高村貴子、上田瑠偉が優勝・第25回ハセツネCUP・日本山岳耐久レース 2017 リザルト #Hasetsune #ハセツネ

ハセツネカップ今年も強い日差しに水分を奪われて、脚の攣りや胃腸の不具合で苦しむ選手が続出。そうした中でしぶとく勝ち残ったのは男女とも24歳の若手アスリートでした。今年も10月8日にあきる野・奥多摩山域で第25回日本山岳耐久レース(ハセツネCUP)が開催されました。若手からベテランまで、ハセツネ初挑戦から上位常連まで、有力選手が揃うレースを制したのは上田瑠偉 Ruy Ueda高村貴子 Takako Takamuraでした。特に高村貴子の9時間17分30秒は昨年の自身の優勝タイムを24分短縮。櫻井教美の大会記録(2008年、8時間54分7秒)、歴代2位(2006年、9時間10分50秒)に続く歴代3位の好記録です。上田瑠偉をプリンスというなら、高村貴子はトレイルランニング界のプリンセスと呼ぶにふさわしい結果を叩き出しました。【追記・女子のレース展開について情報を加えました。2017.10.11】


(写真・2017年のハセツネCUPで優勝した高村貴子。Photo by Koichi Iwasa / DogsorCaravan.com)

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今回のハセツネCUPのレポートはSalomonのご協賛によりお送りしました。

日本トレイルランニング界のプリンセス、高村貴子は24歳。今回はレース前半では大会記録更新が十分可能なハイペースで驚かせるとともに後半にこのペースを守れるのかと心配させました。後半は苦しいレースとなりましたが、歴代3位の好記録を残しました。2015年に初挑戦のハセツネCUPで3位となりトレイルランニング界で話題となり、翌年の2016年には優勝。スカイランニングでの活躍も著しく、今年7月にはスカイランナー・ワールドシリーズのスカイレース・コマペドローサ Skyrace Comapedrosa 21k(アンドラ)で3位、9月にスカイランニングアジア選手権・蔵王スカイレース28kで優勝と海外に活躍の場を広げています。現在、北海道在住の医大生としての顔も持ちます。

今や日本のトレイルランニングを代表する存在といえる上田瑠偉も現在24歳。2014年のこの大会で7時間1分13秒の大会新記録を達成、2016年にはCCCで2位、今年は欧州のスカイランニングのシリーズ戦で好成績を連発。欧州やアジアでもその名を知られるようになりました。この日の上田はいつものように最初からレースをリードしますが、スタート前に当サイトに話してくれた通りタイムを狙うには厳しい暑さで、自身の2014年のペースには及びません。後半には他の選手と同じように足の攣りや吐き気で立ち止まることもありましたが、リードを守りきりました。7時間46分というタイムは初めてハセツネに挑戦した2013年(6位、7時間45分)におよびませんでしたが、厳しいレースで勝ったことの意味は小さくありません。

男子トップ3。左から2位の吉原稔、優勝した上田瑠偉、3位の小川壮太。

このほか、男子では上田、高村と同学年の24歳、吉原稔 Minoru Yoshiharaが初挑戦のハセツネで2位に。3位には小川壮太 Sota Ogawaが入りました。40歳代となって初めて臨んだ今回はベテランらしいしぶとく力強いレースぶりを見せました。女子では、こちらも最近トレイルランニングで才能を発揮し始めた28歳の福地綾乃 Ayano Fukuchiが2位に。3位はこちらも2009年優勝のベテラン、星野緑 Midori Hoshinoが入りました。

ハセツネCUPが五日市中学校をスタート。

レースの展開

女子のレースは事前の予想通り最初から高村貴子が先頭に立ってリードします。入山峠 7kmでは高村は早くも続く2位の大石由美子に2分、3位の望月千幸には4分差をつけていました。醍醐丸 15.3kmを高村は1時間49分で通過しますが、これは2014年に9時間31分で優勝したエイミー・スプロストンのタイムを7分上回っていました。2番手にはトレイルランニング界のクイーン、大石由美子 Yumiko Oishiが11分差で続きましたが、スタート前から2週前に走った上州武尊山120kの影響で体調がすぐれません。大石から4分で3番手に星野緑 Midori Hoshino、そこから1分ずつおいて望月千幸 Chiyuki Mochizuki福地綾乃 Ayano Fukuchiが続きました。浅間峠 22.7kmでも高村のペースは落ちず、スプロストンのタイムに11分先行。星野緑に20分もリード。月夜見 42kmに高村は男女総合18位で到着。近年の女子選手では見ることのなかったハイペースです。この月夜見で結局大石はリタイア。そして福地綾乃が星野と望月を抜き、高村からは37分と大きく離されたものの2位に。

