今回の世界選手権はWA(ワールドアスレチックス)の下でマウンテンランニングとトレイルランニングの4種目のレースが行われます。
マウンテンランニング・トレイルランニング世界選手権(正式名称 Amazing Thailand Mountain & Trail Running Championships 2021)はタイ北部のチェンマイで11月3日から6日の日程で開催されます。
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マウンテンランニングとトレイルランニングを合わせた世界選手権がパンデミックによる延期を経て初開催
マウンテンランニングとトレイルランニングでそれぞれ開催されてきた世界選手権を一つの大会として開催する新しいフォーマットは今回が初めてとなります。隔年開催の第一回はタイ・チェンマイで2021年11月に開催予定でしたが、パンデミックにより延期されて、今週末に開催されます。
今回の世界選手権では三日間にわたって以下の4つの競技が行われます。日本からも男子8名、女子3名の代表チームが日本陸連から派遣されて出場します。
- Uphill Mountain Race: 8.5km, 1,065mD+ / 48mD-(Trace de Trailのコースデータ)
- 11月4日金曜日 10:15<日本時間12:15> スタート・男子
- 日本代表:近江竜之介、宮原徹(五十音順、以下同じ)
- 11月4日金曜日 11:00<同13:00> スタート・女子
- 日本代表:吉住友里
- 11月4日金曜日 10:15<日本時間12:15> スタート・男子
- Long Trail Race: 78km, 4,807mD+ / 4,807mD-(Trace de Trailのコースデータ)
- 11月5日土曜日 6:30<8:30> スタート・女子および男子
- 日本代表:秋山穂乃果(女子)、川崎雄哉、須賀暁、西村広和、横内佑太朗(以上男子)
- 11月5日土曜日 6:30<8:30> スタート・女子および男子
- Short Trail Race: 38km, 2,425mD+ / 2,425mD-(Trace de Trailのコースデータ)
- 11月5日土曜日 7:30<9:30> スタート・女子および男子
- 日本代表:高村貴子(女子)、上田瑠偉(男子)
- 11月5日土曜日 7:30<9:30> スタート・女子および男子
- Up and Downhill Mountain Race
- Junior: 6.00km, 225mD+ / 240mD-
- 11月6日日曜日 8:30<10:30> スタート・男子
- 11月6日日曜日 9:00<11:00> スタート・女子
- Senior: 10.70km 475mD+ / 475mD-(Trace de Trailのコースデータ)
- 11月6日日曜日 9:45 <11:45> スタート・男子
- 日本代表:宮原徹、吉野大和
- 11月6日日曜日 11:00<13:00> スタート・女子
- 日本代表:吉住友里
- 11月6日日曜日 9:45 <11:45> スタート・男子
- Junior: 6.00km, 225mD+ / 240mD-
WMRTC2021 にエントリーしている有力選手
今回の世界選手権には、46の国と地域の陸上競技団体を通じて選ばれた900人以上の選手がチェンマイに集まります。
レビューの前編として、アップヒル Uphill種目とロングトレイル種目の有力選手を紹介しました。この後編ではショートトレイル種目とアップ&ダウン Up & Downhill種目について紹介します。
Short Trail
チェンマイ市内からドーイ・ステープに登り、山中の集落をから北側に一旦下りて登り返すループを走ってから、スタート地点に戻る38kmのコースで開催。同日に並行して行われるロングトレイル競技のコースと重なっています。40km程度のトレイルランニングレースが世界選手権となるのは前回となる2019年のTrihos dos Abutres(ポルトガル)で行われた世界選手権以来です。
Short Trail – Women
