世界中のトップ選手が集結して真の世界一を決めるレースを制したのはフランソワ・デンヌ François D’Haene(フランス)。UTMB®︎のコースは毎年少しずつ異なってはいますが、今回のデンヌの19時間1分というタイムはこれまでの次元を超えるもので、世界の長距離トレイルランニングの競技レベルは今回で一段高まったといえます。女子では事前に上位が見込まれた選手が次々にレースから離脱する中でヌリア・ピカス Nuria Picas(スペイン)が最後までリードを守りました。これまで幾多の大会で勝利を手にしているピカスが、UTMBで2回の準優勝を経てついに勝利を手にしました。また、女子のレースでは日本の丹羽薫 Kaori Niwaが驚異的な粘りで後半に順位を上げて4位に。日本人選手の活躍としては2009年の鏑木毅の男子3位に続く快挙となりました。
この記事では今年のUTMB®のリザルトを紹介します。
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(写真・今年のUTMB®︎で女子4位にの丹羽薫 Kaori Niwaが表彰台に。Photo by Koichi Iwasa of DogsorCaravan.com)
当サイトはUTMB®︎の大会パートナーのColumbia Montrail、MountainHardwearのご協賛によりレポートをお送りしました。
9月1日金曜日にスタートした171km 10,000mD+のUTMB®は今年のUltra-Trail® World Tourのシリーズ戦第16戦で、全シリーズ中で2つしかない最も高いポイントが得られる”Serie Bonus”レーベルのレースでした。
今回のUTMBはスタート時間を30分繰り延べて午後6時半にスタート。この日の夜はコース前半のCol du Bonnehomme、Col de la Seigneでは荒天が見込まれたためと思われます。実際、上位選手がCol du Bonnehommeを通過した時には強い風、あられや雨が吹き付ける厳しい状況。その後も土曜日の日中は時折強い雨が降るという厳しいコンディションの中でのレースとなりました。このほか、二箇所でコースが一部変更となりました。
レース序盤のSaint Gervais(21km地点)ではジム・ウォルムズレー Jim Walmsley(アメリカ)がリード、2分差でキリアン・ジョネット Kilian Jornet(スペイン)、さらに45秒でフランソワ・デンヌ François D’Haene (フランス)とグザビエ・テベナール Xavier Thevenard(フランス)が続きます。この辺りではウォルムズレーの様子は落ち着いていて、後続のキリアンやデンヌを待っているような様子さえうかがえました。
その後はウォルムズレーのすぐ後に3人が続く展開となりますが、荒天のBonhomme(45km)ではテベナールが脱落。ウォルムズレーの後をキリアンとデンヌが追う展開に。レース中盤のクルーによるサポートが受けられるCourmayeur(78km)にも最初にウォルムズレー、約4分差でデンヌとキリアンが到着します。ここでデンヌが補給だけで最初にエイドを出たのに対し、ウォルムズレー、キリアンは足のケアやシューズの履き替えにやや時間をかけました。この辺りから3人の明暗が分かれ始めます。Courmayeurからフェレ谷に入り、92km地点のRefugi Bonattiでキリアンが4分の遅れをとります。ここから登山口となるArnouvazを経てイタリアからスイスへの国境となるGran Col Ferret(100km)を強風が吹き荒れる夜明け前にウォルムズレーとデンヌが一緒に越え、キリアンは7分遅れの3番手に。
Gran Col Ferretから次のエイドのLa Foulyまでは約10kmの長い下りで、各選手のコンディションでスピードに差が出るところ。ここで空が白み始めると同時に一気に単独リードを奪ったのがデンヌでした。La Foulyでは先頭がデンヌ、5分遅れでウォルムズレー、さらに3分差でキリアンとなりました。この後、ウォルムズレーがペースを落とし、Champex Lacでは2番手のキリアンがデンヌに9分差、3番手のウォルムズレーはキリアンから20分遅れで到着。優勝争いはデンヌとキリアンに絞られました。
Champex LacとTrientの両エイドの中間となる山の上のチェックポイントであるLa Giete(134km)でキリアンはデンヌに18分差をつけられます。二人の表情や様子からはキリアンがやや辛そうな印象は受けたものの、ここから先は二人の差はほとんど変わらないまま緊迫したレース展開に。
