東京・奥多摩の山域で開催され、今年で22回目となる日本山岳耐久レース(ハセツネカップ)が今年も10月12日日曜日の午後1時にあきる野市の五日市中学校をスタートします。このレースの概要と今年の有力選手を紹介します。また、当サイトではレース当日はスタートからフィニッシュまで、上位選手の動きを中心にTwitterでライブ速報をお届けする予定です。【有力選手について、新たに得た情報をもとに修正、追記しています。】
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ハセツネカップとは
日本山岳耐久レース(ハセツネカップ)は東京の西、あきる野市の五日市中学校をスタートし、南回りに神奈川県との県境となる笹尾根を進み、標高1527mの三頭山へ。三頭山からは御前山、大岳山、日の出山を経て五日市に戻る71.5km / 3850mD+のトレイルランニングレースです。第一回が開催された1993年の当時は山の中の70キロにおよぶ長距離を夜を徹して走り抜くというレースは日本には存在しませんでした。世界的に活躍した登山家・長谷川恒男の業績を讃えるために設けられた「長谷川恒男CUP」からこのレースは「ハセツネ」と呼ばれるようになります。回数を重ねるにつれて年々レベルは向上し、これまで多くの名勝負が繰り広げられ、この大会での活躍をきっかけに活躍の場を拡げるトレイルランナーを生み出しました。今日では、距離やコースの過酷さでこのハセツネに匹敵するレースが国内にも増えていますが、このハセツネの歩みは日本のトレイルランニングの歴史に重なるといえます。
今年のハセツネは10月12日日曜日の13:00に五日市中学校をスタート。71.5kmのコースを一周して五日市にフィニッシュするまでの制限時間は24時間。2,500人のランナーが参加するこのレースの特徴は、途中一ヶ所(42km地点、第二関門の月夜見第二駐車場)の1.5リットルの給水所と途中の三ヶ所の水場以外がある他はエイドステーションが設けられていないこと。10月上旬の奥多摩の日中は日差しが強くて気温が高いことも多く、背負う水の重みや手持ちの水を飲み切ってしまう恐れを感じながらのレースとなります。
ハセツネのコースをみてみると概ね次のようになります。これまでの大会記録は男子が7時間19分13秒(東徹<2013年>)、女子は8時間54分7秒(櫻井教実<2008年>)となっています。
- スタートから第一関門・浅間峠(22.66km):午後1時にスタートすると、ランナーの集団の前半より前にいると周囲の猛スピードに圧倒されます。ここからしばらくは舗装路や林道となり、4km地点あたりの今熊神社の石段を上った辺りのトレイルから渋滞となるので、ここをできるだけ早く行こうという心理が皆に働きます。その先、7km地点の入山峠を越えたトレイルに戻る階段でも渋滞で列を作ることになります。ここからは登り基調のトレイルが続きますが、日本の低山らしく地図や高低差に現れない小さな高低差が多く続きます。第一関門・浅間峠(22.66km)の関門締切は午後10時(スタートから9時間)。多くのランナーはここを明るいうちに通過するでしょう。
- 第二関門・月夜見第二駐車場(42.09km)まで:浅間峠を出てからも笹尾根を三頭山に向けて登り基調+小さなアップダウンのトレイルが続きますが、次第にアップダウンのうち登りの部分が増えてきます。地図上では途中の日原峠から脇に入ったところに水場があるとされていますが、コースからは10分以上かかる上、大会側からも利用は認められていない模様ですので当てにしないようにしましょう。西原峠(32.19km)を越えるとさらに登りが長くなり、避難小屋を右手にみてからも更にもう一息登りを経て、三頭山山頂(36.32km)へ。ここからは一気に鞘口峠(38.02km)へ下り、奥多摩周遊道路に沿って進んで第二関門・月夜見第二駐車場(42.09km)へ。ここで1.5リットルの給水が受けられます。関門締切は午前4時(スタートから15時間)。多くのランナーはここまでに既にライトを点けているでしょう。
- 第三関門・御岳山長尾平(58.0km)まで:月夜見から御前山、鋸山、大岳山と続きますが、この間でリタイアしても登山口までの下山は長く、回収のクルマもなかなか来ないと思われるので、ここから先に進めるか不安な時はよく考える必要があります。御前山山頂(46.57km)までは長い登りが続き、スイッチバッグでない直登のところもあり、苦しいところ。御前山山頂の手前には小高くなった広場があり、ここで休む人も多数。御前山山頂からコースから外れて避難小屋に行くと水場がありますが、ここもコースから10分は離れる他、大会からも利用が認められていません。大ダワ(49.77km)にはスタッフの方等の応援の声が響きます。ここからしばらく走れるトレイルを進むと大岳山(53.71km)への登りへ。この大岳山の前後はややテクニカルで滑りやすい岩場や鎖場があるので、要注意。大岳山荘の約200m先には天然水の水場があり、大会からもルールで利用が認められています。トレイルのコンディションがよくなってくると、御岳はすぐ近く。途中の綾広の滝の近くのコース左手(56.5km)に水量豊富な天然水の水場があり、大会ルールでも利用が認められています。コースのすぐ脇にある水場で多くの人はここで給水することになるでしょう。御岳の参道の手前にある広場・長尾平に第三関門があります。関門締切は午前10時(スタートから21時間)。