ロングトレイル競技と同じく、ショートでも上位はフランス勢とスペイン勢が上位を席巻する可能性が高そうです。フランスのマチルド・サニエス Mathilde SAGNESは今年7月の欧州オフロード選手権の47kmで3位。昨年はOCCで2位となっています。アナイス・サブリエ Anaïs SABRIE (FRA) はコロナ禍から大会が再開された昨年の活躍が圧倒的でした。6月のMarathon du Mont-Blancで2位、Sierra-Zinalで3位、Chiemgauで2位、SainteLyonで優勝。今年もMarathon du Mont-Blancでは4位となっています。一方のスペインからは今年のOCCチャンピオンのシェイラ・アビレス Sheila AVILES CASTAÑOが優勝候補にあがります。2019年はスカイランナーワールドシリーズでチャンピオン、その年のマウンテンランニング世界選手権で5位と活躍したのち、ケガによる不調が続きましたが、今シーズンは4月のMIUT 60での優勝ののちにOCCで栄冠を掴んでいて勢いを感じます。そのOCCでアビレスに続いて2位だったヌリア・ジル Nuria GIL CLAPERA (ESP)も今シーズンはZegama-Aizkorriで6位ののち、欧州オフロード選手権で銀メダル、Ultra Pirineu 42kで2位と勢いがあります。 OCCでいえば2019年、21年に4位のアンナ・コメット Anna COMET PASCUA (ESP) も今年はTransgrancanaria 43kで3位、欧州オフロード選手権で5位と活躍しています。
他には2018年スカイランニング世界選手権チャンピオンで2020年Golden Trail Championshipで4位のトーベ・アレクサンデルソン Tove Alexandersson (SWE)、2019年トレイル世界選手権5位、同年のLimone Extremeで優勝、今年のスカイランニング世界選手権で金メダルのデニサ・ドラゴミル Denisa Ionela DRAGOMIR (ROU)、 2012年のマウンテンランニング世界選手権チャンピオンでスカイランナーワールドシリーズで2013年、2014年の年間チャンピオンであるスティービー・クレマー Stevie Kremer (USA) の名前もエントリーリストにあります。
日本代表はスカイランニングやハセツネCUPでの活躍で知られる高村貴子 Takako TAKAMURAがショートに出場します。最近はケガによる不調が続いていたといいますが、今月のハセツネCUPでは大会新記録で四連覇と好調。今年は海外のレースにも挑戦しており、今回の世界選手権で久しぶりの世界のトップ選手と肩を並べます。これまで2018年のスカイランニング世界選手権で10位、2019年トレイル世界選手権で31位といった記録を残しています。
この他、女子の注目選手は次の通り。
- Eleanor DAVIS (GBR) : 2022年欧州オフロード選手権4位、OCCで8位。
- Ariane WILHEM (SUI) : 2022年Transgrancanaria 61kで優勝、欧州オフロード選手権9位、Montreux Trail Festival 110kで優勝。
- Andrea KOLBEINSDOTTIR (ISL) : 2022年Wildstrubel by UTMB 50kmで2位。
- Fabiola CONTI (ITA) : 2022年 Zegama-Aizkorriで5位、Marathon du Mont-Blancで7位。
- Candice FERTIN (FRA) : 2021年OCCで7位、2022年Trail du Ventoux 46kmで5位。
- Kimber MATTOX (USA) : 2020年Way Too Cool 50kで優勝、2021年JFK 50mileで4位、2022年OCCで4位。
Short Trail – Men
男子では前回2019年のトレイル世界選手権チャンピオンのジョナサン・アルボン Jonathan Albon (GBR) がショートトレイルにエントリーしています。近年も昨年のOCC、Ultra Pirineu 42k、Grand Trail des Templiers、今年のMaXi-Race 45k、Marathon du Mont-Blanc、Stranda Fjord Trailと有力選手が集まるレースで勝利を重ねていて、世界選手権二連覇の可能性は高いでしょう。