結局デンヌがリードを守りきって19時間1分54秒でフィニッシュ。フランソワ・デンヌは2010年に雨で100kmに短縮されたUTMBと2014年のUTMBでの優勝に続いて3度目の優勝を果たしました。特に2014年のUTMBでの20時間11分40秒というタイムは通常のUTMBのコースでは事実上のコースレコードといえるタイム。今回はコースの二箇所で変更はあったものの、自身の2014年のタイムを1時間以上上回る今年の優勝タイムでした。キリアンは15分差での2位。キリアンといえども出たレースの全てで勝っているわけではありませんが、100マイルのトレイルランニングレースでキリアンが優勝しなかったというと2010年のウェスタンステイツ、2013年のレユニオン・Diagonale des Fousくらいしか思い当たりません。とはいえ、今回も特にレース終盤の30kmを一歩も引かない走りによって、デンヌの歴史的な優勝タイムに貢献したことは間違いないでしょう。今回のUTMBには沿道はもちろんトレイル上にもたくさんの人たちが選手を応援していましたが、キリアンがやってくるととりわけ大きな歓声が上がっていました。今回のUTMBの一番のヒーローはやはりキリアンでした。
3位でフィニッシュしたのはティム・トレフソン Tim Tollefson(アメリカ)。この日のトレフソンは序盤はLes Contamines(30km)では先頭から5分半差の12位と落ち着いたスタートでしたが、じりじりと先行する選手を捉えて、Champex Lacを出た先でついにウォルムズレーを捉えて3位に浮上。2015年のCCCで2位、2016年UTMBでの3位に続く活躍で、欧州の山岳レースで求められる強みや才能を持ったアスリートであることを印象付けました。
4位にはグザビエ・テベナール。序盤の先頭争いから一度は9位を走りましたが、Courmayeurを出てから再び先行するランナーを追撃。Flégèreで4位に上がるという最後まで粘り強い走り。UTMBで2度優勝しているチャンピオンの底力を発揮しました。5位でフィニッシュしたのはジム・ウォルムズレー。途中では足のマメなどでLa Fouly、Champexのエイドで処置や補給に時間をかけることとなって優勝争いからは脱落したものの、その後の終盤は再び力強い走りで先行する選手を捉えました。初めてのUTMB、初めての欧州の山岳レースで2014年のデンヌの優勝タイムとほぼ同じタイムを叩き出したのは、非凡な才能の持ち主であることの証拠でしょう。アメリカからやってきた非凡なランナーに観衆が惜しみない歓声を送りました。
6位になったパウ・カペル Pau Capell(スペイン)は昨年のTDSのチャンピオンで今年がUTMB初挑戦。序盤からトップ10を走り続けて安定したレース展開を見せました。このカタルーニャの26歳の選手も今後の世界のトレイルランニングをリードすることになるでしょう。7位はアメリカのディラン・ボウマン Dylan Bowman。昨年のUTMFに来ていたボウマンも序盤を慎重に走った後、後半はトップ10を維持する王道の走り。
昨年のUTMBで2位、UTWT年間チャンピオンとなっているゲディミナス・グリニウス Gediminas Grinius(リトアニア)は、最初から最後まで安定した走りでトップ10を維持して8位に。昨年のUTMBで6位で一時はレースをリードしたザック・ミラー Zach Miller(アメリカ)はCourmayeurの直前までトップの3人の後を追っていましたが、徐々に順位を落として最後は9位でのフィニッシュ。10位にはジョルディ・ガミト Jordi Gamito(スペイン)。UTWTのレースで活躍するカタルーニャのランナーですが、2015年UTMBで土井陵 Takashi Doiについで12位になっていますが、今回は見事にトップ10入り。世界のトップ選手として表彰台に立ちました。
日本の選手では土井陵 Takashi Doi が23時間36分で25位に。一昨年の2015年に11位となった時のタイム、24時間21分11秒を上回りました。3回目の挑戦となる今回のUTMBで「自分の力を出し切れた」と振り返りました。日本を代表するウルトラランナーの一人で2013年UTMFチャンピオンの原良和 Yoshikazu Haraは 25時間48分2秒で41位。UTMBは過去2回挑戦してリタイアしており、今回が初めての完走でした。このほか51位に松永紘明 Hiroaki Matsunaga(26時間46分)、71位に野田武史 Takeshi Noda(27時間54分)、90位にいいのわたる Wataru Iino(28時間47分6秒)、92位に富塚翔亮 Shosuke Tomizuka(28時間49分)でした。