醍醐丸でレースをリードする高村貴子。

3位となった星野緑。

絶好調に見えた高村ですが、日中の暑さでドリンクは飲み干していて、後半に入ると攣りや気分の悪さにペースを落とし始めます。8時間54分の大会記録破りは厳しくなっていきますが、それでも御岳では2位の福地綾乃に50分差。なんとかこのリードを守りきった高村が9時間17分30秒で昨年に続く二連覇を果たしました。

福地綾乃も後半には厳しいレースとなりましたが、2位でフィニッシュ。高村から48分差で金比羅尾根の下りでは高村とのさをしっかり縮めていました。三重県在住の福地は中部、関西のレースでは上位常連、今年はIAUトレイル世界選手権に日本代表として出場していますが、今回は関東のレースでその実力の高さを見せつけました。

初出場で2位となった福地綾乃。

3位には星野緑。前後の選手が浮き沈みする中で安定した強さを今回も発揮。出産と育児でレースから離れていた時期を経て、昨年久々にハセツネに復帰して2位となったことは話題になりましたが、今回もその強さは健在でした。

4位はこちらも後半にじわじわと順位を上げた昨年3位の浅原かおり Kaori Asahara。5位には九州の吉田広美 Hiromi Yoshida、6位に渡邉ゆかり Yukari Watanabeが続きました。

【追記・メキシコから参加していたタラフマラ族(ララムリ)のランナー、マリア・ラミレス Maria Lorena Ramirezは14時間30分で五日市のフィニッシュラインに戻ってきましたが、コース上で補給を受けたことから失格となっています。】

男子のレースは醍醐丸 15.3kmでは上田瑠偉 Ruy Ueda、そのすぐ後に川崎雄哉 Yuya Kawasakiが続く昨年と同じ展開に。二人から1分遅れて東徹 Toru Higashi荒木宏太 Kota Araki澤田幸治 Yukiharu Sawadaの3人の集団が続いていきます。ただ、この時から2014年の上田自身のタイムからはやや遅れています。浅間峠 22.7kmでは、川崎が上田に3分差で遅れをとります。二人の後には東徹、荒木宏太、近藤敬仁 Yoshihito Kondo小林誠治 Seiji Kobayashi(浅間峠でリタイア)、澤田幸治、吉原稔 Minoru Yoshihara小川壮太 Sota Ogawa牧野公則 Masanori Makinoの8人が順に続いていました。

入山峠では東徹、荒木宏太、上田瑠偉が集団でリード。

醍醐丸でリードする上田瑠偉。

序盤は8-9位を走った小川壮太。この後、大きく順位を上げる。

レースが大きく動いたのはやはり今年も月夜見 42kmでした。上田瑠偉は自身のベストからは遅れながらもリードを守って進みますが、2位の川崎雄哉はやや辛そうな表情。そして浅間峠からの20kmで小川壮太が9位から3位に急浮上、というよりは他の選手が軒並みペースを落とし始めました。同じく吉原稔も4位に浮上してきました。

月夜見にトップで通過して補給する上田瑠偉。

月夜見での川崎雄哉、やや厳しい表情。

こうして上田、小川、吉原のレースとなったレース後半は御岳58kmになると上田が12分リードして小川、吉原が僅差で続きました。ここからの下りで上田は次第に調子を崩して立ち止まることもあったといい、後続に差を縮められます。しかし、辛くも逃げ切った上田瑠偉は7時間46分で優勝しました。2位でフィニッシュゲートに現れたのは吉原稔、しかも上田からはわずか5分差でギャラリーを驚かせました。10kmあまりの滑りやすい下り坂がもう少し長かったら吉原が上田をとらえていたかもしれません。3位には上田から10分、吉原から5分で小川壮太。最後こそ吉原に先を譲りましたが、厳しいコンディションのレースでスマートな走りをみせた小川のスマートさが光りました。長距離のレースで補給のテンポがあわずに苦しむ姿も見られた小川だけに今回の快走が印象的でした。

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4位には川崎雄哉。川崎から25分と大きく開いで東徹が5位に。6位の山田琢也 Takuya Yamadaと7位の堀江謙一 Kenichi Horieが8時間45分で僅差でフィニッシュしました。