- フィニッシュ・五日市会館(71.5km)まで:長尾平から御岳神社の山門を通って旅館やお店がならぶ参道を通り抜けます。参道の手前にわき水の水場があります。ここが大会が利用を認める最後の水場。日の出山(60.55km)で夜景か朝焼けをみたらいよいよ金比羅尾根の下りです。ところどころテクニカルなところがあったり、ぬかるんで滑りやすいところがあります。舗装路に下りてきたらフィニッシュまではあと数百メートルです。
今年の日時、天候
さて、12日日曜日にスタートする今年のハセツネですが、本稿執筆時点(8日水曜日午後)では猛烈な勢力の台風19号が日本に近づいています。現時点の予報では11日土曜日から12日日曜日にかけて沖縄に接近し、体育の日の13日月曜日には九州に近づくとのこと。あきる野市の週間予報をみると、12日は降水確率50%、13日は70%となっており、12日の午後から台風の影響を受けて13日は終日雨となりそうです。
台風の接近を受けて、大会側では8日水曜日に「実行委員会としては10日(金)のお昼の気象庁の予報を受けて決行の判断をし、13:00までにホームページ上に発表したいと思います」と発表しました。参加される方は大会が開催されるかどうか、開催される場合にも夜から風雨が強まることが予想されるので十分な装備かどうか、もう一度確認した方がよさそうです。【追記・10日午後、大会ホームページで大会は予定通り開催されることが発表されました。雨に備えた装備の確認、台風の影響が強まる13日(月)の交通事情に注意するよう呼びかけてます。】
有力選手紹介
今年もハセツネには多くの有力選手が集まります。今年のレースで上位を走りそうな当サイトの注目選手をみてみましょう。
女子 / Women
優勝争いは?
昨年のハセツネで2011年に続く二回目の優勝を果たした大石由美子が今年もハセツネの優勝候補の筆頭です。今シーズンは春のハセツネ30kで優勝(当サイトのインタビュー)、6月にスリーピークス八ヶ岳トレイルで二連勝(当サイトのインタビュー)、7月には北丹沢、野沢温泉、富士登山競走五合目コース、8月にはおんたけスカイレースでそれぞれ優勝。海外でも5月にフランスのニボレ・リバード/Nivolet Revardで2位(当サイトのインタビュー)と当サイトのTrail Runner of the Yearを受賞した昨年から無敵の快調ぶりです。現時点で30–70kmくらいのトレイルランニングレースでは国内で無敵といえる存在の大石が今年のハセツネを制する可能性は高いといえます。
その大石に挑戦することになりそうなのは、まずアメリカのエイミー・スプロストン/Amy Sproston。昨年のハセツネで序盤はトップを走り、3位でフィニッシュしています。昨年の経験が生きるなら、今年のハセツネでは優勝争いに加わってくるでしょう。2012年にIAUの100km世界選手権優勝、ウェスタン・ステイツ8位、UTMB(短縮版)8位、昨年はLake Sonoma 50で3位、柴又100k優勝、ウェスタン・ステイツ3位でした。
さらに、ハセツネの上位常連では佐藤光子にも注目。大石やエイミーと走った昨年のハセツネで2位のほか、ハセツネでは2012年に優勝、2010年に2位、2009年に3位、2008年に6位、2007年に3位。昨年のインタビューでは今後は順位を考えずに楽しんでハセツネを走りたい、と話していました。今年はスリーピークス八ヶ岳トレイルで5位でした。そして、もう一人は若手の山ノ内はるか。ハセツネデビューで期待された昨年は後半に失速して8位でしたが、今年もスパトレイル優勝、NASUロング優勝。スパトレイルの後の当サイトとのインタビューでもハセツネは今年の目標と話していて、活躍に期待できそうです。
入賞に期待
さらに、総合6位までなどの入賞が期待できそうなのは次の方々。
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福田由香里:今年は志賀高原エクストリームトライアングルで優勝、スリーピークス八ヶ岳で2位、ハセツネ30kで3位。UTMFでは昨年の13位に続いて今年は12位。ハセツネでは2012年に5位。スリーピークスの後の当サイトとのインタビューでも、ハセツネを秋のメインレースと考えていると話していました。