男子25位になった土井陵のレース後インタビューはこちらからご覧いただけます。
男子と同様に世界のトップ選手が世界から集まった女子のレースは男子以上にドラマティックな展開となりました。スタートから32km地点のLes Contaminesまではヌリア・ピカス Nuria Picasを先頭にフランスのエミリー・ルコント Emilie Lecomte、カロリーヌ・シャヴェロ Caroline Chaverot、アメリカのステファニー・ビオレ Stephanie Howe Violett、マグダレナ・ブーレ Magdalena Bouletが5分とおかずに続く展開でした。しかし、シャヴェロは女子2位でArnouvaz 95kmで到着したものの体調を崩してリタイア。ルコントもCourmayeurでリタイア。ここからはピカスの独走となるかに見えました。後半になってピカスを追い始めたのはアンドレア・ヒューザー Andrea Huser(スイス)。序盤のSaint Gervais 21kmでは女子6位を走っていたヒューザーはArnouvazでリタイアしたシャヴェロに続いてピカスから44分差の2位になります。
しかし、残り30kmとなるTrientあたりからピカスは激しく咳き込むようになって一時は歩くのがやっとという状態に。一時は1時間近く開いていたピカスとヒューザーの差は次第に縮まりましたが、ピカスが25時間46分でフィニッシュして優勝。ピカスが目の前に迫っていたのを知らなかった、というヒューザーはわずか2分半の差で2位となりました。2014年にUTWTやスカイランニングのレースで優勝を重ねて最強の女子トレイルランナーとなったものの、以後しばらく体調を崩していたピカスが久々に世界の舞台で勝利、しかも念願のUTMBでの優勝を勝ち取りました。シーズン中はハイペースで長距離のトレイルレースに出ていずれも結果を残している鉄の女・ヒューザーは昨年に続いてUTMBでの準優勝でした。
女子のレースで3位、4位となったのはクリステル・バード Christelle Bardと丹羽薫 Kaori Niwa。二人は下馬評の高かった各選手に続いて、Saint Gervais 21kmでは20位前後を走っていましたが、その後着実に先行する選手を捉えました。Courmayeur 78kmで先行する選手が補給に時間をかけたり、先に進むの諦めた後のArnouvaz 95kmではバードは6位、丹羽はバードから11分差の8位。Gran Col Ferretを超えた後のLa Fouly 109kmではバードは3位、丹羽はバードから12分差の5位。ここからChampex 123kmまでのロードでは丹羽がバードに追いついた場面もあったといいます。しかし、終盤に入ってバードは着実にペースを上げて3位でのフィニッシュを勝ち取りました。昨年のTDSで3位、一昨年はCCCで4位となっていたものの、それ以外は国際的な大会での実績はなかったバードのトップ3入りはサプライズでした。
それ以上に、特に日本のファンにとってうれしいサプライズだったのは丹羽薫の4位です。今シーズンはUTWTのシリーズ戦など、世界の舞台で上位に入ることを目標に挑戦を続けている丹羽は7月のAndorra Ultra Trailで2位になっていました。昨年のUTMBで8位となっている丹羽にとって今回の目標は自ずと昨年を上回ること、となりますが見事にその目標を達成しました。UTMBという世界で最も注目の集まる大会で4位という快挙は間違いなく日本のトレイルランニングの歴史に残る出来事です。丹羽は7月のTromso Skyraceで転倒して左手首を骨折。今回もギプスをつけたままで左手ではポールを使えない状態。走っているうちにスタート前にはなかった痛みが出てくる中でも諦めることなく走り続けたというエピソードは、今回のUTMBの印象的なエピソードの一つとなりました。レース後の丹羽とのインタビューは下の記事からご覧いただけます。
5位にはケリー・エマーソン Kellie Emmerson(オーストラリア)、6位はアリッサ・サンローラン Alissa St Laurent(カナダ)、7位はアナ・マリー・ワトソン Anna-Marie Watson(イギリス)。8位には2014年にハセツネCUPで優勝しているエイミー・スプトストン Amy Sproston(アメリカ)でした。9位にマリア・ニコロワ Maria Nikolova(ブルガリア)、10位にロビン・ブルインズ Robyn Bruins(オーストラリア)。今回の女子トップ10はオーストラリアから二人のほかは皆国籍が違うという国際色豊かな顔ぶれとなりました。UTMB®︎ リザルト
全体のリザルトはこちらから。
男子 Men