観戦記・やはり高村貴子の活躍が一番光る、若手の時代が来たことを感じさせる

今年のハセツネを観戦して、MVPを決めるとするならやはりそれは高村貴子でしょう。女子選手の記録は2000年代の櫻井教美の頃からみれば最近は停滞していましたが、今回の高村のタイムは停滞を打ち破るものだといえます。それが、男子選手も含めて、多くの有力選手がリタイアしたり、大きくブレーキがかかったりする厳しい条件の中で出された記録であればなおさらです。とはいえ、上記のように月夜見からの後半では高村がペースを落としたのも確か。逆にいえば高村が前半でみせた走りを後半にも発揮できたら、8時間54分の記録を破ることは大いにありうるともいえます。来シーズンもトレイルランニングのプリンセスの大活躍が見られるかも。両立すべき学業の方が許すのであれば、それを是非見てみたいものです。

さらに、男子、女子のリザルトをみれば20代の若手が上位を占める結果になりました。トレイルランニングの高速化が進む中で、若年層の活躍が進むとは前からいわれていましたが、今回のように上位を20代が占めることは今までなかったでしょう。その中でも小川壮太や星野緑のような40代が肩を並べているのがトレイルランニングの面白いところ。様々な経験や身体能力が求められるこのスポーツの魅力がますます知られるようになることに期待したいと思います。

厳しいレースを制した上田瑠偉がフィニッシュして安堵の表情を浮かべた。

リザルト

全体のリザルトはこちら

男子 / Men

  1. 上田瑠偉 Ruy Ueda(Columbia Montrail / Mountain Hardwear) 7:46:22
  2. 吉原稔 Minoru Yoshihara(Tecnica) 7:51:27
  3. 小川壮太 Sota Ogawa (HOKA OneOne) 7:56:13
  4. 川崎雄哉 Yuya Kawasaki (TRAQ) 8:09:46
  5. 東徹 Toru Higashi(ASICS) 8:34:19
  6. 山田琢也 Takuya Yamada (Finetrack) 8:45:14
  7. 堀江謙一 Kenichi Horie 8:45:28
  8. シン・ジェドク Jeaduk Sim 沈在徳(Columbia Montrail) 8:46:32
  9. 牧野公則 Masanori Makino(Salomon) 8:47:47
  10. 澤田幸治 Yukiharu Sawada(日新製鋼, ASICS) 8:52:15
  11. 吉村健佑 Kensuke Yoshimura 8:54:25
  12. 伊東努 Tsutomu Ito 8:54:41
  13. 栗原健誌 Kenji Kurihara 8:55:39
  14. 柴田幸生 Yukio Shibara 8:57:52
  15. 円井基史 Motofumi Marui 9:02:17
  16. 富塚翔亮 Shosuke Tomizuka 9:10:21
  17. 大河原斉揚 Nariaki Ogawara 9:12:29
  18. 吉田賢治 Kenji Yoshida (La Sportiva) 9:13:27
  19. 大瀬和文 Kazufumi Ose (Salomon) 9:14:12
  20. 中谷亮太 Ryota Nakatani 9:22:55
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女子 / Women

  1. 高村貴子 Takako Takamura 9:17:30
  2. 福地綾乃 Ayano Fukuchi (Salomon) 10:05:48
  3. 星野緑 Midori Hoshino(La Sportiva) 10:22:29
  4. 浅原かおり Kaori Asahara 10:42:25
  5. 吉田広美 Hiromi Yoshida 10:54:53
  6. 渡邉ゆかり Yukari Watanabe 10:57:11
  7. 岩村聖華 Seika Iwamura(Inov-8) 11:04:54
  8. 林絵里 Eri Hayashi 11:09:32
  9. 久津間紗希 Saki Kutsuma 11:19:10
  10. 竹村香苗 Kanae Takemura 11:29:05
  11. 關利絵子 Rieko Seki 11:30:00
  12. 大庭知子 Tomoko Oba 11:34:17
  13. 村井絢子 Ayako Murai 11:41:09
  14. 湊瑛穂 Akiho Minato 11:41:53
  15. 寺岡涼子 Ryoko Teraoka 11:42:52
  16. 吉田ゆかり Yukari Yoshida 11:51:39
  17. 太田美紀子 Mikiko Ota 11:53:03
  18. 折戸小百合 Sayuri Orito 11:56:17
  19. 山室宏美 Hiromi Yamamuro (Columbia Montrail / Mountain Hardwear)11:57:13
  20. 福田恵里佳 Erika Fukuda(La Sportiva) 11:57:14

謝辞

今回もハセツネCUPのライブ速報をお送りするにあたっては多くの方にご協力いただきました。特に朝倉絢乃、佐藤千大、野中勉、福島舞、矢田真一、山屋幸司、山屋洋子(五十音順)の皆さんにコース上からのレポートでご協力いただきました。岩佐比登美からは今回のレポート全体についてアドバイス、協力を受けました。大会会場ではたくさんの皆さんから励ましの言葉を頂戴しました。心より感謝いたします。

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