- 江田良子:フルマラソンの自己記録2時間24分で世界選手権日本代表の経験を持ち、ハセツネでは2012年に2位となった他、昨年は5位、2011年にも5位。【追記・自己記録のタイムを修正しました。2014/10/08】
- 湯浅綾子:最近活躍が著しく、今年はハセツネ30kで5位、北丹沢で3位、9月には白馬国際で優勝。
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丹羽薫:昨年のハセツネで7位となった後、今年のUTMFで8位に。その後もスリーピークス八ヶ岳で3位、野沢温泉で3位。スリーピークスの後の当サイトとのインタビューで、関西で走っているトレイルなどについて聞いています。
- 吉田広美:九州をベースに活躍し、えびの高原エクストリームトレイルを昨年に続いて二連覇。今年のSTYで2位。【追記しました。2014.10.10】
- 小林知美:女子の上位常連でハセツネでは昨年の6位のほか、2011年には2位に。今年の富士登山競走では6位に入りました。
さらに注目選手
- 大古場美乙:2010年ハセツネで3位、昨年のITJで8位。
- 大庭知子:昨年のハセツネで10位。今年はハセツネ30kで4位、スパトレイル2位など。
- 道田明子:今年の北丹沢5位、2013年STY3位
- 弘中志保:2013年OSJ奥久慈で優勝、今年はモントレイル戸隠マウンテントレイル(20km)で3位など。
- 松井一葉:各地のレースで女子常連でハセツネでは2011年に3位、2012年に4位。
- 鹿島田真理子:今年は北丹沢6位、信越五岳で8位。
- 町田はるか:信州戸隠トレイルレースで昨年優勝、今年は2位。
今年出場しない主な有力選手
- Leah Daugherty / リア・ダーティ:昨年のハセツネ4位。
- 中村雅美:昨年のハセツネ9位
男子 / Men
優勝争いは?
前年の上位入賞者が翌年も上位を占めることの多いハセツネで昨年は新しい名前の3人がトップ3を占めたことで、新しい時代の到来が印象づけられました。今年もそのトップ3がハセツネに戻ってきて、優勝争いに絡むことになりそうです。まず昨年大会記録で優勝した東徹は6月にスリーピークス八ヶ岳トレイルで4位となった後、7月には北丹沢を4:11:51で優勝しています。2位だった大杉哲也は春に地元大阪のダイトレ(大阪府チャレンジ登山大会)で4連覇を達成し、その後もOSJ新城32km優勝、黒姫3位、野沢温泉2位。昨年のハセツネでも最終盤にハンガーノック気味で失速するまではトップの東を追いつめる展開をみせ、今年のハセツネで一番の注目選手となりそう。昨年3位の奥山聡は2013年陣馬山トレイルレースで2位のあと、今年は道志村で6位。道志村では脚の故障に苦しんでいたので十分回復しているかが気になるところ。
そして、今年アメリカから参戦するのがマックス・キング/Max King。オレゴン州在住の34歳で陸上競技出身のマックスはフルマラソンの自己記録が2時間14分34秒(ちなみに東徹の自己記録は2時間19分)。2008年頃からはじめたトレイルランニングでは50kmから50マイル(80km)のレースで出た大会の半分以上で優勝する強さ。最近では2012年にアメリカで1963年から続く伝統の50マイルレース、JFK 50を大会新記録で優勝。今年に入ってからも3月のChuckanut 50Kで優勝、4月のLake Sonoma 50で7位。5月にIce Age 50で優勝して出場権を得た6月のウェスタン・ステイツで初めての100マイルレースを4位でフィニッシュ。2週連続でレースに出場したり、海外のステージレース、障害物レースなどにもチャレンジするなど、大胆な面も持っています。実力からすれば、2012年に大会新記録(当時)で優勝したダコタ・ジョーンズ/Dakota Jonesを越える力をハセツネで発揮することもありそうです。
入賞に期待
続いて、総合6位までなどの入賞のほか、上記の優勝候補に迫る活躍が期待できそうなのは次の方々。
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菊嶋啓:ハセツネでは2012年に3位、2011年に4位。今年はOSJ新城32km3位、スリーピークス八ヶ岳2位、道志村2位、黒姫優勝、野沢温泉優勝。
- 大瀬和文:昨年から多くのレースに挑戦して結果を残して注目の大瀬は今年はハセツネ30k2位、UTMF19位、スパトレイル2位、黒姫2位、UTMB23位、斑尾50k2位。ここで大きなタイトルに期待したいところ。昨年のハセツネでは12位。
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上田瑠偉:20歳の若さで積極的に攻める走りで昨年6位となった上田瑠偉は、昨年の武田の森で優勝したあと、今年に入ってからもハセツネ30k優勝、黒姫7位、志賀高原エクストリームトライアングル2位など。来年はUTMBを走りたいと話してくれたハセツネ30kの後の当サイトとのインタビューはこちら。