- 1. フランソワ・デンヌ François D’haene (Salomon) 19:01:54 (フランス)
- 2. キリアン・ジョネット Kilian Jornet Burgada (Salomon) 19:16:59 (スペイン)
- 3. ティム・トレフソン Tim Tollefson (Hoka) 19:53:00 (アメリカ)
- 4. グザビエ・テベナール Xavier Thevenard (Asics) 20:03:14 (フランス)
- 5. ジム・ウォルムズレー Jim Walmsley (Hoka) 20:11:38 (アメリカ)
- 6. パウ・カペル Pau Capell (North Face / Buff) 20:12:43 (スペイン)
- 7. ディラン・ボウマン Dylan Bowman (North Face) 20:19:48 (アメリカ)
- 8. ゲディミナス・グリニウス Gediminas Grinius (VIBRAM) 21:24:19 (リトアニア)
- 9. ザック・ミラー Zach Miller (THE NORTH FACE) 21:28:32 (アメリカ)
- 10. ジョルディ・ガミト Jordi Gamito (COMPRESSPORT) 21:44:31 (スペイン)
- 11. スコット・ホーカー Scott Hawker (HOKA ONE ONE/ COMPRESSPORT) 21:55:47 (ニュージーランド)
- 12. ダミアン・ホール Damian Hall (INOV-8) 22:00:32 (イギリス)
- 13. ディドリク・ヘルマンセン Didrik Hermansen (ASICS) 22:12:18 (ノルウェー)
- 14. デビッド・レニー David Laney (NIKE TRAIL) 22:20:22 (アメリカ)
- 15. ミカエル・パセロ Mikael Pasero (New Balance) 22:28:34 (フランス)
- 16. アンディ・サイモンズ Andrew Symonds (SCOTT) 22:36:32 (イギリス)
- 17. ジュリアン・ショリエ Julien Chorier (TEAM HOKA) 22:42:13 (フランス)
- 18. ルイス・フェルナンデス Luís Fernandes (LUDENS CLUBE MACHICO) 22:49:07 (ポルトガル)
- 19. ベンジャミン・ダビデ Benjamin David 22:51:04 (フランス)
- 20. ジェフ・ブラウニング Jeff Browning 22:55:52 (アメリカ)
- 21. ジウリオ・オルナティ Giulio Ornati (TEAM SALOMON ISOSTAD) 23:08:34 (イタリア)
日本関連
- 25. 土井陵 Takashi Doi 23:36:47
- 41. 原良和 Yoshikazu Hara 25:48:02
- 51. 松永紘明 Hiroaki Matsunaga (THE NORTH FACE) 26:46:10
- 71. 野田武志 Takeshi Noda (TEAM 100 MILE) 27:54:54
- 90. いいのわたる Wataru Iino (RAIDLIGHT) 28:47:06
- 92. 富塚翔亮 Shosuke Tomizuka (TRIPPERS) 28:49:58
女子 Women
- 1. ヌリア・ピカス Núria Picas (BUFF PRO TEAM) 25:46:43 (スペイン)
- 2. アンドレア・ヒューザー Andrea Huser (MAMMUT PRO TEAM) 25:49:18 (スイス)
- 3. クリステル・バード Christelle Bard 26:39:03 (フランス)
- 4. 丹羽薫 Kaori Niwa (SALOMON) 27:31:39 (日本)
- 5. ケリー・エマーソン Kellie Emmerson 28:13:06 (オーストラリア)
- 6. アリッサ・サンローラン Alissa St Laurent 28:13:43 (カナダ)
- 7. アナ・マリー・ワトソン Anna-Marie Watson (WAA) 28:37:16 (イギリス)
- 8. エイミー・スプトストン Amy Sproston 28:44:08 (アメリカ)
- 9. マリア・ニコロワ Maria Nikolova 29:04:16 (ブルガリア)
- 10. ロビン・ブルインズ Robyn Bruins (NRG) 29:41:11 (オーストラリア)