをスタート。コースはUTMF165kの終盤と同じで距離69.4km、3,675mD+ / 3,668mD-。制限時間は20時間で24日日曜日午前7時が締め切りとなります。
国内勢が競う3年ぶりの大会の頂点に立つのは?
世界のトップ選手を集める国際的なトレイルランニングイベントとして知られてきたウルトラトレイル・マウントフジ。今回は国内在住者のみが参加する点は異例ですが、国内のトップアスリートが集まる3年ぶりの事実上の日本選手権として注目を集める大会となります。
UTMF165k 女子
宮﨑喜美乃 Kimino MIYAZAKIにとって、昨年は100マイルのレースで実績を残した一年でした。春の仙元山100を完走したのち、10月のLAKE BIWA 100で2位、12月のThailand by UTMB®︎で2位。12月の当サイトとのインタビューでは秋の二つのレースではともに出場した丹羽薫 Kaori NIWAのアドバイスに刺激を受けたと話しています。当サイトの見込みでは、今回のUTMFを27時間前後で完走する力があり、優勝に一番近い存在でしょう。過去のUTMFでは2018年に29時間34分で8位、2015年のSTYで優勝しています。
100マイルやUTMFの経験では宮﨑を上回るのが星野由香理 Yukari HOSHINO。2013年大会以来、100マイルのUTMFに欠かさず参加し、2015年には6位、2018年には4位、2019年には7位。持ち味の安定したレース展開は、大会当時の天候が厳しいなど荒れ模様になれば後半で強みとなるかもしれません。昨年のOSJ KOUMI 100では3位、今年1月のハワイでのHURT 100で4位となっています。
ロードの100km世界選手権に日本代表選手として3度出場の太田美紀子 Mikiko OTAはトレイルランニングにも積極的に挑戦していて、2018年にはハセツネCUPで4位、奥三河パワートレイル 68kmで優勝。ただ、ロードも含めて100マイルや24時間走といった100km以上のレースは今回が初めてとなるようです。最近では昨年のIJT70kで5位、4月の奥三河で3位となっています。
林絵里 Eri HAYASHIはUTMFでは2018年に7位、2019年に9位でいずれも29時間半を切るタイムでした。日本在住者に参加が限られる今年のUTMFでは上記3人とともにトップ3に入る可能性は高いでしょう。コロナ禍以降では2020年のOSJ KOUMI 100で3位、昨年は7月のロードの24時間走の大会、Japan Trophy 24hで193kmを走って4位でした。
今回のUTMFのエントリーリストに名前はあるものの、枝元 香菜子 Kanako EDAMOTOはケガからのリカバリーのため、今回の出場を見送ります。
加えて、次の皆さんに注目です。
- 浅原かおり Kaori ASAHARA :UTMFで2018年、2019年に3位。2021年甲州アルプス68kで優勝。
- 黒田清美 Kiyomi KURODA :2018年UTMFで6位、2020年OSJ KOUMI 100で優勝。
- 澤田由紀子 Yukiko SAWADA :2019年美ヶ原80kで優勝、信越五岳110kで優勝。2021年FTR100で2位。
- 市村浩美 Hiromi ICHIMURA : 2019年信越五岳110kで3位、2021年OSJ KOUMI 100で2位。
- 矢野淳子 Junko YANO :2022年球磨川リバイバルトレイル100マイルで2位。
UTMF165k 男子
実績あるウルトラトレイルのアスリートにウルトラマラソンの世界チャンピオンや20歳の山岳アスリートがどんなレースを繰り広げるか。UTMF165k 男子のレースはドラマチックな展開となるかもしれません。
小原将寿 Masatoshi OBARAと土井陵 Takashi DOIは一歳違いの同世代。小原は2019年にUTMFで日本人選手首位の4位(20時間59分)となったのち、UTMB®︎で8位となって表彰台に立ちました。それ以前から2016年UTMB®︎で16位、2018年UTMFで9位と100マイルのレースで活躍していましたが、さらに高い目標を目指して前半から積極的にペースを上げる走りに変えたのが2019年。当サイトとのインタビューでは今年のUTMFでは19時間半を狙うと率直に目標を話してくれました。ただ、4月に入ってから新型コロナに感染して発熱。すでに症状は治まり隔離期間も過ぎたものの、本番に向けての調整には苦心するところかもしれません。