- 奥宮俊祐:ハセツネの上位常連として有名で、2012年6位、2011年2位、2010年2位、2009年5位、2008年6位、2007年2位。最近では2013年12月の武田の森で2位、今年1月のHK100で7位、7月のEiger Ultra Trailで6位と海外でも活躍。
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山田琢也:こちらもハセツネの顔といえる存在で、ハセツネでは昨年7位、2012年5位、2010年3位。今年は夏のMont Blanc 80k(スカイランニング世界選手権)で28位のあと、9月の信越五岳では大会記録を超えるタイムで2位。
- 加藤淳一:ことしはハセツネ30kで4位、富士登山競走3位。2012年のハセツネでは7位。
- 中辻悠貴:信越五岳の入賞常連で今年も6位。今年は1月にハワイの100マイルレース、HURT100で9位に。
- 小川壮太:昨年8位。今年はスリーピークス八ヶ岳で3位、富士登山競走4位、志賀高原エクストリームトライアングル優勝。2位となった上州武尊山120kからまだ日が浅いのが懸念材料か。超長距離から激登りまで様々なレースにチャレンジすることを話してくれた当サイトとのインタビューはこちら。
- 望月将悟:昨年9位。トランスジャパンアルプスレース(TJAR)での活躍ですっかり有名だが、ハセツネでも2010年4位、2009年4位、2008年5位などの入賞経験をもつ。今年はTJARでの優勝の他、OSJ新城32kmで2位、UTMFで23位、スリーピークス八ヶ岳で6位。TJARや4位となった上州武尊山120kからの疲労回復の度合いが気になるところ。
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荒木宏太:九州のトレイルランニングレースで活躍、今年はえびの高原エクストリームトレイル優勝、おんたけスカイ3位。6月にはASICSの企画によるモンブランを周回するコースでのリレーイベント、Outrun the sunに参加。学生時代から駅伝等で活躍し、フルマラソン自己記録は2時間22分。
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小林慶太:今年のUTMFで8位で表彰台に登り注目を集めました。今年は6月のスパトレイルで優勝しており、その際の当サイトとのインタビューはこちら。
- 鬼塚智徳:今年のSTYで3位。トレイルランニングのレースの経験はまだ少ないが、実業団(九電工)で活躍した経験とフルマラソン自己記録が2時間12分というスピードはハセツネでも発揮されるか注目。【追記しました。2014/10/8】
- 貝瀬淳:2012年信越五岳で2位となってトレイルランニングでも注目を浴び、今年はハセツネ30kでSTYで5位等。
- 秋元祐介:まだトレイルランニングのレースにはあまり参加していない若手ながら、今年の北丹沢で優勝に1分差での2位、志賀高原エクストリームトライアングル3位という結果からは、今年のハセツネで周りを驚かせる結果もありそう。
- 森本幸司:九州のトレイルランニングレースで活躍するランナーだが、今年は北丹沢で3位、おんたけスカイで2位など全国区で活躍。ハセツネでもその実力を見せつけることになるかも。
さらに注目選手
- 須賀暁:今年は北丹沢で5位、スパトレイルで3位。
- 牛田美樹:今年の北丹沢7位、ハセツネ30kで3位。
- 伊東努:ハセツネ上位の常連で2007年には最高位の4位。2013年のUTMFで20位。
- 渡辺裕治:2012年のハセツネで9位。
- 横内宣明:ハセツネ上位常連で最高位は2011年の7位。今年は道志村で4位。
- 栗原孝浩:今年のOSJ安達太良50kで4位、OSJ王滝ダートマラソンで2位
- 後藤豊:2009年のハセツネで当時の大会記録で優勝。
- 山谷良登:今年の志賀高原エクストリームトライアングル7位、野沢温泉で4位。
- 佐藤秀人:2012のSTYで5位。
- 沈在徳:韓国のウルトラランナーで世界中の様々な大会に出て結果を残している。日本でも2006年のハセツネで優勝してその名を知られる。最近では昨年の柴又100kで2位、今年の北丹沢で8位。
- 加藤昌文:今年の志賀高原エクストリームトライアングルで5位
- 眞舩孝道:2013年ゴビ砂漠マラソン(250k)優勝。夏の入院からの復活度合いに注目。
- 石田賢生:TJARでの活躍で知られ、今年はUTMFで20位、TJARで4位。
今年出場しない主な有力選手
- 小原将寿:昨年のハセツネ4位。脚のケガ。
- 近藤敬仁:昨年の5位。
- 相馬剛:昨年の10位。7月にマッターホルンで滑落事故。
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