そのアルボンがコロナ後で唯一勝ちを譲って2位になったのが今年のCCCでした。そのCCCをアルボンに23分差をつけて大会新記録で制したのがピーター・エンダール Petter Engdahl (SWE)です。先週末にはTransvulcania by UTMBで75kmを走って優勝しています。こうしたレースに比べるとショートトレイルの38kmは短く感じますが、これまでは30-50kmのレースに取り組んできた選手です。加えて2019年のOCCチャンピオンで昨年のMarathon du Mont-Blanc優勝のスティアン・アンゲルムント Stian Angermund (NOR)、2021年のSkyrace des Matheysinsで優勝、今年のスカイランニング世界選手権銀メダルのフレデリック・トランシャン Frédéric TRANCHAND (FRA)、今年のTrail du Ventoux優勝で欧州オフロード選手権3位のトマ・カルダン Thomas CARDIN (FRA)と、今勢いのある選手たちが揃います。
ここに日本代表として加わるのは上田瑠偉 Ruy UEDA。2019年にスカイランナーワールドシリーズチャンピオンのタイトルを手にしてからも、2021年、2022年に開催されたスカイランニング世界選手権でメダルを獲得。今シーズンは積極的に海外のレースに挑戦しており、中でもMarathon du Mont-Blancでの3位は大きな成果でした。上田は前週にマデイラ島で開催されているGolden Trail Series Grand Finalで5日間のステージレースに参戦しています。
次に挙げるアスリートも、国際的なトレイルランニングイベントで活躍する選手たちで、今回のショートトレイル男子は選手層が厚いレースとなります。
- フランチェスコ・プピ Francesco PUPPI (ITA) : 2019年マウンテンランニング世界選手権で2位。
- マルタン・アンタマッテン Martin ANTHAMATTEN (SUI) : 2021年Matterhorn Ultraks で2位。
- ザイド・アイト・マレク Zaid Ait MALEK OULKIS (ESP) : 2021年 Ultra Pirineu 5位、2022年欧州オフロード選手権で5位。
- ロベルト・デロレンジ Roberto DELORENZI (SUI) : 2022年スカイランニング世界選手権(Veia Skyrace)で金メダル。
- ザック・ミラー Zach MILLER (USA) : 2022年UTMBで5位、Trail 100 Andorra by UTMB 105kで優勝。
- アルノー・ボナン Arnaud BONIN (FRA) : 2022年Trail du Ventouxで3位、OCCで4位、欧州オフロード選手権で銀メダル。
- ケビン・ベルミューレン Kévin VERMEULEN (FRA) : 2022年Penyagolosa MiMで優勝、欧州オフロード選手権で4位。
- マックス・キング Max KING (USA) : 2021年Broken Arrow Skyrace 26kで5位。
- アントニオ・ペレス Antonio Martinez PEREZ (ESP) : 2022年OCCで2位。
- マルチン・デマタイス Martin DEMATTEIS (ITA) : 欧州オフロード選手権8位、OCCで8位。
- ジュリアン・ランコン Julien RANCON (FRA) : 2019年トレイル世界選手権で2位。
- レオナルド・ミトリカ Leonard Albert MITRICĂ (ROU) : 欧州オフロード選手権10位、OCCで9位。
- セバスチャン・リュングダール Sebastian LJUNGDAHL (SWE) : 2022年 Transgrancanaria 43kで優勝。
Up & Downhill
今回の世界選手権で10.70km 475mD+のコースで行われるアップ&ダウンのレースはマウンテンランニングという競技が成立した時から続くレースの形式で、「クラシック」と呼ばれることもあります。陸上競技のスタイルで山道を駆け上がって下りてくるという、現在のトレイルランニングの出発点となった競技です。ジュニア世代を対象とした距離6.0kmのレースも合わせて開催されます。以下では日本代表選手も参加する、シニアレースの有力選手を紹介します。
Up & Downhill – Women
前々日に開催されるUphillのレースとこのUp & Downhillの両方にエントリーする選手も多く、有力選手は一部重なります。