一方、土井は2015年にUTMB®︎でトップ10にあと一歩という11位になって頭角を表します。その後もUTMFで2018年に6位タイ、2019年に8位タイ。2020年に入ってからもHong Kong Four Trails Ultra Challengeを4位で完走、2021年にはLAKE BIWA 100、TAMBA 100と秋に二つの100マイルで優勝しています。積極的に攻める小原に対して、自らのペースを守って後半に力を出し切るスマートな走りの土井。良きライバルの二人は今年のUTMFの最大の見どころになりそうです。
しかし今回のUTMF男子の優勝争いは二人だけではすみそうにありません。まずは100マイルのトレイルで最近好成績を挙げている西村広和 Hirokazu NISHIMURA。UTMFには2012年から14年に三度完走していますが、上位入賞には至っていません。その西村が長距離のトレイルで力を発揮し始めたのは2018年の信越五岳110kで優勝したことから。翌年の信越五岳110kで連覇、ITJで優勝しています。昨年も奥信濃100で2位ののち、OSJ KAMI100で優勝。今回のUTMFでは満を持して臨みます。
今回のワイルドカードとなりそうなのがロードのウルトラマラソンで世界トップレベルのアスリートとして知られる石川 佳彦 Yoshihiko ISHIKAWA。2017年にはIAU 24時間走世界選手権(ベルファスト)で270.870kmで優勝。2018年にSpartathlonで優勝、2019年にはBadwater 135を大会新記録で優勝。トレイルランニングではアメリカのColdwater Rumble 100で2019年1月に優勝、2020年2月のニュージーランドでのTarawera 100mileで2位。トレイルランニングの二つのレースはいわゆる走れる100マイルですが、天子山地や杓子山などのタフなトレイルを含むUTMFでどんな結果を出すか。
30代や40代の選手がリードする100マイルのトレイルランニングの中で、今回UTMFに挑む20歳の近江竜之介 Ryunosuke OMIは注目を集める存在です。中学生の時からスカイランニングのジュニアシリーズで活躍し、昨年はスカイランニング日本選手権でVK、スカイ、ユースの三冠を達成し、7月のスペインでの世界選手権でVKで7位、SKYで8位に。昨年12月には42kmより長いレースの初挑戦となったITJ70kで後半に失速しながらも6位と善戦。今回は初の100マイルとなります。
前回のUTMFでは後半の安定した走りで7位まで順位を上げた鬼塚智徳 Tomonori ONITSUKAは昨年のOSJ KOUMI100で優勝。持ち前のスピードに100マイルを走る経験を重ねて、今回のUTMFではさらに上位をねらいます。当サイトとのインタビューでは目標は優勝、と話しています。
このほか、今年のUTMFの話題の一つは日本のトレイルランニングのレジェンドたちがスタートラインに立つこと。2009年のUTMB®︎で3位となり日本のトレイルランニングの人気を高めた鏑木毅 Tsuyoshi KABURAKI、鏑木とともにUTMBの表彰台に立った横山峰弘 Minehiro YOKOYAMA、山本健一 Kenichi YAMAMOTO。信越五岳110kで7回にわたって表彰台のトップ6に入り続けた西城克俊 Katsutoshi SAIJOがエントリーしています。
続いて、トップ10入りの候補となる有力選手は次のとおり。なお、大瀬 和文 Kazufumi OSEはエントリーしているものの仕事の都合により出場を見送る模様です。
- 須賀暁 Satoru SUGA : 2020年志賀高原エクストリーム 56kmで2位、2020年ITJ70kで3位。
- いいの わたる WATARU IINO :2021年TAMBA 100で2位、2022年球磨川100マイルで2位。
- 長田 豪史 Goshi OSADA :2021年4100D野沢温泉62k優勝、奥信濃100で5位。
- 板垣渚 Nagisa ITAGAKI :2021年LAKE BIWA 100で3位、TAMBA100で3位、2022年奥三河で優勝。
- 下家悟 Satoru GEYA :2021年奥信濃100で優勝。
- 白川裕登 Yuto SHIRAKAWA :OSJ KOUMI100で2020年優勝、2021年に2位。
- 吉村健佑 Kensuke YOSHIMURA :2021年OSJ安達太良50K優勝、2021年FTR100Kで2位。
- 小川壮太 Sota OGAWA : 志賀高原エクストリーム58kで2019年2位、2020年5位。
- 黒河輝信 Terunobu KUROKAWA :2019年上州武尊山スカイビュー143kmで優勝。
- 矢部達也 Tatsuya YABE :2019年上州武尊山スカイビュー143kmで2位、2020年ITJ70kで4位。