女子の選手ではUphillに続いてこちらでもモード・マシス Maude Mathys (SUI) が金メダルに一番近い存在でしょう。欧州オフロード選手権のアップ&ダウンでも優勝しているほか、今シーズンはGolden Trail Seriesに積極的に参戦し、Zagamaで2位、Sierra-Zinalは2位、Pikes Peak Ascentで2位、Flagstaffで4位。ただ前週に開催中のグランドファイナルは故障が気になる状態でステージレースは厳しいとの判断から参戦しておらず、タイでの世界選手権に焦点を絞っています。
グレイソン・マーフィー Grayson Murphy (USA)は2019年のマウンテンランニング世界選手権でクラシック競技で優勝、昨年のW杯のレースであるTrofeo Nasego、Canfranc Canfrancで優勝しています。アンドレア・マイヤー Andrea MAYR (AUT)も今年のTrofeo Nasegoで優勝しています。
日本代表としてこのレースに挑むのは吉住友里 Yuri Yoshizumi。日本ではあまりなじみのないこのUp & Downというレースのフォーマットについて、今年の欧州遠征でレースを経験するなどして対策しています。
有力選手は次のように続きます。
- エリゼ・ポンセ Elise PONCET (FRA): 2019年マウンテンランニング世界選手権クラシックで2位。
- ジュディス・ワイダー Judith WYDER (SUI): 2022年Jungfrau Marathonで優勝。
- サラ・マコーミック Sarah MCCORMACK (IRL): 2019年マウンテンランニングW杯年間ランキング1位。
- デニサ・ドラゴミル Denisa Ionela DRAGOMIR (ROU) : 2019年マウンテンランニング・ロングディスタンス席選手権で8位。
- モニカ・フローレア Monica Madalina FLOREA (ROU) : 2022年欧州オフロード選手権のUp & Down で2位。
- スカウト・アドキン Scout ADKIN (GBR) : 2022年欧州オフロード選手権のUp & Down で3位。
- アリス・ガッジ Alice GAGGI (ITA) : 2022年欧州オフロード選手権のUp & Down で6位。
- スザンナ・サープンキ Susanna SAAPUNKI (FIN) : 2022年欧州オフロード選手権のUp & Down で5位。
- シモーヌ・トロクセラー Simone TROXLER (SUI) : 2022年Jungfrau Marathonで2位。
Up & Downhill – Men
男子ではマウンテンランニングのフランス選手権、そしてオフロード選手権を制しているシルバン・カシャール Sylvain CACHARD (FRA) は今回の世界選手権の優勝候補に挙げられます。今年のSierra-Zinalで当時は誰の目にもノーマークながら勝利を勝ち取ったアンドレウ・ブレーンス Andreu BLANES (ESP) も今回の注目選手。2016年、2019年のマウンテンランニング世界選手権チャンピオンのジョセフ・グレイ Joseph Gray (USA)、今年の欧州オフロード選手権でUp & Downで2位のチェーザレ・マエストリ Cesare MAESTRI (ITA)もUphillに続いてこちらも頂点を狙います。 スキーモーやスカイランニングで活躍するオリオル・カルドナ Oriol Cardona Coll (ESP) が近くて遠かったマウンテンランニングに参戦するのも興味深いところ。
宮原徹 Toru MIYAHARA、吉野大和 Yoshino YAMATOがUp & Downに出場する日本代表選手です。宮原はバーティカルキロメーターの日本の第一人者であり、吉野は先日ハセツネCUPで優勝していますが、欧州のマウンテンランニングでどんな結果を残すか注目です。
さらに次の有力選手がエントリーしています。
- マクシミリアン・ドリオン Maximilien Drion du Chapois (BEL) : 2022年欧州オフロード選手権のショートトレイルで優勝。
- アルベルト・ベンダー Alberto VENDER (ITA) : 2022年欧州選手権 Up & Downで9位。
- ロベルト・デロレンジ Roberto Delorenzi (SUI) : 2022年スカイランニング世界選手権(Veia Skyrace)で金メダル。
- アレックス・バルダッチーニ Alex BALDACCINI (ITA) : 2021年マウンテンランニングイタリア選手権でUphillとUp & Downでいずれも3位。