- 牧野公則 Masanori MAKINO :2020年OSJ奄美50K優勝、2020年OSJ KOUMI100で2位。
- 森本幸司 Koji MORIMOTO :2021年Mizukami Mountain Party 61kmで3位、ITJ70kで9位。
- 伊藤康 Ko ITO :2021年ITJ70kで8位。
- 奥宮俊祐 Shunsuke OKUNOMIYA :2018年信越五岳100マイル優勝、2020年OSJ KOUMI100で3位。
- 木村隼人 Hayato KIMURA :2019年OSJ山中温泉75kmで2位、2021年FTR100Kで5位。
- 山本浩平 Kohei YAMAMOTO :2019年OSJ奥久慈50Kで優勝。
- 野本浩礼 Hironori NOMOTO :2020年Ultra-Trail Tai Mo Shan 152k優勝、Vibram HK100で13位。
- 吉村憲彦 Norihiko YOSHIMURA :2021年OSJ KAMI100で3位。
- 西方勇人 Hayato NISHIKATA :2021年LAKE BIWA 100で5位。
- 高橋和之 Kazuyuki TAKAHASHI :2019年信越五岳100マイル3位、Trans Jeju 112kで2位。
- 菊嶋啓 Kei KIKUSHIMA :2019年筑波連山70Kで2位、2021年OSJ新城ダブル64Kで2位。
- 松永紘明 Hiroaki MATSUNAGA :2020年Ultra-Trail Tai Mo Shan 46kmで2位、2021年神鍋パノラマ40kで6位。
- 小林誠治 Seiji KOBAYASHI :高隈山ピークハント37kmで優勝。
- 田中裕康 Hiroyasu TANAKA :2018年UTMFで12位、信越五岳100マイルで2位。
KAI69k
今回新たにUTMFのレースとして設けられたKAI69kのコースはUTMF165kのコース終盤に重なり、中盤に二十曲峠から杓子山のテクニカルなセクション、終盤に霜山への標高差600m以上の登りが控えます。
女子では日本のトレイルランニング界を代表するトップアスリート、吉住友里 Yuri YOSHIZUMIがエントリー。昨年のバーティカルキロメーターの世界シリーズ戦、VK Openのチャンピオンで、2019年OCCで3位。UTMFでは2018年のSTYで優勝しています。今年4月に入ってからも奥三河68kmで優勝。地元の富士山北麓で新レースのタイトルを目指します。
さらに昨年の中央アルプススカイライン38kや4100D野沢温泉62kmで優勝の中園真理亜 Maria NAKAZONO、2019年菅平スカイライン48kmで5位の岡さゆり Sayuri OKAも上位をねらいます。
男子では昨年、スカイランニングの日本選手権チャンピオンに加えて、12月のITJ70kで終盤に鮮やかな走りで上田瑠偉に続く2位となった甲斐大貴 Hiroki KAIがKAI69kに登場。学生時代に箱根駅伝を目指し、実業団アスリートを経て今はランニングコーチやYouTubeでも活躍する甲斐。前週にチャレンジ富士五湖100kmを走った優勝の疲れも見せずに、伊豆に続いて富士山でも旋風を巻き起こすか。
2019年のOSJ Ontake 100や2020年菅平スカイライン43kmで優勝の横内佑太朗 Yutaro YOKOUCHIや、先月の球磨川リバイバルトレイル107kで3位の町田知宏 Tomohiro MACHIDAは今回、UTMFのレースに初登場。2018年のSTY優勝の牛田美樹 Miki USHIDAとともに新レースの優勝争いに加わるでしょう。さらに40km前後のミッドディスタンスに強い半田佑之介 Yunosuke HANDAや岩井竜太 Ryota IWAIにも注目です。
エントリーリストに名前があるものの川崎雄哉 Yuya KAWASAKIは今回のKAI69kへの参加を見送る模様です。
Stravaのセグメントチャレンジ「UTMF 2022 The Last Climb」を開催
今回のUTMFでは大会パートナー、Stravaとの協力でセグメントチャレンジ「UTMF 2022 The Last Climb」が開催されます。Stravaのセグメント機能を用いて、コース上に設定された区間の所要タイムを競う、というもの。今回のセグメントはUTMF165kとKAI69kのコース終盤、霜山への登りにあたる距離3.58km、累積獲得高度622m。選手は自分のスマホアプリやGPSウォッチでレース中にログをとって、完走後にStravaにアップロードすればエントリーはOK。全員にデジタルトロフィーが贈られるほか、上位選手に加え抽選で選ばれた選手に副賞が贈られます。結果は5月1日のUTMF公式ライブ配信の中で発表されます。